鷺と雪

著者 :
  • 文藝春秋
3.65
  • (106)
  • (236)
  • (216)
  • (37)
  • (9)
本棚登録 : 1353
レビュー : 292
  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163280806

作品紹介・あらすじ

帝都に忍び寄る不穏な足音。ルンペン、ブッポウソウ、ドッペルゲンガー…。良家の令嬢・英子の目に、時代はどう映るのか。昭和十一年二月、雪の朝、運命の響きが耳を撃つ-。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • ベッキーさん三部作のラスト。2.26事件の話だというのは事前に知っていたので、宮部みゆきさんの「蒲生邸事件」を読みながらさらりと下調べ程度はしました。
    2.26事件の概要(どの勢力がどこへ向けて起こしたクーデターなのか)と、これを制圧してから世間も政治も一気に戦争へ傾いていったのだということを頭に入れてから読んだら、最後の方で鳥肌が立ちました。

    ・父の不在
    兄が浅草で見かけたというルンペンが同級生の道子の叔父にそっくりだという。
    その叔父はある日、人がたくさんいた屋敷からまるで神隠しのように消えてしまった。
    叔父はどうやって消えたのか。そしてルンペンの正体は本当に叔父なのか。そうだとしたら、何故身を落としてまでそのようなことを……?
    道子の叔父は上流階級に疑問を抱いて自ら屋敷から消えた。英子が「私にはできない」とかつて言ったその暮らしを、自ら選んでしていた。
    ルンペンが道子の叔父だと英子たちが付きとめてからしばらくして、叔父は子供を庇って事故で亡くなる。
    行動をしなかった自分と、行動を起こして死んだ道子の叔父。自分を責める気持ちを抱いていたある日、英子は若月と再会する。
    若月は英子の心に答えをくれなかったが、後日詩集を送ってきてくれる。
    その詩集の中に、一つの言葉があった。
    「騒擾ゆき」

    ・獅子と地下鉄
    松子叔母の知り合いの和菓子屋の老舗には跡取り息子・巧がいる。巧くんは中学受験の真っ只中で、勉強へ宣教の日々であったが、何故か夜中に上野で補導された。
    なぜ、小学生がひとりで夜に出かけたりしたのか?
    巧くんは理由を言わないが、巧の母親が見た彼の日記には「上野」「浅草」「ライオン」の文字があった。
    上野―浅草間で地下鉄が開業した時の話。
    ライオンにまたがると受験に受かるというジンクスが話の根幹になっている。
    三越でまたがろうとして失敗して、他のライオンにまたがろうとして上野の博物館前でトライしようとしたという真相。
    東京都内をよく歩くのでピンと来たけど、浅草にもライオンがあったんだなぁ。
    最終話前にほっこりできる話でした。

    ・鷺と雪
    写真を撮った日には台湾にいたはずの婚約者が、現像した写真に何故か映っていた。その不可解な出来事を千枝子という同級生から相談された英子。
    写真に映ったのはドッペルゲンガーなのか。だとしたら婚約者は亡くなってしまうのか、と心配している。
    文豪とドッペルゲンガーの話は以前興味があって調べたところでもありました。
    カメラは庶民には高くて手が出ないというのが見事な伏線。
    現代が舞台だったら「カメラが二台ある」ってすぐわかりそう…と思ったけど、現代だとデジカメの方が頭に浮かんでもっとピンとこなかったかな……w
    カメラ事件の真相がわかると、話は終焉へ向かいます。
    昭和11年の年明け、英子とベッキーは結婚が決まった道子の兄・勝久から招待を受ける。軍人の勝久から「世の中が明るくなった気がしないか」「それは戦争のおかげだ」と言われ、ベッキーは「戦はほかのもの(おそらく災禍)を生む」と答える。「軍の形が整えばことは一気に進むだろう」とも。
    帰り道ベッキーは英子に「別宮にはなにもできないのです」と言った。
    それから一月余り。
    英子はもらった詩集の御礼として、若月に時計を送ろうと考え、服部時計店に電話する。
    ところが電話に出たのは若月その人だった。
    番号を一つ間違えたのだ。
    「武運長久を祈ってください」という若月。
    英子が間違えて電話を掛けた、服部時計店の一つ違いの場所。そこは首相官邸。
    昭和11年2月26日のことだった。

    冒頭でも書いた通り、2.26事件の意味を知っていると、最後の方でベッキーさんが勝久や英子に語った言葉の意味が分かってくると思います。
    このあと英子たちがどうなったのか書かれてないんですが、若月が助かることも、英子と接触することももうないような気が。
    ……とあれこれ考えました。

  • 2016.5.9読了。三部作を一気に読み終えた。時代と上流社会のディレッタントな豊かさともの哀しい気持ちと。もっと読みたいけれど、この後は哀しいではすまない時代の暗さが迫ってくるだろう。でも、その中で英子さんとベッキーさんがどう生きたかも聞かせてほしい。

  • 読み終えても世界から抜け出せない。
    残るのは、切ない余韻。

    軽く読める読み物、けれど知性を感じる前の2冊。
    奥深さを感じながら読みすすめていくなか、その頃から如々に曇天へ向かっていく気配はあった。
    その行き着く先も透けて見えてはいたけれど・・・。

    表紙をなでるごとに、最後の場面がこれからも何度も浮かび上がるのだろう。
    読み応えという面では欠けると感じた1作目、けれどそれは2作目、3作目への布石だった。
    読み物として完成された2作目で、3作目への期待は逆に薄まった。けれど。
    すべてがこの作品へつながっていた。飛び立った鳥が降り立つ場所。それがなんとも哀しい。

    1作目から読んで欲しい。この本だけでは伝わらない。
    そして誰かと話したくなる、そんな作品。

  • 北村薫、久しぶりに読みました。
    直木賞受賞作ということもあり、気になっていた作品でした。
    お嬢様とベッキ—さんの謎解き。
    そして昔の日本の社会情勢も少しにおわせる作品となっています。

  • 昭和11年初頭で雪とくれば、当然2.26事件。前2作の流れを受けて、よりダイレクトに世相の暗部に切り込んでいく展開になるかと思いきや、のほほんとした上流家庭のお嬢様の周辺で起きる小さな事件を連ねていく構成は変わらず。この心地よい世界をやがて一変させる巨大な機械が暴走をはじめるきっかけとなる事件の一端に、主人公がそうとしらず手を触れる一瞬で幕を落とし、余韻をのこす。
     手だれた技、ではあるが、これが直木賞をとるべき作品だったのか・・・というか、ベッキーさんシリーズの最後の作品として、これで落とし前をつけたといえるのだろうか。もちろん2.26の「核心」ばかりが時代の描き方でないことはわかる。しかし、ベッキーさんと英子の周囲の男たちが、「能く破るる者は滅びず」を拠り所に行動するというのなら、この2人の賢い女性の、来る時代における身の処し方は、いかなるものでありうるのだろうか。
     ベッキーさんの、「自分には何もできない、明日を生きるあなたこそ何でもできるのだ」という発言は、うつくしいけれど真実の一部しか語っていないと私には思える。2.26前夜のように虚ろに明るい時代を生きるわれわれに、こんな言葉だけを残してベッキーさんを去らせてしまうのは、きれいにまとめすぎというものだ。私利私欲を追って大きな流れに身をまかすことと、不滅を描いて「能く破るる」ことの間に、かならず違う道はあるはず。この制約の多い時代にこれほど賢いヒロインを生み出した作家は、ほんとに始末をつける作品を最後に書くべきだと私は思う。

  • 再読。
    シリーズ3作目。直木賞受賞作。
    1作目から全編に渡って散りばめられた布石が、最終話「鷺と雪」で見事に集約される。
    『騒擾ゆき』の暗示。
    鷺の舞の表すもの。
    巨大なうねりに巻かれ為す術もないと悟ったとき、人は何を想うのだろう。
    日本という国の歩みに対しての祈りにも似た叫びが聞こえるようです。
    物語の閉じ方が余りにも見事で秀逸。
    改めて北村氏の筆の力を感じます。
    1作目の巻末インタビューの「その時代の人には結局"今"は見えないもの」という記述が心に甦ります。
    読むのではなく感じる。
    正に心で感じる本当に素晴らしい作品。

  • 後書きを見て知ったけど、実話を元に書かれたらしい。それを知ってからの方が面白かったかも。
    話しとしてはそんなに大どんでん返しもないので。
    ただ、都市伝説とか逸話とかに加えて東京(銀座周辺)の地名が多く出てくるので、現地を知っている人には「おおあそこか!」と楽しめるかも知れない。

    最後の、現実のあの事件に繋がる感じを匂わせる終わり方が好き。

  • 戦前の、ごく一部の富裕階層という場面設定がアウトです。読みながら「お前ら何サマだ」と どうしても思ってしまう小市民。

  • これが直木賞?風呂の中の屁のような本。

  • ベッキーさんシリーズ3巻目で最終巻。

    謎解き話は2巻目が一番おもしろいと想います。
    今回、日常の中の謎解きではない所に想いがつまっている気がしました。

    「現実」

    「大きな現実の前に立つと、か弱い個人には、−−−仮に命がけでも、何も出来ません。そういう時、−−−ただ思いを内に押し殺し、外に向かって行動しない者を、どう思われますか。」

    「未来への想い」

    「前を行く者は多くの場合ーーー慚愧の念と共に、その思いを噛み締めるのかも知れません。そして、次に昇る日の、美しからんことを望むものかもーーー。」

    その二つに重なる想いが、2.26事件へと。。。

    切ない最終巻の結びでした。

全292件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。高校教師を務めるかたわら、89年『空飛ぶ馬』で作家デビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、09年『鷺と雪』で第141回直木賞、15年には第19回日本ミステリー文学大賞を受賞した。エッセイや評論、編集の分野でも活躍している。近著に『八月の六日間』『太宰治の辞書』『中野のお父さん』など。

「2019年 『覆面作家の夢の家 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

鷺と雪のその他の作品

鷺と雪 (文春文庫) 文庫 鷺と雪 (文春文庫) 北村薫

北村薫の作品

鷺と雪を本棚に登録しているひと

ツイートする