ドンナ・マサヨの悪魔

著者 :
  • 文藝春秋
3.50
  • (3)
  • (15)
  • (16)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 74
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163281902

作品紹介・あらすじ

赤ん坊は謎だ!「おれは長い旅をしてきた者だ」娘の体内から不気味な声が語りかけてくる。声の主はいったい何者なのか?生命誕生の神秘に迫る傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • イタリア人と結婚した娘のおなかに宿った胎児は、小生意気な悪魔だった。
    彼は太古の昔、海で生まれた生命が人間に進化するまでの、
    輪廻転生の長い長い記憶を持っており、祖母におなかの中から語りかける。
    性的な話から知的な話まで、この二人の声なきトークがめっぽう面白い。

    そして、この祖母が大陸的な性格でとってもユニーク。
    同居する娘婿と一緒に食事の用意をしたりして、
    文化の違いを素直に受け入れ、それを楽しんでいる。
    日本男児的な古臭い考えを、偉そうに振りかざす夫とは大違いだ。
    生まれてきた孫の瞳の色を気にする偏狭な夫に辟易し、
    夫婦愛なんて必要か?人類愛ってことでいいんじゃないかと自分を納得させる、
    おちゃめなマサヨさん、いいなぁ。

    タイトルからは想像できませんが、
    このお話は奇跡のような生命の進化の歴史への称讃と、
    その担い手となるべく、生まれ来る生命に対する祝福がメインテーマでありましょう。
    常識ではあり得ないことでも、村田さんが書くと不思議と違和感なく、すんなり入ってくる。
    日常と非日常の境目を感じさせないリアルさが、村田さんの一番の魅力です。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      村田喜代子さんて、あまり知識がないのですがこんな作品も書くのですね。
      面白そうです(*^_^*)
      こんにちは。

      村田喜代子さんて、あまり知識がないのですがこんな作品も書くのですね。
      面白そうです(*^_^*)
      2014/10/20
    • 夢で逢えたら...さん
      vilureefさん、こんにちは。花丸とコメント有難うございます。
      私は村田さんの書く文章が好きで、けっこうハマってます。
      主人公がご自...
      vilureefさん、こんにちは。花丸とコメント有難うございます。
      私は村田さんの書く文章が好きで、けっこうハマってます。
      主人公がご自身と同年代の設定が多いせいか、私小説を読んでいるような気にさせられ、
      それがリアルさを感じる理由だと思います。
      この本も、娘さんイタリア人と結婚したんだぁ、なんて思いながら読んでました(≧v≦)
      2014/10/20
  • ああ、久しぶりに共感して読める、そしてホッとするお話だった!

    こどもは、みんな、あくまだよ、おくさん。まさか、てんし、とでも、おもってたのかい?こどもは、わるいやつさ。メスの、はらのなかの、むしさ。だんだん、でっかくなる、はらの、むし。あくま、さ。しかし、わるいはなしじゃない。

    とつぶやく老犬の言葉にうなづいたりして。

    でも、きっと男の人には本当には、わからないだろうなぁ…。
    妊娠と出産…(ΦωΦ)キラーン

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「きっと男の人には」
      ふ~ん、、、
      これはエッセイ?小説??他の方のレヴューも読んでみよっと。。。
      「きっと男の人には」
      ふ~ん、、、
      これはエッセイ?小説??他の方のレヴューも読んでみよっと。。。
      2013/02/20
  • これ、ひょっとしてドキュメント?
    と思うほどに日記タッチな小説?
    著者が博識なのだろうけれど
    ランダムに知識が笑いと共に散りばめられている
    これを文がうまいと表現するのだろうか
    ともかく人知れず好奇心と覗き趣味を満たしてもくれる

    輪廻転生が身に染みた土俗の多神教民族にしか
    描けない物語かもしれない
    ユダヤ教徒やキリスト教徒や回教徒の一神教徒がどう読むのか
    是非知りたいと思う

  • 3.5/68
    内容(「BOOK」データベースより)
    『赤ん坊は謎だ!「おれは長い旅をしてきた者だ」娘の体内から不気味な声が語りかけてくる。声の主はいったい何者なのか?生命誕生の神秘に迫る傑作長篇。』

    冒頭
    『夫はだんだん気短かになっていました。新聞受けから取ってきた朝刊をテーブルに置くときもきちんと夫のほうに向けてやっているのに、歯磨きチューブも使う度に尻尾を巻いてやっているのに、彼がテーブルに着いたら暖かいウーロン茶をサッと出してやるのに、茶碗がどうした、箸がどうしたとまだ文句をつけます。』

    『ドンナ・マサヨの悪魔』
    著者:村田 喜代子(むらた きよこ)
    出版社 ‏: ‎文藝春秋
    単行本 ‏: ‎236ページ

  • 何を読もうかと図書館を彷徨っていて、インパクトある表紙に誘われて中身も知らずに借出した本です。あらすじを書けば「留学中にイタリア人の彼氏との間で妊娠した娘が帰国した。せっせと出産準備をする老夫婦。しかし老母にだけは胎児の下品なオッサンの様な声が聞こえて来て・・・。」
    普通に読めばその下品ぶりが笑えるのでしょうが、何せ我が家も娘が出産帰省中で予定日まであと数日ですからね。余りにタイミングが悪かった(苦笑)。
    ちなみに村田さんらしくパワフルな老母が主人公で、頑迷な旦那をいなし、娘夫婦にハッパを掛け、傲慢な胎児としっかり対峙します。そのあたりは面白い。ただ、この本の中では胎児=太古からの生命進化の継続の象徴として描かれるのですが、そこが上手く伝わって来ず、消化不良でした。

  • 単なる妄想に過ぎないのかどうなのか。語り手である主人公は、時折犬や猫から話しかけられるという経験を持っている。それも本当なのか怪しいところ、今度は妊娠した娘のお腹の中にいるという、得体の知れない存在の声が届き始める。
    物語の調子は主人公の何処か飄々とした語り口もあって、滑稽譚という風。娘が突然妊娠・結婚して戻って来て娘婿(しかも外国人)とも一緒に暮らし始めるという、結構トンでもない事態に関わらず、妙に飄々、淡々とした一風変わった人物。夫や娘の言動に対し心中で呟かれるコメントが、何だか他人事のようで面白い。
    村田さんらしい虚実定まらぬお話だった。

  • 村田喜代子を読むと、ごく普通の生活をしていても作家の想像力をもってすればありえないような奇妙で魅力的な体験として描くことができるんだなあと、いつも思うのだが、これも、多分娘が里帰り出産した、というどこにでもある体験をもとに、お腹に宿った子供が祖母である主人公に地球の生命の始まりから、人類誕生までの物語を主体的に(体験者として)物語る。
     小さな卵細胞が分裂して奇妙な形に変化しつつやがては人間の形になるというのは、生命の進化を辿るのと似ている。手塚治虫はこれをメルモちゃんで応用したのだが、村田喜代子は悪魔的な(「利己的な遺伝子」が人格化したような)胎児に語らせる。
    聞かされる祖母も実はこの悪魔と相通じる性質を持っているため(もちろん、日常では思いやり深い妻であり母である)、丁々発止のやりとりが面白い。
     同じパターンでも、屋根の修理から空を飛んで世界を旅する『屋根屋』の方が物語の飛躍が大きく、官能性もそこはかとない感じで、良かったと思う。
     こちらの方が作品としては古いので、この作品あってこその『屋根屋』なのかもしれない。

  • イタリア人と結婚した娘とおなかの中で育ってゆく胎児との生活について描かれる。
    胎児が悪魔のように話かけてくるのはホラーなのかまさよの妄想なのかわからないけど、それはあくまでエッセンス。
    何故人は繁殖して子孫を残してゆくのか哲学的なストーリーをユーモアたっぷりに表現している。
    シニカルとユーモアの具合がとても絶妙でした!

  • 娘の妊娠・出産だが、この作家だから、心温まる物語ではもちろんない。長年連れ添った夫のことも、徹底して冷めた目で見つめている様がリアル。ブラックなのだけれど、ほんのり漂うユーモアに救われる。現実って、このくらいひんやりと、淡々と、進んでいくものだよね。

  • 留学中の娘が妊娠した。相手は同じ学生のイタリア人。そして若い二人を家に迎えた母と、娘のお腹にいる謎の存在との交流が始まる……言ってしまえば出産までの他愛ない出来事なのだが、日本とイタリアの国民性の違いが、娘のお腹にいる生命体と対話する母親という構図に彩をそえている。見方によっては、娘の突然の妊娠に動揺した母親がそれを受け入れるまでの妄想ととらえることもできるが、どちらにしても出産は生と死の境にあり、人類は長い時間をかけて何度もそれをくぐり抜けてきたのだと感慨に浸ることができた。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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