扉守 潮ノ道の旅人

  • 文藝春秋 (2009年11月26日発売)
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163287300

感想・レビュー・書評

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  • 瀬戸内潮ノ道の不思議な話。
    帰去来の井戸:飲めば必ず戻って来る。戻れぬ場合迎え舟。印象深☆
    天の音:妖怪畳叩が解体工事妨害。
    扉守:迷子が宿主人格を変える。
    ピアニシモ:拗ねてるピアノ,切ない話。

  • なんて懐かしくて、温かくて、美しい世界!

    一度も訪れたことのない土地なのに、この本の中を旅する誰もに
    「おかえりなさい」と、柔らかな声で呼びかけてくれるような、幻想的な物語です。

    ひと口飲めば、故郷を遠く離れても
    必ずまた戻ってこられるという水を湛えた帰去来の井戸。

    寿命が尽きて戻れなかった人を乗せ、井戸を守る「雁木亭」めざして
    満月の夜、静かに小路を進む舟。

    白鉢巻に白い着物、片手には竹の棒を勇ましく携えて畳を叩き、
    憑いている家の不幸を祓い、幸せを呼ぶ妖怪、畳たたきのぱたぱたさん。

    半身は人間、半身は異界の魂を宿す者という運命を受け入れ
    現世と異界を結ぶ扉を「扉守」として守り、
    その釣合いを崩す良からぬものを左耳の穴に封じて金色のピアスで蓋をする青年。

    四季折々の変化を見せ、彷徨う死者の魂さえ宿してしまう絵を描く絵師。

    悲しい思い出となった編物の編み直しから、お稲荷さんの眷属キツネの嫁入りの綿帽子、
    月の光を材料にした一夜限りのピアノの弦まで編んでしまう新久嶺(あらくね)。

    「場所のおしゃべりを聞く」ことから始めて、
    その土地限りのお芝居を鮮やかに演じる劇団天音のサクラ。

    歌うことを拒否するピアノと対話しながら月の弦を張る調律師、柊と
    容姿は王子、物腰はジェントルマン、中身はジャイアンながら
    魂をゆさぶるような演奏で全国を飛び回る幻のピアニスト、零。

    三つの山と、穏やかな海と、対岸の島に囲まれ、不思議な力の集まる「潮ノ道」を舞台に
    人の想いをひとつひとつ小さな灯にして、そっと両手で大切に包み込むように
    7つの美しい物語が紡がれます。

    『夏目友人帳』や『コンビニたそがれ堂』や
    大林宣彦監督の尾道三部作がお好きな方は、ぜひぜひ!
    (というか、この物語の中に夏目やにゃんこ先生が紛れ込んでも何の違和感もないというか
    むしろ積極的に出没してほしいと思ってしまう私でした♪)

  • お仕事アンソロジー「エール!」の中にあった「潮ノ道コミュニティFM」の話が面白くて、調べたら潮ノ道の本が出ていたので、関連の話が読めると思って、手に取ったが…
    実際にはコミュティFMの話は全然なくて、潮ノ道に起こる不思議な話を描いた連作短編集。共通して出て来るのは寺の住職の了斎のみ。しかも内容は苦手なファンタジー…かなり微妙。
    各章に何かしら悩みを抱えた女性が登場し、その女性を不思議な力を持つ、潮ノ道を訪れた者たちが解決するという内容。
    あとがきにもあるが、潮ノ道は尾道をモデルにしており、読んでいると風光明媚な尾道の町並みが目に浮かぶよう。
    内容自体はファンタジーなので、雲をつかむような話だが、読み終わった後はちょっとほっこりする、不思議な一冊。
    コミュニティFMのその後が気になるんだけどなぁ…

  • 14:流れるようなきれいな文、目の前に瀬戸内の豊かな自然が広がるような丁寧な描写。温かくて少し切ない、登場人物たちのやりとり。声高に愛を叫ぶ作品ではないけれど、どのストーリーもじわじわと泣けて仕方ない。潮ノ道という町、ひいてはこのリアルな世界に対する、作者さんの細やかな愛情が伝わってくる素敵な作品。お勧めです!

  • おとぎ話、お化けの話、不思議な話。
    短編集。
    題名になっている「扉守」の話より「帰去来の井戸」が断然良かった。
    不思議な話と月はワンセットになっていることが多い(かぐや姫の時代から、ね)。
    行ったことないけど、尾道っていいとこだ。
    同じ坂道つながりで、映画「いつか読書する日」を思い出した。
    あちらは長崎が舞台だったけど。。

  • 瀬ノ道を舞台に繰り広げられる幻想的な物語。
    この街には「不思議」な力を引き寄せる何かがある。死者が舟に乗って帰ってきたり、声なき者の代わりに声を伝える摩訶不思議な劇団があったり…、美しい絵の中に吸い込まれたり、妖怪に女の子が取り憑かれたり…、などなど。
    優しい雰囲気に包まれたファンタジーでした。

    舞台の瀬ノ道が綺麗な描写で丁寧に描かれています。(モデルは尾道です)
    物事の怪奇現象も、どこか優しくふんわりとした幻想的な雰囲気を内包していて、その世界観についうっとりしました。
    こういう切なくて優しい、儚げなファンタジー小説は大好きです。
    特に劇団が演じた声なき物語にはうるっときました。

    ですが、一つだけ。
    やっぱり小説で描かれる広島弁って微妙だと思います。
    自分が広島に住んでいることもあって、広島弁には馴染みがあるはずなのですが…。
    無意識に使っているものを意識的に取り上げられるとどうしても違和感がありますね。生粋の広島弁を使う女子大生、いないこともないですが、過剰表現な気はします。
    雰囲気を出すため意図的に使用したものだと思いますが、ハッキリ言って、現代風味な広島弁じゃない気がして、私は好きじゃなかったです。
    (でも広島っていう雰囲気は出てたからそれはそれでよかったのかなぁ)

    …この小説を読むと、なんだか尾道に行ってみたくなります。
    今度の春休み、旅してみようかなぁ。

  • 2010/06/18:読書メーターで見かけてコメントとタイトル、装丁に惹かれて購入。
    瀬戸内の尾道をモデルにした潮の道町が舞台の幻想短編集。
    どの話も日常と不思議が絡み合い、優しく少し切ない物語でした。特に「帰去来の井戸」「ピアニシモより小さな祈り」が繊細で心に残りました。

  • この土地には妙な力がある。(p.87)[内容]潮ノ道ではいろいろと不思議なことが起こる。他の本でも見かける持福寺の名物坊主、了斎さんはこの本では全作品に登場。[感想]あっさりとしたやさしさとふしぎさが心地よい作品集。どれかひとつを好きになる人なら他の作品も好きになれるでしょう。

    ■簡単なメモ

    【帰去来の井戸】由布は生まれてからの合計でも潮ノ道の外で過ごしたのは二十日間に達しないこの地の申し子のような大学生でアルバイトとして手伝っている叔母の七重の店の奥には帰去来の井戸と呼ばれる井戸があり潮ノ道を出ていく者がこの水を飲んでから行くと必ず一度は戻って来られるという言い伝えがあった。

    【天の音、地の声】小学生の美咲が大好きなお姉ちゃん(お兄さん?)サクヤ(や同じ劇団天音のメンバーたち、聖、薙、樹、鈴)は「場」が語る声を聞き取ることができ幽霊屋敷と言われている「小幡屋敷」で公演する。

    【扉守】高校生の雪乃は何かに見つけられ、不思議な店主がいる雑貨店「セルベル」を見つけた。

    【桜絵師】絵師の行雲と了斎と高校生の早紀と絵の中の青年。《あの絵の中の人が私に譲ってくれたこの世界が、こんなにも大好きだって》p.150

    【写想家】日々落ち込んでいる祥江を見て怪しい写真家? の菊川は「素敵に育ったわねえ」と言った。

    【旅の編み人】了斎を大叔父(了斎の妻の梅香が祖母の妹)に持つ大学生の友香は編み物作家で方向音痴のアラクネさんの荷物からピンク色のコウモリが飛び立つのを見た。

    【ピアニシモより小さな祈り】聴いたら「一生の宝物になる」演奏ができる旅するピアニスト神崎零とその専属調律師兼マネジャー兼マッサージ師の柊は、コンサートの事務仕事を一手に引き受けている静音の家にある何十年も音を出す気がないままのピアノに対峙する。

  • こういうファンタジー好き

  • 個人的にめっっっちゃ好き。アミの会の短編で、あれ?この話の舞台って…と気になって借りてみたら、まさにその通り。思い切り地元の言葉を使ってるので、まるでとなりでじいちゃんが本当にしゃべってるかのようにナチュラルに頭に入ってくる。そして圧巻だったのが、風景の描写だった。妖しく美しく、儚く悲しく強く、もう好き。

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著者プロフィール

広島県尾道市生まれ。詩集や童話集を出版したのち、一九九八年『時計を忘れて森へいこう』でミステリ界にデビュー。二〇〇二年「十八の夏」で第五十五回日本推理作家協会賞短編部門、十一年『扉守 潮ノ道の旅人』で第一回広島本大賞を受賞。主な著書に『星月夜の夢がたり』『イオニアの風』『風の交響楽』など。

「2022年 『おいしい旅 想い出編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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