象牙色の賢者

  • 文藝春秋 (2010年2月12日発売)
3.12
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  • 本 ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163289205

感想・レビュー・書評

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  • 佐藤賢一氏のデュマ三部作の完結です。

    奴隷の息子から成り上がった一家は、三代目にして、フランス文化の象徴となった。


    祖父が「黒い悪魔」と恐れられ、皇帝ナポレオンも一目おくデュマ将軍。
    父は、『三銃士』や『モンテクリスト伯』の作者である文豪アレクサンドル・デュマ。
    主人公は『椿姫』の作家であり、フランス文化界で最高の名誉であるレジオン・ドヌール勲章を授与した、アレクサンドル・デュマ。

    昔話をしているように淡々と進んでいく物語で、祖父や父の偉業に必要以上に溺れることも驕ることもなく、まさに淡々と歩んでいったかに思えるデュマ(三代目)の人生。
    身近にこんな偉人がいたら生きにくいんじゃないかなぁ・・・と思いながら読み始めていったのですが、主人公のデュマが淡々としている中にこみあげてくる熱い血に流されて、人間らしい苦悩や喜びを得ていったのだと思うと、血は争えないけれど、血脈を必要以上に意識することはないのだと考えました。

    三代を経て、黒色から褐色へ、そして象牙色へ変化を遂げていったデュマ家ですが、肌の色の変化以上に大きいものは、三代目に賢者を生み出したことだと思います。
    (生み出したというかデュマの努力が実ったというか・・・・・)

    晩年に購入したノルマンディ地方の別荘との因果関係もなかなか興味深く、人は最初にいた場所に本能的で戻ってくるような気がしました。

  • 2013年64冊目

    フランス革命を体現し、歴史を作った「黒い悪魔」、あこがれの歴史を描き、現実の世界に提示した褐色の文豪、そしてそれらの世界を一身に背負った象牙食の賢者、本書は三代にわたるデュマ一族の完結編を描く。

    祖先の系譜と当時の社会から決して分離することのできない、まさにデュマ一族は時代の体現者であった。

  • 『黒い悪魔』『褐色の文豪』と続いたデュマ三代の物語もこれでおしまい。語り部に『椿姫』の作者でもあるアレクサンドル・デュマ・フィスを据え、彼自身の人生と、息子としての彼から見た大デュマの姿を描きます。
    初代デュマ将軍は波乱万丈の生涯を送ったのに、三代目ともなるとデュマの血も薄れ、物語の運びもおだやか。
    タイトルどおり、デュマ・フィスは賢者然として淡々と話を進めます。
    しかし遠まわしに言い訳がましいことを言っているあたり賢者じゃないな! 一人称小説らしいずるっこだ! そこがいいと思いますが。
    また、作家を描いた小説は、書き手自身の作家観も投影されているのではないかと、つい深読みしてしまいたくなるのでした。
    まあ落ち着いて読めるのでいいのではないでしょうか。

  • 本書は、フランスを舞台にした歴史小説を手掛けて来た著者による、

    アレクサンドル・デュマ・フュスを主人公にした歴史小説です。


    『三銃士』で知られるデュマ・ペールの子であり、

    自身も作家として『椿姫』などを残したデュマ・フュス。


    物語は、彼の私生活上の問題や、創作についての葛藤

    さらに、移民の血をひきながらも共和国将軍にまで上り詰めた祖父や

    大作家である父についての想いを述べる、モノローグ形式で進行します。


    同じく偉大な父を持つユゴーなど、同時代の作家に対する想いや

    ナポレオン3世の登場や、ガリバルディによるイタリア統一といった

    当時の政治状況に対する冷静な分析もさるながら、

    やはり印象的なのは、家族について語る場面です。


    面識もなく職業も違う祖父については、過去の英雄を語るような口調である一方

    同じ作家である父については、豪放な性格について時に軽蔑を示しつつも、

    溢れんばかりの才能や「人間」としての活力には感嘆を隠しません。

    しかも、こうした語りの中にデュマ・フュス自身の複雑な内面が滲み出ており

    とても重厚で、味わい深かい場面でした。


    ある家族の物語であるとともに、文明論や作家論、

    さらに近代フランスそのものの物語ともいえる本作。


    筆者やデュマのファンに限らず

    多くの方にオススメしたい著作です

  • デュマ家三代記の最終巻です。
    三代目になると、フランス人の血は濃くなり、ワイルドさは薄くなった、ということで、かなりおとなしい人生と口調です。
    さすが、「賢者」というタイトルだけある。

    この本もある意味、「父」ひいては「祖父」が主人公かもしれません。
    心おどる冒険を、賢一らしいラブシーンを、と望む方には残念な本かも笑。

    フランス革命・ナポレオン時代を将校として肌で経験した祖父、
    王政へのゆり戻しを見て、政治に頭をつっこみたがる父、
    市井の物書きとして静かに傍観する自分。

    フランスという国の、歴史もまた、
    こうして、熱を冷ましていったのだろう。

    ショパンとか、リストとか、モーパッサンとか、当時のいろんな有名人がちらほら出てくるのが興味深いです。

  • 急かされて(図書館に)読まなくてはならず,独白を読むのって疲れる・・・いくら上手だと感服させられても~アレクサンドル・デュマ・フィス,ペールではなく。椿姫を書いた方です。ペールの方はご存じですよね,「三銃士」や「モンテ・クリスト伯」で知られ,黒い悪魔と恐れられたナポレオン時代の将軍の子ですから。父が4歳の時に祖父は亡くなっているので,直接は知らないと思いますけど,既に歴史上の人物ですから,憧れて当然ですが,時代は軍人を求めていなかった。デュマはフランスではありふれた名字で,「ドゥ・マス」=「農場の」を意味しているわけで,曾祖父がアメリカから連れてきた奴隷女を捨てた時,ダヴィ・ドゥ・ラ・パイユトリの名を捨てたからで,アメリカの農場から出てきたことを意味しているわけですが,私が住んだノルマンディが一家の出身地であったなどとは想像もつかなかったわけです。第一章 私はアレクサンドル・デュマ。いえ・・・ 第二章 咲き誇る椿の花に飾られながら,マリーの美しさときたら・・・ 第三章 結婚し,子供を作り,その幸せを願うという・・・ 第四章 いや,人生なんて土台が無茶苦茶なもので・・・~デュマ三部作の終わり。とは云っても,「褐色の文豪」を読んでいないから,完結していないけど。よく調べているものだと,本当に感心させられるが,そうそう売れるとは思えない本だ。今のところ,茂原にはないので,読む気力が湧いてきたらリクエストしてやろう。利用者を追い立てるやり方は,社会学習施設にあるまじき行為と思うけど,財政が厳しい割に,利用者の要求もエスカレートしていて,それに応える行政もピリピリしているのだろう

  • 「椿姫」の著者、アレクサンドル・デュマ・フュスの独り語りの形で物語が進んでゆく。
    「三銃士」の作者、アレクサンドル・デュマ・ペールは実父。
    妾の子であるデュマ・フュスの生い立ちや「椿姫」が生まれた背景などが歴史の流れと共に語られている。
    佐藤賢一にしては単調な作品。

  • 2010.04.07 佐藤賢一はどうしたんだ。傭兵ピエールの圧倒的な面白さにしびれて、新刊はハードカバーで買っていたが、小説フランス革命Ⅱ以降は買うのを止めて図書館で借りている。(黒い悪魔、褐色の文豪は買った)ついにこれはあまりにしょうむなくて途中で読む気がなくなってしまい未読のまま図書館に返してしまう。

  • アレクサンドル・デュマ・フェス(椿姫を書いた人)の回想録みたいなお話で、正直読み続けるのがしんどかった。なんて言うか老人が自分の生い立ち、家系なんかの一人語りなんで、こう退屈と言うかなんというか。。まぁ、それも文学さって感じなんですかね。
    たまたま、図書館で借りた本なんで知らなかったけど、これはアレクサンドル・デュマ3部作(祖父、父、息子 全員同名)のラストなんや。前の2作読んでからやと、息子(孫)から見た家族の愚痴や誇りなんかも違った感じで読めたような気もします。

  • アレクサントル・デュマ(息子)のほうの話。
    父親版(褐色の文豪)とはまったく違って、一人語りで全編が進む。作風と個性の違いを反映してあえてそうしていると思われる。
    個人的には父版のほうがすきだけどね~

    おもに、家族とか、自分についてが主な話題となっているので、時代性とかそういうことはこれまでの2部作とは違ってほとんどかたられていないので注意

    とりあえず、椿姫と真珠姫が読みたくなるよ!

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著者プロフィール

佐藤賢一
1968年山形県鶴岡市生まれ。93年「ジャガーになった男」で第6回小説すばる新人賞を受賞。98年東北大学大学院文学研究科を満期単位取得し、作家業に専念。99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞を、14年『小説フランス革命』(集英社/全12巻)で第68回毎日出版文化賞特別賞を、2020年『ナポレオン』(集英社/全3巻)で第24回司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『カエサルを撃て』『剣闘士スパルタクス』『ハンニバル戦争』のローマ三部作、モハメド・アリの生涯を描いた『ファイト』(以上、中央公論新社)、『傭兵ピエール』『カルチェ・ラタン』(集英社)、『二人のガスコン』『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』『黒王妃』(講談社)、『黒い悪魔』『褐色の文豪』『象牙色の賢者』『ラ・ミッション』(文藝春秋)、『カポネ』『ペリー』(角川書店)、『女信長』(新潮社)、『かの名はポンパドール』(世界文化社)などがある。

「2023年 『チャンバラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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