作者の西木正明さんの故郷が舞台の小説。
私が生まれ育った家は、実は西木さんの生家のすぐ近くなので、小説の中に登場する場所は、少し名称は変えてあれど、
「あ、あの場所か」
とすぐに分かる。
そして、私の祖父がモデルと思われる人物も、小説の中にたびたび登場するので嬉しかった。
私には祖父の思い出がない(幼い頃に亡くなった)ので、祖父がモデルと思われる人物の全てが実際の祖父ではないにしろ、どこまで事実なんだろうと思いながら読むのも面白かった。
きっと、私よりも、父が読んだ方が面白いと感じるかも知れないが、父は字を読むのが嫌い(苦手)なので、読まないだろうな。
あとで、父に、祖父のこと訊いてみようか。
男女のあれこれとか、下世話な話とか、そんな事がほとんどの内容。
戦時中の事も、戦後すぐの事も、私にはよく分からないし、読んでも、そこらへんの描写は想像しにくかった。
主人公の蒲生太郎は、戦地で知り合った金木医師に誘われ、金木医師の故郷に移り住む。
金木医師は、作者の西木さんの父親がモデルなのかな。
西木さんの生家は、立派な茅葺の家で、林に囲まれている。
自宅の敷地内(とても広い)で診療所を営んでいたのが、西木さんの父。
私も幼い頃は、お世話になった。
なので、金木家の描写は、西木さんの生家の茅葺の家が目に浮かんだ。
発破漁で魚とりをする人物は、発破の失敗で片手を失くしているし、
川が氾濫して田んぼが土砂に埋まってしまったりという事件も起きる。
大変な事も色々あるが、それでも笑い飛ばして日々を暮らす人達。
美味い食べ物(川や山の恵み)も、色のある女もいる。
金銭の余裕はないが、自前の田畑で採れた作物があるので、日々を暮らす事は出来る。
戦後の東京から出て来た蒲生太郎には、それらが楽園のように思う。
父世代の人って、昔を懐かしむ。
あの頃は良かった、と言う。
けれど、美化されてるだけで、良い事だけじゃなかったと思う。
いつの時代だって、良い時代であり、大変な時代であるんだと思う。
少し、この小説は美化しすぎかな。
夫婦が出てくる。
けれど、子供の姿がほとんど出てこない。
男女のあれこれがあるのだから、当然、子供もいるはずなのだけど、
蒲生太郎は内縁の妻の敏子と励んでいるはずなのに、子供が出来る描写がない。
金木医師にしろ、結婚しているのだから、子供くらいいてもいいはずなのに、子供は登場しない。
親(夫婦)の姿はあれど、子供はほとんど登場しない。
唯一登場する子供は、母親に捨てられる。
それとは別に、ガキ大将や、いたずらな子供たちが登場するが、『家族』の姿がほとんどない。
西木さんにとっての『パラダイス』というのは、男女のあれこれが自由奔放なことなんだろうか。そこに子供は邪魔だということか?
子供がほとんど登場しないという不自然さだけ感じてしまったけれど、
故郷が舞台の小説、楽しく読ませてもらいました。