存在の美しい哀しみ

  • 文藝春秋 (2010年4月14日発売)
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本 ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784163291000

感想・レビュー・書評

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  • 人生に結論などない。
    寿命の長短の幸不幸もない。
    この世に生まれ、生き、その折々に目にしたもの、感じたもの、考えたことだけがすべてなのだ。

    「人はけもののように交わって子をなし、育てて一生を終える」

    すべてのことは時の流れが、いつのまにか洗い流してくれる。
    十年も二十年も、一つのことで変わらずに悩み、苦しみ続ける人はいないはずだ。

    この世には、何かの宿命のようにして、いったんかかわりをもったとたん、望まぬできごとが起こってしまう、という人間が存在するものだ。

    知らずにいてもかまわないことをわざわざほじくり返し、隅から隅まで、「真実」という名の地獄の底を覗き見たがるのは、人の脆弱さの表れのような気がした。

  • 2023年7月にウィーンプラハに行ってきたからタイムリーな本だった。学びは無いけど、「美しい」物語。ただ聡が異父兄弟のなおこに会って人との繋がりを感じてるのは不思議。異母兄弟はすでに居るのにね。やはり両親揃わないと孤独を感じますよ、ていう陳腐なものを美しい物語として昇華しただけかもと思うと星3つ!

  • 第一章では、母の死をきっかけに、兄が住むプラハへ向かい出会います。

    第二章以降は母、父、そして兄と視点を変えて、それぞれの人生が綴られていきます。

    角度を変えることで全く違う景色が見えて来ます。

    全七章から構成されていますが、それぞれの人物描写も丁寧で、かつ風景描写も緻密で脳内映像でプラハやウィーンの町並みを想像しながら、それぞれの人物に感情移入して読めました。

    派手な作品ではないけれど、しっとりとした美しい、そして余韻が残る作品となっています。

  • 1人の登場人物を核として、取り巻くひとりひとりの立場から綴った物語
    なんか、覗き見をしているような罪悪感と密かな愉しみで一気に読んだ。

  • 異母兄がいることを知らされた20代の女性が、プラハにいる兄を訪ねるところから物語は始まる。章ごとにその周囲の人たちが順に主人公となり、最後はぐるりと回って兄の視点によって終結するという手法。

    図書館でこの作品が目にとまったのは、かつて小さな映画館で見た『存在の耐えられない軽さ』を思い出したから。タイトルが似ていると思ったら、やはり映画が作中で効果的に用いられていた。
    チェコが舞台の大人の恋愛もので、そう言えばいかにも作者の好みだと感じる。私も映画のあと、もっと理解したくて原作の小説を読んでみた記憶がある。

    さて本作、第1章から切ない美しさに引き込まれた。さあどうなるのかと気になったところで、他の人の話に逸れていってしまい、一旦は肩透かしに。でも、各章は単独でも十分読み応えがあった。
    母親の生き方もさることながら、父親の再婚相手のようなおとなしい女性が、じつは一番強いんだろうな。

    他の作品でも感じることだが、恋愛ものにおけるしっとりとした美しさや甘さ、切なさ、妖しさなどの加減は絶妙だ。恋に溺れたときの弱さや醜さも含めて、作者の恋愛観は私の胸に沁みる。比べるのもナンだけど、少し前に読んだ平野啓一郎の恋愛ものはいただけなかった。
    やはり、大人の恋愛は小池真理子がいい。って、この作品は大人の恋愛というわけでもないのだけれど。

  • どの話も少しづつ繋がっていて、どれも少しづつもの悲しい。

  • ずっと恋愛モノばかり読んでいると、頭が
    恋愛小説ばかになりそうだ。

    異母兄妹から数珠繋ぎで連なる諸々の物語。
    ひとりひとりの何とも言えぬ心情を体験できるのは
    面白かったけれども
    唯一踏み込んで描かれなかった父親・芹沢が
    何を思ってどう生きたのかが気になり
    少し物足りなくもある。

  • 情景描写が美しい。
    心理描写が独特だし、官能的な感じ?

  • 章ごとに主人公が代わる。
    榛名,母の奈穂子,その同僚の芳雄,最後は...
    個別には波瀾万丈のようで,ウィーンで出会った2人は,穏やか。

    動と静。記述としてうまく均衡する。
    あざやかな叙述の中で,何を書こうとしているのだろう。

    文庫になった時の解説を,仮設をたてて書いてみたい気がする。

  • 一人の人物に関係のある人々の短編です。
    最初の話がよかったです。
    美しい哀しみという表現がわかるひとが、現実にも居ると信じたいと思いました。
    哀しさのなかに優しさもある短編集です。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小池真理子の作品

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