夜の底は柔らかな幻 (下)

  • 文藝春秋 (2013年1月15日発売)
3.21
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本 ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784163292809

作品紹介・あらすじ

恩田陸が贈る、日本版・地獄の黙示録



犯罪者や暗殺者たちが集まり、国家権力さえ及ばぬ無法地帯である〈途鎖国〉。特殊能力を持つ〈在色者〉たちがこの地の山深く集うとき、創造と破壊、歓喜と惨劇の幕が切って落とされる――極悪人たちの狂乱の宴、壮大なダーク・ファンタジーをお楽しみください。

感想・レビュー・書評

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  • 『仔鹿が浮かんでいる。』、上巻から続く恩田さんのファンタジー世界。上巻で山のように出てきた意味不明な名詞たち。その幾つかの意味が少しづつ明らかになっていきます。

    でも名詞の意味は明らかになってもこの奇妙な世界はどんどん不思議さを増して行くばかりです。『吊り橋が笑っている。彼をあざ笑うかのように、橋は笑い続ける。ぎしっぎしイ/ぎしっひいひいひい。』グロテスクなおぞましい情景も登場して作品はホラーの雰囲気も纏っていきます。あまりの突き抜けっぷりに感動する一方で、これ、最後に纏められるのだろうかという一抹の不安。そしてどんどんスピードが上がる。残りのページ数ヤバシ。放り出される…強烈なデジャ・ビュが頭をよぎります。

    そんな中、『いったい、この力はどこまで行くのか。どこまで行けば極限なのか。誰が最強なのか。』、『出てきてしまう。あたしの中の/リミッターが外れる/制御不能』、そもそもの謎な主人公・実邦が『覚醒』する瞬間。上巻に引き続き激しい生身の戦闘シーンが繰り広げられ、上巻よりもさらに読者に要求される想像力のレベルが引き上げられます。物凄い表現の数々。凄いなぁこれ、と思いつつも一方でついて行けなくなっている自分にも気づきます。
    そして、その時、物語の終わりも唐突にやってきます。振り落とされまいとしがみついていたのに、気づいたら路上に佇み、恩田さんの遠くなった後ろ姿を茫然と見送るしかない結末。『理解したいという欲望は、不幸だな。人は理解していなくても暮らしていける。幸福でいられる。何も知らないことを幸福と呼ぶのであれば。』

    なんだろうこの作品。なんだろうこの虚無感。恩田さんの作品の中でもここまでの振り落とし、突き放され感は経験がなく、気持ちの持って行き場がない自分がここにいます。

    でも落ち着いて思い返すとこの不思議な世界に、生身の戦闘シーンに、想像力をめいっぱい働かせた時間がありました。そう、エンディングだけが読書じゃない。途中の世界観を楽しむ読書のススメ。そういう意味ではとても恩田さんらしい作品だったと思いました。

    • マリモさん
      さてさてさん

      はじめまして、こんにちは。
      恩田さん作品の中でもここまでの突き放され感は経験がない…という感想、すごくわかります(笑)
      恩田...
      さてさてさん

      はじめまして、こんにちは。
      恩田さん作品の中でもここまでの突き放され感は経験がない…という感想、すごくわかります(笑)
      恩田さん作品は、わかりやすいものとわかりにくいものにかなり両極端だなと思うのですが、私の中でもこの作品は、わかりにくいものの中でも突き抜けていました。
      でもエンディングだけが読書でない、というさてさてさんの姿勢にわが身振り返り反省しました。確かに、エンディングはわかりにくかったけれど、世界観は楽しませてもらいましたし、そこを忘れちゃいけませんね!この本読んだ後に抱いていたモヤモヤが少し晴れた気分です。ありがとうございました。
      2020/02/15
    • さてさてさん
      マリモさん、こちらこそ、いつもありがとうございます。細かく丁寧に書かれた感想をとても参考にさせていただいています。

      読書を始めて間もないの...
      マリモさん、こちらこそ、いつもありがとうございます。細かく丁寧に書かれた感想をとても参考にさせていただいています。

      読書を始めて間もないのですが、ブクログ のお陰で最初から感想とワンセットが読書だと思っています。単純に読み終えた瞬間と、振り替えりの時間を入れた後では違うものが見えてくるように感じるからです。この作品だって、単純な読後感は決して良くはないと思います。でも感想を書き終えて、読書中の色んなことを思い出して、思い出されてこの感想でまとまりました。小中高と大嫌いだった読書感想文の意味が分かった気がする今日この頃です。
      ありがとうございました。
      2020/02/16
  • 冒頭はヨーロッパあたりの国境の話かと思った。
    寒々しい雰囲気が一気に頭のなかに広がった。

    一瞬、鎖国かと思ったが、違う、「途鎖国」なのだ。
    途鎖という特別地区には入国管理局がある。
    そこには特殊な能力をもつものたちがいて
    在色者と呼ばれる。

    その途鎖を出ていた実那がある目的のために戻ってきた。
    関係者と綿密な計画を立て、山に入る。
    その山はもちろんただの山ではない。

    怖いのがとても苦手な人には
    ところどころ「ギャッ!」と言いたくなるような場面がある。
    それにホラー的な場面も・・・。
    できるだけ文字だけ追うようにして読んだ。
    (想像しない)

    それなのにページをめくるスピードが加速していくほど
    先が知りたくなる。(「24」みたい)

    そんなこんなで早起きして読了。
    (夜は余計怖い)

    全く想像しないラストだった。

  • えええ~~~!!そこで終わり~!?
    で、結局あの人はどうなったの?あの姿は何だったの??
    先生が連れて行った人達はどこに行ったの?
    教えてくれ~。
    またしても恩田先生にやられてしまった。
    謎だらけ。

    でも、良いんです!!(カビラ風)
    恩田先生だから良いんです!!
    引っ張って引っ張って・・・、唐突に終わる。
    これで良いんです!
    もう私は多くを望みません。だって恩田作品だもの。
    直木賞なんて取れなくったって良いんです!頭ガチガチの審査員に評価されなくたって良いんです!(←しつこい?)

    内容について少々。
    特殊能力を持った在色者と呼ばれる人たちが、日本とはまた別の途鎖国の山奥に潜むソクをそれぞれの思惑で打倒しようとするお話。
    手に汗握る密入国シーン、血なまぐさい決闘シーン、はたまた空を飛んだり天井からぶら下がったり超人的なシーンも盛りだくさん。
    これがただのSFではなく恩田ワールドならではの何ともいい難い不思議な雰囲気で包みこまれ、ページをめくる手が止まらない。

    間違いなく面白い。
    でも正統派ミステリーが好きですっきりと伏線を回収してほしい人には不向きかな。
    答えを提示しないのは慣れてるけど、この作品に関しては是非続編を書いてほしいな~。無理だろうな~。

  • 全てを語りきらず、想像の余地が残るいい終わり方だなと思った。

    が、最後は怒涛の展開すぎて半ば、追いつけなくなっていった。以前読んだドミノのような疾走感が面白くもあり難しくもあった。

    物語の結末について余地はあるがもう少し、色々と説明が欲しいなと思う部分もあった。

  • 超能力者達の戦い、後半。
    実邦の出番がとても少なかったのが残念。
    神山の真意も分からず。
    カリスマ性を持たせて、ほとんど何も分からないまま終わりました。
    葛城の歪んだ愛情がもっと素直で優しいものであったら、実邦との関係も違うものになっていたと思う。
    最後の場面で名前を呼ぶ場面で葛城の思いは伝わりました。
    善法さん、残念でした。が、きっと晴れ晴れした気持ちだったでしょう。辛い過去も実邦を助けたことで報われる。

  • はてさて。
    あくまでも個人的に、な星五つ。人には勧めづらい。
    上巻読んだ時に予想したような3章での裏切りは無く、ぐいぐいと強烈な筆致で最後まで引き込まれた。いままでの作品の展開とは異なる。
    いままでの作品は、“起承”までに広げに広げた風呂敷を、“転”でひっくり返し、“結”にいびつながらも畳んでいく、という展開が多かった。
    いつも広がりまくった風呂敷を前に佇む感覚があった。
    残りページ数とにらめっこし、これは畳みきれない、と立ち尽くす感じ。
    本作は風呂敷の広げっぷりが従来の作品よりもコンパクト。いや、“ソク”や“闇月”、“在色者”といった基礎用語に明確な解説を付さないままに話が展開されていく点ではとてもコンパクトとは言えないが。山という閉鎖された場所に全てが集約されていくところ、割と早い段階で主要人物が山に結集したところがコンパクトに感じられたのかもしれない。
    風呂敷を広げ終わったと思しき3章を終えても、例の立ち尽くす感じはおぼえなかった。否が応でも期待してしまう。完璧に畳み切ってしまうのではないかと。
    それと同時に裏切りの予感。期待が大きくなればなるほど、裏切られたあとの虚脱感が想像出来てしまい慄く。
    そして、読了。

    結局、3章において広げ終わったと思った風呂敷は最後の最後まで増殖を止めず、畳むどころか盛大に宙へ放り投げて終結した。
    つまり、恩田陸は本作において畳むことを辞めたのだ。
    ミステリでいえば、お屋敷での連続殺人事件で最後にして最大の事件が発生し、あとは探偵が解決編を話すだけ、というところで物語の幕引きがされたようなものだ。
    そもそもこの話に、すべての事象の因果を読み解ける探偵は存在しないのだからそれも仕方が無いのだが。
    あーびっくりした。
    まさかあそこであんな風に終わるだなんて。
    残り10頁ほどになって、あまりの虚脱感に最後は笑いながら読んでしまった。
    みんなでソクという一種の共同体になるあたり、月の裏側を彷彿とさせる。盗まれるー。

    何ら解決が果たされなかった本作は駄作か?
    そうとは思わない。万人受けしないことは確かだろうけど。
    解決に必要な材料は本編中に散在している。読者が各々解決させることは可能。
    ラストのあれも、恋愛小説とは思わなかったな。贖罪の話ということで良いのでないか。

    長く頭に巣食うことになるであろう作品。

  • なんというか、とても恩田陸だった。こんな奇怪な事を堂々とやってのける作家は恩田陸ぐらいである。
    物語の舞台となる〈途鎖国〉(とさこく)がとてもおかしい。笑える、という意味ではない。我々の常識など通じないという意味だ。犯罪者や暗殺者が集まり、油断ならない。
    この中を突き進む主人公ももちろん普通ではない。恩田版『地獄の黙示録』というからどんなものかと思いきや目眩がしそうだった。これは普通じゃない。

  • 最強で最高にグロテスクな作品です。いろいろな意味で。そうとしか言いようがないし、こういうものを書かせたら恩田陸の右に出る人はいないのではないかと思うほど(グロテスクと言ってすぐ思い浮かぶのは乱歩ですが、乱歩の湿度の高いグロテスクさとはまた違う、どこまでも冷えて乾いたグロテスクさ)。恩田作品の暗くて不穏で突き抜けて荒唐無稽な方の側面を最強にしたのがこれ、という感じ。人もガンガン死ぬしエグい描写も容赦なく出てくるので嫌いな人はものすごく嫌いだと思いますがハマる人にはすごくハマると思う。ラスト実邦と葛城がいい雰囲気になるのまで含めて本当にグロテスクです。救いのなさに脳内麻薬出ます。文句なしの傑作。

  • 人物のキャラがそれぞれ描き方が絶妙で、シーンの展開も脳内画像変換がすさまじいほどにきっちりはまる。
    しかも、パラレルワールドでの出来事という前提なので、読者ははなから第三者で恐怖感もスクリーンの向こう。
    ホトケの新解釈も飛び出してどこがゴールになるか見当がつくだけに怖い.。
    これは既視感。「少年●ャンプ」みたいなのにあったようななかったような。

  • 雰囲気は好きだ!けどまた行間を読む作業が始まるのか……

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

恩田陸の作品

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