勝手にふるえてろ

著者 :
  • 文藝春秋
3.43
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本棚登録 : 3474
感想 : 701
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163296401

感想・レビュー・書評

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  •  とどきますか、とどきません。光かがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。
     
     最初の二文だけで文章の美しさ、そして圧倒的な描写力を感じさせる本書の著者は19歳で芥川賞を受賞した綿矢りさ、著者の四作目である。デビュー作の「インストール」、芥川賞を受賞した「蹴りたい背中」が多くの人の記憶に残っていると思う。新刊を出すペースが道尾秀介さんや東野圭吾さんなどと比べてゆっくりだが(彼らはむしろ早すぎる)、常に素晴らしい作品を私たちに届けてくれる。

     主人公の良香は中学のときからずっとイチ彼に片思いをし続けている。しかし会社の飲み会で知り合ったニ彼から好意を寄せられ、タイプではないのにデートを重ねる、良香が好きなのはイチ、たぶん結婚するのはニ。初めて経験する恋愛の渦中で、彼女がどのような結論を出すのか?

     本書は著者が自分が好きとは思えないけれど相手が好きと思ってくれていて告白されたときに、すげなくふってしまう以外の何かいい方法、幸せになれる方法はないかと思って書き始めたそうだ。著者自身自分の「好き」という気持ちは大切にするけれども、他人の「好き」という気持ちはあまり大切にしてこなかったそうだ。

     特徴的なのは良香が関係する男の名前が「イチ」、「ニ」と記号化されていること。一番好きな、本当に好きな男が「イチ」、二番目に好きな同僚が「ニ」。なんだか不思議な表現だが良香の心の温度を端的に表している気がする。揺れ動く気持ちによって「二」が「イチ」になったり「イチ」が「ゼロ」になったりするのかもしれない。

     社員食堂で本好きの同僚と話していたときに著者の「蹴りたい背中」が面白くないとその同僚が言った。純文学は作品ごとに、響いたり響かなかったりする。「蹴りたい背中」はたまたま同僚に合わなかったのだろう。26歳の主人公の心の機微を感じ取ってほしい。もしかしたら20代後半の女性にジャストミートする作品、なのかもしれない。

  • すごい、わかる。

    恋愛経験ないまま大人になっちゃうなんて、マイノリティーだと思っていたからこそ隠してたし、「ここまできたら絶対に好きになった人としか付き合いたくない」ってこだわっちゃうのもすごくわかる。
    わかるからこそ、「あれ、これってマイノリティーじゃなくて、こんなかわいい作家が想像できる範囲のことだったの?(まさか著者の実体験とは思えないし)」という軽い失望感(作品に対してじゃなくて、自分に対して)。

    イチとニっていうのが、言い得て妙!
    まさに、女子にとってはそのくらい差があるよね。
    ニが「霧島くん」になった瞬間ホッとした。
    けれど、きっとこの二人はうまくいなかないと思う。

  • 綿矢さんのオンナゴコロの描写、ほんとすごい。
    実際の会話と心中のツッコミ。コメディちっくで笑えるのにズバリな感じがまた楽し。

    勝手に理想像を作り上げた長い片思い…そんなロマンチストな自分を愛してる。
    好き好きと言われればうっとおしいのに、逃げられれば追ってしまう。
    イチを愛したい、ニに愛されたい、どっちもホント。
    悲しいほど素直でワガママな主人公ヨシカの心の内。面白かった!

  • レビュー見たら賛否両論激しいのね。

    でも私はなんだか好き。

    わけわからない話っていう人もいるだろうけど
    人生なんて、特に恋愛なんてきっとわけのわからないもの。

    もうちょっとイチとの絡みを読みたかった部分はあるけど、
    そこまでしない主人公が逆にリアル。
    イチとの運動会のエピソードが良かった。

  • 「インストール」と「蹴りたい背中」は読んだけど、今回の作品が読んでいて、一番心にしっくりくるように思えた。
    永遠に叶いそうにない片想いの相手 or 永遠に好きになれそうにない今の彼氏。そして20代後半女子の私。
    さぁ、どちらを取りますか?
    主人公の心の中で繰り広げられる果てない妄想の世界と揺れ動く感情描写にすごく共感を覚えました。物語の世界では友だちが少ない女の子だったけど、実際こういう友だちがいたら楽しそう。

  • 絶滅した動物の話をしよう。

    でも君はだれだったかな。

  • とっても大好きな初恋の相手だけど名前すら覚えてくれていないイチと、合わないと思ってるけど好きだと言ってくれるニとのあいだで揺れる話。
    ニみたいにどんな自分でも好きだと言ってくれる人がいるなんて幸せですね。
    秘密の相談していた人に裏切られた場面、ばっかみたいって笑ってしまった。いまどき高校生でもそんなのないわ。かわいそうとしか言いようがない。
    あと主人公が会社に嘘ついて親に電話するとき、あまえんな!って思った。
    ひねくれた文章でおもしろかった。くるんでるかくるんでないかってとても共感した。

  • なんとインパクトのあるタイトルだろう。 「蹴りたい背中」以来の綿矢節。
    書き出しフェチでもありタイトル名人でもある、綿谷りさ久々のスマッシュヒット。
    思わず手に取りたくなるね、書店でこれ見たら。ジャケ買いですよ。
    前作「夢を与える」はごくありきたりのタイトルで、内容も彼女らしくない、というより彼女独特の感性や文章表現が発揮されてない感がするのでサクサク先に進めなかったのだが、これは違った。
    期待と興奮に胸躍らせながらページをめくると、
    「とどきますか、とどきません。光りかがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。」の書き出し。
    「綿矢節キタ───!」と叫びたいところですが、この表現って古くない? もう死語じゃないの?
    今年の文學界新年号に彼女と金原ひとみの対談があって、その中で金原さんが綿矢りさ新作の文中表現に関して『綿矢さんキタ───!』とおっしゃってるので、使ってみたけれど。
    それこそ言葉の絶滅危惧種のような……。金原さん、時代に乗り後れていない、大丈夫?
    ま、それはそれとして、すぐに「私には彼氏が二人いて」という文章に出会えば、二人を弄ぶ恋愛ものか? と勘ぐりたくもなるが、そこはさすが綿矢くん。料理の仕方が常人とは異なる。その二人の名前をすぐに出さずに、イチとニという呼び名で分類分け、というか括り方で強引に話を進めるのも彼女ならでは。
    「蹴りたい背中」を思いのままに弾けた文章にするとこんなカタチになるんだろうか。書きたいように書いた、という感ありありで面白かった。
    日本中の小説家が束になっても敵わない、綿矢りさにしか書けない恋愛小説です。
    ぼくは思うのだが、彼女の文章の素晴らしさはこういったシチュエーションでこそ最大限に引き出されるのではなかろうか。
    だから無理に普通の恋愛小説風なストーリーとかにしなくてもいい。
    30代になったら、30代の物語を書かなきゃいけないのか? 50代になって高校生青春物語を書いてはいけないのか? そんなことはあるまい。 
    一般的にそうなりがちなのは、単に作家自身が書けなくなるからだ。
    サザエさんがテレビの中で永遠に年を取らないのと同様、作家だって、何歳になっても同じようなシチュエーションで、でも違う物語を書き続ける。
    そういう人がいても一向に構わないと思うのだ。
    逆に言えば、そういう作家こそ稀有であり、貴重な存在なのだから。
    ぼくはこれを読んで、高橋源一郎が「綿矢さんは将来田辺聖子みたいな作家になるのではないか」と思った理由が少し分かった気がする。
    彼の慧眼に感服。

    ちなみに、この作品は書き出しだけではなく、最終ページの表現も別の意味でよかった。
    一回目よりも、このレビューを書くために読み直した二度目のほうが満足感があったので星五つに変更。

    付録:思わず吹き出しそうになった、「勝手にふるえてろ」名文集
    (あまり長く引用すると、読んだ時の面白さが半減するので、さわりだけとか伏字にしました)
    問題1:下の〇を文字で埋めなさい。
    (って、この本を読んでないのに、これを埋められる人は誰もおるまい)
    P6:両脇の個室からユニゾンで鳴り響く〇〇の〇〇〇
    P21:先生、(中略)だから自分のてがらにしないで
    P27:で、隠された私のコインはどこへいったの?
    P28:で、この鳩は私が育てなきゃならないの?
    P33:じゃあ家族になってあげてよ。合掌。
    P66:ほとんど修行だった
    P72:自分の〇〇を探して毎夜、上野公園の不忍池の辺りを這いずりまわる人生になるだろう。
    P79:たくさんお酒をのんだら〇〇〇〇が〇〇〇なるからイヤ! と首を横にふって ──
    P119:君の〇のふせんもぼくが取ってあげるよ、ってか。正気か。(これが一番笑えた)
    P121:だとしたらニは私を絶滅から救う保護観察員なのだろうか。
    P141:だるまさんがころんだで鬼になって(中略)心境だった。
    註:ここに列記したのはごく一部です。

    付録その2
    「視野見」という表現について
    この表現はあまりにも的確すぎて、実際に辞書にあるのではないかと、思わず手元の電子辞書を開いてしまったほどだ。
    広辞苑の第七版には是非入れてほしい表現。例えば次のように。

    「視野見」(しやみ):別のものを見る振りをして、本当に見たいものを視界の隅で見ること。日本の作家、綿矢りさのあみ出した技で、目の血管が切れそうになるほど複雑な作業。

  • この作者さんの作品は初読みです。もっとブンガクブンガクした作品かと勝手に思ってましたが、妄想女子の妄想とリアルが絡み合って楽しく一気読みできたお話でした。
    流れるようにうたうようにテンポ良く、全体的にユニークに、ときに女ならではのシニカルな現実も混ぜつつ、独身女性の理想と現実が描かれてゆきます。わかるわーそのたとえ、と膝を打ちたい箇所がいくつもあって楽しかったです。虚言妊娠は笑いましたが。
    終盤になってようやっと過去を、ぬるま湯につかっていた自分を、ぺりぺり引き剥がし、自分自身を初めて見つけてくれた人に捕まろうと動き出してゆく。そののっそりとしたほんのわずかの、けれど重大な行動に、思わずがんばれ、と声を掛けたくなった、かつてのいち独身女子です。
    ほんとにさり気に呼び名が変わるのが良かったな。

  • オハナシ、よりも、綿矢りさサンの今、そしてこれからが気になっちゃって、どーしよーもない。
    イチを諦めちゃうのですか?>りさサン
    現実と空想の折り合いをつけるのですか?
    なんか読んでいて、物語を飛び越えて、そんなことばかり気になりました。
    そして、りさサンの今後も。。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

綿矢りさの作品

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