田舎の紳士服店のモデルの妻

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163297101

作品紹介・あらすじ

田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語。

感想・レビュー・書評

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  • とても素敵だと思った人と夫婦になったが、その素敵な人がうつ病になり、その人の田舎で暮らすことになった女性の話。

    こんなはずじゃなかった感がすごい感じられる。でも自分の中の葛藤と戦って何とか生きていこうとするところが良かった

  • 辻村深月さんの書評で本作を知り、宮下奈都さん初めましての作品。

    大きな事件が起きたり、明確な起承転結があるわけではないけれど、だからこそ安心感をもたらし、温かくて優しい気持ちにさせてくれる、そんな作品。

    冒頭では達郎への同情の気持ちが大きかったが、次第に達郎に対してもどかしい気持ちが生まれ、気づいたら梨々子側の気持ちにひき込まれていて、梨々子頑張れ!と祈っていた。

    ー達郎の病気が嘘だったらと願う気持ち。
    ー梨々子の日々の頑張りにありがとうと言ってほしい気持ち。
    ー運動会で走れなかった潤に対して、梨々子の知らないところで達郎から何か声をかけていてくれたらと願う気持ち。
    ー達郎がもう少し気が利いた言動をしてくれたらと願う気持ち。

    (いつも分析思考で読書しているから)こんなに本の中の登場人物に感情移入したのは久しぶりかもしれない。別に結婚しているわけでも、子供がいるわけでもないのに。なぜだか本当に不思議。それが宮下さんの力なのかな?
    テンポも私の肌に合っていて良かった。他の作品もローリングしたい。

  • 過去2作しか読んだことないけれど、この作家さんとは微妙に会わないのかもと思っていた。
    だが、この本を読んでひっくり返った!あまりにも共感する部分が多すぎて、読み終わるのが惜しいほど。
    細やかな心の機微も手に取るように分かり、これほどまでに主人公の気持ちにシンクロした事がかつてあっただろうか。

    主人公の梨々子はうつ病の夫とともに夫の実家に移り住むわけだが、その都落ちの気持ちも痛いほど分かる。
    私自身も状況は違うが似たような都落ち(笑)の経験があるので、梨々子の心もとないような情けないような気持ちは手に取るように分かった。

    自分の居場所はここではないと思いながら過ごす梨々子が年月を経て、次第に背伸びすることをやめ自分自身を穏やかに見つめる姿が丁寧に描かれている。
    何年も経て、子供に話しかける際にとっさに方言が出た場面にはグッと来たな~。

    梨々子がやけに良い子ちゃんだったり、のん気に専業主婦をしているのはなんだかな~とは思う。それに元アイドルとの純愛ごっこもつっこみどころ満載だけど、それはそれでご愛敬。物語の良いスパイスになっていると思う。

    転勤族の主婦の皆さん、子育てに行き詰っているママさん、田舎で腐っているそこのあなた、そんな人たちに是非読んでほしい。
    珠玉の作品です!!

    • まろんさん
      私もこの本、「うんうん!」と頷きすぎて、首が痛くなるかと思うくらい
      共感できる言葉がいっぱいありました。
      引用しようと思ったところがありすぎ...
      私もこの本、「うんうん!」と頷きすぎて、首が痛くなるかと思うくらい
      共感できる言葉がいっぱいありました。
      引用しようと思ったところがありすぎて、本にはさむ栞が足りなくなったほど!
      周りで読んでいる人がほとんどいなかったんですけれど、
      vilureefさんが読んでくださって、しかも珠玉の作品と言ってくださって
      とてもうれしいです!
      2013/02/22
    • vilureefさん
      まろんさん、コメントありがとうございます!

      そうなんですよね。
      もうセリフがどんびしゃで心にずんずん響いてくるというか、代弁してくれるとい...
      まろんさん、コメントありがとうございます!

      そうなんですよね。
      もうセリフがどんびしゃで心にずんずん響いてくるというか、代弁してくれるというか・・・。

      なぜかブクログでもレビューも少ないし、評価も微妙・・・。
      やっぱり読者を選ぶんですかね~。
      確かに私が子を持つ前にこの作品読んでも途中で投げ出してたかもしれませんが(^_^;)
      でもだからこそ妻の気持ちの分からない夫たちにも読んでほしいですよね☆
      2013/02/23
  • 会社を辞めた夫と田舎に移り住んだ専業主婦の10年。
    宮下さんならではの丁寧な筆致で、こまやかに、淡々と描かれます。
    宮下さんの作品では辛口なので、これが気に入らなくても~ほかもお試しを!

    梨々子は結婚して4年。
    夫の竜胆達郎は営業部のホープで、付き合って2年半で結婚にこぎつけ、潤と歩人という二人の男の子にも恵まれた。
    歩人はよく泣く赤ちゃんで、子育ては大変だが。
    幼稚園のバザーに何を着ていくかで頭がいっぱいの日、夫に会社を辞めると告げられる。
    夫がうつだと初めて知った梨々子。
    東京にずっと住むと信じて疑わなかったのに~一気に運命は暗転!?

    夫の父は小さな工場を経営しているため、落ち着けばそこで働ける。
    リハビリと思えばいいと実家の母。
    幼稚園の母友達には、10年日記を餞別に渡され、これからはお茶もできないけど、不満はここに吐き出せばいいと言われるのでした。
    都落ちの身と憐れまれた気がする梨々子。

    夫の郷里は北陸で一番目立たない県?(おそらく作者の出身地の福井)の県庁所在地。田舎というほど自然が豊かというのでもない。
    小さな不満や葛藤を抱えつつ家事をこなし、自分もちょっときれいなだけ(!)で取り柄はないと自覚する梨々子。
    とくに善良な人柄ではないけれど、悪い人ってほどでもない。リアルさを出すためなのか、いい子ぶらない冷静な書きっぷりは、共感もてない人もいるでしょうねー。

    夫は地元の紳士服店でチラシ写真のモデルを頼まれ、ちょっと嬉しそう。
    「なんだ、うつでも嬉しいのね」と思う梨々子。
    夫との間のことは詳しく書かれてはいないけれど、この時期でも会話は少なかったのか? 結婚の現実が垣間見えるような。

    苦しさが募った頃、若い頃に憧れたグループのメンバーに偶然出会い、会うようになる。
    たまにお茶を飲むぐらいの付き合いだけど、元気を取り戻していきます。
    深い付き合いに踏み出しかけたとき‥?

    上の子・潤は素直で出来は悪くないのだが、小学校があまり面白くないらしいと知って衝撃を受ける。
    それに、発達障害という言葉は出ないけれど、歩人はどうやら問題児。
    何かと先生に呼び出されることに。
    子供達が小さい頃に、梨々子が地元になじめず夫に不満を抱いていたことも、ほんの少しは影響していたのかも?
    でも梨々子は、母親としては肝が据わっていて、そう悪くない感じ。
    歩人が連れてきた友達の様子がおかしいのを、あたたかく受け入れることができるのだから。
    子育て中の孤立感や夫との微妙な関係は、結婚して数年以上たった女性ならかなり共感できそう。

    人はみな一人なんだと自覚したことから、かえって楽になるのです。
    しだいに、地元にもなじんでいきます。
    マンションの隣室の住人で、笑顔になることが少ない原田さんに、病院のボランティアをやらないかと誘われる。
    「主役やりたい人は家にいたらつらいやろ」とは、かなり痛烈な言葉だが。
    若ければそれだけでめげそう?
    いろいろ乗り越えた梨々子は、ちゃんと役に立つ人間になっていたのだ。
    少しずつ人と関わって、少しずつ人生を編み上げていく。
    笑いが増えた家庭に、ほっとする読み終わり。

  • 主人公梨々子が、夫の鬱病を機に、
    夫の実家のある田舎に引っ越してからの10年を
    2年ごとのエピソードで辿っていく物語。

    引っ越しの際に贈られた10年日記のページが各章の扉絵になっていて、
    10章では一番下の行になっているのが
    梨々子の10年を追ってきた読者の感慨を誘います。

    東京で、「いい幼稚園」のママ友仲間の価値観から外れない暮らしこそが
    何よりの幸せの基準だと信じていた梨々子が
    どこにいたって人はひとりなのだ、と悟った上で

    人生は持ち時間が尽きるまで編み物をするようなもの。
    人と交わることで編みかけのセーターの模様が少しずつ変わってきている

    と、10年かけて踏み出す一歩が清々しい。

    親が子どもに与える影響の大小や、
    夫婦として「わかり合う」ことへの固執などについての
    梨々子の(というか、著者宮下奈都さんの)独白に
    とても腑に落ちるものが多く、深く共感しました。

  • 宮下奈都さんといえば、映画公開中の「羊と鋼の森」の原作者。「太陽のパスタ豆のスープ」も良かった。図書館で書架で見つけたので借りてみた。
    夫は女子社員が皆狙うような会社のホープ。東京の、社宅でなければ住めないような地域に住み、スーツで説明会に行くような幼稚園に息子を通わせる梨々子。読者モデルもしたことのある自分に相応しい暮らしだと自負している。しかし、夫がうつになり、夫の田舎に移り住むことに。
    都落ちに気を落とし、そこから人生を見つめなおす10年…あちら側からこちら側の人間になることを素直に受け入れられるようになるまでの10年…を描いている。
    少し前の作品だからだろうか、話のテンポがイマイチで、同じところを行ったり来たりするのが、それが梨々子の心情なのだと分かってはいても少し鬱陶しく感じてしまう。今の人には共感しにくい、昭和バブル期前後に20代だった人の話、という感じがする。2018.6

  • 都会から田舎へ。勝ち組から負け組へ。そんな主人公が、10年の歳月の中で周りの人達と関わりながら自分を見つめ直す物語。

    片付けるべきことは山ほどあった。それをいちどきに片付けながら、頭の中では極力何も考えないようにし、心も動かさないようにした。不用意に動かしてしまうと思ってもみなかった滴が溢れてきそうだった。

    僕たちみたいにいい人と巡り逢うといいね。

    みんな自分のことを1番ごまかしたいのよ。本当はこんな自分じゃないって自分慰めたり励ましたりするの。自分を完全に受け入れるにはあと20年ぐらいかかると思う。私は女で妻で母で娘でそれ以外にも生きる理由のある特別な人間だとどこかで思いたかった。

  • 宮下奈都さんのエッセイ「はじめからその話をすればよかった」で、この作品を書こうと思った話を読んで、読みたくなって手にとった。
    特別な才能も経歴もなく、ただただ普通に平凡な、少し田舎の町に引っ越すことになった主婦の話。

    でも、この何気ない日常、特別な事件も起きない中で、家族や近所の人と関わって過ごすことが、ひと目ひと目の編み物のように、人生を編み上げていく。編み物に例える表現がいいなぁと思う。
    ひとつひとつの編み目は一瞬で、どれも同じに見えるけど、最後に出来上がる作品は、みんな違うものになる。私の人生は、どんな模様に仕上がるかな。

  • 都会だとか田舎だとか関係なく
    環境が変わるということは大変なことだ。
    夫が病気で、小さな子どもがいて、ではなおのこと。
    でも夫の鬱はわかりにくかった。
    引っ越す原因になるまでのものなのに
    聞いているからそうだと知っているだけ、という感じだった。

    夫の梨々子への感情表現は本当にわかりにくい。
    紳士服店の人がアサヒへ話したというくだりで
    そうなのか・・・と思えたぐらい。
    だから梨々子の気持ちにとても寄り添うことができた。
    ラストの梨々子へ伝わった言葉もわたしには響いてこなかった。
    逆にいきなりな気がした。
    (梨々子に伝わったからいいけれど)

    梨々子とアサヒがいっしょにいる雰囲気がよかった。
    これは不倫になるのかな。
    それらしくなくて、そういうことをまったく考えなかった。
    もうどうしようもなくなっていた梨々子にわたしの気持ちは重なっていた。
    だからかもしれないし、
    ふたりから漂う空気があまりに純粋だったからかもしれない。

    梨々子の感情の変化の描き方が素晴らしかった。
    夫、子ども、おかあさんたち、お義母さんに自分の母親。
    その間にある梨々子の気持ちはだれかから聞いているかのようだった。

    • まろんさん
      「他人から幸せいっぱいに見えること」が何より大事だった梨々子が
      「幸せのかたちを自分で選ぶこと」へとゆっくりゆっくり
      軸足を移していく感じが...
      「他人から幸せいっぱいに見えること」が何より大事だった梨々子が
      「幸せのかたちを自分で選ぶこと」へとゆっくりゆっくり
      軸足を移していく感じがよかったですよね!
      そうなのよ!と大きく頷きたくなる言葉があまりに多くて
      引用に書き込む文章選びに頭を悩ませた本でした。
      2013/03/03
    • macamiさん
      ☆まろんさん
      まろんさんのコメントに「そうなのよ!」と
      大きく頷いたわたしです。
      いつもお上手ですよね・・・・・
      まろんさんのコメン...
      ☆まろんさん
      まろんさんのコメントに「そうなのよ!」と
      大きく頷いたわたしです。
      いつもお上手ですよね・・・・・
      まろんさんのコメントが素晴らしすぎて
      言葉がありません。笑
      2013/03/04
  • 女性は、結婚や妊娠・育児でこれまでとは異なる環境に順応せざるを得ない。という事実に直面している現在、入り込みやすいストーリーでした。
    夫との関係性がリアル。

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著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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