田舎の紳士服店のモデルの妻

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 154
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163297101

感想・レビュー・書評

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  • 深くてすごく気づきが多かった。


    目指していたものは全て『人の目』を介した自分であり、大人になると自分は何者でもないと知り、日々大切なものなんて限りなく少ないと気づく

    歳を重ねると、生きやすく楽になる。
    気にしなくなる、諦めなのかもしれない。
    けれど、楽ならそれでいいじゃないか。

    これから自分がどんなふうなことに気づき、
    どう変わっていくのか、この本ですごく楽しみになった。

    穏やかな代わり映えしない日々に少しの刺激と新しさ。これが一番理想だけれども。

    その根底はやはりありきたりでも、当たり前ではない健康に感謝である。

  • 誰もがみんな何者かになりたくて、何者にもなれなくて、
    明確な目的地も見つからなくて、
    でもそれでいいんじゃない?
    誰だってみんなそんなもんで、
    だけどみんなで生きるから結構楽しい。
    何者かになんかならなくたって、大したことないありのままの自分でいいじゃない?

    ざっくり説明するとすればそういう感じの、心暖めましょう系の話。
    それなりにちゃんとしたカタルシスは得られます。
    読後感は悪くないし、地味な話なのに最後まで飽きずに読めて素晴らしい。なのに何だかもやもや…。

    うーん。

    多分単純に、主人公のスペックが高すぎるんじゃないかなぁ。

    うつになった夫と二人の子どもと共に、夫の田舎に転居することになった主人公。彼女はこの話のスタートでこそ挫折を味わい、今まで漠然と思い描いてきた幸せな道を断たれて悩んでいるけれど、それまでの人生では常に「女の子の王道」(正確には王道をかするような道)を歩いてきた、「ちょっときれい」と自他共に認める人。そして、彼女が新しい環境に受け入れられたきっかけも、地元の運動会でちょっといいとこ見せられたから。運動神経も悪くないんですよね。学生時代はさぞ幸せだったでしょう。

    それにですね、この主人公、人付き合いで全然失敗しないんです。急に人間関係の難しそうな田舎に引っ越したのに、人と話してついいらんこと言っちゃって自己嫌悪に陥ったり、陰で悪口言われてるのを小耳に挟んで傷ついたり、ストレスから可愛いはずの子どもや夫に当たってしまったり、みたいな誰もがやりがちで、だからこそ地味に痛いような失敗すら一つもない。せめて多少の紆余曲折の後に冒頭の感想にたどり着くなら共感もしやすいんですが、彼女は大門未知子か?くらい失敗しない。そりゃあ、それだけ何でも上手くやれて社会の中に自分の居場所をちゃんと作れる人なら、例え「ちょっときれい」以外に大した才能がなくても、自分のこと好きになるのは楽だよね!(笑)って読んでいてモヤってしまいました。いやね、もちろん自分が自分の思っているほど大したものではなかったという挫折感は誰にとっても辛いものですし、どんな幸せそうに見える人だって、内心はいろいろ抱えてるもんですよね。でもねぇ…。

    そして、小さい扱いながら一番気になったのは、小学校の担任から、次男くんの発育の遅れの可能性について指摘された時の主人公の対応です。「この担任は狭量ではないか」「どうしてみんな普通という言葉を使ってこの子を打とうとするのか」と反発していますが、本当に発達の遅れがあれば、本人の将来のために適切なサポートをするべき。「この子はこの子のままで大丈夫だ」と信じることは大前提として、そんな美辞麗句の元に発達の遅れのある子どもを「普通」扱いして何の対応もしないとすれば、それは平等であっても公平ではないと思います。誰もが主人公のように、放っておいても社会から必ず受け入れられるスペックを持っている訳じゃない。

    その点を考えても、この主人公はやはり、本当に持たざる者の痛みは知らないのではないか。メッセージは悪くないけど、例えて言うなら、生まれながらのお金持ちに「貧乏でもささやかな毎日が幸せなのよね!」って説教されているような。
    あ、書いたら大分スッキリした(笑)

  • 「普通の私」の物語。そう帯にあった通りの話。はじめはちょっといらっとして、最後の10年めはホロリとした。幸せ、本当に大事なもの、持ち時間。
    ゆるやかに変わるって、なかなかすごいことかもしれない。
    2017/10/14読了

  • 夫のうつをきっかけに、田舎で暮らすことになった梨々子。
    それまでの拘りや見栄や偏見を捨てて、新しく物事を認識できるようになっていく梨々子に、共感する。
    年齢も同じくらいだし、子どもたちの年も近い。
    ぶつかる壁も、きっと似ているんだと思う。
    そのときに、どんな風に自分の気持ちを持って行くか、勉強になる内容。

  • 夫が鬱になって、田舎に引っ越すことになった梨々子。越してからの10年間の様々な出来事を描いている。義父の家業を手伝いながら、紳士服店のチラシのモデルをする夫との関係。やや“普通”ではない息子達との関係。そして、ある日偶然知り合ったアサヒとの関係。
    平凡な主婦の毎日かとおもいきや、意外な女性の精神的な変遷の話で、共感するところもある。特に最後の章の編み物の例えは解るなぁと思った。とても面白い作品。

  • 日常から書き起す力すごい。
    多くの人達がもつもやもやを見事に描写。二児の男子を持つ者として刺さる箇所も。
    日常はつまらなくもあり、ありがたく愛しいものでもあり。

  • 東京で暮らしていた子育て中の主婦が地方都市へと引っ越してからのお話。ウツになった夫と子どものことで悩んだり気づいたり。あー、そういうことってありそうと思える。淡々としたかんじの展開。

  • うつ病で仕事を辞めた夫と子供達と一緒に、夫の田舎で暮らすことになった梨々子の10年間。

    こんなはずではないと思いながら、田舎暮らしや子供のことに悩む梨々子には、ちょっと嫌悪感を感じてはいたのですが、月日が経ち、少しずつたくましくなっていく様が小気味よく、最後は良い読後感を感じながら、余韻に浸りました。

    いろいろなことが楽になった、と言う梨々子。
    その気持ちには、とても共感しています。
    焦りはなかったと思うけど、今の自分に通じるものがあるなと言う感じ。

    夫を見る目、ちょっと難しい子供を見る目に、時々ちょっとしたユーモアが混じり、そこが優しいなと、著者のフレーズに酔いました。

    出逢って良かった1冊でした。

  • いちいちおもしろい。終わり方もよし。

  • うつ病の夫とともに、夫の田舎で暮らし始めた妻と幼い2人の息子。
    正直な気持ちは「こんなはずじゃなかった」。
    しかし田舎独自のルールやコミニュティに戸惑いつつも、しだいに馴染んでいく。夫以外の茶のみ友達との危うい関係さえも、田舎に取り込まれて消えていく。

    他の人に気持ちが移ったりはするものの、根底が「夫を愛している妻」なので、あらすじはなんとなく見えた。

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著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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