びいどろの火

  • 文藝春秋 (2011年5月17日発売)
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感想 : 9
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  • 本 ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163298603

感想・レビュー・書評

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  • 登場人物みんなのことが大好きになる、丁寧な描かれ方。誰もわかりやすく悪人じゃなくて、それぞれ自分の生き方について悩み、他人のことを思い、少しずつ答えを見つけていく。ぜひ文庫化してほしいです。

  •  時は江戸、享保から宝暦、舞台は尾張の城下町。
     妾腹の武家の娘、呉服屋の跡取り息子、若い舞台役者。
     様々な世界で生き、足掻く者たち。
     時代小説である一方で、恋愛小説とも性愛小説とも言い難い、因果応報の人情模様。
     遊女の桔梗の独白、“一番寂しいのは、誰なんだろう”の一文が、全編を通して真髄を突いていた。
     陰も裏もない者はいない。
     一見、平穏そうな日常風景の底には、当人のみが鬱々と感じる澱みが潜んでいる。
     佐登と善吉は、父・善兵衛の仲立ちによって縁(えにし)を結び、だが、彼のもたらす因果を発端に迷い苦しみ、多くを失った。
     それでも二人は、出逢えたからこそ連れ添うことができ、長い歳月を共に、睦まじく歩んでいけたのだ。
     禍福は糾える縄の如し、人も世もすべては流転する。
     読了後、冒頭の序を読み返すと、登場人物たちの上に流れた月日の温かさと深みが、しみじみと沁み入ってくる。

  • 新刊チェックしている作家さんでなければ、きっと読まなかっただろう……それくらい、あらすじはとーっても地味(苦笑)。読んでみれば内容的にやはり派手さはなかったものの、登場人物たちの心情が胸にせまってきた。想う気持ちは強いのにすれ違ってしまう姿が何とももどかしく、やるせない。彼らが蓋をしていた心の底から噴き上がった炎の熱に、こちらも痛みを覚えたが、大きな喪失感の後に残った哀しくも愛おしい灯火をそっと抱いて歩んでいく彼らの背中に、ほんの少し苦みを帯びた安堵の念をもちながら、本を閉じることができた。

  • 老齢の先代の手がつき生まれた主人公の佐登は、現当主の家で日陰者のようにひっそりと息をひそめて暮らしている。
    現当主の子らとほとんど年が違わないため、きょうだいのように暮らしてはいても、世間からは違う目で見られがちであり、所在無くいたところに、富商から嫁入りの話が舞い込む。
    請われるままに嫁入りしたのだが、主人となった人とはなぜかすれ違うばかり…
    そんな彼自身にも、人には言えないことがある。
    すれ違うばかりの佐登の前に、妖しい役者が現れいつしか虜となっていく。

    自分の本当の気持ちだからこそ、話すことができず、胸に抱え込んでしまい、悪い方へと向かい転がり落ちてしまう、せつないですね。
    だからこそ、佐登の甥、姪である市之進や波留など若い人の新たなる旅立ちは清清しいものです。

  • 3.5

  • 2013.3  艶っぽい、江戸時代のお芝居を観ているような本でした。

  • 仮面夫婦に泥沼不倫。

    息苦しいけど、最後は救いが見えたので良かった。
    失いたくない人ほど、本音が言えない事ってありますね。

  • 佐登の地味な生き方が全体的な流れだが,夫がかまってくれないので旅芸人との逢瀬を楽しむ.淡々とした記述が楽しめた.

  • 文章が端正で読みやすい。かならずチェックする作家さん。

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著者プロフィール

1966年愛知県生まれ。名古屋大学大学院国文学研究科博士課程修了。文学博士<br>2007年第87回オール讀物新人賞を受賞してデビュー<br>2018年『葵の残葉』(文藝春秋)が第37回新田次郎文学賞と第8回本屋が選ぶ時代小説大 賞を受賞

「2023年 『元の黙阿弥』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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