いとま申して 『童話』の人びと

  • 文藝春秋 (2011年2月28日発売)
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感想 : 41
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  • 本 ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163299204

感想・レビュー・書評

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  • 北村薫の父親がモデルの評伝とも創作ともつかないような不思議な印象の物語だ。

    父親の日記を追いかけるようにして、戦前の童話に心血を注いだ人たちについて描かれている。
    どこまでがフィクションでどこからがノンフィクションなのか境目があいまいで、時代がかった当時の風俗描写がさらに非現実的な雰囲気を醸し出す。

    物語がどんどん展開して引き込まれる、とか、どんでん返しがある、とか、そういう話とは真逆の淡々とした風情が魅力の一冊だ。

  • 父親の日記から当時のことがわかるって羨ましい。
    自分のこと、周囲のことと良いバランスで記録されていないとこんなふうにはいかないわなぁ。
    日記って大概、「**食べた」とか「めっちゃ暑かった」とかどうでもいい記述になってしまいそうなんだけどね〜。
    父親の性格がそうさせたのか?
    凡人ではないということよね。

  • 本作は北村薫の父の日記を材料にしている。
    残念ながら楽しめなかった。


    私は北村薫さんの「時と人 三部作」、「円紫さんシリーズ」、「覆面作家シリーズ」、「ベッキーさんシリーズ」が好き。その他の単作、エッセイなど全部読んでいる。
    本作を読み終えた時、「好きな作家」から「好きだった作家」になってしまったようで寂しくなった。

    北村薫さんはやっぱり好きだと思える作品が出版されるのを待っていたい。

  • 父の遺した日記をひもとき、一世代前の、文学を志す1人の若者の像を浮かび上がらせている。若い父親に対して肉親としての情を持ちながらも、作家の眼で見ている。自分のアイデンティティーにもつながるテーマだけに熱心で丁寧な記述になったものと思われる。関わりが深かった「童話」周辺の調べが丁寧で文学史としての価値は高いだろう。
    私としてはもっと短く小説仕立てにしたものが読みたかった。沢木耕太郎の亡くなった父親を取りあげた心に残る作品『無名』のような。

  • +++
    若者たちの思いが集められた雑誌「童話」には、金子みすゞ、淀川長治と並んで父の名が記されていた―。創作と投稿に夢を追う昭和の青春 父の遺した日記が語る“時代”の物語。
    +++

    父の残した日記が下敷きにはなっているが、単なる日記紹介とか人物伝などというものとはまったく違った一冊である。大正から昭和にかけての時代背景やその時代特有の空気、そして作家を目指す人びとのもたらす熱風のようなものを、単に息子という視点に留まらず、同じ作家として、またその後の時代を生きる者としての視点を持ってみつめているように思われる。静かながら熱い風を感じる一冊である。

  • 父親の遺した日記が語る〈時代〉に作者の時代を重ねて
    文字での表現を目指していた 父
    文字での表現者になった 作者
    父の日記をそんなふうに読めるのかと思った。
    父の時代の背景もひも解きながら

     金子みすゞ の名に出会えて うれしかった

  • 亡き父から生前に渡されていた辞世の一句をタイトルに持ってきたところから、著者の覚悟のほどがうかがえる。自らの父が残した若き日の日記や多くの資料を元に、この伝記とも小説とも取れる作品を書くことで、父の生きた証しを追体験しようとしているかのようだ。多くの資料を精査することで事実をあぶりだす手法は、歴史ミステリとしても通用する内容。著者の父は、明治42年に横浜市保土ヶ谷区の裕福な眼科医の元に生を受け、神奈川中学を経て慶応大学に学び、埼玉県の高校教師として働いていた。折口信夫の門下生として民俗学を学び、在野の研究者としても活躍していたようである。平成4年に83歳で没した後、著者は自宅に残されていた父の若き日の日記を開く。そこに拡がる若き父の世界は、晩年の父の姿とは大きくかけ離れたものだった、、、序章に現れる美しき女性「春来る神」の真の姿はまだ明らかにならないし、まだまだ多くの謎が残されている記述。残された20歳以降の日記を中心に今後も続編が書かれる気配。

  • ・昔は南京虫やノミがいっぱいいた
     今の普通は昔の普通ではない ということ再認識

    ・昔の中学生はものすごくエリート

    ・気になる 『文楽の研究』

    ・何者かになりたい 何者かでありたい

  • 人気作家が父・宮本演彦の日記を紐解く、という変わった趣向の本。
    更にその父は第二次長州征伐の年生まれ。江戸末期だよ!
    時代背景は、関東大震災から昭和天皇の御成婚まで。代々医者の家系で保土ヶ谷のプチ名家、ってな微妙な階級で、神中から慶応予科へ進みながらの童話創作の日々。
    特権階級の子息に振り回される一方で、後に困窮死しする勤労少年達と創作で関わりを持つ。現在より格差社会がくっきりしてる。
    付記の感じだと続編があるみたいだが、ここから先は戦時色一色だろうなあ。。。

    大正13年の火星接近の話が出てきてビックリ。しょっ中あることなのか?

  • 北村薫さんらしい、もってまわった文章が父親の日記を読み解いていくノンフィクションであることをたまに忘れさせる。
    大正から昭和にかけての空気が垣間見えて面白かったけど、退屈でもあった。
    でも最後まで読んだらやっぱり
    あの女性は誰なのか気になってしまう…
    なんていうか、うまいなぁ〜。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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