- 本 ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163299600
感想・レビュー・書評
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理想郷の後継者である
東一の自己中に辟易。
コミューンという閉鎖
された環境が、
このような怪物を生み
だすのでしょうか。
他人の労を横取りして
己の美徳と偽るなかれ。
自分の庭を飾るために
他人の花を摘むその手。
その穢れた手で慈しん
でも、
花は色も香りも失って
枯れゆくばかりです。
自分の庭を飾る花なら
汗と愛で育てなさいと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ぼくにとっては不可思議な作家というジャンルでトップ3に入るのが、桐野夏生である。読んでみないと面白いのかつまらないのか、わからない。最初は探偵・村野ミロのシリーズでエンタメ界に登場したものの、徐々にシリーズ外作品での独自性を見せ始める。その切り替えスイッチとなったのは、まぎれもなく『OUT』だったと思う。
かつてのぼくの桐野評。『ぼくがリスペクトしたいと思うクリエイターは、どちらかと言えば、馴れ、という領域を逸脱しようと、常にチャレンジする精神を維持し続けている部類の作家である。』
もう一つ。『通り一遍の評価を受けることで満足することなく、次から次へと異色の作品を出し続け、いい意味で読者の予想を裏切り続ける女流作家としては、トップ・ランナーである。』
そう、本作『ポリティコン』は、実験小説のようにも見える。一つの原始共産主義的な<村社会>を東北の一山村に作り上げた一族の血を継いで、現代の若き村長が時代に沿った変革を施してゆく、というと聴こえは良いが、この新村長となる主人公の東一(といち)は、ページを繰るにつれ、軽薄で身勝手で、獣欲に身を任せるエゴイストで、様々な意味での愚かさを全身に纏った出来の悪い男であることが明確になってゆく。それでいて妙な自信を備えていて、性格も弱いくせにプライドは強い。客観性がなく、村民たちへの思いやりも薄いし、怒りっぽい。理想を抱えているのかどうかわからないが、自分の中では何となく整理できているらしいし、これといった信念がないせいか、ある程度の危機を平気で乗り越えてしまいそうなタフさと不思議なまでの強運は備えている。それにしても読んでいて、ああやだ、こんな男は嫌だ、と嫌悪感を感じてしまう類いのキャラクターであることは間違いない。
「私は白黒つけがたい、善悪がわからない、そんな薄気味悪い中間地点にいるような人が、好きなんですね。最近、善悪だけでなく、物事をわかりやすくしようという傾向が文学でも強いと思いますが、私はそれに乗りたくないんです。人はそんなに簡単に分けることができないし、差異は常にある」
というのが、作者の言葉なので、これを読むとなるほどと思うが、この主人公が規制のキャラクターという概念から抜けているのも、かく言う作者が読者たちに向けて投じた一石のおかげなのかもしれない。
ちなみに本書の主人公は基本的には、唯腕村(いわんむら)である。大正時代にユートピアとして作り上げられた共同体としての開拓村である。そしてそこに住む個性の強い村人たちである。桐野作品の凄さはこれら村人の個性をしっかりと描き分けて造形してしまうところである。『東京島』という奇妙な場所をクリエイトした作品との共通項でもある。
そして不思議なことに、こんな内容の作品なのに、読んで面白い。リーダビリティが抜群なのである。これと言ったストーリーがない代わりに、大作ゆえに、時代のうねりのようなものが二世代三世代の村の歴史に生じていて、そこを出入りするキャラクターたちのバリエーションも桐野作品らしく個性豊かで興味深い。いわゆる「何が起こるかわからない」実験現場のような作品でもあるのだ。
さらに言えばタイトルの『ポリティコン』という言葉は作中に一度も登場しない。このあたりのアンチ・サービス精神も、作品を説明しないという桐野力学の一部なのだろう。ポリティコンとは、政治的動物のことであるらしい。本書は共同体の構築と運営を描く小さな建国神話であるようだ。読後感としては、村の規模が小さすぎるため、建国という言葉とは僕の中では全く結びつかない作品であったように思うが、ともかく。
タイトルもストーリーも含めてかように謎に満ちた作品なのだが、何となく面白く読まされてしまう。それぞれの人間の個性も、彼らの間に働く物語性と、対抗する力学のようなものも、ギリシャ喜劇でも観ているかのようで何となく親和性を覚えつつ、キャラクターの一部は愛すべきで、一部は苦手と感じてしまう。まるで読者の生きる現実世界の鏡面のような物語世界を、不思議がるのも、面白がるのも、投げ出すのも自由、といわんばかりの謎めいていて、人を食ったような大作。
桐野作品の中では異常に長い小説である。著者が五年の歳月を費やして書いた作品だと言う。人間の多様さ、罪深さ、たくましさ、愛と性、貧富、生きる方途、その他、すべてを凝縮して描き切る桐野夏生という極めて個性的な作家の、記念碑的作品であることは間違いない。
それにしても主人公の人間性の悪さが鼻について仕方がなかった。第二部が、不幸な女性マヤの側面から描かれるようになって、だいぶ心が安らいだ。彼女が如何に不幸であれ、その逞しさは伝わってくるせいかもしれない。しかし、全体を通して、東一への憎悪をエネルギーに変えて読めてしまう不思議作品であるのかもしれない。奇妙だ。こんな作品はどこにもない。 -
下巻になってもまだ東一の話で飽き飽きしてて、、やっとマヤの話になり、そこからは一気に読めた。
ラストはなんだかなーという感じ。
今までのはなんだったんだって、ドッと疲れがでました。
まぁでも桐野サンらしい。 -
上下巻でグングンとハイペースで読ませていただきました。
面白い。
下巻になり、ちょっと展開が飛ばしすぎじゃ~ん
という要素があったのと
黒いところが共感できないところがあって
う~んも
あったんですけど
結果としては、楽しかったっす。
田舎生活?独裁的村の運営?
ユートピア
集団生活、群集での生活、運営の様相が描写されている
ラストは、まずまずの落としどころで
フィニッシュ。
軽いタッチで
読んだら面白いと思います!! -
上巻は東一の葛藤や村内の理屈っぽい人間関係などが多くてなんとなく読み進まなかった。下巻は展開が早く、引き込まれて読んだ。
唯腕村に似た「新しき村」は今でも聞くことあり、「どんな場所なのだろう」と思っていたので、この小説を読んでその思想や時代の背景がわかったように思う。唯腕村という理想郷を立ち上げたのはいいけど、次の世代が直面する問題がとても興味深く描かれている。囲われた村だけでなく、身近な世間も同様の問題が起きているようにおもう。また、あんなに苦しめられた理想郷に若者達はまた残ろうとする。どういう意味が込められているのだろう。 -
面白かった。
ユートピアでの人間関係と、村を私物化して追われる東一の何故か目が離せない人間性。 -
2021.01.12 図書館
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父親の葬儀で、半ば強引に理事長になった東一は、そのやり方に反感を抱かれて村が二分する事態に。
また、村の事業を大きくして収入を得て村を建て直そうとするが、うまくいかない。
危ない橋も渡る。
マヤとの関係も上手くいかなくなり、そこからあっという間の年月が経過する。
一時期はユートピアと言われた唯腕村だったが、果たしてそれをまた取り戻せるのか。
この唯腕村は小さな国であり、様々なことを彷彿とさせる。
唯腕村によって運命を大きく変えられる東一とマヤ。
今の日本が抱える過疎と高齢化問題、移民。
ただの小説の一幕とは簡単には言えない問題が多々含まれていて、読みごたえあり。
2020.1.11 -
下巻はマヤを中心に描かれていきます。
農業ビジネスマンとして成功を収めた東一、
唯腕村を出てからホステスなどをしながら生きてきたマヤ。
二人が10年ぶりに再開し、
最後にお互いが求めたものは…。
著者プロフィール
桐野夏生の作品





