- 本 ・本
- / ISBN・EAN: 9784163404202
作品紹介・あらすじ
これは冒険小説? それとも美術界内幕暴露? 十字架をめぐる冒険。世界の美術界の知られざる内幕、美に憑かれた青年の野心と情熱。この本を読むとつぶやきたくなる「いつの日か、必ず実物を見てやる」と。
感想・レビュー・書評
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<「ダヴィンチ•コード」の源流>
愛読書中の愛読書。
美術の面白さ•深さ、美術界の魑魅魍魎さ、中世美術の魅力、を余すことなく伝えてくれる傑作ドキュメンタリー。
何故、文庫化されて文春文庫のラインナップに加わらないのか不思議だ。
偶々、アメリカ駐在員となり、この十字架を見るために何度もクロイスターズに通った。
このクロスは魔力を持つかのように人を誘う。
最初はマンハッタンのメトロポリタン美術館でこのクロスを探し回ったが、無かった。
美術館の館員に、この秘宝が収められているのは、ミッドタウンのメトロポリタン美術館にはないこと、陳列されているのは、メトロポリタン美術館の分室、中世美術館専門のクロイスターズであることを教えられた。
場所は、マンハッタン島とニュージャージーを繋ぐ、ジョージ•ワシントン•ブリッジのそば。
マンハッタンにあるメトロポリタン美術館から行くには、バスで北上する必要がある。
バスは、当時、<危険なため立ち入り注意>と脅されていたハーレムを突っ切って行った。
興味津々で、ドキドキしながら、「もう一つのニューヨーク」を観察した。
クロイスターズは、ハドソン川沿い、ロックフェラーの所有していた土地にあった。
そこは森閑としていて、マンハッタンの一角にいるとはとても思えない。
大富豪ロックフェラーは景観を維持するために、ハドソン川の川向こうの土地も所有しているため、クロイスターズから見る川向こうは、開発もされず、鬱蒼とした緑の森が維持されている。
件の十字架は、クロイスターズの秘宝館に鎮座していた。
高さ50cm、人の背骨のようにかすかに湾曲したセイウチの牙を使った十字架で、見事なロマネスク時代の彫り物が施されたクロスだ。
ガラスのケースに収められているので、四方から存分に観察することが出来る。
溜め息が出るほど美しい。
何時間見ても見飽きない。
正に至福の時、福眼の時だ。
著者のホーヴィングがハードボイルドのような冒険の末に手に入れた超高価なクロスであるため、巷では、<ホーヴィングのクロス>と渾名(揶揄?)されている。
著者のホーヴィングは、35歳の若さでメトロポリタンの館長に就任した超やり手だ。
停滞していたメトロポリタン美術館を活気あふれる人気美術館に変貌させた立役者だが、善意で寄付してくれた美術品を容赦なく売り払い、その金を元手に、もっと価値の高い(集客力のある)美術品を買うと言うことを平気で行なったため、毀誉褒貶の激しい人物でもある。
突然、ヨーロッパに出現したセイウチの牙で出来た驚くべき中世イングランドの十字架を巡って、大英博物館、クリーブランド美術館、そしてメトロポリタンが丁々発止の争奪戦を演じる。
その十字架にはどれだけの価値があるのか?
その費用を賄う資金を調達出来るのか?
果たして十字架は本物なのか?
本物だとしたら何故長い間世間に知られることがなかったのか?
いかがわしい曰くがあるのではないか?
十字架に彫られた彫刻が示すのはユダヤ人に対する呪詛なのではないか?
そんな危険な美術品を入手しても良いのか?
十字架に対する謎解き共に、ライバル美術館の動きを読んで、ハラハラドキドキの美術ドラマが展開する。
ストーリーを知った上でこのクロスを見ると、日がな一日見ていても飽きることがない。
クロイスターズとは回廊の意味。
フランスの古い修道院の回廊の一部を持ち込んで、建物に組み込んだことから、クロイスターズと呼ばれるようになったものだ。
有名な一角獣のタペストリーもあり、中世美術を堪能するには最適の美術館だ。
庭には一角獣のタペストリーに描かれた草花が忠実に再現されている。
建物と庭とハドソン川を眺めるだけでも価値はある。
ニューヨークに行く機会があれば、ぜひクロイスターズ探訪も。
本書があったからこそ、ダン•ブラウンは「ダヴィンチ•コード」を生み出すことが出来、原田マハは「楽園のカンヴァス」を誕生させることが出来た、と勝手に思っている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ノンフィクションに分類しましたが、解説によると多少脚色されているらしいです。
トマス・ホーヴィングの作品





