- 本 ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163435008
感想・レビュー・書評
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2022年にNHKでこの本の著者、大島さん一家のことを撮った番組を見た。番組で出てくるのは2022年、75才の大島さんと、2010年の63才の大島さん。2022年には温暖化でアザラシ漁にも影響が出ている様が映っていた。
それでこの自伝本だ。テレビでは好々爺といった風貌の大島さんだったが、ここでは本の表紙にもあるように、精悍で生活力のある極地の猟師である。1947年、東京は東久留米で生まれた大島育雄さんが、いかにしてグリーンランドの最北の村、シオラパルクで猟師になったのか、いわば大島育雄青春記、といった面持ちだ。文章もうまくて、とにかくおもしろい。出版は1989年。その当時は雪も獲物も豊富だった様が、2022年の映像と比べて、とても印象的だ。
読み終わると、極北の氷雪に囲まれた大島さんの世界に入り込んでいた。優しい。これは大島さんの性格なのだろうが、自然体。本は1972年11月、グリーンランドに着き、極地探検を目指して犬橇練習中の、あの植村直己さんの出迎えを受けるところから始まる。そしてシオラパルクで二人で小屋を借り、橇や漁などエスキモーの生活の術を学ぶのだ。まずは生肉の洗礼、そして排便方法の洗礼、しかしそれもすぐに受け入れる。
1年近く過ごすと、本来の目的だった、隣のエルズミア島の山遠征の調査と準備よりも、シオラパルクで体験したエスキモーの生活に強く惹き付けられていた。その日暮らしではあるが、自分の手でとった獲物を主食とし、衣類とする。生活の機構が単純で、自分の働きがそのまま生活に直結する。良くも悪くも自分が生活の主人公。電気もなく、娯楽も少ないが、それを超える狩猟の興奮がある。また狩猟を中心とした豊かな文化がある。単純で、しかも豊富な生活。もっと、もっとあそこで暮らしてみたい。
・・というわけでシオラパルクの人となる。北極一番のりをしたピアリーの孫が近くの村に住んでいる、とかいろいろな住民の生活、そして奥さんとのなれそめ、などなど。そしてアザラシ、セイウチ、ウサギ、ホッキョクギツネ、アッパリアスという鳥、イッカク、白イルカ、トナカイなど狩の様子や、古老に聞く伝説や、「初日の出の会」、犬橇レースなど村の行事なども記してある。1978年あたりに4才の長女と1歳の長男と妻を伴い日本に里帰り。妻が日本の喧騒に神経衰弱にでもなったらと心配だったが、なんと池袋や新宿では興味が尽きず、逆に大島氏がつきそいで疲れてしまったとあった。
執筆時にはシオラパルク生活16年目、ということで妻と子供五人、獲物とりもようやく一人前になって、獲物も豊富な様子で、もしかしたら一番油の乗っている時期だったんじゃないかという気がした。そして一年に一度、日本の実家から醤油や本などの入った茶箱が届く。ああ、なんて幸せなのだろう。
執筆数年後には小さな発電所もでき、いよいよ電気のある生活になる予定だ、とある。そしてスマホのある2022年の映像。息子のヒロシさんは45才、孫のイサム君は21才。もともと30から50人くらいの村だったが、漁師は今4人でイサム君はそのうちの一人だ、というナレーション。無人になった別な村の映像もあり、この先どうなるのか。イサム君の未来は当然ながら大島さんとは時代が違う。・・この本は、氷も雪も生き物もたくさんいた、電気はなかったけど、豊かな時代のなつかしいアルバムのようでもある。
表紙は長男のヒロシと映る大島氏。日本人もたまにくるとあり、和泉雅子さんもきて、この本の写真は和泉雅子さん撮影とある。
1989.8.15第1刷 図書館
検索するといくつか出てきた。
2025.1.28-2.2 札幌極地研究所 展示「大島育雄写真展~1973年のグリーンランド、冒険家植村直己との生活~」
https://www.nipr.ac.jp/arcs2/info/2025-01-17-2/
2006.5.29 朝日新聞デジタル
薄氷の狩猟生活 大島育雄さん、移住30年…
http://www.asahi.com/special/NorthPole/TKY200606300260.html?msockid=0d010b3c2418651c1f58183325f26497
2011.8.28 NHKスペシャル 日本人イヌイット 北極圏に生きる
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/7QP229XNNZ/
2012.7.28 朝日新聞デジタル 最北の村、日本人猟師の40年〈グリーンランド取材記〉 中山由美記者
http://www.asahi.com/special/greenland/intro/TKY201207280324.html?msockid=0d010b3c2418651c1f58183325f26497
2012.7-9 朝日新聞<グリーンランド取材記>中山由美記者の記事一覧
http://www.asahi.com/special/greenland/?msockid=0d010b3c2418651c1f58183325f26497
2015.7.7 日本極地研究振興会メルマガ2号 シリーズ「極地からのメッセージ」第2回 朝日新聞特別報道部記者 中山由美
https://kyokuchi.or.jp/%e7%ac%ac2%e5%9b%9e%e3%80%80%e5%9c%b0%e7%90%83%e6%9c%80%e5%8c%97%e3%81%ae%e7%8a%ac%e3%81%9e%e3%82%8a%e7%8c%9f%e3%81%ab%e5%90%8c%e8%a1%8c%e3%81%97%e3%81%a6
2015.11.1(68才) アエラ2015年10月26日号より抜粋
エスキモーになった日本人 最後の猟に同行
https://dot.asahi.com/articles/-/122148?page=1
中山由美X 「岳人」2017.1月号に大島育雄さんをまとめる
https://x.com/YumiPolar/status/812535252354670593
2022.7.13 『ほのぼのマイタウン』
https://blog.goo.ne.jp/honobono-mytown/e/84f46423c86c312f61f880c6a248c9d0
2008年11月末に帰国した時のことが載っている。
1972~73年に記録された北グリーンランドイヌイットの暮らし-野外民族博物館リトルワールド大島育雄コレクション-(雪氷研究大会(2022.10.1-10.5・札幌)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsir/2022/0/2022_63/_article/-char/ja
2022.11.22 いいね!Hokudaui 犬なくして研究できず。極夜の異世界シオラパルク
https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/article/27504
北大の研究。大島さんは出てこないが、雪のシオラパルクの遠景が写る。
2022.12.12 北極環境統合情報WEB北極海氷情報室
グリーンランド・カナック沿岸での現地調査
※シオラパルクでは8.23にワークショップが開催され、大島育雄氏が通訳となった。写真にも写っている。
https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2022greenland-coast/
2022.12.18 制作会社テレビマンユニオン NHKBS特集 極北に生きる親子三代 イヌイットの日本人家族
https://www.tvu.co.jp/program/202212_Inuit/?fbclid=IwAR1S-PlDARTcnON_dUREGR8P-Wcr6j2-rHBuvQPg4xVF_wSHy1WRxMff0M0
2022.12.25 ハテナブログ BS特集視聴記
https://mugibatake40ro.hatenablog.com/entry/2022/12/25/171233
2023.7.26 テレビ朝日
【北極ノート】いざ世界最北の先住民集落「シオラパルク」へ!
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000308926.html
2023.7.27 テレビ朝日
“北極移住50年”日本人「もろに影響」グリーンランド“最北の村”に異変?北極ノート
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000309201.html
2023.8.3 テレビ朝日
「猟に出られない」氷に“異変” 北極で何が?温帯生息の貝も増加
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000310080.html
2023.7-8 テレビ朝日 シオラパルク取材まとめ
https://www.tv-asahi.co.jp/search/?keyword=%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%AF&category=news&attr=
2023.12.25 朝日新聞
北極に消えた犬ぞり探検家・山崎哲秀さん 極地観測に尽力、志半ばで(山崎さんは毎冬シオラパルクに滞在した)
https://www.asahi.com/articles/ASRDQ6X8YRDGOXIE002.html詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シオラパルクにすむ極地エスキモーについてとても良くわかる、良書
プラット=互いの家を訪問し合い情報交換する
高度に発達した狩猟文化
酷寒にいきるための様々な知恵と工夫
何から何まで独力でこなしてしまうたくましさ
独特の個人主義
=わずかな獲物に大勢が群がると共倒れになる
=少人数の方が小回りがきく
エスキモーの漁は「観察力」と「演技力」
極地エスキモー(シオラパルク)=エルズミア島を経て移住してきた、西グリーンランドエスキモー、東部エスキモーでは歴史と文化がかなり違う
厳寒の中で。
汗をかいてはいけない
汗をかいてしまったら暑くても通気性の良い服を着て徐々に汗を引かせるか乾いた服に着替える
汗をかいて薄着でいると体温を奪われ危険
犬の餌は猟の方法や時間によって調整する、大島氏は10年目でようやく感じがつかめるようになった
10/23最後の太陽[約4ヶ月太陽無し]2/27太陽が戻った
キツネ猟;皮はなめすと保温力が落ちる(日本のように高温多湿の所はなめさないとバクテリアやカビにやられる)、毛皮1枚2700円手間の割の商売に合わない -
エスキモー(イヌイット)して生きる大島さんの本。
なぜエスキモーになったのか、狩りの仕方、工業化した文明下の生活との違い。
自分でなんでもやる生活の苦労、楽しさが伝わってくる。
このような順応性のある人が日本人の中には時々いる。
欧米人や中国人では決してこうならない。
それが不思議。 -
エスキモーとしてグリーンランドのシオラパルクに居着いた筆者の自伝。
成す仕事のなにもかもが、自分の生活に直接影響する、原始に近い生活に憧れる。