田中清玄自伝

  • 文藝春秋 (1993年1月1日発売)
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  • 本 ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163475509

感想・レビュー・書評

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  • 長かった夏休みが終わり、あーあ、明日からまた仕事かー、と思って。
    眠れない夜に、枕もとのデスクランプでイッキに読んだ。

    もとは共産主義者だったけど獄中で転向して、戦後は、政財界の裏側でコソコソうごめいてたヌエみたいな輩だよね。顔はサル、体はタヌキ、手足はトラ、尻尾はヘビ、みたいなさ。

    とにかく、この人は、江戸時代から続く身分制度にひどくこだわってて、自分の出自がどうで、祖先が何藩の出身で、だから、何藩のコイツとは対立してるとか、いったい何時代に生きてる人間なのか?時代錯誤がすごい。

    ここに書いてある通り、スターリンのダメさを早くから見抜いていたんだとしたら、正しい判断だった。当時は、鉄のカーテンの向こうは見えなかったわけだから。

    多方面に人脈を張り巡らせて、60年安保闘争当時の全学連に活動資金を流したり。
    唐牛健太郎は全学連委員長を退いた後、田中清玄の経営する丸和産業に嘱託の身分で就職してた。その話は出てこないけど。
    この時、たしか、西部邁も、田中清玄のところへ来るように誘われたけど、行かなかった、というのを、どこかで読んだことがある。

    田中清玄は、山口組の田岡組長とも懇意にしてたし、反共団体モンペルラン・ソサイエティーを通じてハイエクとも懇意にしていた。
    なんでエコノミストでもないこの人が、偉そうにハイエクと同じテーブルに座ってるのかが不思議だったんだけど。カメレオンみたいに変身しながら、色んな場面に現れるんだよね。

    反共団体といえば、勝共連合だけど、田中清玄と統一教会の文鮮明は、何らかのコネクションはあったのかな?
    その話は出てこないけど。
    勝共連合とか文鮮明のほうは、もっぱら、岸信介とか安倍とか児玉との繋がりが強かったから、田中は、それほどでもなかったのか?

    岸信介と、CIAのエージェントで黒幕だった児玉誉士夫が送り込んだ刺客から銃弾を3発打ち込まれて死にそうになってる。
    岸信介を嫌ってるところは、良い判断だね。

    それから、モンペルラン・ソサイエティーの会議で、ユダヤ人グループが「自由を守るのはユダヤ人だ」みたいな垂れ幕を掲げてるのを見て、怒って、その場から立ち去った、みたいな記述があった。
    モンペルラン・ソサイエティーにフリードマンみたいなユダヤ系の学者が入ってきて、その影響力が大きくなってきたことを、不愉快に思った、みたいな記述は面白い。
    彼は決してユダヤ人を差別してるわけではないんだけど、ハイエクは尊敬してるのにフリードマンは嫌ってる、みたいな視点は、オレと同じじゃないか。

    靖国神社にお参りしたときに、数珠を持って拝もうとしたら、宮司に叱られて、それに激怒して、宮司を怒鳴りつける場面には笑った。ここでも、自分の家柄がどうだとか、自分の出自から、靖国神社を軽んじる思考回路が説明されてて面白い。
    「靖国公式参拝なんて、とんでもない」という考え方はとても良いね。
    本物の右翼だと自称してる清玄が、こういうことを言うのは実に正しい。

    三島由紀夫が胴衣を着たまま自宅を訪問したのを見て、失礼な奴だとか怒ってるのも笑えるし、赤尾敏をぶん殴ったエピソードも笑った。
    野村秋介を怒るところも。

    おもろいオッサンだよね。
    児玉誉士夫みたいなフィクサーと比べると、やっぱり田中清玄はインテリでダンディだったってことかな。

    でも、自分や他人の家柄とか出自にこだわりすぎ。
    田中角栄を見下したりさ。そういう所は頭が古すぎるんだよ。
    もう、そういう時代じゃないんだよ。
    江戸時代はとっくの昔に終わったんだ。

    オレは、田中角栄がやろうとして遂に叶わなかった、日本をアメリカの属国状態から独立させて、独自外交を展開しようとした理念は、愛国者として、正しかったと思っているからね。角栄こそ愛国者だ。

  • 大山倍達を庇護したと言う田中清玄の事を知りたくて、図書館から借りました。
    共産党から転向して右翼になった理由が、最も肺腑に刺さった。以下引用
    「一人の日本人としての私に共産主義、マルクス主義を受けつけさせないものは、つまるところ私が日本民族の一人であり日本民族のまさに中核には天皇制があるということです。
    ニーチェにもゲーテにもカントにもマルクスにも満足できないのは、この世のあらゆる物は神であり、そのようにして自然界は存在しているという汎神論の世界に自分は生きているからだということです。(中略)
    八百万の神といいますね。この世に存在するあらゆるものが神だと言う信仰が自分の血肉の中にまで入り込んでいて引き剥がすことができないと、そうしてその祭主が皇室でありわが民族の社会形成と国家形成の根底をなしているということに私は獄中において思い至ったのです。考えに考えて、考え抜いたあげくの結論です。」

  • 戦前左翼、戦中転向、そして天皇主義者となり戦後の復興、石油フィクサーとして駆け抜けた会津藩家老の血を引く男のインタビュー自伝。
    先の大戦に対する考え方についての人物評はまた違った一面があり、見方考え方に幅を持たせてくれるものだ。
    若かりしころの共産党時代はいわば幕末の志士的行動の類型に思われる。人格的な成長とともに武家の血筋からくるきれいな態度が国際的な人脈につながり、文化を超えた交友を暖めることができたのだろう。

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