巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀

  • 文藝春秋 (1994年1月1日発売)
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本 ・本 (700ページ) / ISBN・EAN: 9784163494609

感想・レビュー・書評

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  • 一カ月余りかけて漸く読み終わった。ここまでディテールにこだわって書き上げたのは恐れ入る。

  • 伝記というよりもドキュメンタリー。

  •  佐野眞一という書き手は、私にとっては最大限に敬意を払うべき人であり、読み出す前には深呼吸が必要なほど濃密な空間を提供してくれる稀代の書き手であると思う。縦令、橋下元知事への不適切な讒言の事案を起こした張本人だとしても。
     私は既に『カリスマ-中内功とダイエーの「戦後」』、『あぶく銭師たちよ!-昭和虚人伝』、『日本のゴミ-豊かさの中でモノたちは』、『ニッポン発情狂時代-性の王国』、『業界紙諸君!』、『凡宰伝』、『人を覗にいく』は読んだ。全てが濃密であった。特に『人を覗にいく』は、一篇一篇は短いものの、その読後感は濃密で、理由の無い徒労感のようなものをいつも背負い込んでしまう。
     だから、今回古本屋で『巨怪伝(単行本)』を見つけた時には、買おうか買うまいか、少し悩んだ。価格がこなれていた事が、その躊躇いを軽いものにしてくれたが、それが必ずしも筆価をも軽くするものではない事は言うまでも無い。
     結果的には読了するのに約1週間かかってしまった。それは、大部である事だけではなく、「読めない」のだ。
     本が単行本故に重たいとか、そういう事ではない。ともかく濃密なのだ。読了後に、あとがきや参考資料の項を見て驚いた。彼は9年も執筆にかけていたのだ。そして、その参考図書の莫大な量をや!
     内容についてはあえてここでは取り上げないが、極めて真っ当で、しかも濃密なノンフィクションがここにある。いや、もうノンフィクションのレベルではなく、歴史を語るが如きすさまじさであった。
     こんな書き手が居る事に、改めて戦慄すると共に、このような本が最近文庫本になった事を素直に喜びたい。
     矛盾するようだが、読後感は「やるせない」気分である。それは、本が「やるせない」のではなく、その濃密な中身にどっぷり浸かってしまったが故に「やるせない」のだ。読売というグループは、こんなに恐ろしい人物が造り上げたのか・・・。

  • 昭和の怪人・黒幕・傑物伝をいくつか読んできたけど、正力松太郎伝も一読しておきたかった。プロ野球の父、テレビ放送の父、原子力発電の父と称賛される一方で、比類なき独裁者として名高い。ベーブ・ルース率いる大リーグを招聘し、巨人軍を発足させ、天覧試合を実現させる。読売新聞ではイノベーションの連発で部数を増やし、日本初のテレビ放送予備免許を得て日テレを開局。ここでも後楽園球場の独占放映、力道山を呼び水にプロレス放映などで新たな大衆娯楽を提供し、街頭放送で視聴者を増やしてスポンサーを確保する。素晴らしい才能ではあるが、その実現に向け果てしない努力で支えた有能な影武者たちを冷酷に斬り捨てて手柄を独り占め。警視庁懲戒免職、A級戦犯で巣鴨収容、暴漢に脛部を深々と斬られても復活する。一つひとつの裏事情を知るに、まさに蓋棺時定の巨怪像が浮き上がる。

  • 学生時代に「正力松太郎杯」なる試合で名前だけ知っていた、読売新聞元社長・正力松太郎の伝記です。「プロ野球の父」、「テレビの父」、「原子力の父」など、様々なお父さんでもある。しかし、なんて野心たっぷりで唯我独尊の人間なんだろう。まさに怪物。実に人生を楽しんでそう。とても尊敬はできないけど周りの人々を引きつける強力な磁力がある人間。こういう人間にはなれそうにないし嫌いではるが、見習いたい部分も多い。伝記を読むっていうのは人生のガイドブックだとしみじみ思う。若いときにもっと読んでおくべきだった。

    本書は彼の一生を通して,明治~大正~昭和までの日本の歴史と彼に関わる多くの人々(影武者)の人生を生々しく辿ることができる大書。700ページぐらいあって、しかも小さい活字で2段組。長い。よくこれだけ詳しく調べたもんだ。さすが佐野眞一。膨大な文献から1人の人生とそれに関わる人々の織りなすドラマが浮かび上がり,下手な歴史の解説書を読むよりもよっぽど近代日本の歴史が身近なものとして感じられる.

    そして、あとがきに驚くべきことが書いてあるのを見つけた。東日本大震災を予言したかのような文章だ。大正年間の日本(第1次大戦後の”一等国”の成金ブームに浮かれ、ワシントン軍縮での和平ムード)と、いまの日本(本書は平成6年出版、経済大国日本と冷戦構造終焉)との驚くべき酷似を指摘し、関東大震災(1923年、大正12年)クラスの大地震が近々きっとくるに違いない、と述べている。少し遅れたけど、確かに東日本大震災が起きた。歴史は繰り返す・・・か。

  • 越中強盗、加賀こじき、越前詐欺
     富山の人はすべてに抜け目なくたちまわる。よくいえばバイタリティーに富んでいる。これにひきかえ加賀はおっとりして消極的、越前は人を平然とだますほどこすっからい。
    後藤新平
     人のお世話にならぬよう。人のお世話をするように。そして報いを求めぬよう

    野球、テレビ、原子力

    正力の選挙運動に、巨人の選手(川上、長島、王)等かりだされる

    務台光雄 柴田利秀

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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