旅をする木

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163505206

作品紹介・あらすじ

アラスカの広さと静けさ。そのなかで天と地と人が織りなす物語を、暖かく語りかけてくるエッセイ群。

感想・レビュー・書評

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  • 「人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。」

    本は、見つけて読もうと思った時が私にとって読むべき時なのだと思うようにしている。
    この本もあの本ももっと前に読んでおけば良かったと思い始めたらキリがないから。
    しかし、今作は久しぶりに「十代で読んでおけばよかった」と思ってしまった。
    この作品を十代で読んでも海外に飛び出したりはしなかっただろうし、その前に私は今の人生を変えたいわけでもない。
    ただ、今作をあの頃に読んでいたら、少しは呼吸が楽になったように思うのだ。
    強さと美しさを兼ね備えた文章。
    何度も読み返したい。

  • とにかく、星野道夫さんの人生は何もかもドラマチックなのだ。

    古本屋で見つけた写真集から村長に手紙を出して(半年後に返事が来て!)、とうとう現地に行ってしまう話も、アラスカ大学に半ばゴリ押しで入学した話も、パイロットや仲間たちとの絆も、すべて小説のようだ。

    また、「今、〇〇に来ています。」などという書き出しで始まるⅠ章のエッセーは、まるで個人的にもらった手紙みたいで嬉しくなってしまう。ムース、カリブー、トウヒ、アルパインツンドラなどアラスカの動物や自然の描写が素晴らしい。

    突然の事故のことを思うと、「野営の夜、何も恐れずに眠ることができたなら、それは何とつまらぬ自然なのだろう。」という一文に何とも言えない気持ちになった。

    今年、犬ぞりが一面、海のようなところをバシャバシャと駆けている衝撃的な映像が世界に流れた。記録的な高温で北極の氷が解けた結果だという。
    「千年後は無理かもしれないが、百年、二百年後の世界には責任があるのではないか」
    ありきたりな表現になってしまうが、四半世紀を超えて届くこのメッセージを、私たちは重く受け止めなければいけないと思った。

    図書館スタッフ(学園前):ノビコ

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    帝塚山大学図書館OPAC
    https://lib.tezukayama-u.ac.jp/opac/volume/561362

  • 旅をしてる最中に読んだら気持ちいいだろうなぁ。
    アラスカの透明感のある風景。
    あたたかい人と人との関わり。
    死が近くにあるから生がキラキラ輝いている。

  • 自分自身の存在のちっぽけさと、生きていることの尊さみたいなものを、考えさせられる本だった。
    アラスカの大自然、私も見てみたいなぁ。

  • 世界について、命について、人間と動物の関わりについて考える私は、まるで星野さんに語りかけられているようにこの本を読んだ。机の上ではわからないこと。頭ではなく心とからだで感じること。
    人に出会える本。すごいなあ。わくわくが静かに湧いてくる。
    「世界が明日終わりになろうとも、私は今日リンゴの木を植える」P194
    世界のなかに人の社会があるということ、もうひとつの時間、この感覚を大事にしていこう。私も世界を体感したい。

  •  先月鑑賞した没後20年の写真展の予習のつもりで図書館に予約を入れたがけっこう時間がかかった一冊。借りてくればサクっと読めるが…。なんだろう、どの章も、どの文章も涙ながらに読むところ多し!

     そもそも、雑誌「BRUTUS」などに引用された部分が、高校時代にアラスカの村へ手紙を送った話とか、アラスカへ渡る前後の話だったりしたので、本書は若かりし頃の星野道夫が読めるのかと思って借りてみたが、なんと晩年の文章だらけだ。 上梓されたのが、1995年8月、シベリアでその生涯を終える1年前ではないか!

    『アラスカ風のような物語』、BRUTSUやCoyoteなどの雑誌の特集記事、先の展覧会、そこで見た映像などの情報と相まってなのか、読んでいても感極まってしまった。

    一年に一度しか見れないカリブーの大移動の話では、

    「この世で何度めぐり合えるのか。その回数をかぞえるほど、人の一生の短さをしることにはないのかもしれません。 アラスカの秋は、自分にとって、そんな季節です。」

    と語る。 1993年の文章だ。そうなんだよ、あなたの人生はもう残り少ない…と思うと涙。

     “アラスカに暮らす” と題した章で、結婚してアラスカにずっと暮らしてゆこうと思い始めてからの心境の変化を語る。

    「それまでのアラスカの自然は、どこかで切符を買い、壮大な映画を見に来ていたような遠い自然だったのかもしれない。でも、今は少し違う。」

     そう思い始めて、あなたは何年生きたんだ!?とまた涙。

    “夜間飛行”で、相棒のドンと生還する話や、他のブッシュ・パイロットの死の話を語り、そのドンの奥さんが言った「あの人、次は自分だと思っているの・・・」という言葉が、“ぼくの頭から離れなかった”というが、次の順番が変わってしまう。 涙、涙、涙。。。。

    結婚、子供が生まれた話など、静かに歩み寄る運命を知ると、なんだかあらゆる文章が予言めいているというか、残り少ない貴重な時間に、思いのたけを残しておこうという無意識の筆運びを感じ取れるようで、いたたまれなくなるほどだった。

     そのほか、悠久の時の流れ、新しい旅へのあこがれ、10代の頃に亡くした親友の想い出、運命を変えた写真集の作者との出会い、素敵すぎる。ただ、それだけしか言えない。

    この本に10代、20代の頃に出会っていたら!?とさえ思えるほどの内容だった。星野道夫は自分にとってのジョン・モーブリイになり得たかもしれない。
    いや、60を超えてから日本語の勉強を始めたビルの話もあるじゃないか!

    「世界が明日終わりになろうとも、私は今日リンゴの木を植える・・・・ビルの存在は、人生を肯定してゆこうという意味をいつもぼくに問いかけてくる。 」

     なにをはじめるにも、もう遅いということはない。冒頭の「新しい旅」の中、星野は言う、

    「もう一度あの頃の自分に戻れないか、とも思ったのです。つまり、目の前からスーっとこれまでの地図が消え、磁石も羅針盤も見つからず、とにかく船だけは出さなければというあの頃の突き動かされるような熱い想いです。」
     
     星野の存在は、人生を肯定してゆこうという意味を自分に問いかけてくる・・・気がする。

  • 読み終わった後、爽やかな心地よい風が吹き抜けていったそんな感じがしました。行ったことはありませんが、アラスカを目の前にみているようで、日常を忘れてしまいそうになります。

    啓発書のように、何かを教えようとするのではなく、さりげない優しい言葉の中に、ハッと気づかされることの多い、素敵な一冊ではないでしょうか。

  • 星野道夫のやさしい言葉遣いとやさしい写真は、なぜか読んでいて&見ていて心に突き刺さります。それは彼が、本当にやりたいことをやった生涯を送ったからこそ表現できる重みがあるからでしょう。思わず線を引いてしまう名文が溢れています。

    本書は僕が初めて読んだ星野道夫の本であり、収録されている「もうひとつの時間」と「十六歳のとき」は、全作品の中でも僕が最も好きな文章です。今後も、事あるごとに常に読み返すことでしょう。

  • この本を手に取ったのは彼の死後でボクが40代の頃だったと記憶するが、読むと、なぜか心が10代後半~20代前半に戻ってしまうんだよな。

    そして、彼の人柄がよくわかる。
    何度も手に取って読んでしまう本の一つ。

  • 【推薦者】
    スポーツプロモーション・オフィス職員 長坂 実早紀

    【学生へのメッセージ】
    アラスカに移住した日本人写真家のエッセイです。新型ウイルスの影響による自粛生活を送るなかで、身近な自然を見直すきっかけを得た方も多いと思います。自然というスケールをとおして自分を見つめたときに変わる視点/人生観。著者の優しい語りから、その新しくてどこか懐かしい感覚を感じて、これからの将来を考えるうえでほんの少しでも助けとなれば嬉しいです。

    ▼配架・貸出状況
    https://opac.nittai.ac.jp/carinopaclink.htm?OAL=SB00531555

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著者プロフィール

写真家・探検家

「2021年 『星野道夫 約束の川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

星野道夫の作品

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