税の攻防

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163539904

感想・レビュー・書評

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  • 消費税が当たり前に存在していなかった時代の”空気”を感じられる良書。
    消費税が当たり前となっている現在だからより一層良書になると思う。

    大蔵省を中心に、当時政策決定に関わってきた官僚や政治家への取材を基に当時の雰囲気が丁寧に書かれている。大型間接税導入を巡る狂想曲の舞台解説本と言った内容。

    消費税導入の舞台裏で活躍する小沢の害悪ぶり、
    「国家のために」を合言葉に新税導入に心血を注いできた官僚が、熱心になるあまりに視野狭窄を起こして、国のためになるかどうかを置き去りにしてひたすら消費税導入に向けて傾向して行く様、
    弁論に熱くなるあまりに口が軽くなる議員による失言との整合性を保てなくなり混乱する現場の苦悩、
    「平均的な所得の人には減税になるんですよ」とどや顔で有権者に説得に向かったものの、「わしらの大半はそんなにもろうてませんから」と反応されて、永田町から見える景色がすべてでないと心から実感させられた議員の心情、
    利益誘導にたけた政治家による狡猾なバラマキや骨抜き政策の結果理念と現実がかけ離れていく様、
    政権という果実を手にしたとたん手のひら返しが起き「公約」が軽んじられていく様、
    感情による反対は”利権”と”慣れ”によって薄れてしまう様

    といった事がとてもよく感じられて、そして政局にしか興味が持てない小沢の害悪っぷりが目立たないが際立ってたと改めて感じさせられる本だった。

    不満点としては、直間比率などと言った話を「必要なモノ」であることを前提にしているものの、「理論」については等閑なところ。必要と考える根本が曖昧なままなので、なぜ官僚達があれほど「国家の為」として熱心に消費税導入に心血を注いできたのかは全くわからない。
    財源が必要のはずなのに、消費税と引き換えに大型減税をして全体では変わらないようにしたり、
    税の公平性を高めるためのはずなのに、インボイス方式を導入せず免税点を設けて益税発生を推進するようになってたり、
    納税者意識を高めるために「外税方式」は譲れないとしながら、所得税の納税意識を高めることはする気が無かったりと、
    大型間接税の導入さえ行えたらこまけぇことは良いんだよとしか思ってなさそうな状況を官僚達はどう考えていたのかについては触れられていない。

    理論や理念や理想が利権や権力の前では簡単に泥にまみれてしまい、そしてそれを貫き通しても自己満足以上のものが得られない時代なんだと思わされるし、
    「高齢化対策のために必要」「税の公平性」などといったお題目を唱えているだけなのは今も昔も変わらないのだなと思うと、希望が持てる社会に必要なものは何なのか改めさせて考えさせられる。

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著者プロフィール

岸宣仁
1949年埼玉県生まれ。経済ジャーナリスト。東京外国語大学卒業。読売新聞経済部で大蔵省や日本銀行などを担当。財務省のパワハラ上司を相撲の番付風に並べた内部文書「恐竜番付」を発表したことで知られる。『税の攻防――大蔵官僚 四半世紀の戦争』『財務官僚の出世と人事』『同期の人脈研究』『キャリア官僚 採用・人事のからくり』『財務省の「ワル」』など著書多数。

「2023年 『事務次官という謎 霞が関の出世と人事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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