西暦535年の大噴火―人類滅亡の危機をどう切り抜けたか

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163558707

作品紹介・あらすじ

西暦535年、史上空前の火山大爆発が起こった。その後1年以上も太陽が暗くなり、洪水・干ばつ・ペストが全大陸を覆い、無数の人々がなくなった…全世界の専門家50人以上が協力、4年がかりで書きあげた「人類史の書き換えを迫る」問題作。

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  • 過去2千年の歴史の中で年輪測定法や氷床コアのサンプリングから535年から20年強の異常気象が際立っていることがわかっている。北半球各地ではこの時期の植物の生育状況は極めて悪く、南極からは酸性雪=硫酸の痕跡が見つかった。原因とされるのはスンダ海峡にある火山クラカトアの大噴火だ。1説によるとこの時の噴火のカルデラに海水が流れ込みスマトラ島とジャワ島がわかれたと言う。有史における爆発の規模としては1883年の噴火の方が規模が大きく、「クラカトアの大噴火」に詳しい記録がまとめられている。しかし歴史に与えた影響は人類全体が滅亡の危機に陥った7万4千年前のトバ湖の噴火に次ぐものだろう。

    この噴火の直接的、間接的な影響で6世紀後半から7世紀にかけて起こった出来事は数多い。東ローマ帝国は勢力を失いはじめ、イスラム教が誕生して爆発的に勢力をのばした。中央アジアではトルコ系の突厥がおこり、アヴァール族は西方へ追い出され東ローマ帝国に侵入する。東方では隋が中華世界を統一し、メキシコでは当時世界最大級の都市文明ティオティワカンが滅亡しナスカ文明も姿を消した。東南アジア各国でも政権の交代が起こり、西ヨーロッパ各国いくつかの母体がこの時期に生まれている。

    最初の波は東アフリカの大湖地方からソマリア、紅海をへてやってきたペストだった。正確な状況がわかっているわけではないが例えば大雨でネズミが大繁殖したあと、干ばつが起きるとエサを求めてネズミが移動する。ペストはエジプトの地中海岸に達した後、シリア、コンスタンティノープルから小アジアへと拡がり、アフリカ北岸を西進し、ギリシアからイタリア、フランスをへてスペイン、ブリタニアへと伝播した。後にはペルシァや中国にも伝わっている。歴史上もペストの蔓延が確認されたのは6−7世紀が初めてのことだ。ペストにより帝国全体の1/3がコンスタンティノープルでは人口の半数が亡くなったと推測されている。人口減は税収の減少をもたらし内乱も起こった。東ローマ帝国以外の地域でも各地で政治権力に空白が生まれそこに新興勢力が入り込んだ。

    草原にすむアヴァール族は干ばつの影響を受けやすかった。家畜としたウマは食べたタンパク質の25%しか消化せず残りは排泄する。トルコ系民族はウマだけに頼らなかったのでアヴァール族ほどのダメージを受けなかった。勢力争いに敗れたアヴァール族は東ヨーロッパに移りいくつかの民族を従え勢力を回復するに至った。東ローマ帝国は北のアヴァール族、東のペルシャから攻撃を受け弱体化していく。突厥からはさらにハザールが分離し中央アジアからウクライナにかけて巨大な帝国を築いた。あまり知られていないこの国はキリスト教とイスラム教の対立の中でユダヤ教を国教にした。これが結果としてイスラム教西進の防波堤となったのだ。現在世界中のユダヤ教徒14百万人のうち8割がこの東ヨーロッパを起源とするユダヤ教徒だ。一応失われた十支族の一つが元に戻ったと言うことになっているらしい。

    イスラム教の勃興は地理的にも時期的にも時宜を得ていた。ムハンマドの曾祖父アムルが530年代の飢饉でシリアから小麦を運んできて民衆に与えたことで一族は一躍名声を高めた。ユダヤ教徒とキリスト教とはともに7世紀はじめの東ローマ帝国の対ペルシャ戦を終末論的な意味合いで捉え帝国の滅亡が救世主の到来と世界の終焉を告げる出来事であると考えていた。「最後の審判」は近いと。アラビア世界は東ローマとペルシャの戦争で疲弊し政治的空白を生み出しており、コーランの中に「復活の日」という言葉が頻出するイスラム教はまさにアラビア半島の時代の雰囲気にぴったりだった。

    フランク族は荒廃した南部を捨て北部に本拠を構えたことが後にパリの誕生につながり、伝説のアーサー王の亡き後ケルト人はアングロサクソンに終われイギリスの原型が生まれた。東アジアの記載が歴史書のない南北アメリカの半分くらいしかないのが残念なところだ。たしかに隋は誕生したが535年の特殊性をうたうには似たようなことは繰り返している。そして仏教が勢力を拡げ日本に渡り、日本に中央集権の国家が初めて生まれたのもこの時だ。

  • 資料番号:010169274
    請求記号:209.4キ

  • 西暦535年に起ったあるイベントによって世界の各地で大きな変化が起りそれが古代から中世へと移行し、影響は現代まで色濃く残っている、というのをミステリっぽく書いた本。つまり邦題は凄いネタバレということに。6世紀を中心にした中央アジア・東欧・南欧・中南米の古代・中世史・文化がなかなか詳しく書いてあるのでそれだけでも楽しい。ただ結論ありきで書かれてる感じが強く有り、資料(史料として正当性を欠くと判断されているものも含まれる)から論を組み立てる際の根拠が基本作者の想像推論だったりする辺り読んでてもやもやする。

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