特捜検察の闇

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163574400

感想・レビュー・書評

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  • 本書は2001年5月発行のものなので、今から20年以上前のものだ。筆者の本書を書いた問題意識は、特に90年代以降、司法の世界が大きく変わってしまったということだ。もちろん、良い方向に変ったわけではなく(そうであれば、こういう題名にはならないだろう)、筆者から見ると、悪い方向に変ってしまったということだ。それを、筆者は本書の中でのいくつかの裁判例で示しているが、筆者の問題意識を示している部分を本書の中から引用すれば、下記のような部分がそれに当てはまる。
    【引用】
    ■この国の弁護士たちの主流は今、権力志向に取り憑かれている。(中略)かつて彼らは国家権力と対峙する在野法曹として自らを位置づけ、権力の横暴に苦しめられる人々の救済を使命としてきた。だが、(中略)その在野性をかなぐり捨て、公的な地位と影響力を(もしかしたら安定した収入も)得ようとする弁護士が目立ち始めた。
    ■いま法曹界で進行しているのは、この当事者主義の精神の空洞化だ。弁護士たちが自らの在野性をかなぐり捨て、不良債権回収の「国策」に吸い寄せられたり、捜査当局を利する「刑事弁護ガイドライン」の創設を言い出したりするように、検事たちもまた真実の追求という自らの職務を忘れて単なる国策の遂行者に成り果てようとしている。
    ■旧来型の冤罪に比べて90年代後半から目立ち始めた「新たな冤罪」は特別背任・強制執行妨害などの経済事件で発生し、新刑事訴訟法下で人権教育を受けてきた検事の手によって生み出されている。すでに述べたように彼らは、関係者の利害や思惑が複雑に交錯する経済行為の実態を知らず、きわめて表面的な捜査に終始する。(中略)そして何より強調しなければならないのは「新たな冤罪」が、真実の探求より、あらかじめ狙い定めた対象の摘発を優先する国策捜査から生まれていることである。
    ■(注:これらの証左として、筆者は有罪律が急激に上がっていることや、保釈率が急激に下がっていることに警鐘を鳴らしている)警察・検察の捜査能力が飛躍的に向上したためというより、裁判官たちが検察寄りの姿勢を強めた結果と見る方が正しいだろう。有罪率99.86パーセントは欧米諸国と比べても異常に高い数字である。
    ■現在の刑事司法が抱える最大の問題点は、憲法がうたいあげた人権擁護の理念が空洞化していることだ。必要なのは経済界にとって「使いがってのいい司法」ではない。そして自民党や法務省が目指すような治安維持を優先させた司法でもない。必要なのは憲法が「侵すことのできない永久の権利」とうたいあげた基本的人権と自由を徹底的に擁護する司法である。
    ■検事や弁護士や裁判官はそれぞれにきちんと独立し、お互いに批判し合い、相手の行き過ぎをチェックし合ってはじめて司法のシステムはうまく機能する。それを忘れて三者がなれ合い、国家の政策と一体化すれば、法の正義は失われてしまう。私がこの本で最も言いたかったのはそのことである。

    筆者は、作家の辺見庸氏の言葉を使って、その状況を一言で「今の日本は鵺(ぬえ)のような全体主義に覆われ始めている」とも述べている。鵺(ぬえ)は、日本の妖怪であるが、「つかみどころがなくて、正体のはっきりしない人物・物事」という意味もある。正体はよく分からないが、日本の司法・社会が変容しつつあることに対しての警告の書だ。
    こういったことは、司法とは関係が薄い我々(警察や検察や裁判や弁護士と日常接する機会はほとんどない)は実感として感じにくいことであるが、筆者が本書の中で使っていた、2つ目の裁判例(安田事件)等は、それを示す例として理解できた。最初に記した通り、本書は20年以上前の書籍だ。司法の現状が、その後、どのように変化しているのかというのは、とても気になる。
    とても面白い、優れたノンフィクション作品。

  • 住管機構が中坊の直接指揮のもとに詐欺的な債権回収を行っていた案件を暴露する。 圧巻はオウム麻原の主任弁護人である安田好弘弁護士が検察の「国策捜査」に嵌められて行く様子。中坊公平と検察のタッグが追い詰め、完全なでっちあげで安田弁護士を逮捕するが、公判で次々に“証拠”が裏返ってゆく。「検察とはこんな程度だったのか」との思いを新たにさせられる。
    筆者の魚住氏は「特捜検察」(岩波書店)など検察に好意的な本を書いているが本書では、検察に対する見方を一挙に180度反転させているのが面白い。

  • 今更ながら、そうやったんか。

  • 特捜検察 (岩波新書)とは正反対に検察の不正義をリアルに語っている。

  • 命題1.生まれてから死ぬまで、ずっと正義感を保ち続けるのは難しい。
    命題2.正義という後ろ盾があれば、情け容赦がなくなる。

    命題3.ヤメ検はその存在自体が矛盾にみちている。

    命題4.光が当たっているところでは、みんないい人でいようとする。


    最近よく耳にするようになった「国策捜査」という言葉はこの国の将来を考えるための重要なキーワードじゃないかと思います。

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著者プロフィール

魚住 昭(うおずみ・あきら)
1951年熊本県生まれ。一橋大学法学部卒業後、共同通信社入社。司法記者として、主に東京地検特捜部、リクルート事件の取材にあたる。在職中、大本営参謀・瀬島龍三を描いた『沈黙のファイル』(共同通信社社会部編、共同通信社、のち新潮文庫)を著す。1996年退職後、フリージャーナリストとして活躍。2004年、『野中広務 差別と権力』(講談社)により講談社ノンフィクション賞受賞。2014年より城山三郎賞選考委員。その他の著書に『特捜検察』(岩波書店)、『特捜検察の闇』(文藝春秋)、『渡邉恒雄 メディアと権力』(講談社)、『国家とメディア 事件の真相に迫る』(筑摩書房)、『官僚とメディア』(角川書店)などがある。

「2021年 『出版と権力 講談社と野間家の一一〇年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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