ベラ・チャスラフスカ 最も美しく

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 32
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163660202

作品紹介・あらすじ

美しき魂が胸に刺さる、渾身の力作!東京オリンピックから40年、女神が生きた歳月は、あまりに過酷だった。ソ連への屈従を拒み続ける彼女を待ち受けた運命は?なぜ、彼女はそのような生き方を選んだのか?コマネチ、クチンスカヤ、ホルキナ…歴代体操女王のその後は?一九六八年「プラハの春」弾圧で粛清。一九八九年「ビロード革命」による復活。そして一九九九年春著者は彼女を追ってプラハへ-ベラは、精神病院で小鳥のようにふるえていた。

感想・レビュー・書評

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  • チェコ出身で、東京・メキシコ五輪を連覇した女子体操のチャスラフスカと、女子体操史から見る社会主義国家とその崩壊という面白い切り口の本。これを読むまでは知らない選手でしたが、すさまじい生き様でした。東欧諸国の対西欧国観・ロシア観がよく分かるのです。

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    https://flying-bookjunkie.blogspot.jp/2018/04/blog-post_18.html

  • 東京・メキシコ五輪の活躍だけでなく、1968年のプラハの春の二千語宣言とその後の抵抗運動、1989年のビロード革命で闘士として強い印象を残しているベラについて、その少女期から説き起こし、彼女の強さの背景を探っています。確かに彼女は五輪チャンピオンとしてのプライドを持っての行動であったでしょうし、1960年代という私たちの抵抗の青年時代の一つの象徴であったということを痛感します。ベラと共に1989年に輝かしいバルコニーに並んだ作家ハヴェル、森の番人ドプチェク、元歌手マルタ・クビシュヴァ、アナウンサー・カウエア・モウチコワらチェコの人々。逆に戦士から脱落してしまったことにされてしまったザトペック。そして世界の女子体操選手たちへのインタビューから「ベラ」という人自身と彼女の同世代に生きた人たちの人生と現在の姿を示してくれます。懐かしい名前として、世界のアスリートたち、ラリサ・ラチニナ、ナタリア・クチンスカヤ、オルガ・コルブト、池田敬子、中村多仁子、松久ミユキ、そしてナディア・コマネチ、スベトラーナ・ホルキナ(この人は現代ですが)などの過去と現在の姿にも興味深いものがあります。しかし、ベラの離婚、長男による父親傷害致死事件、精神病入院という寂しい晩年は、いかに厳しい闘いの爪痕が影響しているか、と同情を禁じえません。救いはラチニナ、クチンスカヤたち「敵国」ソ連のライバルとして闘った人たちの暖かい視線でした。20世紀後半の東欧・ロシアの歴史を振り返ると共に、五輪で活躍した美しい妖精たちを想い出すことができ、楽しい本でした。

  • 思春期のころ「カッコーの巣の上で」を見て衝撃を受けた。
    不条理感に圧倒されて、それでも真に迫るものがあった。
    何故だろうかとずっと思っていたけども、その理由は遠く離れた今、この本を読んで氷解した。
    プラハの春とそれにまつわる国の混沌を経験していれば、この映画が出来たのも納得。
    東欧の政治と社会状況を知るには最適の本。

    ベラのように一本芯の通ったカッコいい人間になりたいと常々思っているけども。
    現実はかくも厳しい。。。

  • 本当はチャスラフスカさんをアテンドする前に読めればよかったのですが、時間がなく、今になってしまいました。
    あまり先入観も持ちたくなかったので、実際にお会いするまでその波乱の半生についてはうっすらと輪郭を知る程度にとどめておいたのでした。
    当然のことながら、私が10日間接したベラさんを念頭に置いて読んでいきました。

    いくつかのエピソードが載っています。

    1)「東京オリンピックのときのヘアスタイルは、豊かな金髪をいつも手間暇をかけてお洒落なおだんご髪にしていたのが印象的」とあります。

    このことについてはスポーツライターの増島みどりさんにも「聞いてみてー!」と言われていたので、直接、ベラさんに聞いてみました。
    「まさかとは思うけれども、ウイッグかなにかをつけていたの?」と。
    すると、「あの時代はボリュームがあるああいうヘアスタイルが流行っていたの。だから時間をかけてボリュームがあるように見せるテクニックを使って整えていたのよ」と。
    さすがに大きな試合のときはウイッグは無理。
    でも、試技会のようなときには、つけてみたことがあるというような口ぶりでしたよ。

    2)「メキシコオリンピックのときは、侵攻してきたソ連への抗議の意味を込めて、黒いレオタードだった」説。

    これはレセプションのときに、ご本人が否定していました。
    「よくそう言われるけれども、実はソ連の侵攻前から、レオタードの色は決まっていたの」ということです。

    3)メキシコオリンピックの表彰式のとき、ソ連の旗や選手にそっぽを向いていた。

    これは事実だったそうです。
    母国のことを考えるとき、とても素直な気持ちでソ連という国を受け止めることはできなかったと。


    東京オリンピックでのベラさん。
    そして、その後、チェコの政治事情に翻弄され、家族の問題でも傷つき病んでしまったベラさん。。。

    著者の後藤氏はベラさんの周辺の人物を徹底的に取材して、ベラさんの生き様・人物像を掘り下げ、浮かび上がらせています。
    白い妖精のコマネチさんにも。
    (滞在中、東京体育館でベラさんとコマネチさんは一瞬、鉢合わせしました。
    二人は軽くハグをして、二言三言言葉をかわしていました。)
    ただし驚くべきことに、この本の執筆にあたり、直接、ベラさんに会うことはかなわなかったとか。。。
    先日の10日間の滞在のときも、私の知る限り対面の予定は入っていなかったと思います。

    愛国心に熱く、時には頑固なほど自分の意思を貫くベラさん。
    平和な日本に生まれた私たちは、幸いなことにというべきか、「愛国心」について考える必要もありませんでした。

    アテンド中にも、ベラさんの意思の強さの一端を垣間見る瞬間はありました。
    でも大半の時間は、長く病んでいたことなどみじんも感じさせない、日本と日本人が大好きで、心から日本での滞在を楽しんでくれたチャーミングなベラさんだったのでした。

    後藤氏は、この作品を仕上げるのに、実に5年もの歳月をかけたそうです。
    すごいですね。
    私も本の執筆はしますが、奥行きの深いノンフィクション作品を書ける「ノンフィクション作家」になりたいという野望を持って、これからもがんばります。

  • まだ読んでませんが、大好きな後藤さんの作品なので休みができたらじっくり読む。

  • 後藤正治は時間とお金をかけた深い取材をする一流のノンフィクションライター。ですが、私とは肌が合いません。全体に上手すぎて印象に残るシーンがない&自分探しの旅になってしまう&けっこう剛腕。『牙』もそんな印象でした。あと体操への知識の浅さはどうにかならなかったかと。

    私にとっての女王はホルキナです。好きなのはザモロドチコワでしたが。

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著者プロフィール

1946年、京都市に生まれる。1972年、京都大学農学部を卒業。
ノンフィクション作家となり、医学、スポーツ、人物評伝などの分野で執筆を重ねる。
『空白の軌跡』(講談社文庫)で第四回潮ノンフィクション賞、『遠いリング』(岩波現代文庫)で第十二回講談社ノンフィクション賞、『リターンマッチ』(文春文庫)で第二十六回大宅壮一ノンフィクション賞、『清冽』(中央公論新社)で第十四回桑原武夫学芸賞、を受賞。

2016年、書き手として出発して以降、2010年までに刊行された主要作品のほとんどが収録されている「後藤正治ノンフィクション集(全10巻)」の刊行が完結。

他の著者に、『関西の新実力者たち』(ブレーンセンター.1990)、『刻まれたシーン』(ブレーンセンター.1995)、『秋の季節に』(ブレーンセンター.2003)、『節義のために』(ブレーンセンター.2012)、『探訪 名ノンフィクション』(中央公論新社.2013)、『天人 深代惇郎と新聞の時代』(講談社.2014)、『拗ね者たらん 本田靖春 人と作品』(講談社.2018)などがある。

「2021年 『拠るべなき時代に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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