心にナイフをしのばせて

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163683607

作品紹介・あらすじ

追跡!28年前の「酒鬼薔薇」事件。高1の息子を無残に殺された母は地獄を生き、犯人の同級生は弁護士として社会復帰していた。新大宅賞作家、執念のルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 何ともキツイ。キツ過ぎる。
    高校生の息子を同級生に殺された両親、兄を殺された妹のその後を追ったルポタージュ。

    物語の中で凄惨な事件を扱ったものを読んでもキツいと感じますが、でもどこかで『つくりもの』だからと、心で思っていて安心しています。
    ノンフィクションはそうはいかない。
    残された遺族の悲惨なその後。もう何も言えない。

    『私たちに此んな苦しみを背負わせ、あなたは平気で正義の味方のふりをして…』
    殺された男の子の母親が犯人へ宛てた手紙です。

    あぁ、もう本当に私は何も言えない。

  • 図書館で借りてきた本。

    簡単に書くとこの本は、'97年に起こった「神戸児童連続殺傷事件(酒鬼薔薇事件)」で少年犯罪が注目されるようになり、それがきっかけで'69年に起こった同級生による殺人事件(加害者、被害者とも高校に入学したばかり)についての今に至るまでを多くは被害者家族(少年の母、妹ら)に語らせたものである。

    そして加害少年は医療少年院に送られたあと、社会に出て、なんと弁護士になっている、という衝撃的な事実も明かされるのだが、わたしは先に結論を知っていたので、割と覚めた気持ちで読んだ。

    というか、確かに被害者家族のその後の生活はその加害少年によってめちゃくちゃにされた、というのはよく分かるし、殺された上にこれだけつらい中をよく生きてこられたなあ、とは思う。というか、こういう感想を持つことすら被害者遺族を苦しめるのではないかと思って正直書きづらい。

    ただ、、ここまで何冊も少年犯罪の本や、死刑の本を読んできてわたしが思うのは、この本はものすごく安易すぎるのだ。被害者家族は救われない、加害少年は謝る気すらなく、のうのうと生きている。「こんな不条理なことってあるか。加害少年に重罰化を」という感想は読んだほとんどの人が感じるに違いないし、著者もおそらくそのことを期待してこの本を書いたのだと思う。

    けど、それでいいのか?とも思うんだよね。。
    いろいろな本を読んできて思ったのは「第三者は被害者(遺族)の代弁をしてはいけない」ということ。それだけは確かだ。わたしは今のところ、加害に対しても被害に対しても「第三者」の立場しかなくて、安易に「被害者の気持ちを考えろ」などとは口が裂けても言えない。それだけ第三者と当事者の間は不連続なのだ。

    なのにこの本は、(あまり物事を考えない)第三者にとって「被害者はこんなにつらい思いをしている」という言葉を安易に発せさせる本だ。それはなぜかというと、著者がそういう風に仕向けているからだ。そして著者はこれで社会に対して警告を鳴らした、と思っているだろう。

    しかし、物事はそんなに単純じゃない。「少年法を重罰化しろ」「被害者遺族を救済せよ」ということは簡単だ。が、物事はそんなに簡単じゃない。もともと少年法は「保護主義」を主体として成り立っていて、少年法が数年前に改定されるまではずっとそういう認識だった。しかし一連の少年による殺人事件が起こり、少年法は一応改定された。が、内容は従来の「保護主義」に加え「重罰主義」が入り込んできて、とても複雑なものになってしまった。

    こうなった背景は「早く少年法を変えろ」という民意。それもほとんど何も考えていない、ただ「重罰化あるのみ」と思い込んでいる人たちの「民意」だ(もちろん、少年犯罪被害者遺族の声に応答している部分もあるが)。

    そういう安易な声を作るのは、このような本だ。

    今までいろいろな本をわたしは読んできた。しかし読めば読むほどなんと言っていいのか分からなくなるのだ。そして「安易な感情」は持ってはいけない、そのことを強く思うのだ。

    おそらく「少年犯罪もの」を読むのはこれで一旦終いだろうと思う。わたしももうそろそろ、今まで読んできたものを自分の中で熟成させ終わる時期だろう。

    なお、この事件が起こった場所やその後出てくる地名などが、わたしの出身地、それもわたしのモロ行動範囲にあったので「あそこの教会でそうだったんだ」とか「あれが起こった頃、この人たちも近くにいたんだ」と思うとすごく不思議な気持ちだった。尤もこの事件が起こったのは、わたしが生後1年くらいなので、もちろんその当時の記憶にはないし、その当時は違うところに住んでて、4年後くらいにその場に引っ越すことになるのだが。

  •  神戸連続児童殺傷事件を論じる際に度々引き合いに出される、高校生首切り殺人事件の後に、被害者が受けた心の傷に焦点を当てて執筆された本。

     インタビューの大半に答えて下さった妹さんは本当に辛い思いをしてこられたと思う。揺れ動く気持ちを汲みとってくれる大人が周りにもう少しいてくれたら、素行不良(といっても今の時代の視点から見ればそれほど悪いとも思えないが)になったりはしないだろう。
     他の方のレビューにもあるように、亡くなった息子と兄を失ったことで同じように傷ついている妹を比較したり、喫茶店の営業に夫と娘を半ば強引に付きあわせたり、息子の命日には友人が来てくれるのは当然だと暗に伝えてくる母親には少し苛立ちを覚えたが、これも加害者が被害者家族に遺した傷である事を考慮すれば仕方がなかったのではと思う。

     ところで、この事件を引き起こした少年Aは出所した後に弁護士になり地元の名士として活躍していたそうだが、この事件の事が明るみになってからはいろいろあって弁護士を廃業し連絡も取れなくなっているそうである(私はハードカバー版を読んだので、その後の事は分からなかった)。
     「少年Aの行方」の下りで「金さえ払えばいいんだろ」、という感情が伝わってきて大変憤りを覚えた自分は、不適切な言葉である事を理解しているが、少しばかり胸がスッとした。
     上で「金さえ払えばいいんだろ」と書いたが、その支払いすら満足に行わない彼は本当の意味で更生出来たのだろうか(「自らつけた黒いシミを少年院で漂白されたAは、遺族には脇目もふらず、新たな人生の第一歩を踏み出した」という筆者の文章にはAへのすさまじい毒が込められている。この一文を本書にいれてくれた事は被害者家族・読者にとっても救われるのではないだろうか)。

     「被害者たちの意見ばかりがこの本には綴られている。加害者にも言い分・人権があるはずだ」という意見もあるが、それには触れない。というか、殺人を犯しておいて言い訳を平然としてのけ、反省の意が見られない犯人の感情など誰が知りたいだろうか。

     「残酷な犯罪を犯しながら、犯人が十四歳の少年という理由だけで、お犯した罪に見合う罰をうけることもなく、医療少年院にしばらくの間いた後、前科がつくこともなく、また一般社会に平然と戻ってくるのです」ー神戸連続児童殺傷事件の被害者の父
    「加賀美の家族はみんな苦しんでいるのに、Aだけが許されちゃって、せっせと金儲けに励んでいるなんておかしいよ。国は莫大なカネをかけて殺人者を更生させ、世に送り出したんだろ。それなら最後まで国が責任をとるべきだよ」ー加賀美洋くんの友人、佐々木さん
     実現可能かどうかは別として、この気持ちは皆同じだと思う。
    大切な人が突如他人の手によって奪われ、「心にナイフをしのば」ざるを得なくさせられた被害者ばかりが辛い思いをするこの状態が改善されることを願うばかりです。

  • 文が読みにくくて最初の50ページくらいでやめてしまった。少年Aがどんな人物だったのか自筆の本には書いてなかったのでそこが知れたのはまぁ良かったと思う。

  • 1969年に起きた高校生が同級生をナイフで惨殺した少年事件。
    被害者家族は今なお苦しむ一方、加害者は少年法に守られて弁護士になり社会的に成功を収めていた・・・。

    これは当時単行本が発売された時点でかなりセンセーショナルな話題となり、ネットでも色々見たし、お昼にやっていたドキュメンタリーもたまたま見ていて、今更感はあったのだけど読んでよかった。
    正直、読み進めながら「被害者遺族よりも加害者のエピソードが読みたいのだけど・・・」と思った。
    それは単行本の読者も思ったようで相応の批判もあったようだが、そこは文庫版あとがきでフォローされている。
    またこの本が被害者遺族にスポットを当てたことで司法の現場にも変化が見られたようで、果たした役割の大きさも実感できた。

    自分が知っていたのは加害者が弁護士になっても鬼畜だった、というところまでだったのだけど、単行本発売後の反響の大きさから弁護士を廃業した顛末まで文庫版では加筆されている。
    それでも加害者が改心していないところにリアルな恐怖を感じる。

    読み物としてもノンフィクションとしても拙い部分が目立つのだけど、生々しい被害者遺族の感情を知れただけでも読んで良かったと思う。

  • 犯罪被害者の遺族・関係者へのインタビューからなる本書は、殺人が引き起こす甚大なる影響がまざまざと描かれている。
    被害者側が地獄のような日々を過ごし、今も苦しいんでいる一方、加害者は少年であった事から、少年法で守られ、弁護士となり裕福な生活を送っているという不条理さ。それのみならず加害者が吐いた被害者遺族への暴言は絶対に許せない。
    また被害者遺族はマスコミの無茶苦茶な取材によってトラウマを植え付けられてしまっており、そのような取材は自粛して然るべき。強引な取材をする人は想像してみてほしい、自分の大切な人が命を奪われ、そのことについて世間が知りたがっているので話を聞かせてください、自分がそう言われたらどう思うか。

  • 少年犯罪といえば、「神戸児童連続殺傷事件(酒鬼薔薇事件)」が本当にセンセーショナルだった。しかしそれ以前にも同様の事件があった。同級生の殺人事件。主に被害者家族へ焦点を当てたルポタージュ。
    被害者遺族の苦しみは時間が解決するものではなく
    何十年とたったのちも、事件が起こる前には戻れない。
    乗り越えていくなんて到底できやしないことなのだと痛感してしまう。被害者の苦しみは癒えぬまま、
    加害者の少年は「少年法」に守られ、社会復帰を果し弁護士となっている事実。
    加害者の少年も同じような苦しみをというのは違うのかもしれない。
    でも、少年の中では事件のことをどのように受け止め今の道を歩んでいるのか。
    起きてしまった事実は変えられない。
    その中で刑罰とはなにかを考えさせられる。

  • 1969年に起った高校生による猟奇殺人。
    その被害者家族のインタビューをもとに綴られた被害者家族のその後と、加害者のその後。

    「天使のナイフ」を読んでから、この本を知り、手の取りました。

    少年犯罪、少年法、被害者とその家族のプライバシーとその後の壮絶な暮らし…
    毎回のことながら、考えさせられます。

    さらに言えば、加害者が更生して、弁護士になっていたという事実。
    事件に向き合い、遺族に向き合い、謝罪する気持ちを持ってのことだったら、それはありなのだと思いますが、このケースでは、謝罪の意思もなければ、反省すらされていない様子。
    許されないことと思わずにはいられません。

    しばらくは、少年犯罪関係の本は読まないつもり。
    昨今の事件だけでも、先が思いやられる気持ちです。

  • あの酒鬼薔薇事件より28年前、15才の少年が同級生を殺害した事件のその後の被害者家族のルポ。被害者の妹、みゆきさんの語りで明されるのは、事件後の過酷な毎日と、崩壊ギリギリの残された家族像。こんなことが現実に起きているのだなと、生々しくて、重たいです少年法で守られている加害者は、謝罪も償いもなく、社会的には厚生したとみなされ、過去の事件を過去のものとして生活している現実がある一方で、事件の傷が癒えることなく何十年も苦しんでいる被害者家族の心は、どうやったら救われるのだろう。

  • 40数年前にも「酒鬼薔薇」はいた。1969年、川崎のキリスト教系の高校で生徒が級友を殺害。首を切断するという残虐な事件だったそうだ。酒鬼薔薇と同じように「透明な存在だった」と語った加害者の少年Aは、医療少年院に送致され、その後の生活については少年法の重厚な壁に閉ざされ、長らく誰にも知られずにいた。本書では、周到な取材によって、いまも生き続ける少年Aの衝撃的な姿を暴き出すのに成功している。

    大半は被害者家族の証言がもとになっているので、視点はもっぱら被害者側に寄っているのは気になる。ただ、よく言われるように加害者側の人権に比べて、被害者側の人権が軽視される傾向があることを考えると、こういう形でまとめるやり方にも意味はあるのかもしれない。最愛の長男を失った事実が遺された家族を苛み、家庭崩壊の危機をまねく様子は無惨というしかない。とくに母親の人格にまで影響し、何かのきっかけで別の人格があらわることがあったというあたりは、その喪失感の大きさがしのばれる。

    また、長男の三回忌あたりの時期に小さな女の子を養女にしようとしたらしい。その娘がとんでもない人格の持ち主で、傷ついた家族をさんざんに引っ掻き回す様子は妙に印象に残っている。そんな一向に癒えることのない苦悩をかかえた途方もなく長い年月の末に、年老いた母親が直面した「少年A」の姿――。想像するだに重苦しく、なんともいえない読後感にしばし茫然自失するほかなかった。

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著者プロフィール

奥野 修司(おくの しゅうじ)
大阪府出身。立命館大学経済学部卒業。
1978年より移民史研究者で評論家の藤崎康夫に師事して南米で日系移民調査を行う。
帰国後、フリージャーナリストとして女性誌などに執筆。
1998年「28年前の『酒鬼薔薇』は今」(文藝春秋1997年12月号)で、第4回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞受賞。
2006年『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で、第27回講談社ノンフィクション賞・第37回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
同年発行の『心にナイフをしのばせて』は高校生首切り殺人事件を取り上げ、8万部を超えるベストセラーとなった。
「ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年」は25年、「ナツコ 沖縄密貿易の女王」は12年と、長期間取材を行った作品が多い。
2011年3月11日の東北太平洋沖地震の取材過程で、被災児童のメンタルケアの必要性を感じ取り、支援金を募って、児童達の学期休みに
沖縄のホームステイへ招くティーダキッズプロジェクトを推進している。
2014年度より大宅壮一ノンフィクション賞選考委員(雑誌部門)。

「2023年 『102歳の医師が教えてくれた満足な生と死』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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