沖縄大江裁判・靖国・慰安婦・南京・フェミニズム 現代史の虚実

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163702704

感想・レビュー・書評

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  •  著者は、著名な「歴史家」であると思っていたが、本書を読んで非常な違和感をもった。
     「沖縄大江裁判」についての内容は、歴史を冷静に検討しているとは思えず、ヒステリックとも感じるような表現が多々ある。
     沖縄の抗議集会についての「県当局の動員による11万人(実数は2万人前後か?)」との表記は、本書では別のところにも記載されているところから著者は大きなこだわりを持っているのだろうが、一般的にはこのような集会の主催者発表と警察発表は違うのが当たり前である。そこをわざわざ強調すること自体に違和感を感じる。
     本書では、沖縄戦における日本陸軍が住民対策を全くしなかったわけではなく「・・・台湾に8万人を疎開・・・戦闘圏外となる本島北部へ10万人を疎開させるように督励・・・史上稀な大規模疎開プロジェクトで、それなりの評価を与えて良いと思う」とあまり知られていないことを指摘しているが、「本島北部の移動は住民がためらったので3万人にとどまり・・・先頭協力者をふくめ9万人が犠牲になった」のでは、やはり日本陸軍の責任はいささかも軽減されないと思えた。
     他にも、「沖縄集団自決問題を象徴するかのような高校生のセリフ」について「扇情的なスピーチにはシナリオライターないし演出者がいると私は直感した」とこきおろしているが、これは「歴史の実証主義」を標榜する著者にとって、決しておこなってはいけない思考法なのではないか。
     また「正論の日々」は、右寄りのオピニオンである産経新聞掲載と関連するのかもしれないが粗雑な考察が多いと思えたし、「歴史よもやま話」はもっとひどく、「核抑止にレンタル核の勧め」などは、歴史上唯一の多くの原爆被害を経験した日本の歴史を考慮しないひどいものとしか言い様がないし、「私のタバコ疫学」「喫煙者へのいじめ迫害の自制を」などは、大勢の非喫煙者への迷惑を省みない「ワガママじいさんのたわごと」にしか思えない。
     本書は、極めて残念な書であると思う。

著者プロフィール

1932年,山口県生まれ。東京大学法学部卒業。官僚として大蔵省、防衛庁などに勤務の後、拓殖大学教授、千葉大学教授、日本大学教授などを歴任。専門は日本近現代史、軍事史。法学博士。著書に、『日中戦争史』(河出書房新社)、『慰安婦と戦場の性』(新潮社)、『昭和史の軍人たち』(文春学藝ライブラリー)、『南京事件―虐殺の構造』(中公新書)、『昭和史の謎を追う』(文春文庫)、『盧溝橋事件の研究』(東京大学出版会)、『病気の日本近代史―幕末からコロナ禍まで』(小学館新書)、『官僚の研究―日本を創った不滅の集団』(講談社学術文庫)など多数。

「2023年 『明と暗のノモンハン戦史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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