ハチはなぜ大量死したのか

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163710303

感想・レビュー・書評

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  • 日本経済新聞や東洋経済に”日本でハチがいなくなっている。”という記事が相次いで掲載されています。
     これは、海外からの女王蜂が輸入されなくなった事が主要な原因とされています。
     しかし、実は世界的には北半球で1/4のミツバチが消えています。
     巣箱やその周りに大量に死んでいるのではなく、働きバチが完全にいなくなっているのです。まさに大量失踪が起こっているのです。
     こういった現象を、現在”蜂群崩壊症候群(CCD:Colony Collapse Disorder)”と呼んでいます。
     その謎を書き記した本がこの本です。
      「ハチはなぜ大量死したのか。(原題Fruitless Fall)
     ハチがいなくなった巣箱には大量の蜂蜜と女王蜂が残されます。通常、蜂蜜を狙ってクマや多くの獣・鳥・虫が集まります。しかし、残された蜂蜜には何一つとして集まりません。
     何があったのでしょうか。蜂蜜にも異変が生じているのでしょうか。
     著者はその理由を追い求めます。
     セイヨウミツバチを襲うミツバチヘギイタダニ、イスラエル急性麻痺病ウィルスによる感染病、人間には影響を与えないとされるネオニコチノイド系農薬の使用など、多くの原因が論ぜられます。
     何が真の理由なのか、原題”Fruitless Fall”(実りなき秋)はかの名著レイチェル・カーソンの”沈黙の春(Silent Spring)”を彷彿とさせ、我々に現代社会の営みを問うています。
     しかし、この本の素晴らしい点はただのCCDの謎解きに終わっていない事です。

     現在では、養蜂業は単に”蜂蜜集め”ではなく、われわれの食生活においてなくてはならないものになっています。
     例えば、アメリカ家庭の朝食のグラノーラに入っているアーモンド、夕食のきゅうり・カボチャ・ズッキーニ・レタス・ブロッコリー、デザートに使うカカオ、トロピカルフルーツ、柑橘類、桃など、これら私たちが口にする食物の80%が、ハエや蜂による花粉交配に依存しています。
     これが人による交配では、均等に花粉を受粉させることができなくなり、その結果できた実はいびつな形となります。ましてや受粉できる花々の絶対量が違いすぎる、つまり、農業において蜂による人工受粉は不可欠なものとなっており、開花期に蜂を地元農家に送り届ける”移動養蜂”は一つの産業となっているのです。
     しかし、1年中それぞれの農作物の開花時期に合わせての移動は、蜂を疲弊させます。
     たとえばアーモンドの花は、2月のわずかな期間の間のみ開花します。この時期は通常蜂は越冬のため、巣箱で互いの身をすり合わせ、じっとしている時期にあたります。しかしその時期さえも花粉交配による収入のため、養蜂家は蜂を働かすため移動を行います。
     自然の摂理に逆らうかのような行為が何をもたらすか、作者は私たちに問いかけています。

     しかし、危機を語ると同時に、作者は一人の養蜂家を紹介します。
     日本において”奇跡のリンゴ”で語られた木村秋則氏の如く、彼の発想の転換と、目先の利益を負わない、彼の真摯な態度がCCDに対する一つの解決策を提示します。
     現代は、人が生活するために自然を利用します。勿論それは間違いではありません。
     しかし、行き過ぎた利用が何を変えるか、温暖化によって起こる干ばつやCCDによって起こる花粉交配不成立を見れば、我々の食の崩壊が始まりつつある事が理解できます。
     この本はそういった環境問題への考察を描いた優れた作品だと言えます。

  • 蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder)にとどまらず、自然を部品・原料・産業機械のように利用することの危うさへと目を向けさせる本。

  •  生命を脅かす害虫、ウィルス、農薬、抗生物質、栄養不足、都市化、グローバル化、地球温暖化・・・大量死の原因を追って作者がたどりつくさまざまな要因・・・本当にミツバチの話なのか?と思ってしまう。

     本書を通じて、ハチと植物たちが作り上げてきた共存関係に感心するとともに、いかに我々がその恩恵に与ってきたのかを教えられた。自然の作り上げてきた生態系のなんと見事なこと、そして、ヒトが行なっていることのなんと不調和で歪んでいることか。

    原題の『FruitlessFall』(実り無き秋)は、レイチェル・カーソンの『Silent Spring』(沈黙の春)を意識しているのは明らかであり、これはハチの謎めいた病の話ではなく、ヒトによって引き起こされた環境問題の話だ。

  • −2007年春までに北半球から四分の一のハチが消えた。− 
    本書オビより

    ハチが、こんなにも社会性のある頭脳集団だとは、改めて知らされた。
    そして近年、このハチたちがなぜ死んで(失踪)してしまったのかを、様々な事例(ダニ、農薬、ストレス、電磁波、それらの複合汚染など)を元に検証しながら、蜂と花、養蜂産業界、農業界、農薬産業界、食料生産、社会経済と、絡まるあらゆる産業界の事情が明かされる。
    受粉昆虫、蜂や蛾や蝶など、この小さな働き手がいなかったら、食卓はどれだけ貧しく寂しいものになることか。
    人手で行うなんて、とてもじゃないけど間に合わない。
    人の手だけではどうにもならない、自然の繋がり営みは厳然と存在する。
    ひとつが崩れたら、それに繋がる流れは途切れ、回復は困難、というか不可能だ。
    近年、マルハナバチなど海外からの輸入も多く、国内の農家さんでも大変に役立っているようだ。
    国産の蜂も、もちろん頑張っている。
    ただ、やはり数が安定しない。
    今年の誕生日には、奇しくも国内養蜂園産の蜂蜜酒を戴いた。
    HPをみると、れんげ・さくら・菜の花・野ばらに栗やそばの花々から摂れる花蜜とのこと。
    れんげ畑など、近年見かけなくなったなぁ。
    幸い、まだ日本は、本書にあったような極端なCCD(蜂群崩壊症候群)渦には晒されていないようだが、自然の花が減少していることは真実。
    ここで「佛々堂先生」のれんげ米の話を思い出す。
    あの中でも、移動養蜂家の話があったなぁ。
    れんげ畑を求めて蜂を連れて移動する。
    あら?感想がまとまらなくなってしまった。
    なんだかいろんなことを考えさせられた1冊になった。

  • 花は受粉しないと実をつけることがないその単純なことに 気がついている人が あまりにも少ない農業に関係する ハチだけのことでなく他の虫もいなくなってしまえば 実がつくことがない怖くてぞっとする本でした

  • 2005年あたりから大量死したミツバチの謎を追う。

    原因は複数説があるが、ネオニコチノイドや遺伝子が単一化してしまったのが主要因とか。
    養蜂ビジネスの黄金期はおわり、今は非常に厳しい時期に。

    また、ミツバチはロシア、イタリア、南アフリカ、日本、いろいろと種類と特徴があるようです。

    教養として面白かった。

    農業系は何でもそうですが、自然のままに育てるのが最終的にはいいみたいですね。
    コストはかかりますが。

    食品は高くてもいいものを買わねば。そう考えされます。

  • 農作物を生産するために、これほどハチが必要不可欠な存在だったとは、本書を読むまで認識してなかった。そのハチが原因不明の蜂群崩壊症候群(CCD)という奇病のため、消え失せている。ダニや農薬、ウィルスなどの犯人説はどれも決め手に欠ける。人間が介入して人間に都合のいいハチを無理矢理増やした結果、ハチはそのストレスから逃れるかのように、帰巣本能に逆らって消え失せてしまうようになった。自然と人間の共存をどうやってうまくやっていけばいいのか、人類に突きつけられた課題だ。

  • 北半球で大量のハチが消えた。
    ダニの蔓延?農薬問題?環境汚染?ハチの酷使?
    次々と現れる新たな容疑者。

    真犯人は誰なのか・・・。

    身近な環境問題を意識出来る最高の一冊。

  • ミツバチの大量死はまるで人間社会の現状を見ているかのように思えた。

    人間は動物・植物の世界を自分たちのエゴでめちゃくちゃにしている様な気がした。

  • 日本でも最近話題になっているミツバチが消えるという話。実際のところ、消えているんはセイヨウミツバチが主である。
    また、突然ミツバチがいなくなった理由は、ウィルスの影響や農薬、ミツバチ自身のストレスの問題など諸説あるが、明らかになってはいない。
    ミツバチが危機になってミツバチのありがたさを知るという人間の愚かな一面もこの問題には絡んでいるように思える。

    ただただ、問題を煽るだけの展開に終わることなく、私たちにできることは何かということとミツバチに対する愛情を与えてくれる一冊になっている。
    養蜂にも興味が持てる一冊でした。

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