ルリボシカミキリの青

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 72
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163724300

感想・レビュー・書評

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  • 新幹線のお供に何か雑誌でも買おうという時につい『週刊文春』を選んでしまうのは福岡 伸一のエッセイがあるからです。
    もちろん、阿川佐和子の「この人に会いたい」も好きだけど。

    本書にはその福岡ハカセのエッセイが70編詰まっています。

    タイトルにもなったルリボシカミキリは、それはそれは美しい青色をしたカミキリ虫だそうで、表紙にもなっています。
    ググったら確かに美しい。

    福岡ハカセは、本業は生物学者で、狂牛病を取り扱った 『プリオン説はほんとうか?』や、動的均衡について書かれた『生物と無生物のあいだ』で有名ですが、文章も上手くて、

      蝶への興味はやがてもっと硬質の美しさへの希求にとってかわる。あこがれたのはルリボシカミキリだった。小さなカミキリムシ。でもめったに採集できない。その青色は、どんな絵の具をもってしても描けないくらいあざやかで深く青い。こんな青は、フェルメールだって出すことができない。その青の上に散る斑点は真っ黒。高名な書家が、筆につややかな漆を含ませて一気に打ったような二列三段の見事な丸い点。大きく張り出した優美な触角にまで青色と黒色の互い違いの文様が並ぶ。私は息を殺してずっとその青を見つめつづけた。

    って、科学者というより文筆家の域ですよね。生物学者はやはり観察力が半端じゃないので、表現力を伴うと恐ろしく魅力的な文になりますね。

    それから、

      生物の特徴は、実は、指揮者やリーダーがいないということである。ヒトの細胞は全部で六十兆個もあるけれど、どの細胞も全体の地図や構造を一切知らない。個々の細胞が絶えず連絡を取り合っているのはせいぜい自分の前後左右上下の細胞だけである。にもかかわらず全体としては組織だった統合がなされている。中央集権ではなく地方分権的な仕組みだという点がポイント。脳ですら、身体全体を鳥瞰的に見ているわけではなく、むしろ個々のニューロンは近隣のニューロンと情報を交換しているにすぎない。ローカルなグリッドが相互に連結するだけで、グローバルなシステムを作り上げる。つまりここには「部品」と呼ぶべきものはなく、ローカルは連続的に全体を構成する。このようなモデルは、生命の本質を探る上でとても重要なヒントとなる。

    という文章。考えてみれば、DNA鑑定ができるということは、六十兆個の細胞には、すべて同じDNAが組み込まれているわけです。なのに、部分部分で全く違った形や機能を有し、さらにそれが80年位の人生で部分部分で継続して新しい細胞に置き換わっているのはすごい不思議なことだと思いました。

    もちろん、分子生物学的にはその辺も解明されつつあるのでしょうが、神秘だよなぁと思います。
    一時期、「企業のDNA」なんて言葉が流行り、また、兼子先生が日本型組織の良かった点として「向こう三軒両隣を大切にした」と仰っていましたが、そう考えると成功したトヨタなんて会社は大きな一つの生物なのかなと思いました。

  • 分子生物学者のエッセイ集。

    ダイレクトに生物学の話というよりは、日々のよしなしごとから連想される話題が多く、これまで読んだ『動的平衡』、『生物と無生物のあいだ』よりちょっと日常的な色が多いところが特徴。
    これまでの著作とかぶる内容も多いが、ノックアウトマウスのその後の研究成果だったり、少し視点を違えたりとどれも興味深い。ひとつのテーマで概ね3ページ程度のものが多く、内容的には浅いのが残念だが、そういう書き物なのでそこはしょうがない。他の本を読もう。

    それにしても、著者自身も裏テーマと言っている教育に関する洞察、向き合い方が秀逸。一番心に響いたのは(文言は厳密ではないが)”教科書的に事実を伝えてもしょうがない。なぜそうなったのか、どんな議論があったのか、自分がおもしろいと思ったこと、感動したことを伝えることが大事”というものである。全くそのとおりだ。

    著者の文章から、このことがにじみ出しているのがまた素晴らしい。
    きっと授業もおもしろいんだろうなぁ。

  • 2010/6/5  借りる。6/23 読み終わる

    福岡 伸一の本を読みたくて借りる。
    「生物と無生物のあいだ」の後に読む。すごく面白かった。

    内容と著者は

    内容 :
    分子生物学の最前線で活動する一方、生命科学の魅力を一般に伝え続ける著者が、
    その研究生活を中心に、ときどきの事件・ハヤリごと、身辺のよしなしごとなどを綴る。
    『週刊文春』連載のコラムを再構成・再編集して書籍化。

    著者 :
    1959年東京生まれ。京都大学卒。青山学院大学理工学部教授(分子生物学専攻)。
    第1回科学ジャーナリスト賞受賞。「生物と無生物のあいだ」でサントリー学芸賞・新書大賞受賞。

  • 買ったまま積ん読になってたことに気付いて読みました。やっぱり、福岡先生の文章はいいですね。

  • 福岡さんの文章がとてもきれいです。

    この美文家の本を読み続けたい。

  • あの「生物と無生物のあいだ」で
    つまづいてしまった方でも
    この本ならば余裕で読めるかも…?

    ただし、ひとつだけ条件があります。
    ノーベル賞に一番近い作家の
    最新作を未読の方は全巻読むまで
    避けたほうが賢明です。
    規模は大きくはありませんが、
    若干のネタバレがあります。

    他のところは
    彼の人間的な側面、
    いわば花粉に弱いという
    ちょっとかわいそうな一面を
    垣間見ることができます。
    しかもお医者さんでグサリといわれ
    ショックを受けてしまってるハカセが
    ほほえましくもあります。

    そんなに考えなくても読める
    ベストセラー書よりもずーっと
    読みやすい本です。

  • 「フェルメールでさえ作りえなかった青の由来を、つまりこの世界のありようを、ただ記述したかったのだ」
    キャッチコピーに惹かれて購入

    ただDNAとかRNAとかDNAの末端問題とかそういうのがさらっと出てきたので物理の私にとっては「…?」な部分もちらほら
    けど全体的に話がおもしろい!
    文章も文学的で読みやすかった

    ただしカミキリムシの本ではない

  • ルリボシカミキリ。。。というより、福岡ハカセのお人柄がとっても映えていた本だと思った。

  • 連載しているコラムをまとめた一冊。こういった科学物は読みごたえが薄くなってしまいがちだがこれは濃い。ウイルスの話は全然知らなかったし、福岡ハカセの日常もかいまみえる一冊。

  • 週刊文春の連載されている、分子生物学の博士・福岡伸一先生のコラムを一冊にまとめたもの。
    コラムだから色々なテーマで書かれていて、ひとつのテーマにつき約2300文字程度。
    短くて読みやすい。
    しかも全然難しくない。
    ウィルスについて、DNAについて、という生物学者らしいテーマの回もあれば、登山で遭難しそうになった話や料理教室に通った時の話など生物学とは関係ないテーマのものも。
    だけどそんな回でも学者らしい見解が盛り込まれていたりして、私の知的好奇心は刺激されまくり。
    もっともっとこんな本が読みたい。
    先生の著書・「生物と無生物の間」も面白かったし、他の作品も読んでみよう。

著者プロフィール

福岡伸一 (ふくおか・しんいち)
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2013年4月よりロックフェラー大学客員教授としてNYに赴任。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著書多数。ほかに『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命と食』(岩波ブックレット)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『フェルメール 隠された次元』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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