幕末から平成まで 病気の日本近代史

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163740508

作品紹介・あらすじ

脚気菌を発見?精神科医が発狂?戦死より戦病死が多い?喫煙率が減ったのに肺ガン患者は増加…?そんなバカな事があっていいのか!歴史学(近現代史)の泰斗が医学史に挑戦。日本人は「難病」といかに闘ってきたか。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史
    病気

  • タイトルの通り、一言で言えばただの病気の歴史なのだが、予想以上に面白かった、

    統計データもさることながら、病気と治療法などの推移が、時の時代背景との関連から、より厚みを持って感じられる。

    特に戦時中という背景にまつわる部分は、とても興味深かった。

    最終章の詰めの部分は、なんだか急にトーンが変わってしまった感もあったが。

  • 歴史学者、特に日本の近代史・戦史に関する研究や著作で有名な著者。

    私も氏の著作をこれまでに何冊か読ませて頂いたことがありますが、本書はご本人が「【本書 あとがき より抜粋】やや不慣れなジャンルの仕事」と言う通り、氏を少しでも知る読者にとっても、「意外な一冊」であると言えます。

    しかし、本書を紐解くとすぐに、「歴史学者が病気の歴史に取り組む意味」を理解し、その面白さに引きこまれていきます。

    全体を読み終わって「歴史学者の視点で綴られた医学の歴史」は、個人的に「偉大な試み」であったと感じています。
    この試みは、歴史に今まで私にはなかった観点を加えてくれました。
    他に類を見ない、貴重な一冊である、と思います。

    以下、具体的な内容について章別に簡単に触れてみます。

    本書は、以下の言葉から始まります。
    「戦争と医学は、切ってもきりはなせない関係にある」
    「「あの戦争」は敵との戦いよりも病気との闘いだったと極限してもいいぐらいの一面が見えてくる。」
    「病気と医学の関わりは、社会生活の分野でも深い。(中略)歴史を動かす要因でありつづけた事実は否定できない。」

    そして、本書冒頭をこう結びます。(以下、本書抜粋)
    「そうだとすれば、医学の専門家とは別に歴史家の手法でアプローチしてみる意義もあるというもの。」

    このアプローチは、「その時代の歴史・文化に、または歴史的人物・文化人たちに、病気はどのような影響を与えてきたのか」を見事に浮かび上がらせてくれています。

    第一章では、「黎明期の外科手術」と題し、かっては死病になりかねないリスクをはらんでた「虫垂炎(盲腸炎)」や「乳がん」を主な例として、「外科手術の歴史」がまとめられています。

    その中で「手術台に上れば十中八九は死ぬ覚悟でいた」ことや「世界に先駆けて日本において麻酔を使用した手術を行った」ことに触れ、「欧米諸国と日本の先端部分は大差がなく、日本が先行している例も珍しくない」という黎明期の実態が明らかにされています。

    この黎明期に虫垂炎に罹病し、先発の夏目漱石は助かり、後発の秋山真之は死を免れなかった事実を引き合いに出し、人の運命や歴史の奥深さに思いを至らせてくれています。

    かの大村益次郎もまた、外科手術の黎明期ゆえの原因で命を落としていることを本書で知りました。
    大村益次郎が、命を長らえていたら・・・と考えると様々な思いが駆け巡ります。

    第二章は、江戸時代から大正時代に至るまで、日本を悩ま続けた「脚気」に焦点をあてています。

    江戸幕府の将軍も脚気に倒れ、明治天皇もまた悩まされ、日露戦争では戦死者より戦病死者の方が圧倒的に多くそのほとんどは脚気とも言われる状況にあったとされています。

    また脚気の撃退を遅らせた致命的な原因として、当時陸軍で地位を得ていた森鴎外(森林太郎)の自説に拘る官僚主義が指摘されています。
    現代にも通じる教訓として、とても興味深いものでした。

    第三章では、「コレラ」「痘瘡」「ペスト」「黄熱病」「スペイン風邪」などを例に「細菌の発見の歴史」「伝染病(感染症)の歴史」に焦点をあてています。

    ここでも官僚主義的な弊害について触れており、かの有名な北里柴三郎が在野のままその生涯を過ごした経緯に詳しく触れられています。
    歴史学者ゆえの視点と言え、とても興味深いものでした。

    第四章では「結核」。

    「幸か不幸か、この病気は最後まで意識の澄明さを保てたので、患者は闘病の合い間に思いのほどを書いたり語ったりすることができた。」とし、特に文学者・文学作品との関連に、多くのページを割いています。

    また、「脚気とともに近代日本の2大国民病」とされた結核は、まさに日本の歴史を動かしたとも言えるほどの病没者を出しています。
    戦前だけでも、高杉晋作・沖田総司・樋口一葉・陸奥宗光・正岡子規・滝廉太郎・二葉亭四迷・石川啄木・人見絹枝・高村智恵子・松岡洋右・竹久夢二・・・とそうそうたる面々がならびます。
    病気の歴史を知らずして歴史を語るなかれ、とも言いたくなる様相です。

    第五章では、「戦病の大量死とマラリア」と題し、戦史の専門家としての視点をふんだんに活用し、戦争と病気(特にマラリアと餓死)の関係に踏み込んでいます。

    本章ではさらに「輸血技術の発達」についても、戦史の視点を加えて開設がされており、さらに興味深い構成となっています。

    第六章では、「狂聖たちの列伝」とし、いわゆる「精神病」に触れています。

    「現代にいたってもまだその定義・分類が整理されていない」とし、その医学的な難しさを伝えています。

    また、章題のとおり、精神病に悩まされた著名人に丁寧に焦点をあてて、この病気の歴史を紐解こうと試みられています。

    個人的には、あの大川周明に関する記述をとても興味深く読ませて頂きました。私は、大川周明氏の著作に触れたとき、その素晴らしさに身震いしたほどの衝撃を忘れることができません。
    その素晴らしい能力と、精神病治療の経緯には引きこまれました。

    第七章(最終章)は、「肺ガンとタバコ」

    愛煙家でもある著者に手によるものなので、賛否両論あるかとは思いますが、「肺ガンとタバコ(副流煙も含む)に、医学的にはもちろん、統計的にさえ、因果関係はない」ことを丁寧に調査・解説されています。

    「事実が平気でねじ曲げられる現実」がここにもあることを、明らかにしてくれます。

    本書は、次の言葉で結ばれます。
    医療が発達した現代において、「自らの命を何のために使うのか」という点において、肝に銘じておきたい言葉だと思います。

    【本書抜粋 秦郁彦】
    ガンをもし絶滅できたとしても「平均寿命を二年ないし三年延ばすことができる」程度だとすると、そろそろ思考の転換を考えてよい時期にさしかかっているのではあるまいか。

  • ジェーミス三木さんのオススメ。こんな学術的本から物語を探し出すのか…。やっぱりすごい。

  • 1/9 スミスの本棚 ジェームス三木推薦
    肺癌とタバコの関係は意外だった。

  • 数々の人間ドラマを描き、ヒット作を生み出してきた脚本家のジェームス三木さん。選んだ本は「病気の日本近代史」(秦郁彦著)でした。著名な歴史学者の秦郁彦さんが、幕末から平成まで、日本人が戦ってきた病気の歴史をひもときます。この本には「ドラマのネタみたいなものがいっぱいある」とジェームス三木さんは語ります。

    続きはこちら
    annex ~『ドラマのネタにしたい本』 ~:スミスの本棚:ワールドビジネスサテライト:テレビ東京 http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/blog/smith/2012/12/post141348.html

  • 結核 徳富蘆花 不如帰(大山巌大将の娘がモデル) 正岡子規 病床六尺 トーマス・マン 魔の山 高杉晋作 おもしろきこともなき世をおもしろく

    脚気 伝染病説、中毒説、栄養障害説
    細菌学が隆盛で伝染病説が主流 (森鴎外)
    知覚障害、運動障害、水腫、心臓の障害などを主な症状とする全身性の病気 急死を招く衝心はいまでいう急性心不全
    ビタミンB1の欠乏

  • レビューはブログにて
    http://ameblo.jp/w92-3/entry-10969558629.html

  • 2011年50冊目
    盲腸の外科手術から脚気、結核、マラリアなどの病気と日本人はどうやって戦い克服してきたかがわかる。軍隊での病気をどうやって治すか考えることで医療が進歩してきたのかもな、と思った。

  • 主に20世紀政治史の分野で令名高い著者が、虫垂炎での入院体験をきっかけに発想した日本近現代医史。結果、みずからあとがきに書くように、「歴史は玄人だが医学は素人」の著者ならではの、稀に見る好著に仕上がった。
    一般読者の素朴な疑問に寄り添うようなテーマ設定、虚心坦懐にして丁寧な仕事ぶり。特に、この手の書物では引用・孫引きも目立つところを、膨大な一次資料に逐一当たり、きちんとしたデータを構築しているのはさすがである。
    特に終章の「肺ガンとタバコ」に顕著だが、著者の基本スタンスは、中立に徹し極論を疑うもののようである。「現代史の虚実」なる書が巻末に広告されていたが、ぜひとも読んでみたく思った。

    2011/7/16〜7/20読了

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著者プロフィール

1932年,山口県生まれ。東京大学法学部卒業。官僚として大蔵省、防衛庁などに勤務の後、拓殖大学教授、千葉大学教授、日本大学教授などを歴任。専門は日本近現代史、軍事史。法学博士。著書に、『日中戦争史』(河出書房新社)、『慰安婦と戦場の性』(新潮社)、『昭和史の軍人たち』(文春学藝ライブラリー)、『南京事件―虐殺の構造』(中公新書)、『昭和史の謎を追う』(文春文庫)、『盧溝橋事件の研究』(東京大学出版会)、『病気の日本近代史―幕末からコロナ禍まで』(小学館新書)、『官僚の研究―日本を創った不滅の集団』(講談社学術文庫)など多数。

「2023年 『明と暗のノモンハン戦史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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