たとへば君―四十年の恋歌

  • 文藝春秋
4.42
  • (56)
  • (35)
  • (7)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 275
感想 : 57
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163742403

作品紹介・あらすじ

乳癌で逝った妻、そのすべてを見届けた夫、歌人夫妻が紡いだ380首とエッセイ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 独り者である私としては40年も共にいたご夫婦の情愛など、本当のところは分かるわけはないと思うのだけれど、それでも、泣いてしまいました。
    夫の永田さんが河野さんの歌集を読んで「お前はこんなに淋しかったのか」と河野さんに伝えた、というエピソードが印象的で、仲がよく、お互いに何でも話す、言語化能力に長けた二人でも、分かり合えてないところがある、ということに、人と人との関係って、どこまでも淋しいものだな、と思いました。
    淋しさって人間の芯にあるものですよね。
    芯にある淋しさを分かち合うことはできないのですね。
    それでも、二人でいることを選ぶことに尊さを感じます。

    <手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が> 
                             河野裕子さん最後の一首

  • 泣きすぎて頭が痛くなった。
    一首歌を読んで泣き、また一首読んでは泣き。
    わんわん泣くって言うわけではなく、じわーっと。
    思い出すだけで泣けてくる。

    夫婦揃って歌人である河野裕子と永田和宏の相聞歌とエッセイをまとめた本書。
    二人の運命的な出会いから妻が乳癌によって亡くなるまで40年間、ずっとお互いを思う気持ちを歌に読み続けてた。
    恋に悩む若かりし頃、子育てに追われる日々、そして闘病生活。
    それぞれの時代に詠われた歌を読むと、平坦な道のりであったとは言えない。どこの夫婦でもそうだが、辛いこと、悲しいこと、色んなことがあったのだろう。
    でもお互いを思う気持ちは決して変わらなかった。

    ああ、なんて素敵な夫婦。
    短歌がここまで心を打つとは思わなかった。
    恥ずかしながら河野裕子さんも永田和宏さんも全く存じ上げなかったし、短歌を読む習慣もない。そんな私でもお二人の詠む歌は心に響いてきた。
    私にもこんな風に歌を詠む才能があったならなどとも思うが、果たして長年の連れ合いに恋歌など詠むだろうか(笑)

    話は飛ぶが私の家系は立派な癌系統。ありとあらゆる癌に罹ってきた。
    癌との戦いに勝った人、負けた人、今まさに闘っている人。
    私もいずれは癌と対峙する日がやってくるのだろうと思う。
    でも嘆き悲しむばかりではない。
    癌と宣告されたその日から命を終えるまでは神様が与えてくれる猶予期間だと思えばいい。
    その間に大切な人に思いを伝えるのも良し、会いたい人に会うのも良し。
    他の病気に罹るよりもきっと良い事がある。

    自分の死期を自覚した最期の時間。
    そんな時間があったからこそ、この夫婦の間には珠玉の歌が生まれたのではないだろうか。
    癌だって捨てたもんじゃない。
    そう思いたい。

    • 8minaさん
      Vilureefさん はじめまして。

      素敵なレビューですね。私自身もそろそろパートナーと二人だけの時期で、お二人の晩年を身近に感じまし...
      Vilureefさん はじめまして。

      素敵なレビューですね。私自身もそろそろパートナーと二人だけの時期で、お二人の晩年を身近に感じました。病の最後でのお二人の葛藤、慟哭が深く伝わってきます。

      手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が

      河野裕子の最後の歌がいつまでも心に残ります。そして、残された永田和宏の歌。

      亡き妻などとどうして言へよう手のひらが覚えてゐるよきみのてのひら

      2014/05/15
    • vilureefさん
      8minaさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます♪

      8minaさんのレビューってとても優しいので女性の方だろうと思っていた...
      8minaさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます♪

      8minaさんのレビューってとても優しいので女性の方だろうと思っていたら、なんと男性!
      家庭でもとても優しい旦那様なんでしょうね(*^_^*)

      このお二方、本当に素敵なご夫妻ですよね。
      やはり夫より妻が先に逝ってしまうと言うのはより切ないですね。
      逆だとこうはいかない!?女性は強いですから(^_^;)

      我が家はまだまだ息子がちびっ子なので、この歌にいたく共感しました。

      たつたこれだけの家族であるよ子を二人あひだにおきて山道のぼる

      ああ、これも良かったな・・・

      あなたらの気持ちがこんなにわかるのに言い残すことの何ぞ少なき

      8minaさん、これからもよろしくお願いします(^_-)-☆


      2014/05/15
  • 家族って何だろう。

    二人が出会って家庭を持ち、子供が生まれやがて大人になり、再び二人だけになっていく。今まで寄り添ってきた者に、いつかは先立たれ一人残されて何を思うのか。

    若かりしころの情熱、子育てに奮闘しながら互いに腹を立てることもしばしば。我々は言葉で、時に言葉に表せない思いでお互いを理解し、家族を営んできた。

    お二人共に歌人である、河野裕子、永田和宏もまた、我々と同じように出会い、悲しみも幸せも、40年の時間を共にしてきた。だが、彼らには短歌があった。お二人の出会いから最後の別れの時まで、どれほどの相聞歌を交わしてきたのだろう。

    私は短歌を深く味わう力を持ち合わせていないが、お二人が交わした相聞歌と、背景となる散文から、互いに魅かれあったときの思い、きびしい生活の中で子供を育てる苦労と、ふとした瞬間の幸せな感覚が伝わってくる。

    残念ながら、河野裕子は晩年に癌を患い、家族の見守る中瞼を閉じていきました。
    最後の最後まで、家族を愛し、自分の歌を愛した歌人。

    「手をのべてあなたとあなたに触れたきに
             息が足りないこの世の息が」

    忘れられない一首です。
    残されたものもまた、喪失のうちに悲しみを歌にします。

    「亡き妻などとどうして言へよう手のひらが
            覚えているよきみのてのひら」

    近代短歌の世界には縁遠かったのですが、ブクログのレビューを読んで出会った本です。このような本との出合いをとても幸せに思います。

    追伸:我が家の喧嘩後のお約束はケーキを買ってくること(自分が悪くないと思っていても・・・)

  • 本を読んでこんなに泣いたのは初めてというくらい泣いた。
    妻が乳がんで亡くなるまで、お互いを詠んだ相聞歌をまとめたもの。2人合わせて千首ほどあるらしいがその抜粋。
    「愛してる」とか「君が大事だ」とか言わずにこんなに愛を語れるのかと驚く。

    特定の人物の短歌を体系的に読むことで、「歌がお互いに響き合う」というのがわかった気がする。
    すれ違いを悲しんでいる歌などの間に、相手のなんでもない仕草を眩しく見つめている歌が挟まることで歌同士が引き立て合う、という感じかな。

    最後に妻が死ぬということが分かっている状態で出会いから読んでいくの、答え合わせをするような感覚。ただ漫然と読むのとは全く違って、緊張感と悲しみがある。

  • 詩を呼んで鼻の奥がつーんとしたことはたびたびあるが、短歌を読んで泣いたことは初めてではないだろうか。

    河野裕子さん、折しも今日が命日。
    昨年、乳ガンのためお亡くなりになった。
    本書は、同じく歌人のご主人永田和宏さんとの相聞歌集である。
    お二人の出会いから、結婚、子育て時代、そうして闘病、最期のとき。
    たった31文字なのに、その中に込められた思い。
    うれしさ、楽しさ、悲しさ、寂しさ、悔しさ、無念さ・・・
    一首、一首が胸に迫ってくる。
    そんなに赤裸々に、そんなに激しく歌に詠んでしまって・・・
    最後の方はページを繰るのをちょっとためらってしまうほどである。

    激しい人だったんだ、河野裕子さん。

  • かけがえのないご夫婦であったろうと思う。
    思うのだが。

    皆さんがお書きになっているような、うつくしい夫婦愛
    というだけではなくて

    どうしてもこの相手でなくてはならなかったのに
    心のうちに、どうにもならぬ距離感が、生活を共にするうち
    双方に出来ていて、それを埋めよう、埋めたいと苦闘して
    いたように私には見えた。

    若く愛しあうことに燃焼し尽くした時期を互いに忘れないから。
    離れることは出来ない。

    でも、だから。

    過去へ過去の愛情へと想いは向きながら
    現実に積み重なっていく時間につれて増える
    家族としての愛情をも、壊さぬように抱きしめていく。

    そんな2つのベクトルの愛情を抱え込んだ
    相聞歌であったと読めた。

    まことに深く、苦く、それでいて他ではダメで。
    いつか傷つけぬ愛を相手に届けなくてはと思いながら

    病魔によってその願いは、「いつか」ではなく「今」からすぐ
    伝えなくては、儚くなるものに変わってしまった。

    修羅の時間も愛しあう時間も、作品・発表されるべき文に
    なった時には、美しく研ぎ澄まされたものになっている。

    でも、ここに載らなかった整理されなかった膨大な量の感情と
    想いが、ずっしりと質感と量感を持って感じられる。

    夫婦愛とか思いやりなんて言葉では包めない
    なまな感情や傷があったように感じる。

    言葉にしたら、相手が亡くなってしまった今も血を噴きそうな。
    だからそれには触れず、研ぎ澄まされた美しい言葉という
    「結果」で喪失の傷をかばうような

    そんな短歌であり、文章だった。

    おそらくここに載せきれなかった「伝えたい言葉」は
    亡くなった河野さんの内にも、見送った永田さんの内にも
    突然工事中のまま、すっぱりと途切れた道のように
    たくさんあったままで。

    「生きている時に伝えて置かなかったら、もう今言っても
    間に合わないじゃないか。」

    と言いながら、他人には見せないままで
    きっと宙に浮いているんだろうなと肌で感じるような本だった。

    最近こんな風に、亡くなった方の最期の愛情ばかりを
    読んでいる。何という理由もないのに。

    死病を抱いていても小康を得ている間は
    まだずっとたくさん時間があるように思えて
    時間など本当はないのに、それを忘れている事が多い。

    諍いをしたり、一人でいたり。
    いい気になって離れていると ふと。

    攫われるようにひとは
    いなくなってしまうものなのかもしれない。

  • 私も母を乳がんで亡くし、最後の方はまるで母のことを読んでいるようだった。また、永田さんの、病気が分かってからも日常を保ち続け、本人の前では平静をふるまっていたこと、そして後にもっと本人の気持ちに寄り添い、不安を共有してあげたらよかったという後悔は全く私も同じで、家族にがん患者を抱える人はみな同じ思いをしているのだと思った。

  • 生きているうちに何度か、嗚呼出逢えて良かったと思える、忘れ得ぬ存在になる本がある。
    今まで「短歌」を書籍で読んだことはなかったけれど、これはまさに出逢えてよかった。
    節目にあたるところどころでエッセイが挟まれていて、その一節一節からシーンごとの情景が浮き上がってくるようで、短歌自体はもちろん、日本語がこれ以上にないくらい美しく精錬されていると感じた。
    擬音ではない、擬態語ではない日本語はこんな風に映像的表現ができるのかと再認識させられました。

  • 読んでいる間ずっと心拍数が上がりっぱなしだった。
    自分の経験や近しい人の経験談と重ねてしまい、多くの歌に気持ちが反応した。あまりに胸に迫ってくるので星が付けられない。
    この歌集では、夫妻が長い年月の間に生み出した歌のなかから互いを詠んだ歌が抽出されて時系列に並べられている。気になった歌が詠まれた当時に出された歌集をあらためて読んでみたい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「心拍数が上がりっぱなしだった」
      昨年ETV特集「この世の息~歌人夫婦・40年の相聞歌」を見た時に、こんな夫婦って良いなぁ~と思ったのでした...
      「心拍数が上がりっぱなしだった」
      昨年ETV特集「この世の息~歌人夫婦・40年の相聞歌」を見た時に、こんな夫婦って良いなぁ~と思ったのでした。。。
      http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2011/0710.html
      2012/03/30
  • 「たとへば君」という歌との出会いは、強烈だった。ガサッと心臓をすくわれたような気持ちになった。
    それから約十年。書店で「たとへば君」というタイトルを見て、「あ、あの歌」と記憶がよみがえった。作者の名前も初めて意識したし、夫さんが歌人だというのも、初めて知った。乳癌で亡くなったということも。
    歌人・河野裕子という人の生涯や夫婦での相聞歌、代表的な作品、手記、いろいろなものが散りばめられていたが、やはり私にとってこの人は「たとへば君」である。生涯で何首も歌を詠んだだろうが、私にはこの一首で十分だ。ガサッと落ち葉すくうように私をさらって行ったあの歌。

全57件中 1 - 10件を表示

河野裕子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×