ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163749006

作品紹介・あらすじ

誰もが自分のことしか考えないとき大事なものが失われる。見たこともない巨額の金が押し寄せたとき、そしてその金が引き潮のように消えてしまったとき、人間はどう狂うのか、国はどう変わるのか。欧州危機を描きながら本書は、私たちの経済と生活にブーメランのように返ってくる。

感想・レビュー・書評

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  • サブプライムローンの破綻にかけて大儲けしたヘッジファンドの経営者カイル・バスは08年ギリシャ破綻の保険CDSを買う。100万ドルの保険金に対する保険料はわずか年1100ドル。11年夏には保険料は23万ドルに値上がりし、4年以内に破綻するかどうかのギャンブルになる。バスがこの時点で最大の掛け金を投じているのがフランスと日本の国債だという。マイケル・ルイスの次の著作の舞台が日本でなければいいのだが。
    ここから欧州を舞台にマイケル・ルイスがメルトダウン・ツアーをガイドする。
    アイスランド、命知らずの漁師の国は金融市場でも命知らずでとにかくリスクを求める。
    漁師達は借金を元に投機に走り、バブルによる見せかけの利益はやがて吹っ飛んだ。
    30万人の漁師の国は銀行が出した1千億ドルの損失を分け合い、個人的な損失も100億ドル単位となった。
    ギリシャ、選挙結果緊縮財政は否定された。ギリシャ人の意思は自分達は我慢しないが、その分はEUが穴埋めしろと言うことを意味する。とてもじゃないが付き合い切れない。
    ギリシャの問題はまともに仕事をしない公務員の給与が民間の3倍で、さらに賄賂を受け取り、年金を受け取り、緊縮策に対しストを起こし、ついでに銀行に火をつける。ギリシャでは誰もまともに税金を払わず、土地取引に登記簿は無く、国家に予算はない。ユーロから切り離し破綻させる以外に解決策は思いつかない。
    アイルランド、3つの銀行が借金で国内不動産を買いまくったが、出来たのは完成しないゴーストタウンだった。銀行の破綻に対し本来は預金保証で良かったはずが、政府は税金による救済を決め、負債を転嫁された国民は黙って耐え忍ぶ。アメリカの投資銀行ではファンドマネージャーは大金をつかんで逃げおおせたが、アイルランドの銀行ではマネージャーは自社株を買い一緒に沈んだ。銀行はただバブルに踊り国を沈めた。
    ドイツ、国内については手堅くバブルを起こさなかったドイツが、サブプライムローンに関しては最後まで保険CDSを引き受け続ける最後の金の出してだった。ドイツの銀行のマネージャーは自らが儲けることは許さなかったが損失については抱え込むことになった。真面目で勤勉なドイツが同じようなヘマをせず、ユーロを支え続けることはできるのか。
    カリフォルニア、アーノルド・シュワルツェネッガーは勢いで知事に立候補し、失う物もなく改革を進めようとしたがそれは州民が望んだ事ではなかった。州は負債を市町村に回すことで破綻を回避しヴァレーホ市は破綻した。
    メルトダウン・ツアーの行き先は明らかに他人事ではない。

  • 非常に勉強になる1冊です。
    欧州問題がなぜ起こったのか?アメリカ、ギリシア、アイスランド、アイルランド。
    それぞれの国の立場、国内状況からの視点で書かれた新しい本です。
    皆さんも必読の1冊です。

  • アイスランド、アイルランド、ギリシャ、ドイツ、そして日本。筆者がこれらの国々を回って目にしたものは―。巨額のマネーをめぐる人間の『悲喜こもごも』はやはり自分にとっての大事なテーマだと思いました。

    この本は自身が金融業界出身の筆者が書いた世界経済に関するノンフィクションです。やはり筆者の真骨頂はこういう話に尽きると思います。ここでは筆者自身がアイスランド、アイルランド、ギリシャ、ドイツ、そして日本を自らの足で回り、現地の人に話を聞き、そして考察を重ねるもので、『見たこともない巨額の金が押し寄せたとき、そしてその金が引き潮のように消えてしまったとき、人間はどう狂うのか、国はどう変わるのか』主にヨーロッパの金融危機とその後の人々が描かれておりますが、やはりカネにまつわる悲喜こもごも』はわれわれの身近なことになっており、遠いところで起こっていることが瞬く間に全世界を駆け巡っていくということはもはやいうまででもないことでしょう。

    アイスランドでは今まで魚を捕っていた漁師達が金融業に転職し、あたかも国中をあげてひとつの『ヘッジファンド』の様相を呈し、潮が引くようにマネーが去っていくとそこにはペンペン草も生えず、ただただ巨額に膨れ上がったデリバティブの損失を目の当たりにするしかない様子や、目の前に展開される修羅場にひたすら耐え続けるアイルランドの人々。ギリシャでは公務員の給料が民間の三倍であることを皮切りに、数々の手厚い保護を受け、さらには国全体が抱える借金を正確に把握できない状態にしてユーロ経済に参加し、あとからあとから出てくる国の負債に心身をすり減らす人々。

    ドイツ。僕はこれが一番印象に残っているのですが、ドイツ人の国民性で(あくまでここに書いてあることです)「糞と泥と肥やしとケツ」に関することがやたらと多いことから始まって、自国では国民に投機的な経済をさせない一方で、他国にはどう考えても焦げ付着そうな話に平気で金を貸す。その論理は表向きには『潔癖と秩序に取り憑かれながら、汚物と混沌を愛でる人間が、面倒なことに巻き込まれないはずがない』という言葉に集約されていて、ここは何度も爆笑しながら読みました。

    終盤のアーノルド・シュワルツネッガーと筆者の『朝の自転車』の場面は彼のパーソナリティーが透けて見えるところもあって面白かったです。最後に自分たちの中にも『ギリシャ』が存在しているのではないかと思いつつ。筆者の言うように恐慌がブーメランのように帰ってこないことを祈りつつ、こで筆をおこうかと思います。

  • <a href="http://mediamarker.net/u/bookkeeper/?asin=4163730907" target="_blank">「世紀の空売り」</a>の姉妹編といったところ。こちらは金融・財政危機を描くのもさることながら、欧州の各国別文化論の趣きがある。

    アイスランド Wall street on the tundra
    アイスランドには姓が9つしかない。もちろん誰もがビョークに会ったことがあるし、ビョークの母親のことだって良く知っている。そんな人口30万人あまりの小国がGDP比850%の債務を抱えるヘッジファンドになった。安いクレジットを手に入れたアイスランドの三大銀行が杜撰な査定で外国資産を買い漁った。バブルの最中には、アイスランド人たち自信は、自らの「成功」を、アイスランド人の優越性、意思伝達の非公式ルートやすばやい意思決定能力に帰していた。
    なぜそんなことに?著者の仮説はとても面白い。もともと豊富な漁業資源とエネルギー(地熱)を持つアイスランド。権利を取引できる漁獲高割当政策が成功し、大手の漁師に水揚げ高が流れ込み、国全体も豊かになり博士号を持つ若者が増えた。しかし、アイスランドの産業と言えばトロール漁とアルミ精錬しかない。。。しかもアイスランドの男たちは伝統的にきわめてマッチョであり、漁師≒山師の素質がある。そこへ投資銀行業が現れてしまったのだ。アイスランドの男たちが夢見た栄光は、サガ博物館に展示されているバイキングの栄光とよく似ている。

    その後、アイスランド経済はだいぶ回復してきたみたいだ。だいぶ借金を踏み倒したおかげであろうが。
    From FT : <a href="http://www.ft.com/intl/cms/s/0/8a0390dc-78c7-11e1-9f49-00144feab49a.html#axzz1qtAuqDQR" target="_blank">Iceland: Recovery and reconciliation</a>

    ギリシャ And they invented math
    ギリシャが財政赤字をごまかしていたことが発覚した直接の契機は政権交代だった(遅かれ早かれだが)。その政権交代の契機になったのは、ヴァトペディ修道院が不当に政府から土地を入手したのではというスキャンダル。著者はその修道院に赴いて取材する。俗世間ばなれした修道院の様子が描かれるが、お金まわりはいかにも胡散臭い。ギリシャ経済の出鱈目さ加減はすでにご案内の通り。

    アイルランド Ireland's original sin
    アイルランドのバブルは国内不動産に向かった。不動産バブルに先立って、アイルランドは1980年代まではヨーロッパの貧困国であったのが急成長を遂げた。産児制限合法化による人口ボーナスが主要因と考えられている。2000年代の初めには、急成長を経験したアイルランドはバブルを受け入れやすい精神状態にあったと言える。アイルランド政府は三大銀行が抱え込んだ対外債務を唯々諾々と肩代わりした。ダブリンの街では一人で食事する身なりのいい外国人を多く見かける。貸した金を取戻すのを見届けに来ているのだ。この章を締めくくるのは、国会前に反銀行スローガンを描いたミキサー車で乗り付けた男と、銀行の株主総会で経営陣に腐った卵を投げつけたおじいさんのエピソード。その他のアイルランド人はじっと耐え忍んでいる。

    ドイツ The secret lives of Germans
    ドイツ人の隠れたスカトロ趣味について。ドイツ人は糞の近くに寄りたがるが、中には踏み込みたがらない。言い過ぎだろ。しかし、ドイツ国内でバブルが発生すことはなかったが、ドイツの銀行は外国に向けて糞みたいな融資をした。ドイツ人は投資銀行業務には向いていない。しかし、バブルに踊らされていいカモになった。日本人と似ているみたいだね。

    カリフォルニア Too fat to fly
    シュワちゃん元知事にサイクリングしながらインタビュー。カリフォルニア州の選挙・議会・政治は大きな意思決定がしにくいシステムになっている。議員は物事を成し遂げるために選ばれるが、制度の壁に阻まれ、それを見て住民は選良に愛想をつかす。「侮辱の悪循環」と言うそうだ。その結果が財政破綻と公共サービスの低下。どこかの国みたいですな。住民自身まで借金体質なのは違うが。

    「世紀の空売り」に比べると、やや無理に書いた感があると言うか、どんぴしゃクリーンヒットではない感じ。でも皮肉な人物描写でヨーロッパ(&カリフォルニア)を切って相変わらず面白い。

  • http://mediamarker.net/u/naokis/?asin=4163730907『世紀の空売り』につづくルイスの著書。『ブーメラン』というタイトルは、アメリカのリーマンショックから端を発した恐慌が欧州に飛び火して、再びアメリカに舞い戻ってくることを示唆している。

    前作がかなり読み応えがあっただけに、やや物足りない。パート2の映画がパート1と以上に予算を費やした割には物足りないように。

    とはいえ、前作と同様、本書は政府・金融界の大物にインタビューに基づく裏づけのあるノンフィクションであり(カリフォルニア州からはシュワルツネガー前知事が登場)、荒唐無稽な金融陰謀論とは一線を画す。リーマンショックの本質を理解する良書と言えよう。

    5月1日の朝活読書会で紹介した。

    <目次>
    序章 欧州危機を見通していた男
    第一章 漁師たちは投資銀行家になった(アイスランド)
    第二章 公務員が民間企業の三倍の給料を取る国(ギリシャ)
    第三章 アイルランド人は耐え忍ぶ
    第四章 ドイツ人の秘密の本性
    第五章 あなたの中の内なるギリシャ(アメリカ)
    解説 それぞれの不幸 藤沢数希

  • サブプライム問題の欧米への波及について。

  • 積読にしておいたら文庫本が出てしまったので慌てて読んでようやく読了。
    2008年からのヨーロッパの財政危機に対して、なぜ危機が起こったのかについての各国のレポートである。
    まずはじめにアイスランド。伝統的な漁師の国で危険を顧みず漁をしていた漁師が投資家になり、リスクを顧みずに投資を続けたのが原因だとしている。もっとも、投資をするように勧めたのはウォール街の連中だったが。
    次にギリシャ。公務員が民間企業の3倍の給料を取り、その上公務員が多い。脱税は当たり前で、賄賂も横行している。その上、国家支出を粉飾していたとなっては話にならない。税金もみんなで払わなければ怖くないと言うことだろうか。ギリシャ人は陽気でいい人が多いらしいが、自分の利益だけを追求するのであれば国家が破綻するのは当然だろう。
    そして、アイルランド。国内不動産のバブルに乗って大きな開発をしたのはいいが、破綻。銀行の破綻を食い止めようと国が負債を肩代わりすることになるが、あとからあまりに額が多いことがわかり、結局税金として国民に大きな負担がかかっている。アイルランドから逃げ出した人もいるようだが、逃げられないアイルランド人はそれを堪え忍ぶしかない。
    その次は優等生ドイツ。「なぜ、ギリシャの放蕩をドイツが助けなければならないか」と言う議論は記憶に新しい。ドイツは規則をきちんと守り銀行家の意識も高い。それでも、サブプライム問題でドイツはかなりの損害を受けている。ドイツは格付け機関の評価による AAAという債券を優良債券として信じ込んで投資してしまったのが問題で、ウォール街の連中にしてやられたと言える。また、形式的にきちんとしていることを重んじることが裏目に出たとも言える。さらに、アメリカ式の接待漬けに感覚が麻痺した様子もうかがえる。
    そして、アメリカ。自由主義の名の下に自分の利益だけを考え、周りのことを考えない連中が州の財政を悪化させ、最後は自分の首を絞めている。州の財政が破綻し、警察官、消防士などの公務員が削減され、市役所が半ば閉鎖されているところもある。映画俳優のシュワルツェネッガーにカリフォルニア州知事時代のことをインタビューしており、議員が利益団体の意向に逆らえず重要ななすべき法案が成立しなかったことを語っている。
    本書はアメリカのウォール街の飽くなき利益追求がヨーロッパの各国の財政危機招き、ブーメランのように自分のところ(アメリカ)にかえって来るというのが本書のタイトルの由来だと言える。
    本書の訳者後書きにあるように、日本も国債を大量に発行しておりいったいどうなることか非常に心配である。結局は税金による処置しか考えられないのだろうが、税金を払っていない巨大企業が多いようなので、大いに矛盾を感じる。

  •  ブラッド・ピット主演で映画化された『マネー・ボール』の著者が、欧州危機で瀕死の状態に陥ったギリシャ、アイスランド、アイルランド、そして一人勝ちとみられているドイツを訪れる。じゃぶじゃぶのバブルに踊った3カ国は、カネをつかんだときにどんな行動に出たのか? それがはじけたときどんな姿を見せたのか。
     漁師の国から一転「金融立国」を目指したアイスランド。なぜ彼らは、ど素人の自分たちを「金融の才能がある」と思い込むことができたのか? 公務員が民間企業の三倍の給料を取るギリシャでは、GDP統計の粉飾、賄賂・地下経済の横行、収税吏までが不正をする徴税能力のなさなど、EU加盟国とは信じられない無残さがさらけだされる。アイルランド人は自分たちだけがうまい汁をすった銀行を国税で救ってじっと堪え忍ぶ。ドイツ人は自分たちで浪費はしないくせに、せっせと彼らに浪費のためのカネを貸しまくる。
     ただの経済本ではなく、各国の国民性というところまで踏み込んだ観察がユニークだ。

  • ・ヘッジファンドのカイル・バスが保険であるCDSを買い、100万ドルの保険金に対する保険料は年間わずか1100ドル。保険料は終焉が近づくとともに一気に上がっていく。

    ・アイスランド
    漁師の国が、扱ったこともない金融取引で、価値のないものに、大きな価値をつけ、アイルランド人同士で交換し、無価値な資産を築いてきた。
    ・ギリシャ
    仕事をしない公務員が民間の3倍の給与を得て、賄賂、年金と受取り、最後には銀行に火を付け出す。国民は税金を払わず、土地の登記簿はなく、国家予算のない国。
    巨額の赤字、負債を帳簿から消してしまう図太さ、EUに加盟し調達コストを10%も引き下げたが、今の負債は結局ドイツが引き受けることになる。この国に、自らの責任を取る覚悟があるのか。
    ・アイルランド
    2007年の財政赤字がGDPの32%とユーロ一の数字。
    かつてない不動産パブル、GDPの4分の1近くが建設業が占め(標準は10%以下)、5分の1の人口が従事している。街はからっぽの建物だらけのゴーストタウン。
    銀行の破綻には、預金保証さえすれば良いのに、政府は税金による救済を行い。債務は国民に転嫁された。それでも国民は耐え忍ぶ。
    返済見込みのある債務を持つものは銀行の言いなりになるが、途方もない債務を持つものは銀行を言いなりにできる。
    ・ドイツ
    最後のCDSの引き受けて。
    ドイツはサブプライムローンからギリシャ国債に手を出した。そしてギリシャを救済することで、ギリシャ銀行からドイツの銀行に返済がなされるという構図を作り出した。
    ・アメリカ
    無駄使いで財政難を引き起こした知事をリコールして、選ばれた知事が改善案を出しても、市民は拒否する。自分の利益が縮小するからだ。
    おかしな状況で選ばれたんだ。おかしな状況に乗り込んで行こう。
    意味のある変化を起こすには、必要量の苦痛を与える環境が不可欠だ。

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