探検家、36歳の憂鬱

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163754703

作品紹介・あらすじ

冒険とは何なのか、角幡唯介は何者かを知れる、珠玉の8本の初エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • こちらも、談話室でお勧めを受けた、探検家、角幡唯介さんのエッセイ。
    早稲田大学探検部での思い出、探検をネタに「文章を書く」こととのジレンマ、富士山登頂記、人はなぜ冒険を求めるのか…などなど。
    壮絶な探検からは離れた、素の角幡さんが見えて、何度も爆笑。
    特に、3度雪崩に遭ったときの話は、生還しているからこそ笑い話にもできるというものだけれど、どこかコミカルで面白い。
    角幡さんは、2度目に雪崩にあう前、焦って無理な行動をとってしまうのだけど、その理由が「早く帰って焼肉を食べたかったから」。雪崩に完全に呑込まれ、生きることを断念せざるを得ない状況に追い込まれて考えたのは、「自分はどう報じられるのか」というつまらないことだった、とか。
    屈強な肉体を持つ同伴者が、奇跡的に、雪崩に呑まれることなく耐え切ったので、角幡さんは雪の下で埋まっているところを見つけてもらって生還をとげるのです。
    そして第一声がこれ。
    「信じられねぇ!助かった!」
    読んでいて、私も、信じられねぇ!この人、ほんまに強運!と思いました(笑)。
    山で食べるラーメンの話、新聞の「ひと」欄に登場したとき、新聞社にマニアックな指摘をしたのが自分の父親だった話、足のしもやけの話など、日々の気の抜けたブログも、ぷっと笑えるオチがついていて、本当に文章がうまい。

    そんな面白い角幡さん、きっと話上手で、雪崩ネタなんかでつかみもオッケー!だと思うのだけれど、合コンでちっともモテなくなったのが目下の悩みとか。
    (意外なことに)角幡さんにも、家庭的なぬくもりに憧れを持つ一面があるらしい。
    探検家の仕事を理解して、キチンと家のことをしながら待っていてくれる女性もいるんじゃないかなと思ったが(作者近影で見る限り、けっこうイケメンだし。笑)、読み進めるにつれ、モテなくなった理由もわかるなぁと。
    自己分析されているように、単純に年齢と職業の問題もあるかもしれないけれど、この人は、一般女性にとって、「友達としては面白すぎるけれど、旦那にするには荷が重すぎる」人で、ツアンポーや北極の探検を経て、その手に負えない感がどんどん増しているのだろう。
    角幡さんが合コンで結婚相手を探すようになったのだとすればなおさら。

    “つまり冒険と呼ばれる行為は、つま先の皮膚感覚から脳内で勝手にこしらえた抽象概念に至るまで、あらゆる感覚を総動員して、世界の中で自分が生きていることを確認したり、あるいは自然から強制的に確認させられたりする、そういった一連の作業のことなのである。そしてその感覚を支えているのが、まぎれもなく身体なのだ。”(155頁)

    これは、富士山に登るたくさんの若者を目の当たりにし、それは、身体性を喪失するという「現代病」にかかった現代人が、身体性の回復を求めて登山をするようになったのだろう、という考察に続いての部分。
    このあたりは、まだ頭の中で理解できる範疇にあるのだけど、

    “結局のところ冒険を魅力的にしているのは死の危険なのだ。死の危険が隣にあるからこそ、冒険や登山という行為の中には、人生の意義とは何なのかという謎に対する答えが含まれているように思う。”

    “ツアンポー峡谷から帰って来た直後から、私は、あの絶望を感じたときと同じような目にもう一度遭いたいという気持ちを抑えることができないでいる。そしてそんな自分に時折うんざりする。どこを旅すればツアンポー峡谷で体験したような生の淵の、できればもう一歩先まで到達し、しかも都合よく生還することができるのだろう。”(222頁)

    ここまでくると、ムンムンと危険臭が漂ってくるというか…!
    他の探検家、冒険家と同じように、角幡さんもどんどん更なる危険に突き進んでいくことが予想されて(本人もそういっているが)、知人でもない単なる読者の私からも危ぶまれてしまいます。

    この北壁を登ってなお山に登り続ける者は多くないという、登山をする者にとっての三大北壁が、「就職、結婚、子供」らしい。
    でも角幡さんの場合は、お嫁さんや子供ができたからって、探検への渇望が減少するとはちょっと思えないお方だし、「結婚、子供」の北壁ごとき、のっしのっしと登り切ってしまうだろう(キミたちのために、今度の探検は必ず成功させるよ!と言って出発しちゃうイメージ)。
    北壁の方がスタコラと逃げていくのも道理。

    一読者として、どうか御無事で探検から戻ってきて、これからも本を書き続けてください、と祈っておくことにする。

    • 円軌道の外さん

      スゴく面白い探検家なんですね(笑)

      マリモさんの文章が上手いから
      ドキュメンタリーを観てるみたいに
      この人の人間性に興味が湧...

      スゴく面白い探検家なんですね(笑)

      マリモさんの文章が上手いから
      ドキュメンタリーを観てるみたいに
      この人の人間性に興味が湧いたし(笑)
      スッゴい惹きつけられました。


      “結局のところ冒険を魅力的にしているのは
      死の危険なのだ”

      は分かる気がするなぁ〜(^_^;)


      自分は探検家ではないけど
      プロのボクサーで
      命をかけてリングに立つので、

      なぜ人はボクシングに惹かれるのか?

      と根っこの部分は
      通ずるような気がしました。


      山登りのノンフィクションというと
      沢木耕太郎しか読んだことないけど、
      植村直巳さんの本も昔好きだったので、
      コレも個人的にハマりそうな予感がしてます(笑)


      ドキドキ〜♪



      2013/02/06
    • マリモさん
      円軌道の外さんは、プロボクサーなんですね。
      角幡さんのいうところの「生の実感」を、ビシビシ感じておられるのだろうなぁ…!
      うーん、すごい。ど...
      円軌道の外さんは、プロボクサーなんですね。
      角幡さんのいうところの「生の実感」を、ビシビシ感じておられるのだろうなぁ…!
      うーん、すごい。どきどき。
      死の危険から生を感じるというある種の興奮は、探検に限らず、ボクシングやF1、危険と常に隣り合わせにしたスポーツにも通じるのか…と気づかされました。

      私の拙いレビューでどこまでお伝えできているか心もとないですが、興味を持っていただけたならうれしいです。
      私も、沢木さんの「凍」を読んで、震えるほどに感銘を受け、登山家に興味を持つようになりました。
      角幡さんのツアンポーの探検は、「空白の5マイル」にあるのですが、この本を出したことがわかっていてなお、角幡さん死んじゃうんじゃないか・・・!と思うほどに壮絶です。
      こちらのエッセイは、ちょっと気の抜けた部分もあって読みやすく、面白いです。
      2013/02/06
  • いやーおもしろかった。
    角幡さんの文章って淡々としてるんだけど、なんかユーモラスで楽しい。
    わはは~っと笑いながら読める。
    でも結構深いとこついてたりもして。

    震災のブータン的日本人、がちょっと笑えた。
    キラキラした感じ、かあ。
    いわゆる災害ユートピアってやつだっけ??
    なるほど、っと。
    それに乗り切れなかった自分に引け目を感じる、とゆーようなことを書いておられたけど、ちょっとそこは共感。
    心を痛めはしたけれど、なにかできることがあるならしたい、とは思うのだけれどどこか他人事であるような意識があるのは否定しがたく、
    でも角幡さんはそれでも自分の身体でなにかを感じようと、出かけていったとこがすごい。
    角幡さんにとっての唯一の震災体験。
    でも、それを実感としてもってるってことは大事なんじゃないか。

    山登りとしては富士山はそう魅力的な山ではない、とゆー意見に
    へーそうなんだーっと思った。
    まあ、あれだよね、富士山って、登山が理由なんじゃなくて、
    その存在ってゆーか、富士山ってゆー物語をみんな味わいたくて
    登ってるんだろーなー。
    私は見るだけで十分だけど。
    だって綺麗じゃん。

    冒険、とゆーものに対する、定義づけ、とゆーか考察、が興味深かった。
    でも、どうあっても言葉にしきれないもの、ってのはあるんだろーなーっと思う。
    冒険って、言葉だけできくと、なんかわくわくするような、
    まるでハリウッド映画の世界、みたいなイメージだけど、
    イメージと実際の間にはかなり深い溝があるよな。
    しっかし、神田さんの話は衝撃だった。
    2008年って結構最近じゃん。うーん、そんな人がいたなんて
    知らなかったなー。

    死、とゆーものを現実的に手触りとして知ってるってゆーのはやはり
    なんか、違う、もんなのだろーか。
    冒険って、なんか修行みたいだな。
    おぼうさんは悟るために、命をぎりぎりのところにさらすんだろうけど、
    では冒険家は?
    悟るため、じゃないよなー。
    ただ、知りたい、のかな?

    あ、そーいや、著者写真で、初めてまともな角幡さんの顔みた。
    なぜか雪男っぽい人をイメージしてたので、
    ふつーにかっこよい人だったのでびっくりした。
    コンパの戦績が~っと嘆いていらしたが、いやいや、実はモテてるんじゃないだろーか。

  • 探検家36歳、独身、合コンに行ってもその肩書だと「なんで?」と言われて全くモテない、という赤裸々な話から始まってシビアな話が満載。探検家で金持ちの人っていないそうです。★3つ

  • 「空白の五マイル」「雪男はむこうからやってきた」の著者による「探検家であるということ」をめぐるエッセイ。

    前人未踏の冒険というものが成立しにくい現代に、なぜ自分は探検に駆り立てられるのかということを真正面から考えている。著者にとっては極めて切実な問いなのだろうが、その問題意識を共有できない人にとってはややくどい感じかもしれない。しかし、力のある文章でぐいぐい読ませる。面白く読んだ。

    そうなんだけど…。冒頭のエッセイでいきなり「女々しい」とか「キャバクラに行ったり」とか、ちょっとちょっと!という発言が連発されて、あらま、という感じであった。どうしても比べたくなるワセダ探検部の先輩高野秀行さんとはずいぶん肌合いが違って、やっぱり高野さんはいいなあとまたまた思ってしまった。

    「合コンの成功率」(ってなんですか?)が最近低いそうですが、「ワセダ三畳青春記」を読み直して考えてみたらどうでしょう?なんて意地悪なことをちょっと思いました。

    • カレンさん
      「空白の五マイル」を読んで、ちょっと注目していました、角幡さん。
      でもこの本知りませんでした(ぜんぜん注目してない?)
      早速チェックして...
      「空白の五マイル」を読んで、ちょっと注目していました、角幡さん。
      でもこの本知りませんでした(ぜんぜん注目してない?)
      早速チェックしてみます!
      2012/09/24
    • たまもひさん
      「五マイル」も「「雪男」もとても面白く読んだんですが、好きか?と聞かれるとちょっと…。
      高野秀行さんは大ファンですが。比べるのは良くないか...
      「五マイル」も「「雪男」もとても面白く読んだんですが、好きか?と聞かれるとちょっと…。
      高野秀行さんは大ファンですが。比べるのは良くないかな。
      2012/09/25
  • 290.9

  • 8月に富士登山に挑戦したばかりなので、「なぜ最近若者に富士登山が人気なのか」というテーマがあったのが気になった。

  • 2017/02/01 読了

  • 2016.may

    自叙伝とエッセイ集の間のような。途中に挟まれてるブログからの抜粋がつまらなかった

  • 今最も注目される探検家&ノンフィクション作家のひとりである角幡唯介のエッセイ。
    冒険のような自分の体験を基にノンフィクションを表現する場合、ノンフィクション性は担保できるのか。故植村直己の冒険が大きく報道されていた頃までのような、一般の人々が納得できる冒険の対象がなくなった現代において、何故冒険をするのか。冒険の魅力を究極的に高めるものは何か。など、探検家&ノンフィクション作家の著者ならではの切り口での考察が綴られている。特に、沢木耕太郎の「ひとたび「物書き」になってしまった以上、さりげない旅などできはしないのだ。」という表現を引用してノンフィクションを成立させる難しさを語る部分は、ノンフィクションの好きな私にとって、改めて考えさせるものだった。
    (2014年9月了)

  • 探検家。三浦雄一郎や野口健などのカリスマを除くと、ほとんどの探検家は人知れずに冒険を計画し、実行する。その冒険が成功しても盛大な祝福が待っているわけではない。コドクでオタクで自己満足な職業だ。そんなことに命かけるなんてと、軽蔑する人もいるだろう。

    さらに探検家が厄介な職業なのは、目標を達しても、次なる目標を考えてしまうこと。しかも前よりも過酷で危険な目標を。それは目標ではなく、強迫観念に追いかけられているようだ。

    探検家兼ノンフィクションライターの著者はそんな探検家の業に縛られ、憂鬱を感じる1人。しかも、ライターである業にも縛られ、冒険に読者を喜ばせるサプライズを無意識に求めてしまう。安全な旅よりもあえて危険な選択をして、そこから脱出したことに満足する。

    こうしたジレンマを感じつつも、コンパしたい、モテたい、結婚したい、という36歳の願望を隠すことなく軽妙なエッセイにしてしまうのが、著者の持ち味。

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プロフィール

1976年、北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。同社退社後、ネパール雪男捜索隊隊員。『空白の五マイル』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で新田次郎文学賞受賞。『アグルーカの行方』(集英社)で講談社ノンフィクション賞受賞。

「2014年 『地図のない場所で眠りたい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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