無私の日本人

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 48
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163757209

作品紹介・あらすじ

『武士の家計簿』から九年、歴史家・磯田道史が発見した素晴らしき人々。穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月。江戸時代を生きた三人の傑作評伝。

感想・レビュー・書評

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  • ごく普通の江戸人であった「穀田屋十三郎」とその同志、更に「中根東里」「大田垣蓮月」ら三人の生き方に、ひとの幸せとは何かを問う一冊。
    読むまでは一切知ることもなかった、その名前。
    泉下に苔むした三人の清冽な生涯が、読後もずっと心を捉えて離さない。

    ひとり目の穀田屋十三郎については「殿、利息でござる!」の場面をあれこれ思い出しながらの読書となった。映画で熟知しているはずの展開でも、著者の持つ文章力に惹きつけられ、しばしば涙で先が読めないほど。
    話の途中で差し挟まれる当時の江戸についての様々な知識も興味深い。

    後書きによれば、この本の成り立ちは少し変わっていて、東北の仙台近くの「吉岡」というところに住む老人からの手紙で始まったという。
    貧しさのあまり今にも滅びそうな吉岡を、命がけで救った九人の先人たちがいたというのだ。
    どうかこの話を本にして、後世に伝えて欲しいという老人の願いに突き動かされ、著者がいつものごとく史料を集め出し、とうとう「国恩記」という古文書で出会っていたく感動。
    そして九人の話を書きだしたらしい。

    貧しい町を救うと言っても、現代とは政治の仕組みもまるで違う。
    お上の許しなく、三人以上が秘かに集まってご政道について語れば、それは「徒党」となり謀反同然の行為とみなされる。
    秘密裏に、ひたすら真摯に語り、訴え、まるで将棋倒しのように同志の輪が広がっていく様は感動そのもの。
    驚くことには今もなお、穀田屋十三郎のご子孫の皆さんは「先祖が偉いことをしたなどと言うてはならぬ」という教えを固く守り、謙虚に勤勉に暮らし続けているという。

    本当に大きな人間とは、世間的に偉くならずともお金を儲けずとも、ほんの少しでもいい、濁ったものを清らかな方に変える浄化の力を宿らせた人である。
    学びの道に生きた「中根東里」と、周囲を慈愛の心で包み込んだ「大田垣連月」とも、妬ましいほど幸せにみえるのは、私ひとりではないだろう。
    他人よりも自分、「自分大好き」などという言葉が恥ずかしげもなく使われる現代。本来なら口に出していうのも憚られるものだ。
    だから勉強して理性を磨き、自分も他人も同じく大切に思えるようにする。
    しかしここに登場する三人は、自分よりも他者を思い、今よりは未来を思い、そのために生涯さえも捧げた。 
    江戸人が普通にもっていた[廉恥]を、どうにかして自身の内にもたぎらせたいのだが、私はその方法さえ知らない。。。この本を傍らに置き、繰り返し読むことにしよう。 

  • 知り合いから紹介されて読んだ本。「武士の家計簿」から10年あとに書かれた 史実を下地にした三人の人物評伝。
    疲弊するばかりの地域をなんとか踏みとどまらせる為に有志で募った大金を資金需要時の藩に貸してその利息で地域安定に腐心した穀田屋十三郎。
    当代随一の儒学者になりながら安定した生活を取らず終生貧しい道を歩きながら真理を平易な言葉で語り続けた中根東里。
    さる城主の落とし胤として生まれた女性、才色兼備で武道も熟達するが不遇な人生が続いて出家する。のち和歌や書や焼き物に秀でた力を発揮し評判となるが、得た財は全て貧しい他者の為に費やす人生に徹した大田垣蓮月。
    映画「殿、利息でござる!」の元になった穀田屋の編はドラマ的には面白いけど、好きなのは蓮月の編だった。

  • 2013年1月27日に開催された、第2回ビブリオバトルinいこまで発表された本です。
    テーマは「手紙」。
    チャンプ本。

  • 歴史に埋もれた日本人を掘り起こした評伝。
    題名は今一つだが、内容は確かにその通り。
    ところどころ文体が司馬遼太郎に似ているのは、小説ではなく評伝だからなのか。

  • 帰宅途中の立ち飲み屋で読み始めたのが間違い。
    焼き鳥食いながら不覚にも涙してもうた。ww
    3部構成それぞれの主人公たちを突き動かす義とか理は、言葉で表現できる範囲を遙かに超えている。それを作者はうまく当時の会話を想像し、地の文をうまく混ぜ込みながらドラマチックに描写している。その現場にいる感じが味わえる。
    とにかく、胸がすく思いになる。

  • 記憶に残る人

  • 図書館

  • 穀田十三郎・・・武士にお金を貸し、利子で郷里を潤す、という前代未聞の大事業を八人の同志とともに成し遂げ、貧困にあえぐ仙台藩吉岡宿を救った。

    中根東里・・・荻生徂徠に学び、日本随一の儒者になるが、士官せず、極貧生活を送る。万巻の書を読んだ末に掴んだ真理を平易に語り、庶民の心を震わせた。

    太田垣蓮月・・・絶世の美人だったが、不幸な結婚を経て出家。歌を詠み、焼き物を作って過ごした。内線を早く終結させるよう西郷隆盛を諌める歌を送った。
    ・・・・
    300年前の、幼児虐待を書き残した東里の文章、涙がこぼれた。

    あとがきの一文にいわく・・
    「ほんとうに大きな人間というのは、世間的に偉くならずとも金を設けずとも、ほんの少しでもいい、濁ったものを清らかなほうにかえる浄化の力を宿らせた人である。」

  •  歴史学者の磯田道史氏による史伝集。
     穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月らを題材とした歴史評伝。
     普通の江戸人たちが持っていた、豊かで深い生の哲学。
     知る人ぞ知る、慎ましくも篤い情熱を持つ者が、日々の暮らしに奇跡を起こし、心願成就へと導き、歴史の痕跡となる。
     『市井の神々』とは此処にあろう。
     他者を労わり、郷を憂い、国を想い、行動を為した人間らの血脈を、丁寧に書き起こして世に知らしめた、著者の熱意も素晴らしい。
     簡易平明な文体は、寧ろ、洗練された学術的裏付けを持つ、奥行きのある文章であると言えよう。
     穀田屋十三郎に関しては、後に映画化(「殿、利息でござる!」)もされており、そちらも併せて楽しめる。

  • 私財を投げ打つといっても、ここまでの覚悟で、しかも家族全員や仲間が同じ気持ちでやってくれるとは!こんな話が史実であり、紹介してくれたこの本の作者に感謝します。読んで良かった。

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著者プロフィール

磯田道史(いそだ みちふみ)
1970年、岡山県生まれの研究者。茨城大学、静岡文化芸術大学などを経て、国際日本文化研究センター准教授。専攻は日本近世・近代史・日本社会経済史。
実家は備中鴨方藩重臣の家系で、古文書が豊富にあった。高校生のとき実家と岡山県立図書館の古文書を解読している。京都府立大学文学部史学科、慶應義塾大学文学部史学科を経て、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。「近世大名家臣団の社会構造」で史学博士号取得。
2003年刊行の『武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新』が第2回新潮ドキュメント賞を受賞し、2010年森田芳光監督により『武士の家計簿』のタイトルで映画化し大ヒット。2015年には『天災から日本史を読みなおす』で第63回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。その他代表作に『日本史の内幕』などがあり、多くの新書がヒット作となっている。

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