カウントダウン・メルトダウン 上

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163761503

作品紹介・あらすじ

政府や官庁からまったく独立した科学者や弁護士、ジャーナリストらのチームが福島第一原発事故の原因と被害の拡大について調査した「福島原発事故独立検証委員会調査・検証報告書」は、2012年3月に発表され大きな話題となりました。
書籍化した報告書は10万部を超えるベストセラーになり、報告は、「民間事故調の報告」として内外のメディアが繰り返し報道しました。

その「調査」を指揮、プロデュースした船橋洋一氏が、この「民間事故調」での調査以降も独自に、ワシントンの要人、内閣の閣僚、浪江町、飯館村、米NRCなどに取材をし、福島第一原発事故の「世界を震撼させた20日間」をノンフィクションとして描きます。

極限状況下で、日本政府、アメリカ政府、軍、東電はどう動いたか、神は細部にやどるといいますが、様々なエピソードが叙事詩のように詰みあがっていきます。

特に、アメリカ国務省の要人らによるインタビューによって、初めて米国があのときどのように動いたかがこの本で明らかになります。

感想・レビュー・書評

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  • 福島本だけど、すぐに危機管理の視点に(自分の中で)変わった。
    危機対応時に何が予想外だったのか。

    ・12日の午後、1号機の原子炉水位がTAF-1600mmからTAF1800mmの間で安定しているとの数値が送られてきた。
    水位は、燃料頂部から1.6メートルから1.8メートル程度まで下がっているということである。
    炉心水位が炉心有効長の約55%(ほぼTAF-1600mmに相当)以上に保たれていれば、つまり燃料全体の約55%が水に浸かっていれば、ジルコニウム―水反応が激しくなる事はまずない。従って、水素の大量発生も炉心の溶融も起こりにくい。
    <TAF-1700mm前後に維持できているのであれば、当面急な事故の悪化はなさそうだ。今しかない。>
    阿部は、自宅に仮眠を取りに帰った。帰宅したとたんに1号機で水素爆発が起こった。ただちにJNES(原子力安全基盤機構)に戻った。
    JNESは、翌13日午後1時半頃、JNESと保安院とのテレビ会議を開いた。阿部は「このように炉心水位がまったく変動していないのは現実の事故ではありえない。水位がこのレベルに維持されていてシビアアクシデントが進行する事はありえない。水位指示値は信頼できない」と述べた。
    …ただ、阿部にしても、水位計が故障していると確信したが、直流電源が機能停止に陥っていたことには思い至らなかった。原子力安全委員会も「どうも違うのではないか」と疑い始めていた。ただ、それもやはり1号機の爆発後だった。それまでは水位計の計測する水位を「あたかも本当の数値であるかのように」見ていた。

    ・保安院創設に深く関わった松永和夫経産省事務次官は当時を振り返る。
    「マルゲン印(〇に原子力の原)をつくろうと目指しました。鮭と鱒が生まれた場所に変えるように、保安院に行った人間は必ず保安院に帰るようにしよう、そうしてプロを育てよう。それ以外に安全規制の強化はない、とわれわれは考えた」
    しかし、筋金入りの安全規制のプロはごく少数の例外を除いて育たなかった。発足後、原子力関連事故が続出し、保安院はその対応に追われた。
    2002年の東電原発データ改竄事件、2004年の関電美浜原発3号機の2次系配管破損事故(5人死亡)、2005年の宮城県沖地震発生に伴う女川原発の原子炉自動停止、2006年の耐震バックチェック事件、2007年の新潟県中越沖地震発生による東電柏崎刈羽原発の火災など、ほぼ毎年、事故・事件が起こっている。
    結局、保安院は「再稼働家」になってしまった、と保安院幹部は自嘲気味に言った。事故が起こった後、いかにして原発を再稼働させるか。地元を説得し、その術に長けた職員が重宝されるようになった。
    そして、「地元を安全だと言って説得すると、今度はそれに縛られる。そこから安全神話が生まれる(同幹部)」。自縄自縛に陥った。

    ・菅が、その「実務的オペレーションの統率」の具体的イメージに言及したことがある。13日午前の第5回原子力災害対策本部会議に先立って開かれた緊急災害対策本部会議の席上である。
    菅は、「枝野、福山、細野、寺田にダイレクトに情報を集めて、動いています」と明言した。
    ここに海江田の名前は入っていない。危機管理センターにも伊藤哲郎危機管理監にも触れていない。その後の放水作戦で大きな役割を果たすことになる北澤俊美防衛相も念頭にない。
    菅はその時、その程度の指揮所のイメージしか描けなかった。危機に当たっての指揮所のあり方は考え抜かれておらず、各人各様のバラバラのイメージを抱いていた。

    ・3号機が爆発したとき、宮島は、一切、現地に質問しなかった。
    <現場もわからないのだろう。わかったら、報告してくるはずだ>そう割り切った。
    「黙って聞け、質問するな、耐えろ」
    宮島は、そのように危機の時の心構えを部下に説いた。
    「わかったことだけ報告しろ」と。
    最初に質問する癖のある指揮官や何もかも報告させようとする指揮官には、部下は、質問された場合のことを考え、「しっかり準備をしてから報告しようとする」。その結果、第一報が遅れる。
    だからまず「黙って聞け」。
    黙って聞いた後、「報告ありがとう、第二報も頼むよ」。
    もう一つ、「指揮官通話」(指揮官が指揮官に直接報告すること。電話報告がほとんど)を督励した。「伝言ゲーム」を避けるためである。
    (宮島=自衛隊、宮島俊信陸将。中央即応集団司令官。)

    ・北澤の言葉を使えば、「自衛隊が警察や消防などの関係機関を指揮下に置いて任務にあたるのは、自衛隊史上初めての試みだった」。

  • その後、なんとか冷温停止状態に持ち込んだという事実を知っていても、読んでいるうちに恐ろしくなる。2013年3月10日付け読売新聞書評欄。

  • 件の原発事故に関するドキュメンタリー。色々なことを考えたがせっかくなので忘れぬためにも記述。一つは、今回の事故は防ぎ得ただろうということ。そもそも政府と事業者による運用上のリスク管理が全くできていなかった。正直信じ難い。原発反対運動に揚げ足を取られないようにそうなってしまったようだが。 残念だと思う。そしてそういう状況を招きつつそれを追求できなかった反対運動家にも責任の一端があると思う。二つ目に、官僚及び東電各マネジメントの責任回避行動が酷い。これは上記件の原因の一つでもあると思う。しかし残念ながら「あるある」なケースが多く、日本人、特にエリート層の行動原理そのものとも思えた。彼ら当事者が悪いと言うのではなく、日本人全員が反省しマインド・チェンジしなくてはならないと思う。分かりやすく言うと、東電が悪い悪い言われているが、日本人(私)が愚かなんだと認識しろということだ。三つ目、これまで菅首相が多く批判され、この本でも悪く書かれていた。確かにマネージャーとしての資質の問題はあったと思うしもっと上手くやれる人はいるだろうと思う。が、総じて、当時感じていたよりは管首相含め(民主党の)政治家は的確に機能していたと思った。四つ目に、当時、事故当日から数日にかけて私が得ていた状況認識、ネットから得られていたものにすぎなかったけれど、それが意外にもかなり適切だったということに驚いた。そして日が経つにつれ段々情報が得られなくなっていたようだということがわかった。当初ダダ漏れ、だんだん情報がコントロールされていく過程があったんだと思う(評価は別として)。最後、この本について言うと、筆者の取材力はすばらしいが、一般向けの本にしよう思ったが故か、構成がテーマ仕立てかつ叙情的な記述であり事実を時系列に把握しずらい。まあ報告書じゃなく一般書なので仕方ないといえば仕方ない。

  • 【要約】


    【ノート】

  •  日本を代表するジャーナリストの著者が、福島第一原発事故の最も過酷な時期――発災からの約20日間に照準を絞り、その舞台裏を描き尽くしたノンフィクション。計1000ページ近い大著だ。

     日米の要人300名余に対する取材をふまえ、「戦後最大の危機」の全貌が、鮮烈な臨場感をもって多面的に再現されている。デイヴィッド・ハルバースタムの諸作を彷彿とさせる、重厚な力作である。

     福島第一原発事故については、すでにノンフィクションや当事者の回顧録が多数出版されているが、本書はその決定版といえる。今後長きにわたって、事故を振り返る際の基本文献となるに違いない。

     積み重ねられていく事実の背後に浮かび上がるのは、原発事故があぶり出した日本の組織社会の病弊そのものだ。日本の官僚組織(本書ではおもに経産省と文科省)が、平時はともあれ、非常時にはいかに役立たずであるかが如実に示されている。
     東電も、私企業でありながら官庁以上に官僚的な組織であり、そのダメさかげんが執拗にリフレインされて描かれる。
     読者の大半が思うことだろうが、中央官庁よりも自衛隊のほうが、組織としてよほどまともである。

     ただし、東電にも、福島第一原発の吉田昌郎所長(当時)のように勇敢で優れたリーダーはいた。民主党政権の中にも、本気で闘った人物はいた。著者は、事故対応の当事者たちの言動を、中立的視点から是々非々で評価していく。
     当時の首相・菅直人に対しては、そのリーダーシップの欠如などについて率直な批判がなされるが、それでも評価すべき点は虚心に評価している。

     その意味で本書は、リーダー論・組織論・日本社会論としても読みごたえがある。

  • 3.11の東日本大震災による福島原発の事故に対する政府、東電、自衛隊、消防庁、警察、などの対応を臨場感ある筆で詳述している。テレビ、新聞でしか分からなかったその当時の現場の緊迫した様子が分かる。誰が総理だったからということは、後からなら何とでも言えるが、そのときには誰でも必死で対処したことがわかる。しかし、部下をうまく使うのも上に立つ人の能力だろう。怒りと叱責だけでは人は能率よく動かない。

  • 2012年刊。
    著者は元朝日新聞主筆で、福島原発事故独立検証委員会主宰。

     あの福島原発事故を巡る事故現場、東電本部、官邸、そして経産省や保安院他、事故直後の関係者の模様をビビッドに叙述する上下巻中の上巻。
     著者は「同盟漂流」「ザ・ペニンシュラ・クエスチョン」など外交の裏側を鋭いメスで切り開いてきた調査報道の雄である。

     現場とのホットライン、情報の集約。そして危機的状況を想定した事前の行動計画(時に過剰なほどの危機想定は可のはず)。これらにつき、計画は皆無だが、組織策定の法規範の整備は不完全ながらも存在した。

     そんな中、上巻で窺える点は、
    ➀ 東電本部の危機意識の欠如。
    ➁ 東電本部に入っていた生情報を官邸と経産省に上げなかった怠慢(故意か否かはどうでもいい)。大体常時電話を繋ぐくらいはできたはず。

     一方で、ここまで情報が上がってこなければ、政府も誰も正しい判断はできなさそうだ。
     また一度怒鳴られたくらいで腰砕けになる保安院職員、我関せずの対応の経産省職員も流石にどうかと…。
     官僚出身の官邸政務官の「官邸危機管理で露わになった官の劣化」「事務(行政)…が死んで」「原発事故に関し…こんな情報がありますと上げてきた者も皆無」。との述懐が物語る。

     他方、政府と東電の対策統合本部の言い出しっぺが、東電からの情報遮断に業を煮やした菅直人の点は意外とも(経産官僚や秘書官の誰も、また内閣官房の枝野や福山も想起できず)。


     その他印象的なのは色々あるが、中でも「(福島原発の)複数炉がやられた場合」の避難指示の距離を訪ねた際、東電社長の「余裕を見て30キロでしょうか」という他人事の如き発言を受け、さらに菅の「六基全部やられたら(現実の可能性があった)どうなんだ?」との質問に対して、東電側が誰も答えず(未想定か被害規模の甚大さに応答不可能だったか?)。というもの。

     未曽有の危機に対する感覚欠如というか、解決への執念というものが東電幹部に感じられなかった(統合対策本部ができてからも情報開示に消極的であったことと相俟って)としかいいにくい様が見て取れる。

     先に読破した「あんぽん孫正義伝」中の、3.11への様々な対応に触発されて積読の本シリーズを紐解くが、正月早々何とはなく暗然とした心持ち、「なんだかなぁ」という心持ちになった次第。
     まぁ下巻も紐解くつもりだが…。

  • 元朝日新聞記者による福島原発事故のレポート
    東日本が人間が住めなくない土地になるのでは・・・・・と危惧されるまでギリギリ追い詰められた状態だったが、神のご加護(風が太平洋側に吹いていた等)と各員の頑張りにより事故は収束する。
    事故の収束にあたった作業員の方らは将来間違いなく被曝の影響が出るだろう。(実際出ているらしい)
    当時の民主党政権の菅直人首相の動きから、リーダーとは・・・につき考えさせられた。
    個人的意見だが、長期的には原子力発電所は全て廃止すべきだと思うね。

  • 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故。本書は震災
    直後からの原発危機の20日間を綿密に追い、上下巻にまとめ
    たノンフィクションである。

    東日本大震災及び、福島第一原発事故に関連する出版物は
    何冊か読んで来た。本書の著者は原発事故の民間事故調査
    委員会をプロデュースひた人物だけあって、これまで読んだ
    作品よりも内容が濃く、臨場感に溢れている。

    大震災、津波、そして原発事故の複合災害。未曽有の危機に
    直面した政府が民主党政権だったまずは日本の最大の不幸だ。

    否、自民党だったらうまく対処できたというつもりはない。多分、
    どの政党が政権にいてもあたふたしただろうとは思う。

    思うのだが、やっぱり酷い菅政権なのだ。外国人献金問題で
    追いつめられていた首相は、東日本大震災への対応で自身
    の起死回生を狙ったのか?

    官邸でも、視察に行った第一原発でも、乗り込んだ東電本店でも
    怒鳴り散らしてばかり。危機管理の最高指揮官、最高責任者。
    それがイライラしっぱなし。枝葉末節にこだわり、対局が見えない
    指揮官なんて指揮官じゃない。

    官邸もどうしようもないが、東電本店も救いようがない。当時の
    清水社長はお飾りだし、実権を握っていた勝俣会長にしても
    重大事故の責任感がないんじゃないか。

    「黙って聞け。質問するな。耐えろ」

    ある自衛官が部下に語った危機の際の心構え。菅直人という
    人はこれがすべて出来ない人だったんだな。

    私は原発事故対応時の菅直人、海江田万里を「人殺し」呼ばわり
    しているんだが、実はもうひとりいたのが本書を読んで分かった。
    細野豪志である。

    もう自衛隊にしか頼れない。そんな時、現場での作業でのネックに
    なるのが被曝量。それを無制限に引き上げ、志願制にしようと
    していた。

    自衛隊員なら死んでもいいのか。どあほう。北澤防衛相及び統合
    幕僚長が必死に抵抗してくれたのが幸いである。

    ダメすぎる政府にあって、北澤さんはいい働きをしてたな。さて、
    下巻も楽しみ。

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著者プロフィール

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。法学博士。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社入社。同社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長等を経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。2011年9月に独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(RJIF)設立。福島第一原発事故を独自に検証する「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」を設立。『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)では大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

「2021年 『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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