- Amazon.co.jp ・本 (492ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163764702
作品紹介・あらすじ
グーグル、アップルもここから生まれたIT技術の源、情報理論を発明した研究所の中の研究所。「何がイノベーションを生むのか」。米紙書評を総嘗めしたビッグアイデア本。
感想・レビュー・書評
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ベル研究所は、20世紀の主要なあらゆるテクノロジーの誕生に不可欠な役割を果たした。ラジオ、真空管、トランジスター、テレビ、太陽電池、同軸ケーブル、レーザー光線、マイクロプロセッサー、コンピューター、携帯電話、光ファイバー等がベル研究所のアイデアである。この本では、テクノロジーの開発に携わった多くの研究者が取り上げられ、終焉までの経緯をエピソードと共に紹介する。才能の多様性、失敗に対する寛大さ、大きな賭けをする意欲など大胆な方針で研究を推進した組織だった。
現代の快適な生活環境は、先人達の研究の結果であることを改めて認識した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
豊かな情報化社会を実現させたアイデアのほとんどを生み出したベル研究所、そこで働いた天才たちの物語。電話のサービスが開始された黎明期から、司法省との戦いに敗れ分割、縮小されるまでの栄枯盛衰を描く。最終章のイノベーション論は大変面白かった。次にNYに行く時は、ウエストストリートあたりをぶらついてみたい。ピアースによると、そんな私は奇特な人間らしいが。
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2014.2記。
日本では、しばしば「基礎研究を国が軽視しているから取り残される」という意見が聞かれる。一方で、「イノベーションを生み出すには競争が何より大事だ。国が裁量をふるってはだめだ」という意見も聞かれる。おそらく、そのどちらも正しいのだろうと思う。
この本を読むと、ベル研究所は、この二つのを軽々と乗り越えた組織だったように思える。AT&Tという巨大な独占企業の一部門であり厳然とした民間企業でありながら、一方で競争とは隔離されている。その研究所が現代社会を規定するような数々のイノベーションを生み出した。
このような組織が生まれた背景として、私に読み取れた点が少なくとも二つある。一つは、悲しいことだが「戦争」というものが技術進歩に与える圧倒的な影響力(これはベルに限ったことではない)。もう一つが、AT&Tの独占を打破しようとする米国規制当局の徹底的な圧力だ。ベル研究所は、独占の有効性を証明し続ける機能を果たしていたわけだ。日本でもある種の産業で独占の必要性は未だに議論され続けている。国策としてそれを維持することがありえるとしても、同時にそれに常にプレッシャーをかける別の国家権力が併存する。これはやはりとても健全なことだと感じさせられる。
それにしても、昔の「発明」と言えば、車輪とか、蒸気機関とか、とにかく「肉体労働のつらさ」を軽減するものが多かったのだな、としみじみ思う。ベルが1930-70年代に成し遂げた数々のイノベーションは結局は「通信」、すなわち誰かとコミュニケーションするための技術、と表現できるものばかりと思える。21世紀、今度は何がイノベーションの対象になっていくんだろう? -
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原題は The Idea Factoryであり、まさにアイデアの生産工場であった。(シリコンバレーをアイデアの集積地と読んでいる)
ベル研究所は巨大独占企業AT&Aのベル研究所であり、1984のAT&Aの解体により終焉を迎えた。
ベル研究所はノーベル賞級の科学者を集めて、全世界に影響を与えるイノベーションを生み出した。
p.176 マービン・ケリーの組織論。異分野の専門家を同じ場所で働かせてアイデアを交換すること。
p.181 大学院レベルの講義を提供した。さらに、高価な機械とともにフルタイムで働く数千人もの技術アシスタントがいた。
p.419 アメリカのエネルギー長官のスティーブン・チューは、ベル研時代の研究でノーベル賞受賞した。合成燃料、原子力、省エネ分野で画期的発明を生みだすようミニチュア版ベル研を作ろうとしている。
ベル研では理論だけではなく、製造まで対応しようとした。
☆これって、大学の話でもあるのではないか。 -
いま世の中にある数々の品々を、いかにベル研究所の人々が発明してきたか、綿密な取材によって書き表した作品。
これを読んでいると、なにかまだ発明されていないものがあってそれを発明して世の中を大きく変えることができるのではないか?と感じさせてくれる作品。 -
ベル研究所が現在の生活に欠かせない数多くの技術を生み出していることに驚いた.トランジスタ,コンピュータ,通信衛星等々.それらの発明を生み出せる素晴らしい環境を最初に作ったのが良かったと感じた.科学者が自由に討論できることもさらに重要だし,それが実現できたことが成功に至る秘訣だったのだろう.どんな組織にも下降線をたどることはある.でもどれだけのものを残したかが重要だ.
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裏表紙に記載されているTHE IDEA FACTORY。本書を読んでいる時に、その様な情景が想像できました。
戦後のタイミングから、多様な分野の専門家を集め、相互が気軽にアイデアを語り合うことができる様なロケーションの工夫をすることで、次々と創造的な発明を生み出す。アメリカの科学技術の勃興を起こしたベル研究所の歴史が綴られています。トランジスタや情報理論など今では当たり前に存在しているものが、誕生していく様を、ワクワクしながらページをめくりました。読書をしていてこんな感覚は、初めて村上春樹の小説を読んで以来かな。
このような科学技術の発展に最大限貢献してきたベル研究所も、現代では衰退している事実を考えると、本当に歴史の罪を感じます。と同時に、さらに歴史への好奇心が膨らみます。
最近は、企業の持続的成長という言葉をキャッチフレーズにしている会社が多いですが、本書を通すと、その言葉の軽さに閉口。
また、ベル研究所のイノベーション工場から、シリコンバレーというイノベーションの集積地へと、構造転換を継続しているアメリカという国の懐深さにも敬服します。
日本も頑張らねば! -
現代社会に不可欠な電子端末、通信技術、情報理論、それらすべてを支える礎を生み出したベル研究所。そこでは、優秀な個人の力だけでなく、集団としてイノベーションを起こしていく仕組みが作られていた。
-電話事業独占したAT&Tの傘下のベル研究所には継続的に莫大な資金がもたらされ、電話事業にすぐにはつながらない様々な基礎的な分野にも資金と人材が投じられた。
-優秀な人材を集め、異分野の人々が知識を交換しあって研究を進める環境・文化が作られた。
-社員の教育システムにより技術職員も育てられ、彼らによって研究所内の実験ノウハウも共有された。
-統合されたコミュニケーションサービスの構築という大きな目標、電話システムの改善の必要性による研究の促進
こうした環境のもと、未知の領域であった半導体物理・情報理論の構築、トランジスタ、レーザー、太陽電池、通信衛星、軍事レーダー、携帯電話システムなどの開発が起こった。あまりに発明が多く、単なる垂直統合の域を超えることから政府により規制をかけられ、特許は全て少額で公開されたほど。
しかし、政府によるグループの解体、市場競争により勢いはなくなっていく。
現在のシリコンバレーなどはベル研究所と異なり、一つの組織ではなく、ネットワークとして機能し、新しい形態でイノベーションを起こしているように見える。しかし、ベル研究所のように基礎研究に力を入れ、技術を公開するようなことは市場競争の激しい現在の企業には難しい。そのため、既存の技術の延長線上にある技術を用いて事業を進めているのではないだろうか。革新的な技術に基づくイノベーションは今後どのように起こされるのか。
書籍内では詳細に主要な人物の軌跡の追いかけながら、ベル研究所の姿を描いている。 -
ベル研究所って、あまりにも存在が大きすぎて、いままでその興亡について考えたこともなかったが、一番驚いたのは、現在アルカテル・ルーセント社の子会社として細々と生き延びているってこと。確かにベル研の残した功績は偉大だったかもしれない。真空管、トランジスタ、衛星通信、レーダー・・・。しかし、いつの時代も共通するのは、軍事技術で繁栄した企業は、インセンティブを失ったときに脆いということ。