血盟団事件

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163765501

作品紹介・あらすじ

「血盟団事件」は、日本史の教科書に出てくるほどの大事件でありながら、これまで五・一五事件や二・二六事件の様には取り上げられてはきませんでした。しかし、著者の中島氏はこの事件の中にこそ当時の若者たちが抱えた苦悩が隠されているのではないかと考えました。残された供述調書や回想録を精査する中で浮かび上がってきたのは、 格差問題や就職難、ワーキングプア、社会からの孤立感など現代の若者にも通底する悩みの数々でした。資料を読むだけではなく中島氏は数々の「現場」を歩くことで、本書に厚みを加えます。事件現場となった東京・三井銀行本館をはじめ、茨城・大洗、群馬・川場、鹿児島、そして旧満洲の遼陽まで――足跡をたどる旅は、海外まで広がりました。事件の鍵となる人物の周辺取材では、井上涼子氏(井上日召娘)、團紀彦氏(團琢磨曾孫)、中曽根康弘元首相(四元義隆と親交があった)へのインタビューを行ないました。また元血盟団のメンバー川崎長光氏に話を聞くこともできました。海軍士官、エリート帝大生、定職に就けない若者など交わることのないはずだった人々が、カリスマ宗教家の井上日召と出会い凶行に走る――。事件後八十年を経てその真相に迫ったノンフィクションです。

感想・レビュー・書評

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  • 血盟団というというのはマスコミによる命名であること。
    井上日召のもとに集まった関係者のインタビューに基づくオーラルヒストリー的な手法が使われていること。
    これをよむと、血盟団事件→五・一五事件→二・二六事件と続いていく構図がよく見える。下(世間)からのナショナリズムが軍部の暴走を作り出し、戦争へ。どれも社会の閉塞感を解消させる、ということにつながっている。
    こういう社会の閉塞感、誰かが集まって動くこと、あるグループに対する嫌悪感、排除意識 なんか、最近よく耳にすることのような…。まさにテロ。
    歴史的事実なのだが、システムはいつでもどこでもありうるのか。社会を構成する一員としては、個に還元されていく過程は十分ありうる。怖いな。

  • 井上日昭は群馬の寺にいた

  • 重要な本。
    国家主義と日蓮宗が一体化し、当時の世相(不況、貧困)と相俟って、国家改造の思想へ。
    革命という運動へ。切羽詰まって(?)、政党政治、資本家を対象に一人一殺を目指す血盟団に。
    海軍も連携していたが、血盟団事件では関係が判明せず、5.15事件の首謀者に。
    狙い通りに、政党政治は転覆したが、軍事政権を招く結果に。
    ☆革命後の日本の姿を描けない、描く必要がないとしたことが要因のひとつか。

  • 強烈なカリスマ性を持つ日蓮宗僧侶井上日召が中心となって作られた血盟団による要人暗殺テロ、その残党による五一五事件、そして二二六事件から始まった日本国の崩壊。つまりこの血盟団こそが日本敗戦への導火線となる存在であったのではないか。
    そしてそのメンバーの殆どが高学歴、そして宗教集団。そうオウムを彷彿させるのだ。どの時代でも出てくる悩める高学歴バカ。ただ当時の貧困から来る革命への思想は否定出来ないんだが、テロはあかんやろ、な、共産党。
    よくぞここまで調べ上げた破壊力のある内容に感服。読み応え有り!
    が、中島せんせ、あとがきで1920年代のきな臭いと言われる空気を今の政府批判に持って行こうとするのは頂けない。日本ちゃうで、世界中がきな臭さすぎるんやで。

  • 著者は血盟団事件をこうくくっている。「煩悶からの解放と理想社会の誕生を夢見て決行された宗教的供犠だった」と。しかし理由はどうあれ、世の中を変えるための手段として「テロ」に肯定される余地が存在すべきか?格差による国民の窮乏。私腹を肥やす既得権階級への憎悪。レベルは違えども、我々も同じような問題に直面している今だからこそ、この事件を正面から考えるべきである。

  • こんな名称のついた事件があったことさえ知らなかった!そういう意味でもとても興味深い内容なんだけれど、なんとも読み辛く感じたのは宗教論というか精神論というか、そういったものにはどうにも腰が引けてしまうのと、引用文が多いせいもあるのかも。

  • 【若者たちが凶行に走った理由】昭和の歴史に残る連続テロ事件を起こした宗教家・井上日召。彼はいかにして悩める若者たちを束ね「血盟団」を生み出したのか。

  • 日蓮主義者・井上日召に感化された茨城・大洗の若者たちが引き起こした連続テロ、血盟団事件を紐解く。この事件が同年の5.15事件、1936年の2.26事件へとつながり、国民の不満が対外膨張主義へと回収され、日本は戦争への道を歩み出す。

    茨城の若者たちがなぜこの凶行に至ったのかに迫る。

  • 面白い面白くないとかそういうもんじゃないわけで。
    全然血盟団事件なんて知らなかった。
    いいこととか悪いことかじゃなくて、20歳にも満たないような子たちがこれだけ、国家とか天皇とか農民とか、日本のことを真剣に考えていたこと。
    私って何にも考えてないなぁ・・・

  • 血盟団事件に至るプロセスを、携わった青年ひとりひとりを丁寧かつ執拗に追う著者の筆致は生々しく迫ってくるものがありとても苦しかった。格差問題にワーキングプア‥現代社会との相似点は身につまされるものがあり、一触即発の空気が潜んでいるのかと思うと尚更苦しい。しかしテロリズムで事態は解消されないことも示されている。純真さゆえの彼らの心の葛藤を、破壊のエネルギーに向かわさざるをえなかった社会の状態が恨めしい。暴力に委ねない改革による万人の平等と平和の社会を心から望む。

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著者プロフィール

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書に『思いがけず利他』『パール判事』『朝日平吾の鬱屈』『保守のヒント』『秋葉原事件』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『岩波茂雄』『アジア主義』『保守と立憲』『親鸞と日本主義』、共著に『料理と利他』『現代の超克』などがある。

「2022年 『ええかげん論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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