あかんやつら 東映京都撮影所血風録

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163768106

作品紹介・あらすじ

『天才 勝新太郎』の衝撃から3年。春日太一が10年をかけて完成させた疾風怒涛のノンフィクション。 太秦の東映京都撮影所には小指のない門番がいた。撮影所の中に入る前に入口の話から始めてみたい──。 時代劇、ヤクザ映画、ポルノ……66年の歴史を持つ東映京都撮影所の歴史は、日本の戦後史と大衆の欲望をギラギラと映し出す鏡である。 ミミズの這うオンボロスタジオでのどん底のスタート。お金がないので拳銃は警察から本物のブローニングを借りた。期せずして画面には迫力が出た。「お客に喜んでもらえるなら何でもやれ!」「柳の下にドジョウは二匹でも三匹でもおるわい!」照明、美術、脚本、殺陣師、監督などスターを輝かせるために奔走した裏方・職人たちへの取材で浮き彫りになった「映画よりも熱く、面白い」太秦・東映京都撮影所の舞台裏。 GHQに時代劇が規制される中「忠臣蔵」への執念を抱き続けたマキノ光雄、撮影所の〈天皇〉〈法皇〉〈御大〉、中村錦之助の登場と時代劇ブーム、スターの栄枯盛衰、岡田茂の台頭、任侠映画と「仁義なき戦い」、そして、いつしか狂い出す歯車……。 今初めて明らかになる秘話満載。読み始めたら止まらないノンストップ・ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 戦後から2000年台までの東映京都撮影所の栄枯盛衰を関係者のインタビューをまじえて描く出すノンフィクション。amazon解説の「疾風怒濤にノンフィクション」という説明が正にピッタリで、戦後から時代劇量産による繁栄時期の熱量も、映画が当たらなくなった時の迷走と打開も、生き生きと描かれ、その熱量に圧倒される。

    著者の春日太一さんは、まず最初に「寒い話」はやめにしたいと宣言し、結びも野心を持った若手の出現を示唆し、東映京都に関心を持ってもらい、応援するための本であるとしている。それは、やはりこの本に登場する人たちと、そこで作られた映画に惚れ込んだからだろうし、それが春日さんの熱さと結びついて、グイグイと紙面に引っ張り込んでいく。

    例えば戦後から時代劇あたるまでの期間の描写で、給料の分割、賞与の遅れなど、かなり深刻な事態でも、やらなければで進んでいく姿がある。実際にはいろいろ不満はあったろうが、人と人のつながりから、力になっていく描写を主にすることで、その時代の熱さも伝わってくる。

    やはりすごいのは、役者から殺陣師、脚本家、プロデューサーなどの、技術や人身把握、調整力といった強さだ。東映京都のスターシステムの時代劇が、黒澤映画や座頭市シリーズなどに負けていき、東映京都で身集団時代劇にシフトしていく。その中で語られる近衛重四郎の殺陣は、正に見てみたいと思わせる描写となっている。この辺の記述力はすごい。

    スターシステムの時代劇全盛の頃の異常な制作期間や不満が溜まった時の各プロデューサーのガス抜きの方法など現在に照らしあわせると問題なものも多いが、如何にして製作を間に合わせるか必死な様子が伝わりおもしろい。任侠映画や実録映画時期のその筋との調整など、なかなか表で見えない部分の話も興味深い。ここでもやはり人間関係ができるかというのがある。

    時代劇、任侠映画、実録映画と方向性が変わっていく様と、それに合わせて出てくる人、去っていく人の様子が描かれるところは、歴史ものを読んでいるようである。扱うネタが変わることで、メインで調整を貼る人や役者も変わっていくことで、会社との関係も変わり、辞めていくのもある。その辺が一冊に中で、見えてくるのが興味深い。

    一つの撮影所の歴史というだけでなく、日本映画の流れの一部も表している本書は、歴史としてのおもしろさもあり、登場する人たちの映画にかけた激しい生き方を描いたおもしろさもある。それらが、著者の熱い筆致を得て、生き生きと描かれたことで無類の作品になったと思う。

  • 主に時代劇作品を生み出してきた東映の京都撮影所を舞台に、戦後の混乱期での設立から、年間100本製作の粗製濫造の黄金期、時代劇の不振からリアル路線のヤクザ映画へシフトし、大作主義に陥った辻褄合わせのポルノ路線、そして時代劇の体裁で中身はヤクザ映画な作品を作ったり、見かけはSFで中身は時代劇をやってみたりと、栄枯盛衰、右往左往の顛末を、映画はもちろんテレビからも時代劇が消えていき、太秦映画村の集客力も落ちていった最近までの物語です。
    いわゆる映画界を舞台にした梁山泊もの。分厚いけれど、面白くて朝までに一気読みでした。

  • 読書以外に何が好きかと問われたら「映画鑑賞」と答える。でも、
    芸術としての映画ではなく、単純に楽しめる映画が好き。

    だって、芸術だなんだっていう映画は小難しくて楽しめないの
    だもの。

    分かりやすくて楽しい。東映の映画がまさにそれ。本書を読んで
    いて、自分が結構、東映の映画を観ているのに気が付いた。

    本書は東映京都撮影所の変遷とそこで生きた人々を追った
    ノンフィクションである。

    「もうお腹いっぱいっ!」と言いたくなるほど、映画にかけた
    熱過ぎる人たちがこれでもかっ!と出て来る。

    片岡千恵蔵を始めとするスターを起用した娯楽時代劇から
    任侠映画、そして「仁義なき戦い」に代表される実録路線、
    ポルノ映画を経て、なんでもありの混沌の時代、そして
    大作時代を豊富な資料と関係者へのインタビューで綿密
    に描いている。

    決して格好良くなんかないんだ。泥臭くて俗っぽくて。それ
    でも映画製作へのたぎるほどの情熱を抱えた人々の
    エピソードは時に悲喜劇でもある。

    深作欣二監督の「魔界転生」は沢田研二目当てでなんども
    観たのだが、ラストの炎の中での立ち回りについての記述
    でジュリーに惚れ直した。

    だって、千葉真一も若山富三郎も逃げ出した火炎のなかで、
    ジュリーだけは手に火ぶくれが出来ても逃げ出さなかった
    のよ~。く~~~っ、格好いい。

    今では絶対に「これ、やったらダメだろう」という話がいっぱい
    出て来る。本物のヤクザさんも係わっているしね。

    丸々1冊、活動屋魂がぎっしりだ。

  • この本を一言で言い表すと「血がたぎる」という言葉だろうか。戦後、芸術よりも大衆性を求めて、時代劇から任侠映画、艶色映画を、情熱、映画に対する愛だけで、むやむやたらと節操なく作り出していった京都東映撮影所の熱い熱いグラフティである。ここに出てくる男達の荒唐無稽なパワーは哀切なまでに胸を打つが、この本がこちらの血をたぎらせるのは、この若い著者に、撮影所や登場人物に対する狂おしいまでの敬愛と共感があるからなのだと思う。「木村政彦はなぜ力動山を殺さなかったのか」の時にも思ったが、本当に面白いノンフィクションは、客観性を超える熱量からしか生まれないと思う。

  • 春日太一は凄い仕事を成し遂げたと思いました!この本の存在は東映というクレイジーな会社の過去を刻んだ墓碑銘なのではなく日本の映画産業の明日を見つめる礎。現に平成ライダーシリーズは東映時代劇のDNAを受け継いでいることは平山亨「泣き虫プロデューサーの遺言状」にも書かれている通り。また新たにライダー群像劇は東映群像時代劇の伏流水の氾濫なのではないかとも感じました。そもそも東映という会社の歴史が濃すぎる男たちの濃すぎる群像劇なのでした。「大衆」という言葉を誰よりも自分事化したベンチャー企業が大躍進し、しかしメジャーになっても無菌化せず「大衆」の欲望を寄り添おうとする姿勢。それは東映京都というスタジオに集う「あかんやつら」が「大衆」そのものだったから。東映京都からは松竹ヌーベルバーグも東宝モダニズムも生まれることありえないのです。そこにあるのは日本人の泥臭い匂い。しかし「大衆」が「生活者」というように滅菌されていく中で「あかんやつら」も居場所を失っていくのでした。しかし日本人が日本人である限り「あかん」成分は必要だと思うのです。この本の登場人物を愛おしく感じる感性が21世紀の「あかんやつら」に繋がれば、と願います。

  • 文句なしの大傑作。

    年間100本以上の東映映画、テンポよく一人の手でまとめあげた
    天才的な編集のキャスト。

    時間がないときに、10日間徹夜をして仕上げてしまう
    撮影集団。

    全盛期から、凋落(この当時よそに出てきた決定的な逸材が
    黒澤明。同じ赤ひげも、東映は大失敗)、そしてヤクザ映画での
    復活と目まぐるしい展開も、どれも出てくる人たちが熱く、
    そしてかっこいい。

    「おそめ」のママのいい人だった俊藤浩磁が、活躍するというか
    裏の世界を含めて仕切っていくことも興味深い。
    そして、本職とほとんど同じの若山富三郎、そしてその一門。
    監督もスタッフも、みんな本当に強烈。

    問題は、これを読んでしまうと映画が見たくなってしまうこと。
    「一乗寺の決斗」「十一人の侍」「鬼龍院花子の生涯」・・・、
    日本映画万歳。

  • 2023年11月20日読了

  • この本の中で、驚嘆な記述があった。1973年の映画界。東映は「山口組三代目」が大ヒット。東宝は池田大作原作の「人間革命」を映画化。この2本の大ヒット理由は、前者は全国の山口組傘下組員、後者は学会員の大量動員。これに味をしめた映画界は「公開前に大量動員を期待できる映画作り」に傾注するようになる。東映は部落解放同盟結成を描いた「松本治一郎伝 夜明けの旗」を製作。製作には至らなかったが、「実録・共産党」も企画された。東映に限らず、総じてこの頃の映画界はヒットするなら、右も左もタブーも特定新興宗教団体を取り上げることに対しても、当たると確信するネタであれば、遮二無二に映画製作していたんですな。DVDの売上収入という副産物がある今と違って、当時は映画館に来てもらってナンボの70年代。今と違って、「貪欲」で「無節操」で「ゆるゆる」だったってことなんでしょうな。

  • とうとう読み終わっちゃった。

  • 題名のように、すごくヤバイ人たちが出てくるのかと思ってたけど、熱い映画馬鹿たちの物語でした。去年の蘭寿さんの退団公演「ラスト・タイクーン」はこちらのエピソードを基にしたんじゃないかと思ったり、時代劇全盛の頃のスターシステムが宝塚のと似てるなと思ったり、芸能の世界は近いものがあるようです。岡田茂の全盛期の頃の判断はスゴイものがあります。ちなみに私が想像していた「仁義なき戦い」のヤバイ話は「映画の奈落:北陸代理戦争事件」のほうでした。

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著者プロフィール

映画史・時代劇研究家。1977年東京都生まれ。日本大学大学院博士後期課程修了。映画界を彩った俳優とスタッフたちのインタビューをライフワークにしている。著書に『時代劇聖地巡礼』(ミシマ社)、『天才 勝新太郎』(文春新書)、『ドラマ「鬼平犯科帳」ができるまで』(文春文庫)、『すべての道は役者に通ず』(小学館)、『時代劇は死なず! 完全版』(河出文庫)、『大河ドラマの黄金時代』(NHK出版新書)、『忠臣蔵入門 映像で読み解く物語の魅力』(角川新書)など多数。

「2023年 『時代劇聖地巡礼 関西ディープ編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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