- Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163809106
感想・レビュー・書評
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幕末の北海道を描く蜂谷涼の新作は舞台が江戸-東京。
出戻りで実家の貸本屋の手伝いをしていたおはんは出入り先の館で源氏物語から材を取った硝子の壺に魅せられて、その壺の作者の元へ弟子入りして女だてらに硝子職人の道を目指す。
江戸の女性が一人で職人の道を目指すというと初期の北原亞以子さんの諸作品が思い浮かぶけれど、こちらは蜂谷さんらしく幕末が舞台。しかし、浮世と離れてひたすらに道を目指す主人公には世間の動乱はまったく関係なく、物語に政治動向が絡んでくることはない。
職人の世界を描きながらも蜂谷さんらしい色っぽさのある物語。
ラストにあんなどんでん返しがあるとは思わなかったけれど。
結局薩長を悪人にせずにいられなかったのね(笑)。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「硝子吹き」化学が専門だったので、合成した資料を入れるための器を硝子を吹きながら細工したことを思い出しました。蜂谷涼「夢の浮橋」、2011.9発行。江戸末期、当時の女性の生き方は家事ときまっていたようです。硝子の壺の美しさに魅かれたおはんは、勘当されて実家を出て、天満屋磊治のもとで硝子師の修行を。嫌がらせに耐え、女の命ともいえる髪も切り・・・。4年後、磊治から「吹いてみんか」と。やがて、師匠と弟子の関係が、男と女の仲に。最後、幼馴染で仲良しのおぬいの突然の裏切りとそれによる磊治の死は唐突な気がしました。
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出戻りの年増女が偶然出会った硝子細工に心奪われ、がむしゃらに硝子職人を目指す幕末時代小説。
登場する硝子細工が源氏物語をモチーフにしてるということで興味を持ち、読みました。
ただ、女性作家が書く、主人公への強い感情移入を求める恋愛ありきの女一代記的な時代小説がもともと苦手な私には、やはり苦手な作品となってしまいました。
最後の「裏切り」というどんでん返しを活かすためにも、主人公視点だけでなく、もっと色々な登場人物の視点や場面、思惑を盛り込んで群像劇風にしたら、面白くなったんじゃないかなあ。 -
硝子職人を目指すおはんが主人公の本作。
面白かったーーー。
まず二十六の出戻り女って設定が良い。
若くて瑞々しい出世話と違って、年増女が自らの力で夢を叶えようとするっていうのが新しい。現代女性と被って共感出来た。
そして秘めた恋も熟れ熟れな感じが何とも良い。
それでいて爽やかな文章が心地良い。
ひたむきなおはんの生き方に何度も心を打たれて涙がじんわり出てきました。
女性向きかなと思いますが
男性はどう感じるんだろう?? -
9月刊の書き下ろし。
作者は小樽市在住で、HBCラジオの朝刊さくらいでコメンテイターもしている。
おはんは、表向き子供が生まれないことを理由に、馴染めない婚家から離縁されて実家の貸本屋を手伝っていた。
小栗上野介の屋敷で見た源氏物語にちなんで「空蝉」と名付けられた硝子の器に魅せられ、作者の天満屋磊次の元に日参して弟子入りを果たすが、兄弟子たちからは疎まれ、家からは勘当される。
何年もかかってようやく硝子種を吹かせてもらえるようになり、自分の納得のいく作品を作るため精進を重ねるうち、妻子ある磊次を夜だけ迎えるようになる。
ようやく作品が認められ注文が入るようになるが、自分が求めているものが何かを悩むようになるが、女にしかできないものを目指そうとする。
「人の心は当然ながら一色ではない。濁っても、澱んでもいる。それゆえにこそ、人は美しいもの、透きとおったものに憧れるのかもしれぬ。人の命と同様にもろくて儚い硝子に「もののあはれ」を感じるのかもしれぬ。」という表現には、実感がこもっている。
小栗が買い上げてフランス公使ロッシュに贈った作品が縁で、パリの万国博覧会への出品を求められるが、おはんの充実した生活に嫉妬した幼馴染のおぬいが過激浪人をそそのかしたために、磊次は斬られてあっけなく命を落とす。
寝付いていたおはんは「自分の命の結晶と呼べる作を生み出すためには、いくら惚れぬいた男でも、こよなく尊敬する師であっても、甘んじて生贄にする。」という覚悟を思い出したおはんは、硝子を吹き始め、万国博覧会で入賞を果たす。 -
離縁され実家の家業を手伝っている出戻り女おはん。客先で見た器に心を奪われ硝子職人を目指す。
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「おはん」が女硝子師になる物語だが,最後の方で年来の友である「おぬい」の離反は意外な展開だ.幕末の様々な事象を織り込みながら,淡々と進む話は一気に読み終えることができた.