007 白紙委任状

  • 文藝春秋
3.71
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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163809403

作品紹介・あらすじ

50年以上にわたって冒険小説のヒーローであり続けたジェームズ・ボンド、暗号名007。その新たな冒険行を、リンカーン・ライム・シリーズなどで知られるサスペンスの巨匠ディーヴァーが手がけたのが本書です。舞台を現在に移し、秘密兵器を開発するQ課が製作した特殊スマートフォンとワルサーPPSを手に、9.11後の世界を駆け回るボンド。スタイリッシュなボンドの言動に彩られたスピーディな展開というボンドものらしいストーリーに、"ドンデン返しの魔術師"ディーヴァーらしい巧妙なプロットが仕掛けられています。

感想・レビュー・書評

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  •  最近、新しいキャラクター、コルター・ショーのシリーズを楽しんできたのに、本書は全然楽しめなかった。この作品が出た時代、ディーヴァーは売れっ子の頂点にあって、多作であることはもちろん、シリーズのポイントである警察捜査小説のシリーズも登場当初は大人気だったのが、徐々にワンパターン化し中弛みの時期を迎え始めた頃だったのだと思う。

     そんな時期に、一応は鳴り物入りで売り出されたのが、原作者イアン・フレミングと数々の映画シリーズによって世界的スパイ・ヒーローとなった007ジェイムズ・ボンドに、ディーヴァーが挑戦するという本作であった。世界同時発売ということで気を持たせたりもした本書だが、何となく嫌な予感がして積ん読本となって書棚を飾り、そのまま長い時代が過ぎてゆく。果たして12年後の今になって、嫌な予感を振り払って手に取った本書。

     残念ながら嫌な予感は的中してしまった。007ジェイムズ・ボンドという主人公で、イアン・フレミングの原作に勝てるものは映画ですら難しいとぼくは想っていたので、その予想はそもそも簡単に覆るわけがなかったのだ。『ロシアより愛をこめて』は、映画はもちろん、原作もまた凄まじく傑作であった。スパイとしての騙し合いや新兵器の開発に原作者は重心を置かず、疾駆する列車の中で凄腕の敵手を相手にボンドが肉弾相打つ血腥い死闘を繰り広げる展開をクライマックスとして、読者としての血を滾らせた。

     映画は原作の後に観たのだが、当のクライマックス・シーンをショーン・コネリーとロバート・ショーが演じる。アナログ・フィルムなりの古いアクション・シーンだが、原作を読んでいる者にとっては貴重な名シーンであった。ボンドガール女優のダニエラ・ビアンキも良かった。文庫本の表紙に使われた映画の名シーンも忘れ難かった。

     さて、そんなボンドというスパイ・アクションをディーヴァー世界に移した本書だが、現代版ボンドという設定なので、映画シリーズみたいに新兵器が次々出てくる仕掛けとは別の意味での、様変わりボンドであった。スマホや電子機器やネット世界を背景にしたジェイムズ・ボンド。それはそれでよいとしても、内容は中途半端にディーヴァーらしくなり過ぎてしまった騙し絵紙芝居のようであった。

     危機が迫り、ドカンとやるのだが、実はそれは、なあんだ、こういう展開だったかと読者を騙し欺いてはどんでん返し。こうだと見えた世界が、次の瞬間には仕掛けられていた一幕とわかる、種も仕掛けもあるディーヴァー・ワールドなのだ。それらをリンカーン・ライム・シリーズで楽しんで来た身には、ボンドのライム化はやはり物足りない。というよりも、何となくボンドにはディーヴァーがそぐわない。ボンドはボンドであり、そもそも英国の海外部門スパイでしかないのだ。いわば読者にとっては完成された特徴と個性のボンドが、ディーヴァー世界では無個性に見えてしまうのだ。

     だからどのシーンでハラハラしようが、追いつめられようが、すべて騙し絵テクでかいくぐるという約束ができている以上、ボンドの見せるスリルはディーヴァー式お約束事でしかない。ディーヴァー本来のシリーズ主人公のように強い個性やネガティブな弱みや愛すべき私生活がない。ボンドはヒーローであり、恋人は物語ごとに現地調達、秘密組織に所属する特別過ぎる存在なのだ。

     リンカーン・ライムや、キャサリン・ダンスや、ジョン・ペラムや、コルター・ショーのように各自の生活感や、個性というディーヴァー手製のアナログ感には到底及ばないのが、ボンドというスーパー格の存在である。ディーヴァーという作家は、ある部分で優秀なれど、ある部分では読者以上に庶民的な、ある意味親密さを感じさせてくれる存在を造形するのが上手い作家であったはずなのだ。

     ジェイムズ・ボンドは、そのキャラクター自体が状況の一部みたいなものである。本作では、世界のごみ処分産業と、アフリカのキリング・フィールドと呼ばれる虐殺現場を結びつける巨大悪のシステム、凄腕の殺し屋、といった背景に挑む英国情報部。そんな構図の中で約束されたように動くボンドは、あまり顔も弱みもなく、粛々と業務をこなしているだけのアクション・マシン的存在であるように見えた。ある意味、鳴り物入りの宿命のような読後感であることも含め、ディーヴァーの試みとしては十分とはとても言えない作品としか見えず、たまらなく残念であった。奇抜な騙し絵シーンの積み重ねだけでできた完成パズルみたいな一冊だったのである。

  • いやースゴい。この組み合わせが面白くない訳がない。でも正直なところ、どちらかというと静のイメージのあるディーヴァーが007?と当初は疑問を持ったが序盤からその思いは覆される。

    序盤はスパイのくせして世界中で派手に暴れ回るボンドを一時的にイギリス国内に閉じ込めることで、様々な縛りを設けてサスペンスとしての緊張を高めることに成功している。その反動で後半のイキイキとしたボンドに繋がる構成は巧みである。ボンドは確りアクションしているし、何よりネクロフィリアのハントの描写はディーヴァーならでは。そしてちゃんとお得意のドンデン返しも用意されている。

    何より驚いたのはボンド・カーとして(!?)インプのWRX STIが出てきたのには驚いた。映画「ワイルド・スピード」シリーズでもそうだが、日本の優れた車が海外の作品に登場するのは嬉しいことだ。

    それにしても相変わらずのボリューム。ハードカバー約450Pで2段て。。。でもそんなのを感じるさせないほど引き込まれること必至。BGMに映画版007のサントラを聴きながら読むとますます良し。是非、映画化希望!

  • 「ボーンコレクター」から始まったリンカーン・ライムシリーズなどで、現在もスリリングで高水準のミステリーを書き続けているJ・ディーヴァ。
    彼が、至難と思われた007の新作を書くということで、大いなる期待で読み始める。

    序盤は、現代に甦えらせたジェームズ・ボンドの設定を描かなければいけないため、説明的な文章が多いが、徐々に調子が出てくる。

    彼を取り巻く美女たちが、次々に登場
    ボンドシリーズらしいぞ!

    そして現代の IT機器を駆使して、ボンドが大活躍
    幾層にも張り巡らされた罠と陰謀
    意外な展開は、さすがJ・ディーヴァ!

    ただ、最後を捻ろうとするあまり、意外な犯人のプロフィールには深みがなかったように思える。

    しかし、ボンドの両親の死の真相も含めて、次回作があることを望む。

  • 「一九五三年にイアン・フレミングが生み出した世界一有名なキャラクターを、数百万の読者を失望させることなく現代に蘇らせること」。訳者あとがきによれば、それがフレミング財団がディーヴァーに課したミッションであったという。ではミッションは失敗だったと言わざるを得ない。最大の失敗はジェームズ・ボンドのキャラクター描写にある。全442ページの272ページ目にして、ようやく最初のラブ・アフェアが出てくるなんて、そんな007はいないだろう。ジェームズ・ボンドは享楽的で、女に手が早くて、敵には容赦なく引き金を引く。この小説のジェームズ・ボンドは明らかに内省的、自制的だ。つまらん。目まぐるしいほどの場面転換の速さ、どんでん返しの鮮やかさがディーヴァーの身上であるはずだが、こちらの切れも今ひとつ。ディーヴァーほどの名手にして、「007」の看板は重いということなのだろうか。期待が大きかっただけに、失望もまた大きい。

  • ちゃんとボンドになってる
    ホントのボンド作品を読んでないのでわからないけど・・・
    こんなこともできるのね
    さすが

  • 普通に面白いけどどんでん返しが足りない印象。

  • ディーヴァーの書くボンド。
    ディーヴァーらしさ全開。

    イメージとして切ったはったの大捕物はあまり多くないですが、相手を追いかけ駆け回る姿は容易に想像できました。
    またボンドらしいラブロマンス要素も十分。
    星5つに近い4つです。
    4.6ぐらいかと。

  • あのリンカーン・ライムシリーズのジェフリー・ディーヴァーが、あの007ジェームズ・ボンドを書くとどうなるのか?

    テロ・廃棄物処理・リサイクル・アフリカの飢餓問題・・・現代のスパイ作品として読むと、ディーヴァーお得意のどんでん返しで面白いのだけれど、007でなければならなかったのか?と疑問。
    007シリーズは映画でしか見ていないけれど、映画のジェームズ・ボンドとちょっとイメージが違ったりして、どうしても比べて読んでしまう。ガチガチに出来上がったジェームズ・ボンドのイメージで主人公を動かすよりも、新しいキャラクターで作品を進めた方がよかったのではないだろうか。

    ジェームズ・ボンドの両親とその死についてもちょっとだけ語られていて、次回作をにおわせる。

    面白いのだけれど、もっと面白く読ませることができたのになぁ・・・と思ってしまった作品。
    007シリーズの大ファンなら、もっと突っ込めて、違った面白さを見つけることができるのかしら?

  • ■ 1294.
    2012/8/25~2012/9/17

  • 007といえばやっぱり映画のイメージが強くて(1)ボンドのファッション(2)アクション(車も含めて)(3)ボンドガール(4)特殊武器がついつい見入ってしまうのだけれど、この21世紀のボンドは映画では観れない小説独特の世界に入っていると思う。
    (1)ボンドの相変わらずの頭脳明晰さ(2)車への変な愛着(3)英雄色を好む(4)特殊武器(5)脅威の変化。特に特殊武器はスマートフォンが大幅に活用されデジタル化が進むけれども、やっぱり(1)(2)(3)のアナログ感を逆に色強く鮮明にしている。
    廃棄される重要情報を集めるゲヘナ計画という脅威、他の人が見過ごしてしまいがちな情報をもとに推理を構築するボンド。お互いの立場は善玉と悪玉だが、アプローチの仕方は同じ。アクションシーンの表現がつたないというけれども、これは小説なのだからそんなことより、ボンドのアクション以外の他の人間としての魅力をたっぷりと教えてくれる。ボリュームはあるけれども一度読み始めればもうそこは007の世界。あっという間に読み終えてしまった。
    本当は★5をあげたいんだけれど、もう少しファッションに踏み込んで欲しかったので★4つ。ただ食事とワインに関しては著者の知識が豊富で、その知識をもう少し服に持っていってくれたらもっと深くボンドの魅力を知れたかもしれないと思うとちょっと残念。
    細部に目をやれば切が無いけれども、新しい007をこれまでの世界を大切にしながらも作り出すこの世界観はスパイ小説が好きなら読んで損は無い一冊だと思う。ミーハーな本かと思って読んだら良い意味で裏切られる良著です。

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著者プロフィール

1950年、シカゴ生まれ。ミズーリ大学でジャーナリズムを専攻。雑誌記者、弁護士を経て40歳でフルタイムの小説家となる。科学捜査の天才リンカーン・ライムのシリーズ(『ボーン・コレクター』他)や“人間嘘発見器”キャサリン・ダンスのシリーズ(『スリーピング・ドール』他)は全世界でベストセラーになっている。ノンシリーズ長編小説、短編小説など人気作品も多数刊行
『ブラック・スクリーム 下 文春文庫』より

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