プリティが多すぎる

著者 :
  • 文藝春秋
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  • / ISBN・EAN: 9784163811208

作品紹介・あらすじ

「なんで俺がこんな仕事を!」女の子雑誌で孤軍奮闘する新米編集者の爽快お仕事小説。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、サラリーマンでしょうか?もし、そうだとして、頑張って作った企画書が会議でスルーされ、会議の後に上司から次のように言われたとしたらどう感じるでしょうか?

    『君が商店街の真ん中に店を出すとする。残念だがどんな店にしたところで、三ヶ月も持たないだろうね』。

    サラリーマンに人事異動はつきものです。また、どんな会社にも人気のある仕事・部門というものが存在する一方で、そうでない仕事・部門というものも存在します。人間とは、集まればその集団の中で優位をつけずにはいられない生き物です。何かにつけてランキングがもてはやされ、成績・評価というものが一生ついてまわります。しかし、これは犬でも猿でも同じこと、生物というのは悲しいかな、優劣を付けずにはいられない性を背負わされてこの世に存在するものなのかもしれません。

    もしそうであるなら、サラリーマンが人事異動の悲喜交交の中で『もう一年か二年。辛抱もたったそれだけ』という思いを抱くことは必ずしも責められることではないのかもしれません。しかし一方で、サラリーマンとは、時間を提供して、対価を得ます。不貞腐れてばかりいては、提供する時間の価値が下がってもしまいます。仕事とはそれぞれの道のプロとプロがタッグを組んでやっていくものです。その中の一人が中途半端な気持ちでいては相手に立ち向かえるタッグなんて組めはしません。『給料に見合った働きなら、心配されなくともふつうにできる』と思っていても、心が入っていない働きが給与に見合うことなどないのではないでしょうか。

    さて、この作品は、初めての人事異動を『まるで体のいい左遷だと思』ったという一人のサラリーマンの物語。そんな異動先の部門にいても『なんでここにいるのだろうと強く思』うという一人のサラリーマンの物語。そして、それはそんな一人のサラリーマンが『おれはともかく今いるところで頑張るよ』と人生の階段をひとつ上がっていく瞬間を見る物語です。

    『駅から歩いて五分、雑居ビルの二階にあるいつもの店までの道のりが、こんなに気重なのは初めてだ』と、『大学時代に所属していたサークルのOB会』へと向かうのは主人公の新見佳孝(にいみ よしたか)。『マスコミについて調査研究するサークル』の中で『名門と言われる老舗の出版社「千石社」』にサークルから初めて受かるという快挙を成し遂げた佳孝は『スクープの最前線から駆けつけてくれ』たと紹介されます。『初めての配属先』として『日本を代表する時事ネタ満載の週刊誌』である『週間千石』で二年を過ごした佳孝。そんな時、先輩から『新見、春の異動ってどうなったんだよ。内示はもう出てるんだろ』と声がかかります。『みんなの視線が集中』するも『もっとも触れられたくない話題』と、すぐに答えられない佳孝。『雑誌?それとも単行本?』『営業や広告ではないですよね』と具体的に詰め寄られるも『いえ』『ああ、まあね』と言葉を濁す佳孝。しかし、『だったらどこだよ』と言われ『腹をくく』りますが、『ピ』『ピピ』『ピピピ』と言葉になりません。そんな佳孝の『配置転換は四月一日』でした。『まあ、ほどほどに頑張れよ。あんまりくさらずに』と声をかけられて部屋を出た佳孝は、『大正時代に遡る老舗の出版社』である『千石社』の中でも『建物全体にくたびれた感がただよ』う別館へと向かいます。『入社してまだ二年、左遷されるような落ち度はおかして』いないとこの異動を恨めしく思う佳孝。辿り着いた部屋には『ピピン編集部』というピンクの文字があり、『誰もいない』部屋には、『大きなぬいぐるみ』、『ごてごてしたファンシーグッズ』などが出迎えてくれました。『女の子はPが好き』とド派手なポスターを見て『これが、この雑誌のキャッチフレーズなのだ』と思う佳孝。『ローティーン向け月刊誌なのだ。対象年齢はずばり中学生女子』という『ピピン』。そんな時『いよっ』と声がかかりました。『女性誌ながらも編集長は四十いくつの男』という『ピピン』の編集長は、『君、優秀なんだってね』と声をかけてくれます。『新見です。新見ー』と挨拶しようとすると『そうそう、南吉くんだったね』と、勝手に理解する編集長に正しい名前を説明するも『新見とくれば南吉だって。その方が覚えやすいし』と結局『南吉』と呼ばれることになってしまいます。他のメンバーとも顔合わせした佳孝は、『ピピン編集部』には、正社員は編集長と自分だけで他のメンバーは契約社員だということを知り驚きます。『彼女たちは転職を思い切る以外、ずっと「ピピン」を作り続けるしかない』と自分との違いを認識した佳孝。そして、不満ながらも働き始めてしばらくした時、編集長から企画会議で案を出すよう指示され、『お手並み拝見』と言われた佳孝は、『評価にさらされることは嫌いじゃない』と案を考え会議に臨みます。しかし、佳孝の案は会議で一切触れられることなく終わります。そして会議後に編集長から、こんな言葉を投げ掛けられた佳孝。『君が商店街の真ん中に店を出すとする。残念だがどんな店にしたところで、三ヶ月も持たないだろうね』。そんな佳孝が『ピピン編集部』で何かを掴んでいく涙と笑いの日々が描かれていきます。

    「プリティが多すぎる」という意味不明な書名に逆に魅かれて手にしたこの作品。それは、『名門と言われる老舗の出版社「千石社」』で初めての人事異動を経験することになった主人公の新見佳孝が不本意な異動先に不満を抱え、鬱屈とした日々を過ごし始めるところからスタートします。そんな異動先が『女の子はPが好き』というキャッチフレーズの元、『中学生女子』を対象とした『ピピン』の編集部でした。そんな作品でまず読者の心を捉えるのは『ピピン』という月刊誌を作り上げていくその舞台裏の細かい描写です。それは、この作品の”お仕事小説”としての側面を垣間見せてくれます。しかもその”お仕事”は『ピピン』という月刊誌が出来上がるまでに、そこに関わる複数の職種の普段見ることのできない舞台裏です。雑誌は編集者だけで作られるものではありません。特に『ピピン』は、写真を多用する雑誌です。一枚の写真が出来上がるまでにもカメラマン、ヘアメイク、スタイリスト…と多くのスタッフがその裏に関わります。一方で、写真の被写体となる『ピピモ』という『ピピン』と専属契約を結んだモデルたち、そして彼女たちが所属する事務所、マネージャーの存在もあります。この作品ではさらに、社内の広告部、広告代理店、そして広告を出してくれる企業の存在にまで光が当たります。一枚の写真を作り上げるのにこれらの人たちがさまざまな形で関わり合う様、影響を与え合っていく様、そして利害対立が起こっていく様が非常にリアルに描かれていきます。強烈な書名や表紙のイメージだけで敬遠してしまうのはあまりにもったいない、出版社を舞台にした“お仕事小説”として非常に読み応えのある作品、それがこの作品でまず押さえておきたい側面だと思いました。

    また、専属契約を結んだモデル『ピピモ』に関しての描写はより鮮烈です。『年に一度開かれるオーディションで決まり、毎年五人くらいが新モデルとしてデビューする』という『ピピモ』は、中学一年から高校一年までの二十数人で構成されています。『きれいな服を着て、髪型を整えメイクして、プロのカメラマンに撮影してもらう。人気雑誌のカラーページに取り上げられる』という彼女たち。リアル世界でも無数のオーディションが行われ、光の当たる華やかな舞台へと見出されてくる少女たちはたくさんいます。そんなオーディションの舞台裏、『一万数千人の子がピピモを夢見て落選の憂き目にあった』という中から選ばれた者たち。そんな者たちは今度はそんな落選した者も含めた読者の中から『ひとりでも多くの味方を獲得して』いかなければならないという現実。『応募写真にかわいらしい子がいても、そのかわいさが、その子のマックスという場合があ』り、大切なのは『引き出すものをたくさん持っている子の方が望ましい』という視点から選抜をしていくプロの目の描写など、オーディションの舞台裏に展開する非常に興味深いストーリーが丁寧に描かれていきます。そして、そこに描かれるのは、綺麗事だけでは済ませない『光と影は必ずついてまわる。喜びとプレッシャー、誇りと挫折』というモデルという職業のリアルな現実を鮮やかに切り取るものでした。この側面だけでも十二分に読み応えのある一冊でもあると思います。

    そして、恐らく大崎さんがこの作品で描かれたかった一番のこと、それが主人公・佳孝の仕事に対する取り組み姿勢を斬るものです。大学のサークルの後輩からも羨望の眼差しで見られる大手の出版社である『千石社』に就職し、その第一線でもある週刊誌の現場に配属となった佳孝。そんな佳孝が初めての人事異動で味わうことになったのが『ピピン編集部』への異動でした。『左遷されるような落ち度はおかして』いないと思い、やることなすこと『合わない』と不平不満を燻らせ、そして『もう一年か二年。辛抱もたったそれだけ』と『ピピン』にいつまで経っても後ろ向きに接していく佳孝。そんな佳孝の姿を見て、ハッ!とする思いを抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか?”サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ”と植木等さんが歌ってから60年、今でもこの国の多くの人はサラリーマンとして人生を送っています。”時間を提供すれば対価である給料がもらえる”というその人生。しかし、一方で”屈辱を売ってナンボ”とも揶揄されるものでもあります。必ずしも自分のやりたいことだけができるわけではないその人生、やりたくないことでも辞令一枚で黙々と付き従うしかないその人生。私も今までに複数の人事異動を経験してきました。希望が叶ったこともあれば、主人公・佳孝のように腐り切って不貞腐れた日々を送ったこともあります。『誰にだって長い人生、浮き沈みはつきものだ』という通り、”時間を提供”して対価をもらっている以上やむを得ない側面は否定できません。しかし、沈んだ局面にいる時の辛さは経験してみないとわからないものです。その時期をどうやって過ごすか。『今の自分はたまたまちょっと沈んでいるだけ』『ほんの数年の辛抱だ』と、総論としてはそう考えるのは決して間違ってはいないでしょう。しかし、自分が沈んでいる局面、不貞腐れずにはいられない局面にいても、一方でその局面をメインステージとして活躍している人がいるということを忘れてはいけない、この作品では、この点に光を当てていきます。人は後ろ向きな姿勢でいる限り、目の前に見えているものに100%入り込むことはできません。佳孝がそれなりにリサーチを繰り返した企画も『君が商店街の真ん中に店を出すとする。残念だがどんな店にしたところで、三ヶ月も持たないだろうね』とあっさりと編集長に言い切られてしまうのは、そこに心が入っていないことの証です。一枚の写真を作り上げるのに多くのプロが関わる世界において、そのそれぞれのプロはあくまで真剣勝負で臨んでいます。その中心にいて、彼らを取りまとめていく立場である編集者が、『ほんの数年の辛抱だ』といった気持ちで向き合ってやっていけるはずがありません。そんな佳孝が『あのときの自分では、どの部署に行ってもまともな本を作れなかっただろう。今ならそれがわかる』と気づいていく物語は、自分自身がサラリーマンである限り忘れてはいけないこと、意識すべきこと、そして仕事に向き合うということを改めてそこに気づかせてくれるものでもありました。

    「プリティが多すぎる」という強烈な書名のこの作品。それは、『いつかあきらめる日が来ても、進路の変更を余儀なくされても、ひたむきに走りきったところで新たな道が拓けるんじゃないか』と、どんな局面にあっても真摯に物事を捉え、真摯に仕事に向き合い、そして真摯に人と接していく、人が生きていく上で決して忘れてはならないそんな基本姿勢を垣間見せてくれるものでした。

    『おれはともかく今いるところで頑張るよ。やってみるとね、案外、面白いんだってば』と気づく瞬間の到来、そして、そこから始まる真の職業人としての人生。書名からは見えづらい”お仕事小説”の傑作と言っても過言ではないこの作品。私の知らなかった出版の舞台裏と、ともすれば忘れてしまいがちな”働くということの意味と意義”を強く思い起こさせてくれた傑作でした。

  • お仕事小説を読むと元気が出るのはなぜだろう。
    類似体験もできて面白いなと思う。
    本書はタイトルを見て選んだ。
    今回は出版業界、しかも少女向けファッション誌の世界を若い男性目線で覗いてみた。

    話の内容は、
    大手出版社で働く主人公が、望んでもいないのに少女向けファッション誌編集部へ異動となる。
    キツイ女性編集者たち、スタイリストやヘアリスト、カメラマン、少女モデルたち…そこはプロフェッショナルな人たちの集まりと気付いていく。
    そしてキラキラフリフリの可愛い洋服や小物に囲まれ、悪戦苦闘しながらも奮闘する。
    また、同期や後輩たちが本来自分の希望する文芸部門で活躍する様子をちょっと羨んだりも。

    出版業界で畑違いの部門へ行くってどんなだろう…
    例えば私が編集者だとして、ミュージカル誌や韓国ドラマ誌担当から、格闘技誌編集部へ異動させられる感じ!?w 
    嫌だ!知らないし怖いし無理!…こんな感じなんだろうか^^;
    こう思ってしまう時点で関係者に失礼だし、編集者として失格なのだろうか…。

    行ってみて違った、苦しい、辞めたいと思った経験はある。頭の中がそればかりになる。
    でもあの時あそこに配属されて良かったな、経験しておいて良かったと、今に繋がっていることは確かである。

    少女モデルの世界が面白いと思った。
    最近のアイドルとか見ると、みんなメイクや髪型や服が似ていて、誰が誰だか分からない。
    番組で自らを印象付けようと躍起になる様子も感じられ、痛々しくなることもある…そう見ていてごめんなさい…どの人も真剣で、プロ意識が高いことが分かった。

    • なおなおさん
      こんばんは!

      Manideさん、ありがとうございます。
      もしかして、アイコンのコスプレもメッセージも私のために?嬉しいです( ᵒ̴̶̷̥́...
      こんばんは!

      Manideさん、ありがとうございます。
      もしかして、アイコンのコスプレもメッセージも私のために?嬉しいです( ᵒ̴̶̷̥́ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )♡
      お仕事小説は、私とは別の世界を見せてもらえるのが面白いのですよね。決して仕事人間ではありません_(:3 ⌒゙)_ポリポリ
      2024/02/11
    • Manideさん
      届きました?アイコンのお祝い(^^)
      私も400、今年達成できるかな…

      たださんの1000とか、すごいですよね。
      みんなすごいな〜と、ほん...
      届きました?アイコンのお祝い(^^)
      私も400、今年達成できるかな…

      たださんの1000とか、すごいですよね。
      みんなすごいな〜と、ほんと、思います。
      2024/02/12
    • なおなおさん
      Manideさん、アイコンのお祝い、届きました。嬉しかったです。ありがとうございました。
      そしてアイコンは再びバレンタインおねだりver.で...
      Manideさん、アイコンのお祝い、届きました。嬉しかったです。ありがとうございました。
      そしてアイコンは再びバレンタインおねだりver.でしょうか^^;あおいさんも手にプレゼントを抱えていましたので、頂いてください。
      たださんのレビュー1000冊はすごいですよね。
      Manideさんのレビューも楽しみにしております。
      2024/02/12
  • “目の前のハンガーに、バラの花をふんだんにあしらったピンクシフォンのワンピースがかかっている。すみませんでしたと頭を下げれば笑ってゆるしてくれそうな、やさしさと幼さで出来ているようなのに、花びらの一枚一枚、縫い付ける糸の一本一本まで、おおぜいの大人が心血を注いでいる。(p.122)”

     本書は、さてさてさんのレビューで知った。予めどういう本か知っていなかったら、このインパクトの強い表紙絵を敬遠して、手に取ることは恐らく無かっただろう(笑) 不本意ながらもローティーン向けファッション雑誌に配属された編集者・新見佳孝の成長を描いた、“お仕事小説”である。
     本書では、「プリティ、ポップ、ピュア、ピピン。女の子はPが好き」がキャッチフレーズの少女向け雑誌『ピピン』に携わる大人たちや、読者モデル(通称「ピピモ」)がそれぞれの立場で奮闘する姿に触れ、最初は不貞腐れていた新見が少しずつ変わっていく姿が描かれている。アルバイト程度しかしたことのない学生としては、格好良い「プロフェッショナル」に憧れる(これも“P”だ!)。本書を読んで思ったのだが、(なに生意気に分かったような口きいとんねんとキレられそうだけど)「仕事」と「プロフェッショナル」の違いは、自分のやっていることに誇りを持っているかどうかというところにあるのではないだろうか。新見は『ピピン』に配属されたばかりの頃、自分が少女向け雑誌の担当になったことを恥ずかしくて周りの人に打ち明けられなかった。それが、経験を経て一年経つ頃には、決して強がりからでなく“『おれはともかく今いるところで頑張るよ。やってみるとね、案外、面白いんだってば(略)文芸にだって負けないよ』(p.284)”と言えるまでになっている。これは、新見の「仕事」が「プロフェッショナル」に変わったということなのだろう。僕がプロフェッショナルというものに夢を持ちすぎていると言われれば、確かにそれはその通りかもしれない。実際本書にも、組織の柵や利害関係、厳しい競争といった影の部分が描かれている。綺麗事では済まないことはきっと沢山あるのだろう。これは多分、プロフェッショナルというものの両側面なのだと思う。つまり、自ら手掛けた仕事に誇りを持って世に送り出すという光の面と、大人の事情に雁字搦めで、結果の優劣だけで残酷にも評価が下されてしまうという影の面である。それこそ、まだ中高生の段階で「ピピモ」たちが自ら踏み込んでいった、読者からの人気で全てが決まるモデルの世界のように。少なくとも、所詮金儲けだと汚い部分だけを見て忌避感を示すのは、意地悪な見方だと思う。英語で「天職」のことをvocationというが、原義は「神に呼ばれること」なのだそうだ。自分が仕事を選んだ側のつもりでも、今やってる仕事がまさに自分の仕事(=仕事の方が自分を呼んでいる)という受動的な、言ってみれば天の采配的な面もやはりあるということだ。本書はお仕事小説だが、それこそ勉強だとか趣味だとか、何事であれ、自分の目の前にある課題に、腐らず真剣に取り組むことの大切さを教えてくれる一冊だった。僕もあと数年後には社会に出ると思うが、その頃にまた読むと抱く感想も違うかもしれない。

     どうでもいいが、本書を読み終えて表紙をぼんやり眺めているときにふと、女の子といえばピンクというのは何故だろうと疑問に思った。ランドセルも、今は多彩な色が使われているようだが、僕が小学生の時はまだ男子は黒、女子は赤だったし。赤やピンクと言えば血の色だが、何か生物的な理由でもあるのだろうか(まさかアレの色ではあるまいし)? それとも、純粋に文化的・社会的なものだろうか? 気になってネットで少し調べてみると、明確な起源があるわけではないが、東京五輪に於いてトイレのピクトグラムを男女で青赤に色分けしたことが一つの要因としてあるのではないかということだった。

  • 思いがけずローティーン向けの雑誌に配属された男性社員の1年間の奮闘記。
    少女モデルの世界を垣間見る面白さも。

    若い編集者・新見が不満たらたらなのが成長していくのは、予想できるけど~
    成長が遅いので、ちょっとねえ‥時々、突っ込みたくなります。
    ミスすれば大慌てで奔走し反省するし、まあ若気の至り?

    新見佳孝は、入社2年。
    大学時代はマスコミを研究するサークルで努力を重ね、第一志望の名門出版社・千石社の正社員となり、「週間千石」で2年。
    仕事は雑用でも、最前線で働き、もともと志望している文芸にいずれは行けるものと思っていた。
    ところが、配属先は「ピピン」‥女子中学生向きの雑誌で、まったく良さが理解できないキラキラひらひらした安っぽいもので溢れる表紙と内容にげんなりする新見。
    しかも、編集部は別な社屋。行ってみると編集長と自分以外は皆、女性ばかりの契約社員。
    新見の企画は通らず、どんな店を出してもつぶれるだろうと手厳しく言われてしまう。
    だんだんと仕事は覚えていくのだが‥

    少女モデルはオーディションで選ばれ、1万数千人を超える応募がある。
    写真を見ていてもくらくらするほどの量だという‥確かに。
    写真だけではわからない良さや可能性が、面接や二次面接でやっと出てきたりして、ベテランはそれを見抜くというのが、面白い。
    アイドルの成長する様や人気投票などに今の時代、慣れているから、けっこうわかる気もします。

    モデルになっても、人気ははっきりランク付けされる厳しさが。
    現場でも、仕事内容に差はつく。
    どんなときも和気藹々とした現場に新見はやや驚くのだが、それは撮影を無事に終えなければならない真剣な場だからなのよね~。
    少女達のほうがよほどしっかりしているような‥

    新見のミスで、人気モデルの進路が変わってしまったと悩むことになる。
    いや~ミスだけのせいでもないし、こういう岐路は次々にあるはずで。
    広告代理店の動きも、面白かったです。

    かわいいものを選ぶセンスを身につけるには、男性は1年じゃとても足りないでしょうね。
    でも出来ること、やるべきこと、はある。
    多くの違う才能を持つ人が真剣にかかわって、やっと出来上がっていく雑誌‥
    仕事と本気で取り組むことで、初めて面白さがあると気づく新見。
    真理ですよね。

  • 「ばかな子ほどかわいい」とはよく言ったもので。。。

    文芸部門志望だった新見くんが
    「プリティ」があふれるティーンズ雑誌編集部に配属され、
    フリフリの服やキラキラのグッズに毒づき、自分の不運を呪いながら
    亀より遅い、と言ったら亀も激怒しそうなペースで
    今いる場所で、今やるべき仕事を誠意をもってやり遂げる、
    そのことの尊さに気づくまでの1年を
    ハラハラ気を揉みながら、まるで母のように見守ってしまう1冊。

    終盤登場する、注目の若手女流作家 水科さんが
    ローティーンの頃、チープでふわふわした「ピピン」に救われたように
    その時、その人にとって大切なものって千差万別で、
    それが難しい文学だろうが、470円の雑誌だろうが
    ベートーヴェンだろうが、Jポップだろうが、アニソンだろうが、
    誰にもばかにしたり貶めたりする権利はないのです。

    くまさん柄の小さなポーチひとつにも
    それを手に取った少女の瞳を輝かせるために
    大勢の大人がアイデアを絞り、走り回った背景が確かにあって
    自分の価値観と相容れないものをにべもなく否定することは
    それに関わったすべての人を否定するということ。

    否定してばかりのネガネガ編集者だった新見くんが
    そう悟って小さな一歩を踏み出す姿に
    「よしよし♪」してあげたくなります。

    • takanatsuさん
      こんにちは。takanatsuと申します。
      私の拙いレビュにコメント頂きありがとうございます。

      私もまろんさんの本棚を見ていて読みた...
      こんにちは。takanatsuと申します。
      私の拙いレビュにコメント頂きありがとうございます。

      私もまろんさんの本棚を見ていて読みたい本がたくさん見つかったので、これから頑張って読みたいと思います!

      『プリティが多すぎる』は既読なのですが、まろんさんのレビュを読んでまた読みたくなりました。
      「それに関わったすべての人を否定するということ。」という言葉はぐさっと突き刺さりました。
      本当にその通りだと思います。
      私にはまだまだ新見くんとの修行が必要かもしれません。


      これからも既読、未読に関わらず、まろんさんのレビュを参考にさせて頂きたいと思っていますのでよろしくお願い致します。
      2012/06/06
    • まろんさん
      takanatsuさん、こちらこそコメントありがとうございます。感激です!

      メカ音痴の私は、スマホもPCもうまく使いこなせていないので
      昨...
      takanatsuさん、こちらこそコメントありがとうございます。感激です!

      メカ音痴の私は、スマホもPCもうまく使いこなせていないので
      昨日から必死に、「読みたい本リスト」を書きつけた手帳に
      takanatsuさんの本棚から、読みたい本をせっせと書き写していたのですが
      ついに書き込むスペースがなくなってしまって、
      手帳のサイズを大きいものに変更しようとしているところです。
      読みたい本がふえて、なんだか遠足の前みたいにわくわくしています♪
      2012/06/07
  • 私も昔読んだあの雑誌は、こんな努力の上に作られていたのか、と。
    南吉くんがだんだん熱心になっていく姿が素敵。若い女の子たちの複雑な心も素敵。
    雑誌の裏側が書かれているのも純粋に面白かった。

  • 哀愁漂うスタートから予想通りの展開で予想通りの終わり方。それがとても、良い。自分がやっていることの意味、何が求められているのか、真剣に取り組むことで自分の役割に気が付かされるのだと。仕事でも、そうでなくても。

  • 文芸志望の将来有望編集マンが、ある日突然ローティーン向けファッション雑誌に転向させられた!
    いやぁ…深い。自分も昔、南吉君とほぼほぼ同じ苦境に立たされたことがあり、ローティーン向けファッション雑誌、のパワフルネスに圧倒された記憶があるからひとしおだ。
    リアルな描写に引き込まれ、南吉君の苦悩が手に取るようにわかった。
    働くステージは常に自分の望むものとは限らない。けれどそんな場所でも腐らず真摯に、如何に「プロフェッショナル」でいられるか。
    本気で動けば何かが変わる。職業に貴賤はなくて、いつでもどこでも「本気」が問われる。
    勇気とほんの少しのほろ苦さをくれた、そんな物語でした。

  • 気になっていた作家さんのひとり、はじめて読みました。

    お仕事ものをしてはちょっとゆるいし、かといって10代向けでもないようで、どこがいちばん書きたかったのかよく分からなかったな。
    でもそれぞれに共感するところや微笑ましく思うところがあり、自分の過去を顧みるとこの歳になりなんか達観した気になります。やだなーもう。

    娘が表紙を見て「すごいかわいー」といい、それを見ながら真似して絵を描いていました。
    なんかピンクのハートがいっぱいの。
    まだローティーンにも程遠いですが、ピピン読者の素地を十分に備えているようです。
    毛嫌いせずに理解するように努めないと。
    そこにもその年頃の必死さや貴重さがあるんだものね。

    さらりと楽しめたので他も読んでみようかな。

  • 望んでない部署に配属された主人公が、ミスして1人の女の子の未来を奪って、やっと気合い入った…みたいな感じ。何だかすっきりしないなぁ(´・ω・`)

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著者プロフィール

大崎梢
東京都生まれ。書店勤務を経て、二〇〇六年『配達あかずきん』でデビュー。主な著書に『片耳うさぎ』『夏のくじら』『スノーフレーク』『プリティが多すぎる』『クローバー・レイン』『めぐりんと私。』『バスクル新宿』など。また編著書に『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』がある。

「2022年 『ここだけのお金の使いかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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