鍵のない夢を見る

著者 :
  • 文藝春秋
3.23
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本棚登録 : 5093
レビュー : 908
  • Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163813509

感想・レビュー・書評

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  • 友だちのお母さんは、泥棒。「仁志野町の泥棒」
    私に言い寄った男が放火犯だなんて。「石蕗南地区の放火」
    ストーカー男に連れ去られて。「美弥谷団地の逃亡者」
    汚されないまっさらな夢。「芹葉大学の夢と殺人」
    うちの子みませんでしたか。「君本家の誘拐」

    真ん中の3作品は、ダメンズウォーカー極まれりな…。
    こんな奴おらんよ、と笑い飛ばせない薄気味悪さ、ふと魔が差す瞬間。
    実際にあった事件をモチーフにしているのかな、というのもあって、何だかあまり小説という感じもしなかった。

    以前に直木賞の候補作になった「ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ」にも似ている、なんだかわからないでもないけれど居心地の悪い感じを受ける短編集だった。
    しかもゼロ・ハチ・ゼロ・ナナではまだあった救いもなく、屈折度が高い。
    直木賞の選考委員って、こういうテイストが好きなのかしら。
    辻村さんの作品は好きだけど、やっぱり青春ものとか描いたものの方が個人的には合うかなぁ。

  • 女性たちの生活の延長線上にある事件や出来事を描いた5つの短編集。

    第2、3、4話に登場する男たちの持つ闇は、一見特異なものに見えて気味が悪く、読み続けているといら立ってくる。主人公の女たちもどうして関わることを止められないのか?
    けれど、離れられないのにはわけがある。
    自分だけが相手の良さを認めているのだという優越感。
    自分は切望されているということに自尊心をくすぐられている。
    第3者である友人たちや読者は、それを諌めようとするが届くはずもなく・・・。
    事件性が強いので一見、遠い対岸のことのように思われるが、登場人物たちに似たような思考を持つ人は実は近くにいそうだ。ただ、大概の場合はそれぞれの持つ自制心や良心によって、表面化しない人が多いのだと思うけれど。

    また、第5話は昼間は2人だけの生活を余儀なくされる母親と赤ちゃんの話。予想通り追い詰められていく様子と自分が想定した生活以外を認めない融通の利かなさが書かれているが、最後の最後に少しだけ救いがある。

    子ども特有の潔癖さや正義感を持った主人公と、少しだけ先に大人になっていく同級生の友人との対比、最後にもたらされる仕打ちに心がちくんと痛む第1話。
    された方は覚えているけど、した方はまず覚えていない残酷さ。
    悪意があっての言葉なのか、そうでないのか。
    小説としてわざわざ掬い上げるととても怖い。
    第1、5話は似たようなことが身近で起こりそうだと思わせる。


    どれも視野が狭く、周りの声が届きにくい人たちだけれど、何らかの環境によってそうなったのかも、と思うと怖さが増す。
    こんなことを考えている自分も当然後ろ向きな考えや身勝手さを持っていると思うし・・・。
    人の持つ毒や悪意を見せつけられ、ざらりとした後味の悪さを感じる1冊。

  • 三面記事。
    社会の出来事を写し出す鏡のような空間であり、いつ私たちに起きてもおかしくはない事件、問題が取り上げられる。

    級友、合コンで知り合った男、恋人、元彼、そして…自分自身。

    普通に過ごしてきたはずの日常が歪む瞬間。正気と狂気の狭間…。

    誰でも、犯罪や事件には無縁でいたいし、こちら側とあちら側には決定的な隔たりがあると信じて日々を過ごしている。しかし、加害者も被害者も明日は我が身なのかもしれない…。

    怖い作品だった。WOWOWでドラマ化されたみたいです。ちと観たい。

  • ローカルな町で起こる身近な事件を題材に関わった女性の心理描写を巧く描いている短編集です。私は後半の2編「芹葉大学の夢と殺人」「君本家の誘拐」が読み応えもあり、面白かったです。
    見えてきたのは、自意識過剰人間の勘違い(思い込み)が招く苦い後味と、一つの事件がさらけ出させた本人にしかわからない固執や自尊心等の胸の内。これらを総称して鍵を持たない夢といったのでしょうか。どんな善良な人でも持っている背面の感情、それが見え隠れしていました。共感もしませんが、わからなくもないといった感じ。不思議と嫌な読後感ではありませんでした。(3.5)

  • 第147回直木賞受賞作。
    辻村深月さんの本は好みのものとそうでない物にくっきりわかれてしまう。
    この本は後者で…

  • この本の読了には長らく時間が掛かってしまいました。もともと、短編を読み進めるのは苦手な方ですが、やはり一話一話が重く、仄暗いからでしょうか。暗いと言っても、心にずーんっという感じではなく、妙に印象に残ったという感じ。

    本作は5人の女性の視点とそれぞれ5つの犯罪をからめた話を収録した短篇集です。

    多くの読者の方々は登場人物に共感できず低めの評価をなさっているようですが、私はちょっと違う視点で読みました。どの話も“ありそう”な話だったんです。ついつい人のお金を盗んでしまう主婦、放火、ストーカーによる殺人、大学教授殺人、乳児誘拐など、どれもが私達の日常に流れるニュースに良くありそうな犯罪です。

    そんな犯罪を引き起こしてしまう当事者と関係者の心理描写が、一話一話に盛り込まれていて、あの事件もこんな人達に引き起こされたのだろうか、と考えさせられました。
    本作の登場人物はどれも様々なタイプの“カンチガイ”人間だったように思います。もちろん、共感なんか出来る人はそうはいないでしょう。
    共感もできないし理解できなくて当たり前です。

    でも実際にはそんな“カンチガイ”人間によって、もしくはその人に関わってしまった事によって、思わぬ事態が起こってしまうのではないでしょうか。犯罪は怨恨やトラブルによってのみ引き起こされるわけではないのだと思いました。

    特に私が印象に残ったのは「未弥谷団地の逃亡者」と「芹葉大学の夢と殺人」でした。
    「未弥谷団地の逃亡者」を読み始めるとありきたりなカップルの話かと思いきや、最後にはどんでん返しもあってゾッとしました。
    「芹葉大学の夢と殺人」に関しては自己中心的でナルシスティックな男に対して“いるいるこういう男!”と思ってしまいました。その男に惚れてしまったのが主人公の女性の運の尽きなのでしょうが、最後の痛々しいまでの叫びには少し共感してしまいました。

    あとちょっと論点とずれるかもしれませんが最後の一話の「君本家の誘拐」に関してはぜひ男性にも読んでいただきたいと思いました。妊娠・出産の大変さがリアルに書かれていて、読みながらゴクリと生唾を飲み込みました。でもそんな育児に疲れた女性も、ある種の“カンチガイ”をしている女性だったのが印象的です。

    とまぁ、あながち共感出来ないところが無いわけではないですが、本作はぜひ客観的な視点で読んで欲しいなと思いました。

  • 今年5冊目。
    辻村深月の直木賞受賞作。
    5人の女性を描いた短編集。

    全ての話に事件性が含まれているのに、
    それよりも、
    事件によって浮彫にされる
    それぞれの女性の内面が
    強烈に印象に残る作品。


    読んでいて辛かった。
    自意識の強さとか、ズルさとか、
    こうでなければいけないという
    自分自身が巻いた鎖のようなものの無意味さ。
    そういうものがいかに滑稽か
    突きつけられたように感じた。

    人は誰しも理想や願望があって、
    それに近づこうとする。
    そして、近づいているかのように
    これで間違ってないと自分を誤魔化す。
    結局は自分がかわいくて、
    生きていくために都合よく自己防衛をするものだ。

    悪いとは言い切らないけど、
    こういう姿なんだよ。
    見えてる?と。

    辻村深月はそういう表現がうまい。

  • このテーマ、彼女が書く必要があったのかね…。
    こういうの、得意で好む女性作家、他にいっぱいいると思うんだけど。
    上手いし、何の問題もなくさらっと読める。
    意地悪な見方をすれば、それが問題。

  • どれも女性ならでは感情を描いたモヤモヤした作品。
    女の私には共感出来る点が多々あり、あっという間に読めてしまった。
    直木賞って事だけど、男性が読んでも楽しいのかなぁ、とちょっと悩む。

    ただ・・・私の好みとして後読感が良い作品が好きなので、評価は☆3つ。スロウハイツとかメジャースプーンとかの方が好きです。

  • 最近けっこう読み漁っている辻村深月さんの本。
    「凍りのくじら」、「かがみの孤城」に続き手に取った。
    第147回、直木賞受賞作品。

    直木賞受賞作品に珍しく、5つの話から成り立つ短編集。
    うーん、面白くないことは決してないのだけれど…直木賞ほどかな?というのが正直な感想。
    自分があまり短編集自体が好みでないので、少々内容が薄く感じてしまう部分があったかも。

    初めて子育てを経験する母親から、恋愛依存症の若者と、幅広く女性の複雑な心理を書ききるところはさすがかなと。
    読みながら凄くリアリティーを感じる。

    ちょうど子供が産まれた自分としては「君本家の誘拐」が一番印象に残った。

    いわゆる育児ノイローゼ的な感じに陥っていく女性の心理が描かれていて、何となくビクつきながら読んだ(笑)
    特に、何気ない父親の行動・言動が主人公を追い込んでいくところ「『砂嵐』を使う子供のあやし方を『手抜き』よばわり」、「深夜帰ってきて寝ている子供を起こす」あたりは、シーンとしてものすごくありえそうでゾッとした(笑)

    優しい人ほど、子育て・家事すべてをこなし切れない自分を追い込んでいくのかなぁと。
    うちもその傾向が強い気がしたので、気を付けたいと思った。

    母親(主人公)だけではなく、父親(学)・友達(理彩)の働いている側からの目線も描かれているため、押し付けがましくなく、比較的フラットなバランスの作品に仕上がっているように思う。

    今のタイミングでこの作品を読んだことも、何かの縁だと思うので、しっかり実生活に活かしていこうと思う(笑)

    あと、「芹葉大学の夢と殺人」に出てくる「雄大」が、「凍りのくじら」の「若尾」にそっくり…
    こういう煮え切らないイラつく男を書かせたら天才だ(笑)

    <印象に残った言葉>
    ・雄大には私の実習仲間の彼氏と違って、私のための時間がないのだ。物理的な時間ということではなくて、心に私を入れる余裕がないのだ。寄りかかるような真似は、絶対にできない恋人だった。私は私の足で、歩かなくてはならない。(P163 二木)

    ・そんなふうに手を抜きたくないよ。きちんと抱っこしてあやすから。(P227 学)

    ・心配かけてごめんねって謝るかと思った。すぐ、無事に子供できたわけだし。(P236 理彩)

    <内容(「Amazon」より)>
    第147回直木賞受賞作! !
    わたしたちの心にさしこむ影と、ひと筋の希望の光を描く傑作短編集。5編収録。
     「仁志野町の泥棒」誰も家に鍵をかけないような平和で閉鎖的な町にやって来た転校生の母親には千円、二千円をかすめる盗癖があり……。
     「石蕗南地区の放火」田舎で婚期を逃した女の焦りと、いい年をして青年団のやり甲斐にしがみ付く男の見栄が交錯する。
     「美弥谷団地の逃亡者」ご近所出会い系サイトで出会った彼氏とのリゾート地への逃避行の末に待つ、取り返しのつかないある事実。
     「芹葉大学の夢と殺人」【推理作家協会賞短編部門候補作】大学で出会い、霞のような夢ばかり語る男。でも別れる決定的な理由もないから一緒にいる。そんな関係を成就するために彼女が選んだ唯一の手段とは。
     「君本家の誘拐」念願の赤ちゃんだけど、どうして私ばかり大変なの? 一瞬の心の隙をついてベビーカーは消えた。

著者プロフィール

辻村深月(つじむら みづき)
1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、2017年『かがみの孤城』で「ダ・ヴィンチ ブックオブザイヤー」1位、王様のブランチBOOK大賞、啓文堂書店文芸書大賞などをそれぞれ受賞。本屋大賞ノミネート作も数多く、2018年に『かがみの孤城』で第6回ブクログ大賞、第15回本屋大賞などを受賞し、2019年6月からコミック化される。他の代表作に『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『名前探しの放課後』『ハケンアニメ!』『朝が来る』など。新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、幅広い読者からの熱い支持を得ている。2020年、河瀬直美監督により『朝が来る』が映画化される。

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