世界を売った男

著者 :
  • 文藝春秋
3.29
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本棚登録 : 113
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163814506

作品紹介・あらすじ

香港西区警察署の許友一巡査部長は、ある朝、マイカーの運転席で目が覚めた。酷い二日酔いで、どうやら自宅に帰らず車の中で寝込んでしまったらしい。慌てて署に向かったが、どこか街の様子がおかしい。署の玄関も改装されたように様子が変わっていて、ポスターを見ると2009年と書いてある。「馬鹿な、昨日は2003年だったのに!?」許巡査部長は一夜にして6年間の記憶を失っていた。呆然とする許だが、ちょうどそこに女性雑誌記者・蘆沁宜が現れ、許が昨日まで捜査していた夫と妊娠中の妻が惨殺された事件の取材で、許と会う約束をしたという。6年前の事件の真相と己の記憶を追い求める許の捜査行が始まる。奇想天外な発端と巧妙なプロットで圧倒的な支持を受け、第2回島田荘司推理小説賞を受賞。香港の鬼才が放つアジア本格の決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 違う、私ではない
    私は決して自分を失うことはない
    君が向き合っているのは
    世界を売った男なのだ
    ーデヴィッド・ボウイ『世界を売った男』

    ***
    『世界を売った男』という曲はその昔、ニルヴァーナがMTVのアンプラグド(懐かしい!)でカバーしたのが有名ですが…。本書を読んでいるあいだ中、アタマの中でずっとぐるぐる流れてました。

    『13.67』の著者が初期に描いたこの香港ミステリーは、荒削りで多少強引なところもありますが面白かったです。ラストのくだりはプロローグの回収にもなっているようです。

    タイトルの意味は、ドッペルゲンガーなど様々な解釈があるようですが、個人的にはデヴィッドボウイが有名になったことで「(自分の)世界を売った男」として、歌ったのかもしれないなあと思いました。

  • 途中で犯人と真相が分かった(つもりになった)。しかし終盤で、その原因やプロセスが、全く予期していなかったことであると知り、あらためて「どんでん返し」にしてやられた感を強くした。

    香港警察の許巡査部長は、目覚めたら6年間の記憶を失っていた! 2003年、彼が関わったある凄惨な殺人事件では、容疑者が死去し、捜査は終了している。しかし2009年の現在、許は犯人が「彼」ではないと考え、雑誌記者の阿沁と共に真相を探っていく。

    本作で主体となって発言するのは、刑事の許友一、「犯人」と交流があった閻志誠(イム・チーシン)、そして精神科医の白医師の3名である。許と閻はともにPTSDを患い、白医師のカウンセリングを受けている。読後もういちど白医師の発言を読み返すと少し納得できた。

    記憶喪失や解離性同一性障害は物語でよく使われる設定だが、本作ではそれらの使われ方が斬新。今まで自分が読んだミステリーの中で一番複雑な構成で、理解するのに苦労した。タイトルの意味はいまだによくつかめないのだが…。物語のほとんどが暗くてやりきれない気持ちになったが、最終的に救いがあるのでほっとした。

  • 陳浩基、恐るべき才能。こんな作家がいるなんて。もっと早く読みたかった。アジア勢に対する偏見を後悔。タイトルの「世界を売った男」がデビット・ボウイの曲だと知ってニヤリ。最新作の「ディオゲネス変奏曲」をさっそく購入。借りて読んでもよかったのだけれど、どうしても手元に置きたくて。ゆっくり読んでますよ!

  • 著者である陳浩基氏の「13・67」を読む前に初作である本著を手にとった。

    ミステリーの設定がユニーク。現代の問題をうまく取り込んでおり、全く予想できなかった。
    主人公だけで良かったと思う。(ネタバレするのでこれ以上言及しない。)

    原作のタイトルは『遺忘・刑警』だそうで、邦題の「世界を売った男」はもう少し良いタイトルがあったと思う。

    評価は限りなく、4点に近い3点とする。

  • 初めての香港ミステリー
    面白かったけど、中国語の名前や地名などが難しくて頭に入って来ない。
    コロコロ変わる真実に頭が付いて行くのが精一杯。
    漢字が難しい上にトリックも込み入ってて、自分の頭の悪さを突き付けられた感じ。
    だけど、最後まで必死に付いて行った価値あった。
    最後の一言にゾクリ&粋だなぁと感心。

  • とても評価が難しい。
    何でもどんでん返せばいいというものでは…という気もするのだが、それは訳文がまずいせいなのかもという気もする。
    つか、島田荘司(という日本人作家)の名を冠した賞だし、著者は日本語(という外国語)で執筆して応募したのかと、読了後まで勘違いしていた。そのくらいに日本語訳がひどい。もはや非ネイティヴレベル。
    生硬、平板、セリフ回しが棒読み級。そのせいで、主人公と作品世界にまったく親近感が湧いてこない。よくよく考えたら凝りすぎなくらい凝った設定なのに、不自然さだけが強調されて書き割りみたいに見えてしまうのだから、気の毒な話である。

    「目が覚めたら6年飛んでました」としょっぱなからかましておきながら○○○○って出落ちかよ…と始球式しかけたら、あっとびっくり真相は××××。ここらへんは、素直にうまい。いささかやりすぎの過剰さまで含めて、いかにも賞を獲りそうな作品と言える。新人は、これくらい活きのいいほうがいい。
    名作とか傑作とかではないのだが、頑張りを評価したくなる作品。それだけに、つくづく翻訳が残念だ。

    2019/2/4〜2/7読了

  • 原題は『遺忘・刑警』で
    『世界を売った男』というタイトルは
    イギリスのテレビドラマ『時空刑事1973』の
    テーマ曲がデビットボウイのLife on Marsで
    そのB面曲が『世界を売った男』に由来する。

    ただこのタイトルは原題よりの
    忘れてしまった警官みたいな方がしっくりくる。

    6年間の記憶を失ってしまっているという事実を
    6年後からタイムトンネルで来た刑事ではというSF展開が示唆されるが、荒唐無稽にみえるその一案を凌駕する
    許友一は誰なのかというオチはおぉとなる。


  • 香港を舞台にした推理小説。中々面白い内容。

    特にどんでん返しが意外だった。

  • 警察の許友一巡査部長が目を覚ますと、2003年から2009年になっていた。「一体何が起こっているんだ。」2003年に許巡査部長が関わった殺人事件を調べなおしている女性雑誌記者 盧泌宜と共に再捜査を始める」
     
     第二回島田荘司推理小説賞受賞作。後に『13 67』などを書いた。『ハサミ男』など小説ならではのトリック。読みすすめるうちに、どれが正しいのか自分の思い込みなのかがわからなくなってくる。
    結末は主人公が「小骨がとれた感覚」。犯人の動機にはモヤモヤ。

  •  香港ミステリの2冊目。これはまた手の込んだ心理的入れ替わりトリックミステリ。事件自体は単純で、真犯人もひょっとしたらと十分考えうる範囲なのだが、それを二転三転させる主客転倒が執拗に仕かけられていて混乱する。門外漢からみると科学的には反則ではと思わないでもないが、まあうまくできているとは思う。

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著者プロフィール

●著者紹介
1975年生まれ。香港中文大学計算機学科卒。台湾推理作家協会の海外会員。2008年、短篇「ジャックと豆の木殺人事件」が台湾推理作家協会賞の最終候補となり、翌年「青髭公の密室」で同賞受賞。2011年『世界を売った男』で第2回島田荘司推理小説賞を受賞。2014年の連作中篇集『13・67』は台北国際ブックフェア大賞など複数の文学賞を受賞し、十数ヵ国で翻訳が進められ国際的な評価を受ける。2017年刊行の邦訳版(文藝春秋)も複数の賞に選ばれ、2020年刊行の邦訳の『網内人』(文藝春秋)とならび各ミステリランキングにランクインした。ほかの邦訳書に自選短篇集『ディオゲネス変奏曲』(早川書房)がある。

「2021年 『島田荘司選 日華ミステリーアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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