- Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163817101
作品紹介・あらすじ
突然の閃光と業火-それが路線バスを襲った。送電システムの異常により、電力が一つの変電所に集中、爆発的な放電が発生したのだ。死者一名。これは事故ではなかった。電力網をあやつる犯人は、ニューヨーク市への送電を予告なしに50%削減することを要求する。だがそれはNYに大停電を引き起こし、損害は膨大なものとなると予想された。FBIと国土安全保障省の要請を受け、科学捜査の天才リンカーン・ライムと仲間たちが捜査に乗り出した。しかし敵は電気を駆使して罠をしかけ、容易に尻尾をつかませず、第二の殺戮の時刻が容赦なく迫る。一方でライムはもう一つの大事件を抱えていた-宿敵たる天才犯罪者ウォッチメイカーがメキシコで目撃された。カリフォルニア捜査局のキャサリン・ダンスとともに、ライムはメキシコ捜査局をサポートし、ウォッチメイカー逮捕作戦を進めていたのだ。ニューヨークを人質にとる犯人を頭脳を駆使して追うリンカーン・ライム。だが彼は絶体絶命の危機が迫っていることを知らない-。
感想・レビュー・書評
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安楽椅子ならぬ車椅子探偵、リンカーン・ライム・シリーズ九作目。四肢麻痺で動かせるのは首から上と右手の指だけだが、警察にもない機器を自宅にそろえ、公私ともにパートナーのアメリア・サックス、ルーキーのロナルド・プラスキーを手足として駆使し、微細証拠をもとに捜査にあたる。犯罪学者としての豊富な知識、これまでの捜査活動を通じて得た仲間の協力が彼を支える。
ホームズにモリアーティ、明智小五郎に二十面相、とシリーズ物に欠かせないのが宿敵の存在だ。ライムの好敵手はウォッチメイカー(時計屋)。神出鬼没の殺し屋だが、ライムと互角の頭脳を持つ逃亡中の天才犯罪者だ。そのウォッチメイカーが空港で目撃され、メキシコ警察の手で逮捕されそうだという連絡が入る。ライムにとっては最重要事件だが、同じ頃ニューヨークでバスが高圧電流による爆発を受けて大破し、犠牲者が出る。
ニューヨーク市警は、ライムに捜査を依頼。FBIをはじめ、捜査員の面々がライムのアパートに集合する。FBIニューヨーク支局長補マクダニエルはテロを疑っていた。最新技術を駆使する急先鋒で、ネットや携帯から得られる情報を分析する捜査を得意にしている。それによると組織の名や首謀者の名が囁かれているらしい。潜入捜査を得意とするフレッドは情報屋を通じて情報を得る自分の方法に自信をなくしかけている。このアナログとデジタルの暗闘がストーリーを裏で牽引している。
今回、犯人が用いる犯罪方法が、電気によるもの。高圧電流を放電したり、建物の内部に密かに電流を流し、金属部分に触れたものが感電死するというおぞましい殺人方法だ。狙われているのはアルゴンクイン・コンソリデーテッドという電力会社。そこのCEOであるアンディ・ジェッセンは太陽光など地球にやさしい発電に消極的で、従来通りの石炭火力から脱却する気がない。犯人は、どうやら環境テロを起こすことで、その姿勢を改めさせようとしているらしい。
電力会社のネットワークに侵入するにはパスコードを取得することが必須だ。それに、犯行を行うには高度な専門知識と技術が必要になる。ライムは内部にいる者の犯行だと目星をつける。アメリアたちが採取した微細証拠から、四十代の金髪男性で病院に通院歴があることがわかり、該当者を絞っていくと、レイ・ゴールトという社員が浮かび上がる。しかし、犯人から次の犯罪予告が送りつけられ、ライムたちは現場の絞り込みに躍起となる。それをあざ笑うかのように犯人は次々と殺戮を繰り返す。
リンカーン・ライム・シリーズといえば、二転三転するどんでん返しが売り物だ。今回もそれはたっぷり用意されている。まず、犯罪動機が表向きの環境問題にあるのではなく、隠された真の動機が明らかにされる。ホワイトボードに列挙された被害者には表面上に現れていない共通点があることにライムは気づく。ひょっとしたらこれは、本当に殺したい人間の関連を隠す目的で無差別テロに見せかけているのではないか、というのだ。
シリーズ物も、何作も続くと常連の人物には新味が乏しくなる。そこで、味つけとして、その作品にだけ登場する魅力的な人物が登場する。今回は、トーマス・エジソンを尊敬する発明家でもあるアルゴンクインのプロジェクト責任者のチャーリー・サマーズがそれだ。ジャンク・フードをドリンクで流し込みながら、紙ナプキンにアイデアを書きまくる、子どもがそのまま大人になったような人物。しかし、電気に詳しいだけでなく、頭脳も意志力も併せ持つ愛すべきキャラだ。
実はチャーリーはCEOであるアンディの方針とは異なる代替エネルギーの開発に熱心で、太陽光発電にも関心を示していた。殺された人物の中に、その事業に関わるビジネスマンが含まれていたことや、微細証拠の中にアンディの物と思われる物が残されていたことから、ライムたちはアンディとその弟の関与を疑う。犯行はこれ以上の代替エネルギーの振興を食い止め、アルゴンクインの軌道を安定させるのが目的なのだろうか。
ルーキーを育てようとするライムの心配りにも関わらず、過去のトラウマから逃れられずに自動車事故を起こしてしまうプラスキーの動揺が傷ましい。ショックを受けるルーキーにあくまでも冷徹に接するライム。一方、フレッドは信じていた情報屋に大金を騙しとられ、すっかりやる気をなくすが、妻に尻を叩かれて潜入捜査に戻り、とんでもない事実に遭遇する。まったく無関係と思っていた事実と事実が結びつき、あっと驚かされる。
追う者と追われる者との間に生まれる一体感というのだろうか。ライムとウォッチメイカーとの間には友情めいた思いすら感じられる。そのウォッチメイカーとライムとの直接対決もラストに用意され、ここでもいつものように読者は一杯食わされる。エピローグである「最後の事件」は、すべて解決された物語の最後に置かれた、いわばおまけのようなものだ。それなのに、周到に用意された伏線と叙述トリックにすっかり騙されてしまう。そうそう簡単に終わらせてなるものか、という作者の思いがたっぷり詰まった渾身の一篇である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ディーヴァーは裏切らない。
リンカーン・ライム・シリーズ9作目にして、これだけ引き込まれる面白さ。
慣れた読者には先を読めるところもありますが、それも楽しみのうち。
ライムと仲間達の活躍を堪能させてもらいました。
リンカーン・ライムは科学捜査の天才。
かって鑑識の捜査中に事故で全身不随となり、身体は指先を少し動かせるぐらいだが、頭は精密、性格は傲慢。
ハイテク機器に囲まれたベッドの上で、1作目で恋人になった巡査アメリアを目と手の代わりにして、警察の捜査に協力しています。
今回の敵は電気。
という設定にまず興味をそそられます。
電気を自在に操る犯人が、事故を起こさせ、電力会社アルゴンクインの女社長に脅迫状を送りつけてきます。
電力供給を50%に落とさなければ、さらに事故を起こすと。
それは到底不可能なことなのだが‥
そこらじゅうに張り巡らされている電線。町中どこにでもある恐怖に囲まれ、アメリアも戦慄しながら、次々に現場に赴き、捜査を進めます。
環境テロなのか、個人的な恨みか‥ 犯人の目的は?
ライムはもう一つの事件も抱えていました。
かって取り逃がした殺人犯で宿敵ともいえるウォッチメイカーがメキシコにいるという情報が入ったため、カリフォルニア捜査局のキャサリン・ダンス(スピンオフシリーズの主役)とともに、逮捕作戦をサポートしていたのです。そちらの情勢が逐一入る状況。
これまでの作品に登場した面々が少しずつ登場し、ファンには楽しい展開。
とくにFBIのフレッド・デルレイが危険な捜査に賭け、立場があやうくなりかけますが‥
最先端の技術に遅れをとりがちな地道な捜査官の面目が保たれて、ほっとする一幕。
そして最後にリンカーン・ライム自身の重大な決断があり、これが感動を呼び起こすのです。
作者は雑誌記者、弁護士を経て、1988年作家デビュー。
1990年、40歳のとき、専業作家に。
とくに好評なリンカーン・ライム・シリーズは、1997年の「ボーン・コレクター」に始まり、「コフィン・ダンサー」「エンプティー・チェア」「石の猿」「魔術師(イリュージョニスト)」「12番目のカード」「ウォッチメイカー」「ソウル・コレクター」この「バーニング・ワイヤー」(原著は2010年)と1年か2年おきに続いています。
最初の2冊の衝撃力は、その後はないかもしれませんが~
あんなに怖いのを毎年読みたいわけでもないので、ちょうどいい。
軽めの単独作品なども加えると、20数作あるようです。
97年以来、水準を超える作品をこのペースで書き続けているのは、凄いの一言。 -
とにかくハードカバーの新刊は高いので、と手を出すことを止めてしまって以来、早や12年が経ってしまった。初期の頃のリンカーン・ライム・シリーズは驚愕の面白さで読者に常に驚きを与えてくれていたが、いつの日にかパターン化して新鮮さが消えてゆく。
本書は、そんなぼくにとってあまりに久しぶりのライムのシリーズである。10年前に発刊された本書から、シリーズ読書を再開すべきか否かのリトマス試験紙にもしてみたい。
本書序盤は、電気を使った殺人、電気への復讐、と、電気がとにかく本書のテーマ、と、電気、電気、電気のオンパレードである。それが派手過ぎて、読み始めたことを早くも後悔し始める自分がいる。正直、八割方、新手のアイディアに飛びついたのであろう作家ディーヴァーのほくそ笑む表情が透けて見えるようでとっつきにくいものがあった。
しかし、しかし、物語が終盤を迎えるところで、これまでとは確実に異なる気配が漂い始める。いつもの好敵手的犯罪者の正体にストーリーが及んでみると、この物語は見た目とは全然異なる表情を浮かべ始めるのだ。うわあ、やられた! そうだった、この作家はこの、ツイストを命とする作家だったのだ。
終盤の二転三転するツイストまたツイスト。その中で徐々に物語の真相が姿を見せてゆくことで、前半の耐え難き電気攻撃は、ここに来て許せる気になってしまう。そう、また、やられたのだ。騙された。この作家に。嬉しい悔しさ、である。
ライムを初めとして、あまりに多くの登場人物が関わってくることにも最初は戸惑いを感じさせられる。他シリーズの主要キャラクターも参加してくるし、主要舞台であるニューヨークの他、本シリーズで二度もライムの手を逃れている好敵手Xをメキシコで捕縛する作戦も気になる。やはりシリーズならではの面白さがあるとともに、12年前までの本シリーズの騙しの手際がじわじわと蘇ってきたのである。
ディーヴァーの作品は常々おもちゃ箱みたいだ、と感じていたのだが、本書も例外ではなかった。ただ、他愛のないおもちゃ箱で済まない、ライムの人生を左右する心身状況、キャラクター間の人間関係の多様さ、等々、生活面の様々な喜怒哀楽と、それぞれの人物の個性が徐々に際立ってきて、ラストシーンを、それぞれのキャラクターの物語でも見事に切り上げてくれる辺りは見事としか言いようがない。
やはりディーヴァーは語りの名手、マジシャンなのだ、と再認識させられてしまった。はい、そう。今回もまた、完敗です。 -
爽快で温かな読後感。ライムシリーズは全て読んでるが、どれも素晴らしい出来栄えの極上のミステリーだと思う。
今回の犯人は電気を操る。張り巡らされた伏線、二転三転と読者は翻弄され、まるで映画を見ているようにハラハラドキドキ。そして最後は収まるべきピースが収まるべき場所へピタッとはまり、納得のラストへ。新刊が待ち遠しい。 -
「電気」は現代、生活必需品であり電気を利用したモノも多種多様化してきた。中でもEVと言われる電気自動車など電力の需要は益々増えることは間違いない。それを賄うエネルギーがこの小説のような環境問題から大事件、事故になるのは誰もが予測できる。怖いのは「目に見えないモノ」に対して人は恐怖に落ちる、それは「感電」と言う恐ろしさだ。
現代の鑑識捜査官のツールには驚愕だ。今後さらにビックデータなどAIを駆逐し微細証拠でも明確に突き詰めれるのは疑いない。
「天才とは下調べを怠らない有能な人物にすぎない」エジソン -
今回のライムの敵は「電気」
この本を読み進めていくと、電気が私たちの生活にどれほど必要でそしてどれほど恐ろしいものかを認識させられた。
今作も予想外の展開で面白かった。
終わり方もドキッとさせられてそしてホッとした。 -
電気をテーマにしつつ、おなじみのリンカーンを中心とする科学捜査陣。これまでに前例のない犯罪を描いたディーバーの構想力はさすがだ。作品を書き上げるための彼の周到な準備と
熱意を感じた。十分に楽しめました。