ふれられるよ今は、君のことを

  • 文藝春秋 (2012年11月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784163818009

作品紹介・あらすじ

高野楓(たかの・かえで)はやる気のない中学校教師。熱血教師が次々に心を病んで辞めていく教育の現場で、自分は常に適当に仕事をしてきたからこそ生き残れたのだ、という自覚がある。恋愛経験がなくもないが、なんとなく独り身できた。しかし最近、ひょんなことから、年下の彼氏を居候させている。センスがよく料理上手な彼との日常はたのしいが、困ったことがひとつ。この彼は、ちょくちょく姿をくらませてしまうのだ。野崎先生は楓の先輩教師で、熱血なことが鼻につくが、なにかと頼られてしまう。この先生に問題児・市田君の面倒をみてほしいと頼まれ、いやいやながら引き受ける。市田君は、図抜けた卓球の才能があり、卓球部員なのだが、全くやる気がなく、卓球台の下で本を読んでいるというのだ。楓は、自分の管轄である社会科資料室の整理を市田君に頼む。市田君は分類と整理といったことが無類に好きらしく、本当は誰からも必要とされていない作業に嬉嬉として励む。恋愛不能、発達障害といった現代的問題をふわりと包み込み、見事な大人のファンタジーとして仕上げた傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 仕事をしている時間と家で過ごす時間を普段は当然のように分けていて、仕事が終わって家に帰ると疲れたななんて愚痴ってみたりする。
    月曜日から金曜日までは土曜日が楽しみだったりする。
    いつの間にかそういうことになっていた。
    でもそれが当たり前だとは思わない。

    職場も家も、そこにいないといけない場所であることに変わりはない。
    職場は退職したり、転職すれば変えることが出来る。
    家も出て行くことは可能だ。
    でも、決断しなければ、朝出社するのは同じ職場だし、夜帰宅するのは同じ家だ。
    一度はそこを選ぶという手続きがあったけれど、その後はなんとなくの義務感が漂っている。

    この物語の主人公、楓は学校の社会科の先生だ。
    仕事に情熱を燃やすわけでもなく淡々と仕事をしている。
    家には不思議な恋人がいる。
    学校で過ごす時間よりも恋人と過ごす時間を大切にしているけど、学校がないと楓は自分を保てない。と思う。
    お金のためではなくて、精神的な理由で。

    朝になって行く場所があることで救われる時があるし、疲れてふらふらな時に帰れる場所があることでまた次の力になる。
    どちらの楓も本当の楓だし、どちらの時間も必要。
    単調で退屈な往復が自分を保つリズムなんだと思う。

    物語の主題とは違うかもしれないけど、そんなことを強く感じた。

  • もはや読み終わったのは14年前くらいかな?大好きな橋本紡さんの本で最後に読んだ本。まず、装丁と表紙の紙が素敵。内容も甘すぎず、深くじわじわと響くような本だった記憶がある。
    心に残る本は数年経っても、自分の内に残り続ける。

  •  このタイトルにおちて、橋本さんの作品を久しぶりに読んだ。
    ずいぶん前に読んだときの印象と違った。これから他の作品を読んでみたい。
    時も違うし、自分の感じ方も違うだろうから読んだものもまた読んでみようか。


     好きな人が同じ家にいる。でもいつ消えてしまうのかわからない。
    そしていつ戻ってくるのかわからない。
    二週間ならいい。一か月ならいい。・・・十五年に比べれば。

     彼がそばにいるときの気持ちや感覚は離れるとどうしようもなくよみがえる。
    その痛みを気が付けば、彼女と共有していた。

     ともに年をとっていけないというのもまた、別の苦しみを生むだろう。
    彼はいつまでも若いまま。それでも彼の愛情は変わらない。

     そんな奇異な存在を、短歌の先生の登場がすごくリアルにした。

     学校の資料室での生徒や野崎先生とのやりとり、その間に傾いていく陽の様子。
    普通の日常がしっかりと描かれている。だからこそ、そこに留まれない彼の存在が
    一層生きている。
    そこにいれば、同じように生活できるのに。
    ただそこに留まれないだけなのだ。けれどそれが何より問題でどうしようもない。

     自分のなかの日常でうまくできない部分を認めている彼女。だけどきちんと生きている。
    わたしにはそう見えた。

  • 高野楓はやる気のない中学校教師。楓の先輩教師である野崎先生は熱血なことが鼻につくが、何かと頼られてしまう。卓球部の市田君の面倒を見ることになったのも、野崎先生に頼まれてしまったから。もうひとつ気がかりなのが恋人のこと。料理上手な彼氏を家に居候させているけれども、時々姿をくらませて、しばらく帰ってこないこともある。どうも彼は、何か秘密を抱えているみたい…。

    前にも後ろにも進まない、停滞という言葉がぴったりくる物語だった。熱血であるが故に学校から去らざるを得なかった教師たちを横目で見ながら、楓は教師としての意欲がないために生き残ることができたことを自覚している。また恋人に秘密があることに気付いていながら、積極的にその秘密を知ろうとしない。彼を引き留めることはできないという諦め、真実を知ることの恐ろしさ、彼が傍にいてくれる“今”への甘え。楓からは現状を打破しようとする意志を全く感じない。過ぎゆく時間の上に漂うだけである。物語も問題を根本的に解決しないままに終わっている。すっきりしない物語だった。

    著者の他の作品同様、おいしそうな料理がたくさん出てきた。特に彼が焼いたヤキイモは印象に残った。料理ではないけど。とても甘くおいしくて、楓は夕飯替わりにおなかいっぱいになるまで食べていた。いいなぁ…

  • 私たちには他者が必要で自分ではない誰かとの関係が必要だ。同じように悲しさや寂しさは平等にやってくる。
    だけど出会いや幸せは平等には訪れない。
    だからこそこの一瞬を大事にしたくなる。
    変化することは恐ろしい。
    それでも変化しない永遠は絶望で、
    変わるからこそ変わらないで欲しいと願ってしまう。

  • そりゃあこんな人いたら便利でしょ。
    自分できちんとご飯作れと言いたい。

  • 読んでいると主人公みたいに孤独に馴れてるひとって今は少なくないんじゃないかなとおもった。
    娯楽に溢れてる時代だからでもあるけど、独りが当たり前、それが楽とおもってる人はわたしの周りにも沢山いるし、わたしもそうな気がする。

    主人公は雑な言い方をすると教師であるけど無責任で、自分が傷つきたくないから人を遠ざけるということを極めようとした人。
    でももうひとりの登場人物のかなりファンタジーな彼によって心が変わっていく。

    読んでたら某アニメ映画のおばあちゃんが言ってたことを思い出しましたね。
    「一番良くないことは独りでいることと、お腹がすいていること」

    そういうシンプルなことを言いたいのかなと受けとりました。
    214Pはなかなかずしっと来ました。

  • ふわふわと掴みどころのない物語。でも好き。
    何だかよく分からないのに安心して読めてしまうのはやっぱり飯が美味そうだからだ。飯パワー最強。

  • 図書館にて借りる、第186弾。

    橋本紡らしいというか、橋本紡ならではの作品。
    橋本紡、瀬尾まいこは同じ味がする。
    でも決して嫌な味ではない。

    忘れた頃に味わいたくなる。

    本作も橋本紡を読んだなーと、感じさせてくれる。
    悪くない。

  • タイトルに惹かれて手にした
    ・・・面白い本だと思った
    まさかの・・・SF
    何故・・・
    でも、面白かった

  • 教師をする楓、とても不器用でめんどうくさがりや、そんな彼女に彼氏ができる、、料理上手で家事も得意、ただ、消えてしまう。
    そして、帰ってくる、いつ帰ってくるかはわからない。
    大人の恋を描くが、楓が、そんな彼を受け入れる。
    女心はとても不思議だ。

  • 不思議だけど平凡な日常。
    大切な人に触れられる日常があるうちに、たくさん触れておきたい。いつ消えてもおかしくないから。

  • ずっと何かを諦めてきた主人公。自分を諦めしょうがないと思っていた。他者が自分を損なうことがないよう壁の中にいた主人公。1人は嫌だと踏み出す物語。
    市民講座で他愛無い雑談をする女性たち。その市民講座を受講する主人公。女性たちの目的のない雑談を人生でずっと軽蔑してきたのに、その日、話す事自体に意味がある、自分を晒して誰かを頼り頼られるのは実に素晴らしいことだと感じる所、パンデミックを経て何気ない交流がどれだけ潤いをくれるか実感したプロセスと重なった。
    おいしいものは、この筆者の他の著書のように力強く主人公の生命力を支えている。

  • ずっと読みたかった本作品。
    一人でいることが快適だけどずっとそうではいられなくて、誰かに振り回されているうちに本当の自分を知ることになる。
    変わってゆく楓と、変わらない彼。
    大恋愛と思いきや心情描写が多く、共感を覚える。

  • 人と関わると、傷ついたり、別れがあったり。辛い思いをしたくなく、自分のまわりに壁を作り、生きて来たはずなのに。一度人の温かさを知ると、ひとりの世界には戻れない。傷つくと知りながら、人はひとりでは生きていけない。

  • 傷つていた自分が、優しい世界観に包まれているような。
    知っている感情や思いを、うまく言葉にされていて、助けられる自分もいるな。

  • 目の前にいるのに、同じ時間を生きることはない「彼」との、穏やかで幸せな暮らしを描く。

    誰かと共に生きていく。それだけのことなのに、何と難しいことか。

    相変わらずのクオリティ。心がじんわりとしてくる作品だ。

  • 2022.7.7 読了


    初の作家さん!
    これが 予想外に面白かった!

    主人公のわたしこと楓は、
    教師をしている。
    でも 教師という仕事に思い入れも
    理想もやる気もなく、
    なのに なぜかクラスはまとまってる、
    という。
    自分で 自分がダメと分かってるけど、
    飄々としてるその感じとかが
    とても上手く描かれていて、
    最近の私には珍しく 惹き込まれました!

    これは 他の作品も読みたい!

  • なんとなく表紙とタイトルの雰囲気いいな〜って思って読んでみた!非現実的すぎるけど儚いというか、2人の恋愛がどうこうよりも主人公の楓の心情と市田君に大注目した。私も1人でいることが結構好きだけど恋愛をしたら楓みたいになっちゃうんだよなぁ〜ってちょっと共感した。市田君の今後がかなり気になる!

  • 時々消えてしまう、歳を取らない恋人…。それでも幸せなら、良いのでしょうが、私だったら、耐えられないと思ってしまった。何の前触れもなく、消えてしまうって、本当に悲しい。
    ただ、幸せで、優しい世界感で、その悲しさもなんだか、心地よかった。

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