- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163818801
作品紹介・あらすじ
田辺真理子、三十歳過ぎ。やがてこの名前は消える。年末のある日、何者でもなく生きたいと望み、ひとり東京を離れ、雪深い街へと逃れる。理髪店の二階の六畳一間に仮住まいをし、ラブホテルの受付として働きながら日々を過ごす。あるきっかけから絵のモデルもつとめることに。この空虚な生は何を逃れ、また何をもとめてさまようのだろうか。
感想・レビュー・書評
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う~ん、と唸らずにいられないほどの完成度の高さ。痺れるほどの文章力。
明確に純文学とカテゴライズされるか微妙だが(帯に純文学と書いてあるので純文学なんだろう)、久々に純文学でここまで読ませる作品に出会った。
東京で美容師として働く田辺真理子は、ある出来事をきっかけに今までの自分をすべて捨て去って北の街へと流れていく。
ラブホテルの受付で働く一方で、裸婦モデルをするのだが・・・。
間借りしている部屋の家主、ラブホテルの館主、彼女が放浪の旅に出るきっかけとなった元恋人。
彼女の周りには陰をはらんだ男たちが次々をあらわれて彼女を翻弄していく。
逃げることだけが彼女の生きること。
でもいったい何から逃げているのか。
彼女にとっての生とは何なのか。
男たちの死によってのみ彼女は生かされているのか。
きわめて静謐で美しい言葉で描かれる“生”の物語。
純文学とはいえ、難しい言葉はほとんど出てこないしさらっと読める。
しかしながら深い。
木村紅美の作品に出会えたことに感謝。
これからも追い続けたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
木村紅美さんは初めて読み、別のも読んでみたいと思った。
とはいえ、感想となると難しい。
何て言えばいいのだろう?
いろんな要素がぐぐぐっと詰め込まれている感じがして、感想としてうまくまとめられない。
ちょうど梅雨入りした、こういう曇天の日に読むといいと思う。快晴は似合わない。そういう感じ。
夜の月を見上げて、何を考えるではなくぼんやりと見詰めているとき、心に何かを感じる、そういうような印象。
帯には
<実存的生を描き切った、静かに読者を襲うまったく新しい純文学>
とある。
確かにそういう感じでもある。こういうトーンの小説は好き。
純文学とあるけれどこ難しい感じはなくあっというまに読めてしまう。
じわじわと暗い気分になった。心に穴を開けられたような感じがした。
でも暗い気分になったり心許ない感じになったのはただ実際の天気が悪いせいかも知れない。
人々がリアルで良かった。人ってこんなもんだよなと思う。
人は脆い。だから現実から逃げる。だから何か拠り所を求める。
逃げないと生きていけなかったり、もう生きることさえ放棄したりする。
簡単な事でこれまでが壊れてしまうこともある。後ろめたさや居心地の悪さは人を別の人にしたり別の場所に追いやったりする。
人の優しさや親切、人と人はかかわり合ってしか生きていけないということ、そういうものを拒否して踏みにじる主人公。
軽薄で自分勝手なこの主人公のことをダメな人はダメだろうと思う。そうなるとこの本を読むのはしんどいかもしれない。
でも私は割と分かるところが多かった。それに、何となく、主人公は人物というより観念のような、人の心にある何かの形のような感じがした。うまく言えないけど何かというのは生への執着のようなもの。彼女が生そのものを体現しているのだろうか?
考え過ぎてわけが分からなくなってきた。
私は結構好き。良かったと思う。
それにしても、木村紅美さんは1976年生まれで私よりも若い。そういうのを知っちゃうとすごいなーと褒めたくなってしまう。 -
裏寂しい雪国の様子が胸にささる。名前を変えてまで、寂しい町を選んで渡り歩くのは何故なのか。できるだけ自分で考えないでよい仕事を選ぶ。その方が楽だからだろう。しかし、そこから抜け出さずに老いていく主人公に、希望が全く見いだせない。
その暗さが寂れた雪国の町の描写とマッチしていた。 -
次から次へと住む場所を移して行動力はあるんだろうけど、何に対してもすごく無気力な感じのする主人公を好きになれない。それに他人を傷つける可能性のある嘘を平気でつく人は不快だ。
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ひたすらに薄暗い。
北のさびれた町で、先の見えない生活を送る人たち。 -
15/09/16
表紙の美しさに惹かれて手に取った。
美しい文章を淡々と読み進めて虚しさが残った。
最後の文章も美しくて絶望的で良い。
“雪灯りに照らされうたたねをし、揺られながら、朝が訪れるまえに、自然とそのまま目ざめなくなる日がくることを夢見る。上手くいくだろうか。くちびるがほころぶ。帰る場所はどこにもない。”(P200) -
新しいお好み作家さん探しで手に取った。
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読み終えて、これほどまでに空虚感を感じた作品って無いな。全体的に暗い雰囲気の中、北国という地で更には無し全般に暗さが増す、更に更に主人公の流れゆく様が追い打ちをかける。ただここまで暗い流れの中、最後に堕ちるのかと思いきや、流れを続けていく。不思議な作品だった。冬の読書には不向きだったな。