月下上海

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163823508

作品紹介・あらすじ

第二十回松本清張賞受賞。スキャンダルを逆手にとり人気画家にのしあがった財閥令嬢・八島多江子。謀略渦巻く戦時下の上海で、多江子が愛する運命の男たち。昭和17年10月、八島財閥令嬢にして当代の人気画家・八島多江子は、戦時統制化の日本を離れ、上海にやってきた。そこで、招聘元である中日文化協会に潜入していた憲兵大尉・槙庸平から、民族資本家・夏方震に接近し、重慶に逃れた蒋介石政権と通じている証拠を探すように強要される。「協力を断れば、8年前の事件の真相をマスコミに公表する」8年前、多江子が夫・瑠偉とその愛人によって殺されかける有名な事件が起きた。愛人は取り調べ中に自殺し、瑠偉は証拠不十分で釈放されたものの、親元の伯爵家から除籍され、満州へ追われた。そして奇跡的に一命を取り留めた多江子は、スキャンダルを武器に人気画家へのし上がった。だが、その真相は、愛人と外地へ駆け落ちしようとした瑠偉を許せなかった多江子が、他殺に見せかけて自殺を図ったのだった。槙は何故か、その秘密を嗅ぎつけていた。不本意ながらも夏方震に近づいた多江子は、その人間的な大きさに惹かれて行く。夏もまた、首と心に大きな傷を持った多江子の強さと孤独に惹かれ、心から愛するようになる。やがて夏の求愛に心を開いた多江子は、槙にきっぱりと任務を断り、夏の胸に飛び込み、共に生きる決心をする。だが、多江子の何気なく漏らしたひと言からヒントを得た槙は、工作員を捕え、夏をスパイ容疑で逮捕してしまう。多江子は槙の利己主義につけ込み、莫大な謝礼と引き替えに、夏を憲兵隊本部から連れ出す取引をする。そして夏を実家の八島海運の貨物船で密航させ、上海から逃がす。だが、成功に油断した多江子は槙に犯されてしまう。槙の真の狙いが八島海運にあると察した多江子は、命懸けの対決を余儀なくされる。そして……。

感想・レビュー・書評

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  • 暗い過去を秘めた財閥令嬢の美貌のヒロインが、戦時中の上海租界で、画家として活躍する中、陰謀に巻き込まれながらも、恋をしてしなやかに生きて…というドラマチックな作品。

    スキャンダルを利用して売れっ子画家にのし上がった勝気で頭も良い美貌の財閥令嬢のヒロイン。
    ヒロイン殺害未遂の嫌疑で日本を追われたヒロインの元夫で日仏ハーフの美貌のピアニスト。
    ある目的からヒロインに近づき利用しようとする上海憲兵所属の美男スパイ。
    ヒロインと恋に落ちる、国を憂える中国人の大富豪…などなど。

    異国情緒とレトロ感たっぷりの上海租界という舞台設定のなかで、煌びやかで絵になる登場人物たちの恋愛を絡ませながら、展開も速いし、適度なペースで見せ場が挟み込まれているしで、楽しく読めました。

    ただ、戦時下のスパイ行為ということで、ミステリーやサスペンスの土台があるのかなと思ったら、そちらはちょっと骨組みが弱いというか、あっさりしすぎているというか、期待してしまうと肩透かしの出来ですね。

    財閥令嬢の波乱万丈な人生と恋を楽しむメロドラマとして楽しむための作品としてはいいです。

    でも、華やかで見栄えもいいし、起承転結もスッキリしてコンパクトな作りなので、そのまま二夜連続スペシャルドラマとかに出来そうな感じです。

    上海の街やヒロインの豪華なファッション、アクセサリーなどの描写も細かく優れているので、まさに映像化向きな作品ですね。

  • 2013年第20回松本清張賞受賞作。
    財閥令嬢の波乱の人生を描いた華やかな作品です。

    八島多江子は、財閥令嬢。
    かってのスキャンダルを利用してのし上がり、人気画家となっている。
    上海には租界があり、東洋のパリとも呼ばれるほど、各国の領事館が中国の貧しい人民の暮らしとは異なる世界を築いていた。
    多江子が上海に渡ったのは、中国文化協会に招待されてのこと。
    ところが、憲兵隊の大尉・槙庸平から、スパイ行為を強要される。民族資本家・夏方震に接近して、蒋介石政権と通じている証拠を探せと‥
    陰謀渦巻く上海。

    多江子はおてんばな少女で、幼馴染でいじめられっ子の瑠偉をかばってきた。大人になって瑠偉と結婚したのだが‥
    夫と愛人に殺されかけた大スキャンダル。
    その真相を知っていると脅す槙。
    じつは‥
    仕方なく夏(シャー)に近づくが、彼の人間的な大きさに惹かれ、夏も心身に傷を負った多江子を本気で想うようになり、ついには結婚を決意する。
    ところが気づいた槙に夏が逮捕されそうになり‥

    美しいが気弱な初恋の夫、野卑で強引な憲兵隊員、年上で誠実な中国人の大立者という3人の男。
    どろどろにもつれ込む関係は、上海版で小型の「風とともに去りぬ」みたいな。
    これほどもつれた関係ではないけど、最後に縁ある若者も登場。

    長身で個性的な美貌の多江子が着る豪華なドレスが毎回、キッチリ描写されているのもお楽しみ。
    ぐいぐい引き込まれて読みやすく、ヒロインの強さともろさ、激しさと優しさもわかりやすい。
    なんとなく~二日連続2時間ドラマみたいなノリですね。映像化は向いていると思います!

  • 作家としての山口さんより先に、ユーモラスかつ鋭いテレビでのコメントが印象的で、注目するようになった。遅まきながらようやく彼女の著書を手に取ってみた。
    戦時下の上海、バツイチの訳あり美人画家多江子、彼女が出会う4人の男…これだけで十分そそられる。夢中で一気読みしました。
    「スキャンダルを逆手にとり人気画家にのしあがった」とのことで、相当に腹黒い女狐なんだろうかと思っていたらそんなことはなく。確かにそのスキャンダルきっかけのある事件は凄絶ではあったけど、むしろ彼女のまっすぐさを際立たせたという印象。ヒロイン多江子の聡明さ、正義感の強さが財閥のお嬢様らしくて、期待していたどろどろさとはちょっと違っていたけれど、彼女の筋の通った生き方には共感できた。人気画家として自立し稼いではいるけど、お嬢様気質が抜けきらない発言はたまに気になったりはしたが。
    戦時下とはいえ1947年頃の上海はきらびやかで、息苦しい日本を抜け出してきた多江子の華麗なファッションの描写もすごくよかった。租界については何となくしか知らなかったので、様々な国の文化が入り混じり、光と影の混沌とした雰囲気に魅了されました。
    彼女の運命を変える4人の男性像は…好みが分かれそう。よくも悪くもベタかなぁと。中でも、上海で一番絡んでいるだろう憲兵の槙。敵か味方か相当に曲者で、不愉快な場面がたびたびあるものの、多江子に対しての感情も愛憎入り乱れてねじくれており、何だか嫌いになれない。イケメン描写があったからかもしれないが、他の3人もそれぞれにいい男(色々難ありではあるが)。多江子がスパイをする民族資本家・夏方震の大人な包容力もたまらないです。ただ、男性が読んだらどう思うかは気になるところ。一方、女性の描き方は意地悪なほどにリアルでした。
    ドラマのプロットライター経験があるとのことで、さすが脳内映像化しやすいような物語の運びが抜群にうまく、心地よくのめり込めました。エンターテインメントですね。山口さんは漫画家を目指していたこともあったとか…キャラ設定がどこか少女漫画的な気がしたので、コミカライズしても面白く読めそうな気がする。装丁のイラストからイメージ膨らませてみたものの、自分の脳内映像だけでは勿体ないのです(笑)山口作品、是非他にも読んでみたい。

  • 財閥令嬢多江子は美しいだけじゃなく、
    頭も切れて、男勝りの勝気な女性。

    だけど、凄く洗練されてて誰よりも優しい人。
    元夫の瑠偉の事がなければ幸せに生きて欲しかった。

    時代のせいだろうし、上海に来て怒涛の人生を歩んでしまう事に。
    それでもいつも気丈に振舞う多江子が愛おしいと思った。
    憎まれた相手にも優しくできるなんて。

  • うーん、雰囲気はすごくあると思うし、面白く読んだけど、でもそれだけって感じ。あんまり深みはないというか・・・

  • ぐいぐいと引きこまれる面白さはあるものの昼メロもしくは少女漫画のような展開で、いろいろな解釈や読み方ができるような話しではない。

    日本が敗戦に向かいつつある頃の上海が舞台で、画家である彼女の目を通して異国情緒が入り雑じった祖界の様子が生き生きと描かれている所が良い点だろうか。

    何も考えずに夢中で読みたいという状況向き。歯医者の待合室とか上海行きの飛行機の中とか?どうでしょう。

  • 戦時中ではあるが、戦争の悲惨さとは少し離れたところから、男女の生き様が描かれていた。

  • 読み終えたあと、すぐに感じたのは「物足りなさ」でした。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    舞台は戦時中の上海。
    そこにひとりの女性が降りたった。
    画家であり、八島開運の娘・八島多江子。
    彼女は過去に、夫・瑠偉とその不倫相手を巻きこんた、ある事件に関わっていた。

    戦時下の日本で、画家としての生命がなくなりつつあった多江子は、新しい画家の道を見いだすために上海を訪れたのだった。

    そんなとき、思いもかけない男から、夏方震
    (シャー・ファンチェン)という実業家にかかっている疑いの証拠をつかんでほしいという依頼をうけるのだが…。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    上海という華々しい舞台で、導入部分はなかなかおもしろかったのですが、潜入作戦の緊迫感あるやりとりは少なく、後半は別の話がメインにそれていってしまい、助走のまま失速してしまった感じが否めませんでした。

    登場人物だけを見れば、とてもおもしろそうな世界観であり、主人公・多江子と前夫の瑠偉の幼少期からの関係性は、第2章をまるまる使って語られています。
    そのため、多江子と瑠偉の間におこったある事件も、おこるべくしておこった事件という感じで受けとめることができ、その状況におかれた多江子の気持ちも、とても哀れでせつなく感じました。

    しかし導入の第1章と、多江子と瑠偉の過去の話である第2章までで、1冊の半分以上を使っており、そのあとの話が駆け足になってしまったように思います。

    多江子が情報を得ようと近づく相手の、実業家・夏方震(シャー・ファンチェン)の人柄や過去の情報は乏しいため、その偉大さや抱えている傷の深さが、いまいち伝わってきません。

    また、後半は夏方震に近づくよう依頼したある男が、メイン役者となってきます。
    しかし彼の過去は彼の口から語られる内容のみにとどまり、それだけではなぜ多江子に近づき、なぜこれらの行動をとったのか、納得しきれませんでした。

    せめて上下巻で、いまの内容に夏方震とある男の過去をそれぞれ1章ずつプラスで語ってもらえたら、もっと重みのあるお話になったのではないかと思います。
    もしかしたら1冊におさめるために、それらのエピソードは削られてしまったのかもしれませんが、夏方震とある男の過去をぜひページを割いてでも知りたかったです。
    そうすればきっと、ある男の多江子への態度も、もう少し納得がいくのではないかなと思いました。

    主人公の多江子自身は、とても魅力のある女性であり、もう少し彼女の生き方を見ていたいなと思わせてくれるような、凛々しい女性でした。

    舞台やドラマになりそうな物語なので、もしその際には登場人物たちの生い立ちが加筆されていたらいいな、と思います。

  • 主人公:多江子の優しさと男らしさに心が動かされる。
    戦時中の上海という大きなスケールを舞台に、
    カルマ、人間の感情と醜さと美しさを織り交ぜて描いているあたりに、
    感謝の念すらわいた。
    著者の山口さんはきっと、優しい人なのだろう。
    画家や作家は往々にして、困っている人や悪い人でも放っておけない性分である。
    特に、ラストの“絵”を“文”として考えてみると、とても納得がいった。
    これから書きますと宣言しているかのよう。
    とにかく、泣けるのに潔い爽快感のあるラストだった。
    傑作です。

  • 普段は恋愛小説はほぼ、読まない。でも、上海の外灘が出てくると知って(外灘の雰囲気や街並みが好きなので)手に取ってみたのだが、面白かった!

    多江子は強い女性だ。最初はそう思った。

    愛した人に裏切られ自殺未遂をして世間の見せ物になっても、それすら逆手に取って出世する。
    上海に渡ってからも、これでもか!というぐらいたくさんの事が彼女の身に降りかかる。でもその度に、立ち上がり前に進もうとする。転んでもただじゃ起きない。とか、したたかという言葉が似合う。

    再び恋に落ちた人と別れても、以前 愛した人と再会した時も、自分を利用した人間にでさえも最後はオブラートのように包み込む。

    強いだけじゃない、優しさも兼ね備えている事を知った。そんな強くて優しい女の生き様を見た、素晴らしい作品だった。

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著者プロフィール

1958年、東京都江戸川区生まれ。早稲田大学文学部卒業。松竹シナリオ研究所で学び、脚本家を目指し、プロットライターとして活動。その後、丸の内新聞事業協同組合の社員食堂に勤務しながら、小説の執筆に取り組む。2007年、『邪剣始末』で作家デビュー。2013年、『月下上海』で第20回松本清張賞を受賞。その他の著書に「婚活食堂」「食堂のおばちゃん」「ゆうれい居酒屋」シリーズや、『風待心中』『ゆうれい居酒屋』『恋形見』『いつでも母と』、共著に『猿と猿回し』などがある。

「2023年 『婚活食堂9』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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