黒鉄の志士たち

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163824604

作品紹介・あらすじ

日本人の手で大砲を造る!幕末佐賀・鍋島藩は、オランダ渡りの一冊の専門書だけで反射炉を建設、鉄を作り大砲を製造しようとした。男たちの孤独な戦いの物語。

感想・レビュー・書評

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  • もちろん小説だから、作者がその人物に惚れ込んで書くわけだから当然ではあるけれど、佐賀藩のお殿様・鍋島直正は立派な人だなあという感想を持った。
    現代の大企業のトップに置き換えたとしても、トップがこういう人物だったら、社会貢献も多大で、従業員達も信頼してついて来て、繁栄する企業だろうなどと勝手に想像してしまう。

    今年、初めて鹿児島を訪れ、島津家の製鉄や、鎖国の時代にヨーロッパへ渡った人々のことを知った。
    島津のお殿様の先見性に感心したので、藩は違うが、以前からたまたま読んでみたいと思っていた本書を読んでみた。
    読んだり調べたりするうちに、製鉄は薩摩藩より佐賀藩の方が先だった(むしろ佐賀藩の鍋島直正が資料を渡してあげた)ことがわかった。
    しかし、どちらの藩が先だったかということはたいした問題ではないだろう。

    教科書で1・2行ですまされた出来事も、こうして色々な小説を読むことによって、諸外国からの接触が切実であった琉球王朝(テンペストの1巻しか読んでいないが)や現在の九州の各藩と、幕府との感覚や時間のずれのようなものが具体的にイメージできるのが、フィクションであってもこういう小説の面白いところ。

    歴史に詳しい方には周知の事実なのかもしれないが、私はペリーの黒船がある日突然現れたと思っていたのだが、9ヶ月も前から幕府も含めて知っていたということを、私は本書で初めて知った。
    東京都板橋区「高島平」の地名の由来も、韮山の反射炉の詳細も、遠く離れた札幌まで鍋島直正と関係していることも、本書及び本書を読んで調べたことによって初めて知った。
    高島平も韮山も、近くに住んでいた時期があったのに、その頃は読書もしていなければ歴史に興味も無かったから。
    韮山の反射炉を一度は見に行っておけば良かったなと今は後悔。読書で学ぶことと得る物は本当に多い。

    星をひとつ減らしたのは、そこまで丁寧だったのに最終章だけ「あれ?」と思うくらい事務的にダダダっと進んでしまったことが残念だったから。

  • 幕末よりはちょっと前。黒船来航以前に日本の海防に危機感を抱き、蘭書1冊を頼りに独力で反射炉を築き鉄の大砲を作り上げた佐賀藩士達。佐賀藩と言えば鍋島閑叟や江藤新平の佐賀の乱しか知らなかった。
    仲間たちが苦難を乗り越えて何事かを成し遂げるって言う話には弱い。反射炉が何か判らないのに図面と不確かな翻訳だけで作っちゃうんだから。鉄製大砲を作ったことのある日本人はいない訳だから、集められた人々もバラバラ。
    刀鍛冶に算盤達者に蘭学者に鋳物師、リーダーは武士。まるで7人の侍みたい。
    初めて鉄が溶けて「朱の湯」になって流れ出すシーン、砲台設置の為の埋立地が陸と繋がるシーン、点火失敗で失明する作之進が「次の試射も私に」と懇願するシーン。感動、感動、また感動。
    国内での戦乱は避けるとの命題を掲げる佐賀藩は幕末の混乱期に中立を維持しようとする為、結局時流に乗り遅れてしまう。
    明治4年の鍋島閑叟の死去で静かにこの作品は終わる。
    幕末版「プロジェクトX」の様でした。

  • 2020.2 かちがらすも読んだので、別の側面から見た小説ということですね。ただ、かちがらすより時間の流れが急いでいたのが残念。

  • 混乱の幕末を幕府側、官軍側の視点ではなく佐賀藩による日本初の反射炉製造の技術開発から描く。同作者の佐賀藩主鍋島直正を描く『かちがらす』も合わせて読んだので、一層面白かった!文字通り試行錯誤の連続。当時、失敗はあってはならぬ時代。障壁を乗り越え、世界屈指の日本の製鉄業に繋がる。外圧を直近で知る地政学上の要因もあるが、佐賀藩が大局観を持ち、時代の潮目を見極め、艱難辛苦を切り抜けた心意気に涙。専守防衛としての西洋武器の必要性を説き、組織論、身分制度から教育に及ぶ変革を目指した先見の明に感動。植松さんもっと読む!

  • 時は幕末。佐賀藩・藩主の命を受けて、それまで青銅製だった大砲を鉄で作ることになった砲術家ら七人の熱き物語。製鉄の熱さそのままの熱い情熱がほとばしる展開に、何度も涙がこぼれそうになる。
    情熱物語なら現代にもあるが、それと最も違うところは切腹が登場するところか。七人が四回目の失敗の後に切腹を申し出るのは時代小説ならでは。しかし、この聡明な藩主は、死にたくなるほど辛いなら死なせてやりたいが、それはできぬと肩を震わせ、語りかける。これがこの小説の魅力であり、涙腺に厳しい攻撃を加えるところだ。
    そしてまた、この熱き物語は日本のモノ作りの応援歌でもある。自分達が命をかけて作った鉄製大砲がもはや時代遅れになってしまったという砲術家の嘆きに対し、余命いくばくもないかつての藩主がそれを否定する。そして、日本の工業は日の出の勢いで進む、その際に先人達の苦労を振り返るはずだ、と優しく語る。涙をこぼしながら勇気をもらえる、そんな一節だ。

  • 連載雑誌が「科学」
    テーマはいいけど、小説としては

  • 【日本人の手で大砲を造る!】幕末佐賀・鍋島藩は、オランダ渡りの一冊の専門書だけで反射炉を建設、鉄を作り大砲を製造しようとした。男たちの孤独な戦いの物語。

  • 「葉隠物語」以来の鍋島家の物語を読了。

    幕末の佐賀藩で、大砲づくりに挑む藩主と藩士を描く。

    日本の鉄鋼業の原点がここにはある。

    日本初の反射炉建設を目指す姿に、改めて「ものづくり」の素晴らしさに気付かされる。

    家風なのだろう、葉隠物語もそうだったが、佐賀藩鍋島家は誠実で心が熱い。

    ぶつかり、苦悩しながらも邁進する姿に胸が目頭が熱くなる最高傑作。

    この女性歴史作家は初めて読んだが他にも面白そうな題材の作品がありそうで、植松さんの作品にはまりそうだ。

  • 明治維新という歴史の中で佐賀藩が大きく関与した物語を読むのは初めてであった。藩主鍋島直正と鋳立方本島藤太夫との厚い信頼関係、藤太夫を中心とした7人の仲間が欧米に侵略されないために数年で反射炉を作り大砲製鉄に挑む姿に感動を覚えた。この使命感が有ってこそ偉業を成し遂げることができたのであろう。

  • 他国と対等に渡り合うために、当たり前の備えを当たり前にする…。現代にも通じる不変的なテーマだと痛感した。

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著者プロフィール

静岡県生まれ。東京女子大学卒業。2003年『桑港にて』で歴史文学賞、09年『群青 日本海軍の礎を築いた男』で新田次郎文学賞、『彫残二人』で中山義秀賞。著書に『帝国ホテル建築物語』『万事オーライ』等。

「2023年 『羊子と玲 鴨居姉弟の光と影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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