辞書になった男 ケンボー先生と山田先生

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 76
  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163900155

感想・レビュー・書評

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  • 思っていたのとはずいぶん違う内容だったが、結局は一気読み。辞書作りの世界はやはり興味深い。

    もっと「言葉」に焦点が当たっているのかと思っていた。実際の内容は、北上次郎さんが、「『三省堂国語辞典』を作った天才見坊豪紀と、『新明解国語辞典』を作った鬼才山田忠雄の『友情と決別』、不思議な因縁を書いた書」と、「本の雑誌」で書いていたとおり。この「因縁」がたいそう面白い。また、お二人が対照的なきわめて強い個性の持ち主であり、同時に、どちらも負けず劣らず辞書作りに生涯を捧げた人であったことが生き生きと描き出されていて、どんどん読まされる。

    正直言って、最初のあたりはちょっといただけないなあと思っていた。著者はテレビディレクターだそうで、そのせいかどうか、何というか「人の目を惹きつけよう」という意図が前面に出すぎているような気がした。また、「辞書」とか「言葉」とかいうものにさほど興味のない(大多数の)人向けに書かれている感じがあって、ヒネクレ者は斜に構えてしまったんである。

    しかし、この題材は、そんなこともそれほど気にならなくなるほどに面白かった。大体、自分が辞書作りの世界というものをほとんど初めて知ったのは、三浦しをんさんの「舟を編む」で、おそらくそういう人は多いのではないだろうか。あれは本当に傑作で、本屋大賞を取り、映画化されたこともあって話題になったが、そこで描かれているのは三浦さんが取材した岩波書店のやり方で、それは辞書の作り方としては異例なんだそうだ。あんな風に社員編集者が言葉を集めて文章を書くということは普通なくて、社外の学者に依頼するのが一般的らしい。

    その「学者」もえらい先生が「名義貸し」をするのが当たり前だった、という裏話のくだりにも「へぇ~」と驚く。「監修 金田一京助」でなければならなかったのだ(これは金田一先生が悪いのではないので、念のため)。また、学者の間では辞書作りは下に見られている(「誰でもつくれる」という理由)というのもちょっと意外。

    意外と言えば、冒頭で著者が取材の経緯を述べている所で、辞書作りに現に携わっている人は、辞書作成の過程に光が当たることを喜んでいないと書かれていて、これには驚いた。「舟を編む」のヒットで、地味な世界に注目が集まったことをてっきり歓迎されていると思っていたのだが、どうもそうではないらしい。これは、「辞書はあくまで”公器”つまり公共建築物のような”社会インフラ”であり、個人が表に立って出てくるべきではない」という理由からで、なるほどなあと感心した。プロの矜恃を感じる。

    本題である、ケンボー先生と山田先生の「因縁」は、実に人間くさく、また、会社というもののイヤな面を突きつけられるものだ。でも、著者の姿勢が、二人の先生に敬意を表するところから外れていないので、後味の悪いものではない。いやまったく、お二人とも桁外れだ。その個性が最大の読みどころ。

    さあそれで。「短文・簡潔」を旨とし「現代をうつすかがみ(鏡・鑑)」を目指したケンボー先生の「三国」と、「辞書は社会批評である」との信念で独特の解説を貫いた山田先生の「新明解」、さてどちらを支持するか?うーん、これは難しい。専門家は新明解に厳しく、盟友であった金田一春彦氏もついて行けずに離れていく。それも無理はないと思える名作(迷作?)の数々が文中で引用されている。でも読んで抜群に面白いのは間違いなく「新明解」の第三版。一方「三国」の信頼感はゆるぎない。

    つまらない結論だけど、「みんな違ってみんないい」んじゃないかなあ。「舟を編む」でも書かれていたが、辞書作りが民間の事業で、国によって「これが正しい日本語だ!」と押しつけられることがないのはとても大事なことだと思う。

    • yuu1960さん
      半年ぐらい前にNHKBSの番組で見坊さんと山田さんの話が見ました。
      この本も面白そうですね。
      半年ぐらい前にNHKBSの番組で見坊さんと山田さんの話が見ました。
      この本も面白そうですね。
      2014/03/27
    • たまもひさん
      おお!番組をご覧になってたんですか。放送後反響が大きく、この書籍化もその一つだと書かれていました。私は残念ながら見ていないんですよね。再放送...
      おお!番組をご覧になってたんですか。放送後反響が大きく、この書籍化もその一つだと書かれていました。私は残念ながら見ていないんですよね。再放送しないかなあ。
      2014/03/28
  • 残念ながらテレビ番組は見てない。扱われるのは「宿敵」の印象がある二人。しかし二人ともに「アンタッチャブル」なくらいの権威がある。そんなわけで、波風を立てない「表面的な紹介」に終始する内容かと思ったけれど、完全に外れた。「新明解」派(?)も「三省堂国語辞典」派(?)も、ともに読んで自分の辞書に対するスタンスを再確認できるような、辞書への思いを再確認することができるような、とても面白い本だった。

  • 一時期揉めても、お互いが敬意を抱いていれば、自然に許せるといういい例。両雄並び立たずというか、二人が別れたのは必然だったのではないかと思う。
    それにしても、昔は優秀な人が文学を志したものだが、今だったら見坊先生は明らかに理系を選んだろうし、山田先生もわからないな。
    そういう意味で今後の日本の理系は期待できるかもしれないが、文系(特に就職に不利な文学部)に優秀な人材が減って、成果を残せなくなるかもしれないと危惧するような気持ちになった。
    この本のおかげで、二人の優秀な国語学者の業績や人柄が後世に伝えられて本当に良かったと思う。

  • 見坊豪紀(けんぼうひでとし)先生『三省堂国語辞典』
    山田忠雄(やまだただお)先生『新明解国語辞典』

    かつては同じ辞書編纂を手がけた二人が袂を分かつことになってしまった経緯。

    お二人とも自分が手がけた辞書を通じて会話しているみたい。

    見坊先生の言葉に対する強さとしなやかさに惹かれた。

  • 凄まじい実話。でも、辞書の作り方が垣間見れて、良かった。舟を編むを知らなかったら、読まなかったと思う。

  • 舟を編むを読んだ関係で。新明解の山田先生。三国のケンボー先生。辞書に対する姿勢と思い、2人の関係性。辞書ってこんなにメッセージがあるものだなんて…と思わされた。

  • 面白かったです。

  • 辞書を作成したのはてっきり金田一京助だと思っていた

  • 誰かと仲たがいをして疎遠になってしまったことはないですか?

    この本は『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』二つの辞書の編者のノンフィクション。

    当時の辞書編纂の苦労や裏話など辞書つくりの側面が垣間見られてそれはそれで面白いのですが、それよりも二人の男の人生の物語。

    大学の同級生で、もとは一つの辞書を一緒に作っていたのに「あること」がきっかけで決別、二度と会う事もなくなってしまう二人。

    それはいったい何だったのか?
    関係者からの話や資料に加え、二人の作った辞書の用例や語釈からさぐっていきます。

    著者はどちらの側からも取材して書かれているので、ケンボー先生の気持ちも、山田先生の気持ちも伝わってきて、関係者でないのに妙にハラハラしてしまいました。

    ちなみに、今でもこんなに私的なことが用例になっているのかしら?と辞書を引いてみたくなってしまいますよ。

    「友情」とは単に仲のよいだけではないと思います。
    絶交してしまったけれど、きっと死ぬまで相手のことを意識していたはず。ならば、これも一つの友情の形だったのではないかなぁと思いました。

    言葉は難しい。人間関係は本当に難しい。
    「ことば」を生業にしている人でもそうなのですから。。

    図書館スタッフ(東生駒):ノビコ

  • 小さいころから家に会った辞書は、三国と岩波の辞書だった。大人になり、辞書といえば広辞苑って思っていた。ことばを教える仕事をするようになり、辞書を引くことが多くなり、説明のわかりやすい、明鏡を使うことが多い。辞書ってみんなおんなじ、どれを引いても、同じ、言い換え、堂々巡りって思ってた。
    辞書にも個性がある。見坊と山田。三国と新明解。
    辞書は鏡だ。辞書は文明批評である。いろんな辞書があっていいのだ。
    中国の康煕字典のように国によって言葉が決められるのではなくてよかった。
    新明解(三版)読んでみたかった。

著者プロフィール

佐々木健一

1943年,東京都生まれ.東京大学文学部卒業.同大学院人文科学研究科修了.東京大学文学部助手,埼玉大学助教授,東京大学文学部助教授,同大学大学院人文社会系研究科教授,日本大学文理学部教授を経て,現在,東京大学名誉教授.美学会会長,国際美学連盟会長,日本18世紀学会代表幹事を歴任.専攻,美学,フランス思想史.

「2019年 『美学への招待 増補版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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