寄生虫なき病

制作 : Moises Velasquez‐Manoff  赤根 洋子 
  • 文藝春秋
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レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (507ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163900353

感想・レビュー・書評

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  • 自己免疫疾患はこれまで通説であった自己への過剰な攻撃性ではなく、実は免疫の制御機構の喪失にその原因があるとの説が様々な報告により説得力を増してきた。何とその適切な維持(平和維持活動)に一役買っているのが、我々の「古くからの友人」である寄生虫や微生物だと言うのだ。人類はシステム警備を寄生虫に外部委託してきたとさえ筆者は言う。そしてこの友人を盲目的に駆除し、体内環境のバランスを破壊してきた近代以降の衛生意識こそが、重症筋無力症等の重篤な疾患を含む自己免疫疾患の急増の原因だと喝破する。

    まるで免疫機構を指揮するグールーのように振る舞う寄生虫を含めて何とか我々の生体環境が維持されているとするなら、一体我々が「自己」として認識すべき範囲は何処までなのだろう、と不思議な感覚に襲われた。

    筆者自身、全身性の脱毛を伴う自己免疫疾患を患っている。本書は自ら寄生虫に故意に感染した際の体験談に、大量の実験例や報告例を挟み込む形で構成されている。語り口は柔らかいが、最近の翻訳物の科学啓蒙書の例に漏れずやたら長い上、グラフや表、索引がないのでかなり読み辛い。

  • 表紙のインパクトある写真にまず興味がそそられる。
    著者の自らの人体実験は、知的探求心と自己のアレルギー疾患改善のためになされた行為で、既にその効果が報告されていたので、一概に無謀とは言いきれない。
    著者はコロンビア大学卒のサイエンスジャーナリストということもあり、多くの文献や症例を取り寄せ、その驚異的な効果が偶然ではないことを帰納法的に証明しようとする。
    寄生虫治療や糞便移植など、現代医学の公衆衛生学の観点からすればトンデモ療法に分類されてしまうのだろうが、人間本来のもつ免疫力はまさに自然と繋がった生活の中で発揮されうるものだという点は示唆に富む。
    こうした本は、製薬会社にとってみれば禁書扱いされる運命なのだろうが、ワクチンや抗生物質重視の現代医療への盲目的な過信を改めるきっかけになりえる本です。
    現代人の生活は、清潔や消毒、除菌などに偏重しすぎるあまり、本来備わっている人間と微生物(寄生虫、細菌、ウイルスなど)との共生を蔑ろにしてきた結果、多くの現代病(アレルギー疾患、炎症性腸炎疾患、膠原病など)を誘発してきた事実は謙虚に受け入れるべきです。

    病気を治そうとして服用した抗生物質が、実は別の病気を悪化させる・・福岡伸一氏の解説も含め知的刺激に満ちた良書です!

  • アレルギーは衛生状態が改善したことによる副作用のようなものと言われているが、寄生虫や細菌の刺激を受けなくなったために免疫系が正常に機能できなくなったものであると説明する。

    2000年代の初め、白血球の一種で腸内の共生細菌との平和を維持するレギュラトリーT細胞が存在することが確認された。アレルギーは、免疫反応が誤作動することではなく、免疫を制御する抑制細胞の欠如によって起こる。アレルギーを引き起こすタンパク質は主に寄生虫を構成しているものだが、寄生虫に対しては作動する抑制回路を作動させることができないため、過剰反応が起こる。

    抑制細胞は寄生虫や微生物に接触することによって初めて出現する。花粉症や食物アレルギーの症状、ハチに刺された後のアナフィラキシーショックを引き起こしているのは免疫グロブリンE(IgE)抗体で、その濃度は都市ではアレルギーの指標となるが、寄生虫感染が蔓延している地域では数百倍高い。年上の兄弟、保育所、ペットの飼育、糞口感染する病原体にはアレルギー予防効果があり、これらに付随する大量の微生物によるものと考えられる。草食動物の腸内細菌は、肉食動物に比べて多様性が高く、農家の人は家畜と日常的に接触することによって、バランスのとれた腸内細菌叢を獲得することができるのだろう。

    フィンランドはアレルギーや喘息に悩まされている割合が高いが、遺伝的に近縁関係にあり、地理的に隣接しているロシア領カレリアでは著しく低い。ロシア側の飲料水には、土壌由来の多様で大量の微生物が含まれていることが、アレルギーリスクを減少させている。

    抗生物質は病原菌だけでなく有用微生物も消滅させてしまう。乳幼児に抗生物質を投与した量が多いほど、喘息を発症するリスクが高くなる。人間にとっての病原菌は50〜100種類に過ぎないが、共生する細菌は千種類もある。野外で育てたブタでは腸内細菌の4分の3を乳酸菌が占めるが、屋内で育てると13%に減り、抗生物質を与えながら育てると3.6%になってしまう。

    寄生虫を駆除すると心臓疾患が増えることが世界的に明らかになっている。免疫制御能力が弱いと肥満になりやすく、成人病になるリスクが高くなる。感染症にかかりやすいグループの方が、中年以降の平均余命が長い。がんも、環境が清潔であるほど発生率が高くなる。免疫系の監視機能がうまく働かなくなった結果、がん細胞が成長してしまうと考えられる。うつ病の治療として効果のある運動は、セロトニンの分泌を増やすとともに、抗炎症性の免疫反応を引き起こす。

    ピーナッツオイルが含まれているベビークリームを使うと、ピーナッツアレルギーのリスクが上昇する。経口摂取する前に皮膚がタンパク質に接すると、免疫系がそれを撃退する反応を起こしてしまうのだろう。

    哺乳類の母親は、病原体と戦う力を保ちつつ、胎児は排除しないという微妙なバランスを維持しなければならず、免疫系の強さには上限がある。強い免疫系を持つ個体は、繁殖に成功しにくくなる。一方、テストステロンは免疫系を抑制するため、群れの中で優位なオスは多くの寄生虫に悩まされながらライバルを打ち負かす能力を持っていることを示している。

    アレルギーとは、人類が長年にわたって寄生虫や細菌と戦い、共生してきたバランスが崩れてしまった結果であるとすれば、大きな問題であることがわかる。とは言え、衛生状態を改善したことが死亡率を下げ、寿命を伸ばし、憂慮するほどまでに人口を増加させたのも事実。アレルギー予防のために本書が提案している乳幼児の時期に動物と接するというのも、覚悟がいるだろう。アレルギーに苦しむ著者が寄生虫を再導入した体験も衝撃的だ。この本で学んだことを活かすこととしては、植物食を多くとって腸内細菌を増やしたり、自然環境に身を置く機会を増やすことによって、免疫機能を高めるといったところだろうか。

  • 寄生虫、ピロリ菌、結核菌その他の常在菌を含む「超個体」の多様性の喪失が、自己免疫疾患、多発性硬化症、自閉症、ガン、うつ病などの原因の一つではないか、と問いかける。
    刺激的。

  • 【文章】
     読み易い
    【ハマり】
     ★★★★・
    【共感度】
     ★★★★・
    【気付き】
     ★★★★★
    ・人間に害を及ぼすものを排除してしまった結果、病に対する抵抗を低下させてしまった可能性がある
    ・清潔でいることで、人間が弱くなってしまう

  • 字が非常に多く読みごたえあり

  • 特定の病原菌など「ある」ものが病因とは限らず、あるべきものが「無い」ことが病因となりうる。
    ホームズの語り口のようなこのパラダイムシフトが本書で述べられる。
    膨大な傍証、まさに変わりつつあるパラダイムの現場が理解できる刺激的な良書。

  • 腸内細菌に興味を持ったために、手に取ってみた。寄生虫によってあきらめかけていた病気が治り、共存する。その昔は土に触れ、自然と取り込んでしまっていたもの。最近、抗菌とされるものが多く増えてきて、なんとなく疑問に思っていたが、寄生虫や菌とは共存していくことを考えていこうと思う。そのためにも、まず土に触れる機会を増やすこと、自然に触れること。家族も含めてそういう生活に戻っていこうと思うきっかけをいただいた。

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