モンフォーコンの鼠

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163900681

作品紹介・あらすじ

1831年、七月王政下のパリ。小説家バルザックのもとにカストリ侯爵夫人からファンレターが届く。同じ頃「危険思想」の集団サン・シモン主義者たちの捜査を進める警視総監代行アンリ・ジスケは公衆衛生学者パラン・デュ・シャトレにパリ郊外モンフォーコンの廃馬処理場で出会い、パリの食糧問題と衛生問題について滔々と語られる。モンフォーコンでは廃馬の内臓を餌に巨大化した鼠が出現しはじめていた。また同じ頃、サン・シモン主義をさらに推し進めた過激な社会主義者フーリエと信奉者たちは男女が完全に平等に、自己の欲望に忠実に生きる理想的共同体「ファランステール」建設を目論む。ある日、バルザックのところに美女サン・レアル侯爵夫人がたずねてきて『デヴォラン組』なる小説の三巻本をおいていく。著者は「オラース・ド・サン・トーバン」。バルザックが昔使っていたペンネームであるが、こんな本を書いた覚えはない。しかしやがてバルザックは何かに導かれるかのように第四巻『カリエールの死闘』の執筆を始めるのだった。ユートピア(ディストピア)小説でありエネルギー問題や地下王国を扱う元祖SFのような趣きもありバルザックの諸小説や「レ・ミゼラブル」を下敷きとするメタ・フィクションでもある複雑な味わいの傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • バルザックやユゴーの時代のパリが舞台の小説。その二人の作品の人物や作家バルザックもキャラとして登場し、バルザック作品のオマージュも豊富。
    なかなかぶっ飛んだ展開だけれどそこが好き。
    1ページにわたる人名誤植があるが、見ればわかるので大丈夫なはず。

  • どのジャンルに分類するんだろう?SFか?最初の入りと、後半の荒唐無稽さのギャップが大きい。広げた風呂敷を回収しきれてないけど、各ピースの繋がりは考えられていて面白い。最後の鼠があまりに科学的でないので、ちょっとなー、と思うけど、話の勢いはあり、最後まで読ませる。

  • 2017.3

  • 予想外に面白かった。ちょっと描写がグロイところが多々あるけど、それも話の中では重要な表現の一部と見て取れば普通に読める。パリのブルジョワ階級の人間が追い求めた理想のユートピア。それが鼠との共存生活だったとは・・・最後のほうはバルザックの小説なのか現実のことなのかごっちゃになってよくわかんなくなってしまったけど、でも、面白かった。

  • いろんな線がだんだん繋がっていくので引き込まれました。セクシュアルな場面が多くてそういうふうなんだーと場末の一主婦には刺激的でした。ははと笑えるエンターテインメントなストーリーで楽しかった!9

  • スプラッターでエロチックで、ミステリアスなサスペンスで、歴史SFとも言えるが、本質的にはコメディ活劇だろう。

    面白い。とても面白い。しかし登場してくる全ての人物に深みが無い。それまでの人生が感じられない。言動の元となる思想が見えてこない。

    バルザックのパスティーシュなのかもしれないが、ということは大規模な群像劇であるところの人間喜劇も所詮カタログ的な物語に過ぎないのかもと思わせる。確かめてみないと。十三人組を読んで・・・。

  • 鼠がこわい

  • 【パリ地下に驚異の自給自足社会が実現!?】19世紀のパリ。バルザックは美貌の侯爵夫人から自分の古いペンネームが冠された小説を預かる。身に覚えのない小説が暴走を始めた。

  • 実在の人物と小説の登場人物をクロスさせ、空想社会主義やフェミニズムや環境問題をおちょくっているところが、とても笑えます。おちょくり方が半端ではないのです。細かいところまで行き届いていて、抱腹絶倒。かなり真剣に向き合う問題も多い中、見事に抉り出しています。
    登場人物の行動も期待を裏切りません。この人は死んだ筈なんていうのは野暮。消し方も計算されていますが、これはやや乱暴かな。スカトロ系が苦手な人にはお勧めできません。
    著者の作品の中でいうと、虚構作品は少ないのですが、現代風俗や日本モノに比べると、ダントツにおもしろいです。

  • オノレ・ド・バルザックといえば、一作品の登場人物を他の作品でも使い回す「人物再登場法」を駆使し、総体として『人間喜劇』という一大世界を創りあげた19世紀パリを代表する大文豪だが、そのバルザック本人や関係者、さらには作中人物や友人ヴィクトル・ユゴー作『レ・ミゼラブル』の登場人物等々に、同時代人である空想的社会主義者フーリエやサン・シモン主義信奉者をからませた19世紀パリを舞台にした長篇娯楽大作。

    パリは石造りの堅牢な建物でできた大都市である。同じ大都市でもロンドンに赤煉瓦の建築が多いのは、パリのように地下から石を掘り出すことができなかったからだ、と聞いたことがある。あれほどの石造建築が可能となるには、どれほどの石を掘り出す必要があったことか。そう考えれば、パリの地下に採石場跡や坑道が黒々と穴を開けている様子が想像できるにちがいない。

    いまひとつ思い出してほしいのは19世紀という時代。今とちがってどこに行くにも馬車を使うので、病気や事故で死んだ馬の処理場が、パリ市外モンフォーコンの地に設けられていた。そこでは廃馬の処理から出た血溜りの池のほかに、パリ市民から出た屎尿処理用の溜池が併設され、猛烈な悪臭が周囲に漂っていたばかりでなく、屍肉を狙う鼠が繁殖してもいた。この悪化するばかりの環境を何とかしようと苦闘していたのが公衆衛生学者パラン・デュ・シャトレ、実在の人物である。馬肉密売業者を追って当地を訪れたのが、新任警視総監アンリ・ジスケ。この二人が探偵役となり、七月王政下のパリに暗躍する陰謀を暴く、というのが大筋である。

    狂言回し役を務めるのが人気作家で大の女好きであるバルザック。彼のところにカストリ侯爵夫人から手紙が届く。夫人は取り巻きの紳士貴顕を操って、革命的とも思える社会改革を画策していた。一方、サン・シモン教会と、その対抗馬であるフーリエ主義者もまた独自に自分たちの考える社会の実践の場を模索していた。それらが三つ巴のように絡まりあう中に、モンフォーコンの廃場処理業者の妻で日本人のキクが投げ入れられることで、サフィエンヌ的陰謀という副主題が浮かび上がる。

    バルザックの若書きの小説とされる『デヴォラン組』という偽書を捏造し、古書店のゾッキ本の棚に紛れ込ませ、その中に登場する人物本人の目に触れさせることで、本の筋書きがまるで「予言」ででもあったかのように成就させるという悪魔のような試みに、逆らいながらも巻きこまれてゆく、バルザックや社交界の寵児アンリ・ド・マルセー。

    自分が書いたこともない三巻本の小説に付された四巻目の梗概にしたがって、小説を書き進めるバルザックの姿と、小説中の事件の渦中にある登場人物がカット・バックの手法で目まぐるしく入れ替わり立ち替わり立ち現われる。作家と、作家が創造した人物とがともに同じレベルで出会うという、メタ小説的展開なのだが、作者の意図は、案外にポスト・モダンな小説なぞを書くところになく、ポオに始まる探偵小説やジュール・ヴェルヌらの黎明期SFの世界に自ら遊ぶというあたりにあるのではないか。克明な地下世界の描写が江戸川乱歩の描くジオラマ風であるのも愉しい。

    19世紀パリに対する百科全書的な知識を総動員して書き上げたバルザックやユゴーばりの長篇は、仕掛けの面白さはともかく、頭をひねる難解さからはほど遠く、久生十蘭や小栗虫太郎の小説世界に遊ぶような懐かしさに溢れている。おしむらくは、人間の描き方が平板で個性に乏しい。ユゴーの創造によるジャヴェール警部に勝るようなキャラクターがあと何人かほしいところ。画一的な人物像に躓いたか、483ページで給水装置のハンドルを回すジャヴェールの名が四箇所ほどジスケと入れ替わってしまっている。このとき、ジスケは別の場所にいるので、単なるまちがいである。連載中の誤りなら単行本化した時点でなおせるはず。編集者の手は入らなかったのか。思案に苦しむところだ。理屈抜きで楽しむにはもってこいの娯楽作といえよう。ただ、バルザックやユゴーの小説好きには、疎遠な読者には分からぬ愉しみが隠されている予感もする。素人が何をいうかと思われるむきには予めお詫びしておきたい。

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著者プロフィール

1949(昭和24)年、横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「All REVIEWS」を主宰。22年、神保町に共同書店「PASSAGE」を開店した。

「2022年 『神田神保町書肆街考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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