捏造の科学者 STAP細胞事件

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163901916

作品紹介・あらすじ

このままの幕引きは科学ジャーナリズムの敗北だ「須田さんの場合は絶対に来るべきです」はじまりは、生命科学の権威、笹井氏からの一通のメールだった。ノーベル賞を受賞したiPS細胞を超える発見と喧伝する理研の記者会見に登壇したのは、若き女性科学者、小保方晴子。発見の興奮とフィーバーに酔っていた取材班に、疑問がひとつまたひとつ増えていく。「科学史に残るスキャンダルになる」STAP細胞報道をリードし続けた毎日新聞科学環境部。その中心となった女性科学記者が、書き下ろす。誰が、何を、いつ、なぜ、どのように捏造したのか?「科学史に残るスキャンダル」の深層【目次】第一章 異例づくしの記者会見内容がまったく書かれていない奇妙な記者会見の案内が理研から届いた。笹井氏に問い合わせをすると「須田さんの場合は『絶対に来るべき』」とのメールが。山中教授のiPS細胞を超える発見と強調する異例の会見。第二章 疑義浮上発表から二週間でネット上には、論文へのさまざまな指摘がアップされた。理研幹部は楽観的だったが、私は、以前森口尚史氏の嘘を見破った科学者の一言にドキリとする。「小保方さんは相当、何でもやってしまう人ですよ」第三章 衝撃の撤回呼びかけ万能性の証明のかなめである「テラトーマ画像」と「TCR再構成」。このふたつが崩れた。共著者たちは、次々と論文撤回やむなしの判断に傾き、笹井氏も同意。しかしメールの取材には小保方氏をあくまで庇う発言を。第四章 STAP研究の原点植物のカルス細胞と同じように動物も体細胞から初期化できるはずと肉をバラバラにして放置するなど奇妙な実験を繰り返していたハーバードの麻酔医バカンティ氏。STAP細胞の原点は、彼が〇一年に発表した論文にあった。第五章 不正認定「科学史に残るスキャンダルになる」。デスクの言葉を裏付けるように、若山研の解析結果は、他細胞の混入・すり替えの可能性を示唆するものだった。一方、調査委員会は、論文の「改ざん」と「捏造」を認定する。第六章 小保方氏の反撃「STAP細胞はあります」。小保方、笹井両氏が相次いで記者会見をした。こうした中、私は理研が公開しない残存試料についての取材を進めていた。テラトーマの切片などの試料が残っていることが分かったが。第七章 不正確定理研CDBの自己点検検証の報告書案を、毎日新聞は入手する。そこには小保方氏採用の際、審査を一部省略するなどの例外措置を容認していたことが書かれていた。そうした中「キメラマウス」の画像にも致命的な疑惑が。第八章 存在を揺るがす解析公開されているSTAP細胞の遺伝子データを解析すると、八番染色体にトリソミーがみつかった。たかだか一週間の培養でできるSTAP細胞にトリソミーが生じることはあり得ず、それはES細胞に特徴的なものだ。第九章 ついに論文撤回改革委員会はCDBの「解体」を提言。こうした中、小保方氏立ち会いのもとでの再現実験が行われようとしていた。しかし、論文が捏造ならそれは意味がないのでは? 高まる批判の中、私たちは竹市センター長に会う。第十章 軽視された過去の指摘過去にサイエンス、ネイチャーなどの一流科学誌に投稿され、不採択となったSTAP論文の査読資料を独自入手。そこに「細胞生物学の歴史を愚弄している」との言葉はなく、ES細胞混入の可能性も指摘されていた。第十一章 笹井氏の死とCDB「解体」八月五日、笹井氏自殺のニュースが。思えば、私のSTAP細胞取材は笹井氏の一言で始まった。それ以降、笹井氏から受け取ったメールは約四十通。最後のメールは査読資料に関する質問の回答で、自殺の約三週間前のものだ。第十二章 STAP細胞事件が残したもの〇二年に米国で発覚した超伝導をめぐる捏造事件「シェーン事件」。チェック機能を果たさないシニア研究者、科学誌の陥穽、学生時代からの不正などの類似点があるが、彼我の最大の違いは不正が発覚した際の厳しさだ。

感想・レビュー・書評

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  • STAP細胞の事件について、ずっと疑問におもっていたことがあります。

    なぜ、誤謬ではなく、不正であったのか。不正とは故意ということでデータの捏造や改ざんがあったとされています。

    でも、なんで、笹井チームのスクリーニングをすり抜けて、STAP細胞は発表されてしまったのか。

    再現することのない研究成果は早晩、謝りであることもわかっていたはずなのに。

    仮説・実験のプロセスや、報告の正確性、部内審査や、中間成果物の管理など、理研の管理にも大きな問題があったとおもいます。

    笹井氏はなぜ死ななければならなかったのか。

    目次

    第1章 異例づくしの記者会見
    第2章 疑義浮上
    第3章 衝撃の撤回呼びかけ
    第4章 STAP研究の原点
    第5章 不正認定
    第6章 小保方氏の反撃
    第7章 不正確定
    第8章 存在を揺るがす解析
    第9章 ついに論文撤回
    第10章 軽視された過去の指摘
    第11章 笹井氏の死とCDB「解体」
    第12章 STAP細胞事件が残したもの

    あとがき

  •  ノンフィクションというには予断が多い。
     読み手である私は「STAP細胞は無かった」という理研の報告を聞いているんだけれども、「最初からおかしいと思っていた」的な記述が多く、違和感がある。あのときの小保方さんフィーバーを盛り上げたマスコミとして、それはどうなんだろう?
     なぜ盛り上げてしまったのか、情報を発信する報道機関が自らを省みないのは、はたしてノンフィクションと呼んでいいものなのか。マスコミとして都合が良すぎやしないか。書き手は一方的な正義を振りかざしているように見える。
     私はSTAP細胞が存在するとは言わないし、いまだに判断がつかないが、論文には誤りがあるんだろうなと思う。ただ、この書き手の誠実さには疑問を感じる。
     笠井氏や若山氏には問い合わせをしているが、渦中の小保方氏には問い合わせをした様子がない(後半で問い合わせを行い弁護士に断られたという一文があるが、最後だ)。問い合わせをしているのか、したけれども書いていないのか。しようとすらしていなかったのか。このあたりの記述の省略について、書き手が、メディアが、小保方氏が説明できない人間だと恣意的に書いているようにも見える。
     タイトルをセンセーショナルに「ねつ造の科学者」とするならば、小保方氏を指すように思う。では、なぜ彼女に焦点を当てていないのか。
     そもそも理研とはどういう組織なのか、構造的に防ぐことができなかったのか、そういった掘り下げもなく、ただつらつらと時系列に書かれている。これはいったい誰向けの本なのか。
     笠井氏が自死した件についても、理研はもっとできたはずと書かれているが、マスコミ報道が過熱したからという観点はないのだろうか。どこまでも他人事なのだろうか。読んでいて非常に不思議である。
     記事として書かれたものをまとめた本である。それが間違ってるとは言わないけれども、これを出版する意味とはなんなんだろうか。STAPブームのうちに売っておこうという出版根性だろうか。
     報道機関がこんな浮足立った本を出してたら、信用下がる……というほどの信用が元からないのか。まさかそんな。
     小保方さんが、基本的に未来のある存命の科学者が相手だから書きにくいのかもしれないが、だとしたら、そもそもこの扇情的なタイトルって何なんだろうか。

  • 読後まずは「科学者の世界ってそうなのか!」という驚きが大きかったですね。
    私たちが通常考えている一般的な、あるいは常識的な「組織」というものには当てはまらない組織なのだなぁということがつくづく判ったように思います。

    「そこはそういう審査をしているだろう」「ここは根拠があるのだろう」と当然のように一般の人が考えていることは、科学者の世界では「上司ではないから」とか「一科学者として尊重しているから踏み込まない(私たちの考える常識がその世界では、ない)」などという言わば「思い込み」でスルーされてきてしまうのだな、と恐ろしく感じました。

    世界の有名科学雑誌に掲載される場合の素読者の話も興味深かった。

    小保方さんの野心と、理研の金銭的な思惑や名誉などとが同調して増殖してこんなとんでもないことを生み出してしまったのだろうか、と思いましたね。

    難しい科学の世界のことを、何も知らない一般人が読んでもわかるように、かなり丁寧に書かれていると思います。ただ何だろう、文体なのか、時々時系列が前後するせいなのか、文章は読みにくかった。

    記者さんは文章のプロではありますが、本にするとなると文体がちょっとどうなのか、というのは思いました。私だけの意見かもしれませんが。

    皮肉なことに、これを読むと山中先生のiPS細胞のすごさが一段と判る気がします。

  • 2014年1月29日、小保方氏、笹井氏、若山氏の衝撃的な記者会見から始まったSTAP細胞事件。
    著者の須田氏は、それまでの取材過程から、笹井氏と近い関係にあり、当初からやや特別扱いの状態で詳細な取材ができていた様子。会見前日に笹井氏から、あなたなら絶対来るべきとのコメントを貰い、それに値する(と考えた)内容にすっかり心躍って勇んで記事を書いた当日。そこから徐々に疑義が出始めて、もしや捏造かもと思い始め、そしてそれを確信する過程が、当の笹井氏や若山氏とのメールのやり取りを通じて再現されて読みながら胸が痛くなった。

    結局STAPはどう考えても小保方氏の捏造なのだが、さすがに本書でそれは断定されない。ただ状況証拠から読者は容易に想像できる。

    ****
    ところで、私は某大学で研究者をしていることもあり、今回のSTAP論文(Nature誌に載った2報)は直ぐにダウンロードして読み、院生たちに紹介した。
    門外漢からすると、凄い、としか思えなかったが、早くも2月中旬から世界各国で追試が成功しないこと。論文の画像に加工の跡があることなどが海外で話題になっていることも比較的早期に把握していた。
    当時の院生とのやりとりをみると、2/21時点でそのことを院生に知らせ、2/25の時点ではまだ全体が捏造とは考えていなかったこともわかる。3/9には捏造の可能性が高いと考え院生に残念とのメールを書いていた。

    そう、外部の人間からすると、科学者であれば門外漢でも既に2月にはもう、これ怪しいぞ、と考える程度の内容だったのだ。

    それなのにそれなのに、理研の中枢は、本当かもと一縷の望みをいつまでもいつまでも捨てず、果ては世界的頭脳である笹井氏の自殺まで招いてしまった。

    あぁなんて勿体無い、と思うのは私だけではないはず。STAP細胞というのがとにかく現象としては魅力的なだけに、強烈なアンカリングバイアスが、一線級の科学者にすら働いた。げに恐ろしきは魅力的な仮説であることよ。
    ****

    本書は、「日経サイエンス」2015年3月号の「STAP細胞の全貌」特集と併せて読むことで価値が倍増する。
    本書が、著者と関係者とのメールのやり取りを中心として、新聞記者の著書なだけに社会的側面が強く描かれているのに対して、日経サイエンス特集は、遺伝子データ解析を通じての科学的推論によって『捏造』という真実に至る過程が描かれていて、好対照である。

    STAP細胞事件がこの日本で起きたことは残念ではあるが、安易な博士号取得過程や、研究費獲得のための業績追求なども含めた、日本の科学者の持つ様々な問題点が炙りだされたことを考えると、今後の日本の科学界が正しく発展していくための警告にはなったと信じたい。

  • STAP細胞を巡る一連の騒動。
    実は最近読んだある本で、STAP細胞を潰したのは裏に陰謀がある、ほれ見たことか、後日ドイツが特許を取ったと書いてあったので気になった。

    新聞社の科学担当記者が相当丁寧に著述しているのだが、正直、専門用語とか散りばめられてて、多分噛み砕いてくれてはいるんだろうが、よく頭に入らなかった。図説も素人向けには分かりやすいとも思わない。

    が、それを除いても、この事件を取り巻くいろんな人の想いとか利害関係、利権とか無責任さが伝わってくる。

    小保方さん以外は。

    この人、事件の発端ではあるが、完全に当事者能力を失っている感じだった。

    事件としては「全員が腐った丸太を渡ったら、偶然渡れてしまった」という表現がぴったりな、みんなが少しずつ前のめりになってしまった無責任体制が原因なのだろう。
    小保方さんが、善意だったのか悪意だったのかは判らない。
    ES細胞がどこで混入したのかも解らない。
    STAP現象が、本当あるのかどうかも分からないが、少なくとも今回の論文に関わる事象では、発言しなかったのは間違いないようだった。

    二重に面白かった。

  • 博士の学位を取得するにあたり、もう一度読み直した。
    実験ノートの重要性を再認識するとともに、科学者として実験結果に真摯に向き合い、科学的真実を追求していく姿勢をいつまでも忘れないようにしたいと心から思った。

  • 理化学研究所と言う日本最高峰の研究機関で起きたSTAP細胞事件を科学記者の視点から多角的に分析.分野に問わず仕事で科学技術に関わる(論文作成等)人は読んでおいて損はない.様々な意味での「過信」「盲目的な信頼」のリスクを強く感じる.

  • 当時ニュースの白熱ぶりにおいつけず、そもそもどういうものの話だったの?と思って読んでみた。
    正直、なぜ、第一線で活躍していた研究者が揃いもそろって見抜けなかった?と思うものの、特異ともいえるほどの閉鎖環境で積み重ねられていたことということで納得もした。
    考古学の捏造のときもそうだったなぁ…と思う次第。
    それにしても、なんでコピペのある(それもかなりの分量)論文が通ったんだろ…って。謎すぎる。

  • かなりの力作だと思う。リアルタイムでニュースを目にしていた事件。なぜ疑惑をもたれるような発表をしたのか?なぜできないスタップ細胞をできたと彼女は言ったのか。構造を解明した取材力は素晴らしいと思う。彼女はどんな人だったのかも知りたかった。

  • 世界を沸かせた記者会見から急転直下の勢いで世界三大研究不正の1つと数えられた事件となるまでの過程が、最初から追っていた記者によってダイナミックに書かれていた。それとは別に、尊敬する科学者たちに疑惑を持ち、時には追及しなければならないというのは、とても辛いことだと感じる。記者視点なので特ダネとかスクープとかあったが、正直そこにこだわるよりもっとじっくり取材して欲しい、なんて思った。

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