無人暗殺機 ドローンの誕生

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902197

作品紹介・あらすじ

卑劣な殺人マシンか、素晴らしき兵器か?無人偵察機からテロリストを殺害するまで進化した無人攻撃機。誰が何のためにここまで開発したのかを追及したノンフィクション大作。プロローグ 無人暗殺機の創世記第一章 天才エンジニアが夢見た無人機 模型好き少年の飛翔ユダヤ人の航空技師カレム。第四次中東戦争で苦戦した祖国のためにと考えた「無人機」。その実現のためにアメリカに移住し起業・開発に乗り出す第二章 無人機に革命をもたらした男 ブルー兄弟はGPSに目覚めたエール大学出身の冒険野郎は自分で飛行機も操縦。キューバでカストロ政権に拘束されたこともあった。やがてレーガン支持者となり、無人機「プレデター」を考案する第三章 麦わら帽子は必ず冬に買え 投資の黄金律で揺れた武器市場無人機「アンバー」を開発したカレムの前に、ブルー兄弟が現れ、彼の全資産・知的財産・技術を買収。だが、当時無人機の市場はゼロに近い状態だった‥‥第四章 ボスニア紛争で脚光 消えかけた「プレデター」の再生ソ連崩壊、冷戦終焉で国防費削減の時、ボスニア紛争で突如甦ったローテク撮影用の無人機への関心。CIAとパウエルが「未来の兵器」獲得に動き出した第五章 陸・海・空軍が三つ巴で争奪 進化する無人機に疑念なしボスニアでの実戦配備・偵察飛行の実績により、もはや玩具ではないことが証明された無人機の効用。それに気付いた米軍内部は色めき立った。第六章 殺傷兵器としての産声 ワイルド・プレデターの誕生007に登場する機関銃付き自動車も顔負けの秘密兵器として無人機に注目した「ビッグサファリ」。「異常な愛情」と「オタク精神」で改良に乗り出す第七章 リモコン式殺人マシン 「見る」から「撃つ」への転換潜伏するテロリストの監視だけでなく攻撃にも使用可能となりうる無人機。これを駆使すれば巡航ミサイルより安価で民間人の被害も減らせるはずだった‥‥第八章 アフガン上空を飛べるか ヘルファイアの雨が降る無人機武装化へのステップは法律的にも技術的にも文化的にも大きな障害があった。武装化のための改造を禁じられたビッグサファリは苦肉の策に出る……第九章 点滅しつづける赤ランプ ドイツからは操縦できない9・11の直前、スイカを使ったミサイル発射実験も成功。あとはテロリストに向けるだけ。だが、ドイツ駐留米軍地位協定に違反するというクレームが提起された。第十章 ならば地球の裏側から撃て CIAは準備万端ラングレー(CIA本部)から操縦すれば、ノープロブレム。だが、暗殺ミサイル発射の引き金を引くのは、軍人かCIA職員か、それが問題になった‥‥第十一章 殺せる位置にて待機せよ 9・11テロで一気に加速テストは終った。レーザー照準機とヘルファイアミサイルを搭載した無人暗殺機「ワイルドファイア」はウズベキスタンから飛び立ち、ビン・ラディンらを狙う第十二章 世界初の大陸間・無人殺人機の成功 悪党どもを殺せ「あのトラックをやれ」と命令され、無人機から女性として初めてミサイルを発射したのは「チンギス」という名の兵士。彼女はいかにして歴史に名を残すことになったのか第十三章 醜いアヒルの子 空の王者となる 戦争は発明の母アルカイダのナンバー3を無人機が殺す直前、「プレデターは運用上有効ないし適切とは認められない」とペンタゴンの報告書は書いた。その予測は全くのハズレだった‥‥、エピローグ 世界を変えた無人暗殺機 訳者あとがき…ほか。解説 日本よ、中国空母も無力化する無人機革命に着目せよ 佐藤優

感想・レビュー・書評

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  • イスラエル発アメリカ産まれのプレデターが
    政治的イザコザとテロの間で揉まれまくって
    育っていく
    実はヒューマンドラマ。

    軽く読める本じゃないけど
    著者が5年間じっくり取材した内容が濃いエキスになって
    脳みそに入ってくる。

    ガッツリ読書したいときにオススメ。
    読みごたえ&読後の達成感がすごい。

  • ☆イスラエル人が設計。最初は無人偵察機だったが、「無人暗殺機」プレデターとして開発された。

  • 読んだ。良かった。最低の邦題でどん引きだった(スルーしてた)のだが、はらぺこ氏の書評を聞いて購入。
    こんな邦題つけるセンスの無い出版社が悪いし、5頁の解説しか書いてない佐藤優の顔写真入りの帯とかあり得ないだろ。
    UAVの急激な発達と米軍で使用されるようになった裏には映画に出てくるような強いキャラクターが何人もいたのね。

    とても良い書籍だったのだが、「warship」を「戦艦」という定番の誤訳に加えて、
    米軍の特殊部隊「ネイビーシールズ」を「シール部隊」という誤訳は新鮮だったw

  • 民間での実用が先行して規制が後追いしているドローン。これだって
    首相官邸屋上のヘリポートに誰も気づかないうちにドローンが停まって
    いた事件がなければ、誰かが怪我をするまで考えなかったのだろうな。

    アメリカでもホワイトハウスの敷地内に落下し、警戒態勢が敷かれた
    のは記憶に新しい。

    無人機ドローン。現在は民間での活用やそれに伴う規制がニュースに
    なることが多いが、元を辿れば軍事技術の民間転用だ。

    戦争はイノベーションの母である。こうして毎日のように利用している
    インターネットも、害虫を退治する殺虫剤も、ドローン同様に軍事技術
    の研究からの産物だものね。

    搭乗するパイロットを必要としない航空機があれば兵士の犠牲を出さ
    なくて済む。そんな無人機が作れないものだろうか。始まりはイスラエル
    での開発だった。天才的なプランを持っていたイスラエル人の航空技術
    者が新天地を求めてアメリカへ渡った。

    当初は諜報機関も軍も「玩具じゃないか」とバカにしていた。特に偵察機
    や爆撃機を操縦するパイロットたちは自分たちの腕を上回る無人機が
    出来るはずがないと、鼻で笑った。

    しかし、ボスニア紛争で無人偵察機が実用化されたから開発に拍車が
    かかる。そして、アメリカの陸海空軍の間で始まる主導権争い。

    偵察機としての役割を満足に果たすことの出来た無人機に、次に期待
    されたのは攻撃機としての機能だった。そう、9.11アメリカ同時多発テロ
    の後に一躍脚光を浴びた「プレデター」の誕生である。

    本書はドローン開発の歴史を詳細に綴っているので、いかに戦争が
    様々な技術開発の土壌になっているのかが分かる。

    それにしても「プレデター」とはよく名付けたものだ。「捕食者」。それは
    ターゲットを発見し、地球の裏側からの遠隔操作でターゲットの命を
    奪うことが出来るのだもの。

    ただ、これがアメリカ大統領令で禁止されている「暗殺にあたるのでは
    ないかとも思うんだよね。CIAがキューバのフィデル・カストロ暗殺計画
    を実行しようとしていたことが表沙汰になって、「暗殺はいけません」と
    なったはずなのだけれど、テロを未然に防止する為ならば暗殺も単なる
    「殺害」と言い換えられるのか?

    アメリカの無人機が殺害したうちの9割が誤爆だったとの報道もあった。
    開発者にとっては夢の平気だったのだろうが、誤爆された方は堪らない
    よね。

    アメリカはこの無人攻撃機の輸出に力を入れるらしい。買わされるの
    かしらね、日本の自衛隊は。そんな懸念を持ちながら読み終わった。

    この無人機の登場で戦争の在り様さえも変化したことまでフォローして
    おり、情報量も豊富なのだが翻訳がとことどころ日本語の文章として
    おかしいとことがあるのが残念だった。

  • 祖国のために無人機の開発を始めたが国有企業イスラエル航空産業と利害が一致せず新たな拠点をアメリカに求めた天才エンジニアのエイブ・カレム。エール大学出身で自ら飛行機を操縦する冒険野郎にして逆張りで財をなした投資家のニール兄弟。ドローンの開発は米軍が主導したというよりも彼らイノベーターが推し進めたものだった。インターネットやGPSを開発したことでも知られる国防高等研究計画局DARPAが資金提供したとは言え、空軍はパイロットのいない航空機を重視せず、海軍と陸軍がバラバラに開発をしていた。

    1989年冷戦の終結とともにブッシュ大統領は5年以内に640億ドルの軍事費削減を承認した。オスプレイなどの計画も廃止され無人機の市場はなきに等しく、それでもカレムの会社を買収したニール兄弟は「麦わら帽子は必ず冬に買え」と言う自分の投資の黄金律を信じていた。

    転機が訪れたのはボスニア戦争で、今では当たり前になった映像のストリーミング技術は当時はまだ手品のような技術だった。1995年当時でも画像解析者は白黒写真を好み、ライブ映像ではなく静止画の解析を重視していた。このような風土のため偵察ビデオを潜在的利用者に送信するためのインフラはまだ存在しなかったのだ。プレデターのサラエボ上空の映像は500マイル離れたイタリアのNATO司令センターCAOCで見られるようにするため衛星を通じてヴァージニア州のハブに送られ、海底の光ケーブルを通じてナポリの南部司令部と司令センターに送られた。プレデター作戦センターの電話が鳴りっぱなしになり、司令官らは様々な目標の映像を要求した。

    プレデターが偵察機から殺傷兵器へと変わる第一歩はレーザー照準器の搭載からだった。1998年アルカイダによるアフリカの大使館の爆弾テロをきっかけにCIA長官チャールズ・アレンはビンラディンを逮捕または殺害することを生涯の目標とした。クリントンは報復措置として巡航ミサイルを使用したが、標的とされたのはただの薬品工場だった。これ以後CIAはコラテラル・ダメージ=民間人の犠牲を出さないことに苦慮するようになる。2000年9月、アフガン上空のプレデターのカメラがビンラディンらしき人物を発見した。しかしクリントンにミサイル発射を説得するにはただ見つけただけではなく、ミサイルが届くまで標的がそこにいることを示さなければならない。これを解決するのがドローンが"撃つ"ことだ。技術的な課題は次々解決され、法的な課題も解決されていった。

    最後まで残った課題は誰がプレデターの運用に責任を持ち、ミサイルを発射するかだ。レーガン大統領による「暗殺の禁止」命令は生きていたがビンラディンに対する攻撃は自衛行為として決議された。2001年9月4日ブッシュ政権初めてのアルカイダに対するNSC閣僚級委員会が開かれCIAも軍も引き金を引くことに対する責任を負おうとしないし、どちらも、プレデター武装化計画の資金を出そうとしないというのが議論の内容で当面プレデターによる暗殺は見合わせ、CIAは偵察活動にのみプレデターを運用することになった。

    9月11日の朝11ヶ月前に自爆テロ攻撃で部下17名を殺された戦艦コールの元艦長リッポルドはアレンに誘われCIA本部を訪れた。アレンにCIAのアルカイダ対策を聞かされたリッポルドは「アメリカがあの男と戦争をしているのだということを、アメリカ人は理解しないでしょう。アメリカ国内で重大な事件が起き、何千人とは言わないまでも何百人もが死ななければならなくなるまでは」と語った。CIA秘録によるとCIAにはアルカイダによる飛行機テロの断片的な情報はかなり上がってきていたので、問題はプレデターではなく集められた情報を分析するCIAの能力だったようなのだが。

    9月17日ブッシュは暗殺禁止令を緩和し、CIAに武装プレデターを使用する権限をCIAに与えた。しかし、中程度以上のコラテラル・ダメージのリスクのある目標を攻撃するには大統領の承認が必要で、CIAに変わりプレデターを操縦する空軍がビンラディンを発見した場合には大統領の承認は必要が無い。さらに米軍や同盟国軍が関わっている場合にはCIAは事前にトミー・フランクス陸軍大将と協議しなければならない。

    オマルを標的にしたプレデターの最初のミサイル発射の様子は臨場感に溢れるが一方で指揮系統の混乱を示している。CAOCにいる連合軍航空司令官ウォルドは当初プレデターの映像を見ることすらできず、オマルを建物から追い出すために発射された最初のミサイルについて事前に知らされず激怒した。フランクスとCIAは標的の近くにあるのがモスクに近すぎるとミサイル発射を見合わせた。当初の混乱の中ウォルドには誰がミサイル発射を命令したかもわからなかった。プレデターの映像には熱心な視聴者が1人いた。ブッシュ大統領その人だ。

    この本は基本的には武装ドローンを評価しており、コラテラル・ダメージについても評判の悪化を怖れるCIAがいかに気を使っているかのように書かれている。誤爆された側はたまったものじゃないのだが。

  • [無人革命]ヨム・キプール戦争、ユーゴスラビア内戦、そしてアフガニスタンとイラクにおける対テロ戦争を経て、今や軍事の構図を変えた感のあるドローンの歴史と、それに携わった人々の歩みを記した作品。傍流中の傍流だった技術や考え方がいかに革命をもたらしたかが詳述されています。著者は、国立航空宇宙博物館の研究員や「ダラスモーニングニュース」の記者を長年にわたり務めたリチャード・ウィッテル。訳者は、英語と独語の翻訳を多く手がける赤根洋子。原題は、『Predator: The Secret Origins of the Drone Revolution』。


    無人機が本格的に実践投入されてからまだ日が浅いこと、そしてその技術が日増しに一足飛びの進歩を遂げていることを踏まえれば、本書で明かされるドローンの歩みに驚嘆されずにはいられないはず。その歩みの一つひとつを、それこそオペレーションレベルまで紐解いて記録した著者の苦労はいかほどだったかと思います。できるだけ中立的にドローンの進歩をわかりやすくまとめた一冊としてオススメできる作品です。


    ドローンがもたらした政治的、軍事的、倫理的変化についてはもちろんのこと、技術的な発展についても極めて詳しく解説がなされているため、その側面からドローンについて考察を深めたい人も、本書の内容には大いに満足を覚えるはず。それにしても以下の著者の一文は、不穏な響きも含めて何か極めて予言的なものを含んでいる気がします。

    〜無人機技術はすでに人間の死に方を変えた。それはいつか、人間の生き方を変えるかもしれない。〜

    解説は作家として活躍されている佐藤優氏です☆5つ

  • アメリカにおいて軍事用無人機がその性能を認められ広まり始めるまでを描いた良書。
    佐藤優が巻末に無人機の本としては最良と書いているので本当にそうなんだろう。
    なお本書の無人機は遠隔操縦であり自立判断のAI系とは異なるので、そちらに興味がある方にはお薦めしない。

  • ドローンの誕生から現在までの歴史が書かれたもので、アメリカ国内でどのように重宝されるように至ったかということも記されている。いまや無人暗殺機としてアフガニスタンやイエメンなどで飛行するようになった武器についての基礎知識みたいなものを、その歴史を楽しみながら知ることができた。

  • 数年前に貧者の兵器とロボット兵器というドキュメンタリーがすごく印象に残り、ロボット兵器に関心を持っていたので読んだ。無人機の技術の進歩や実験中の失敗以上に米軍やイスラエル軍内部の問題に翻弄され、煮え湯を飲まされる技術者たちが描かれているのがとても印象に残った。やっぱり、官僚政治の問題ははどんな国でもあり得るのだと思った。ユーゴスラビアやアフガニスタンの戦争で実績を得た無人機がこれからの戦争に利用される事は明白だが、米国以外の国も利用することになるのは当然なのでどこの国がこの兵器使ったの?って問題にならないかが不安になる。

  • 「無人暗殺機 ドローンの誕生」という邦題だが、原書の「プレデター」の方が内容をよく表わしている。
    前にアフガンでのプレデターを特集したNHKスペシャルを見たことがあるが、読みながら何度かその映像が甦ってきた。
    取材の細かさ、深さ。アメリカのジャーナリストらしい一冊。

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著者プロフィール

「Dallas Morning News(ダラス・モーニング・ニュース)」紙に22年間
米国防総省に関する記事を掲載し続けるなど、30年以上にわたって軍事
および航空に関する諸作を発表。
ワシントンDC在住。

「2018年 『ドリーム・マシーン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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